重力波の重力レンズでの 波動効果 高橋 龍一 (国立天文台PD).

Slides:



Advertisements
Similar presentations
エリスワームホール時空における ダスト流解とそのシャドウ Yamaguchi University Takayuki Ohgami, Nobuyuki Sakai ブラックホール地平面勉強会 10 月 4,5 日 湯田温泉.
Advertisements

スペース重力波アンテナ (DECIGO) WG 第3回ミーティング (2005 年 5 月 12 日 国立天文台, 東京 ) 1 光共振型 DECIGO の可能性 安東 正樹 東京大学 理学系研究科 物理学教室.
ブラックホール時空での摂動 冨松 彰 御岳セミナー 2011.9.1. 内容 1. Anti-de Sitter (AdS) BH と第1法則 2. BH− 円盤系における電磁波の伝播.
ニュートン重力理論における ブラックホール形成のシミュレーション
自己重力多体系の 1次元シミュレーション 物理学科4年 宇宙物理学研究室  丸山典宏.
2006年2月22日 宇宙重力波干渉計検討会 - 小型衛星とDECIGO - 川村静児 国立天文台
HBT干渉法における 平均場の効果の準古典理論
情報の整理+DECIGOの仕様で検討してもらいたいこと
DECIGOのサイエンス ~ダークエネルギー関連~ 高橋龍一 (国立天文台PD).
スペース重力波アンテナ DECIGO計画 II
スペース重力波アンテナ DECIGO計画(1)
木村 匡志 極限ブラックホール近傍の 高速粒子衝突における “バックリアクション“の影響について (YITP 元OCU)
プロジェクト研究発表 重力波天文学 at Spring School, ICRR, The University of Tokyo
カオス力学系と重力波 木内 建太 & 前田 恵一 (早稲田大学)  PRD、 (2004)
AOによる 重力レンズクェーサー吸収線系の観測 濱野 哲史(東京大学) 共同研究者 小林尚人(東大)、近藤荘平(京産大)、他
周期境界条件下に配置されたブラックホールの変形
表紙.
「Constraining the neutron star equation of state using XMM-Newton」
前回の内容 結晶工学特論 第4回目 格子欠陥 ミラー指数 3次元成長 積層欠陥 転位(刃状転位、らせん転位、バーガーズベクトル)
スペース重力波アンテナ DECIGO計画 宇宙科学シンポジウム @宇宙科学研究所 2003年1月9日
スペース重力波アンテナ(DECIGO)WG第4回ミーティング (2006年05月11日 国立天文台, 東京)
アインシュタインと宇宙 重力レンズ 重い天体は「レンズ」になる!? 重力レンズは「天然巨大望遠鏡」 いろいろな重力レンズの例
宇宙重力波検出器用レーザー光源の光ファイバーを用いた安定化
(研究期間 平成13年~平成17年) 領域代表者 東京大学大学院理学系研究科・教授・坪野公夫
LCGT Collaboration Meeting (2010年2月15日)
宇宙での重力波観測 (1) 宇宙での重力波観測 宇宙で観測するメリット : 他にはないサイエンスがある
超伝導磁気浮上を用いた 低周波重力波検出器の開発
前回の内容 結晶工学特論 第5回目 Braggの式とLaue関数 実格子と逆格子 回折(結晶による波の散乱) Ewald球
数値相対論の展望        柴田 大 (東大総合文化:1月から京大基研).
瀬戸直樹(京大理) CMBワークショップ 年6月8日(火) 国立天文台
S3: 恒星とブラックホール (上田、野上、加藤)
CMB非等方性による、 インフレーション起源の背景重力波 のもつ偏極成分の検出法
重力波検出の将来計画 文責:川村静児(国立天文台) 2004年9月14日.
スペース重力波アンテナ(DECIGO)WG第4回ミーティング (2006年05月11日 国立天文台, 東京)
宇宙重力波検出器用大型複合鏡における熱雑音の研究
卒業論文 重力波のデータ解析における 分散処理の必要性
中性子干渉実験 2008/3/10 A4SB2068 鈴木 善明.
重力・重力波物理学 安東 正樹 (京都大学 理学系研究科) GCOE特別講義 (2011年11月15-17日, 京都大学) イラスト
X-ray Study of Gravitational Lensing Clusters of Galaxies
川崎浩司:沿岸域工学,コロナ社 第2章(pp.12-22)
安東 正樹池本尚史,小林洸,坪野公夫 (東京大学 理学系研究科)
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
DECIGOに対する サイエンスからの要請
田中貴浩(京大基研) 第6回DECIGOワークショップ
Mock LISA Data Challengesとその解析法 IMRI,SMBHB探索のテンプレート数について
東邦大学理学部物理学科 宇宙・素粒子教室 上村 洸太
瀬戸直樹 (京大理) 第7回スペース重力波アンテナDECIGOワークショップ 国立天文台
光の回折 点光源アレイ.
小型衛星パスファインダーによる総合的試験
京都大学理学研究科 中村卓史 2006年2月24日 国立天文台
瀬戸直樹(京大理) DECIGO WS 名古屋大学
偏光X線の発生過程と その検出法 2004年7月28日 コロキウム 小野健一.
第7回 高エネルギー宇宙物理連絡会研究会 「高エネルギー宇宙物理学の将来計画」
滝脇知也(東大理)、固武慶(国立天文台)、佐藤勝彦(東大理、RESCEU)
第17回DECIGOワークショップ 2018.11.1 川村静児(名古屋大学)
スペース重力波アンテナ DECIGO計画 I
大阪市立大学 宇宙物理(重力)研究室 D2 孝森 洋介
インフレーション宇宙における 大域的磁場の生成
1:Weak lensing 2:shear 3:高次展開 4:利点 5:問題点
格子ゲージ理論によるダークマターの研究 ダークマター(DM)とは ダークマターの正体を探れ!
東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 長野晃士 (D2)
定常剛体回転する宇宙ひもからの 重力波放射
スペース重力波アンテナ DECIGO計画Ⅷ (サイエンス)
木内 建太(早稲田大) 共同研究:柴田大(京大基研) 関口雄一郎(国立天文台) 谷口敬介(ウィスコンシン大)
宇宙重力波干渉計検討会 -小型衛星とDECIGO- (2006年02月24日 国立天文台, 東京)
小型衛星パスファインダーによる総合的試験
望遠鏡技術検討会 (2013/2/9) 京大3.8m望遠鏡用 面分光装置開発 松林 和也 (京都大学)
教育学部 自然環境教育課程 天文ゼミ 菊池かおり
瀬戸直樹 (UC Irvine) 第5回DECIGOワークショップ
連星 Gold Mine を用いたDECIGO精密宇宙論
Presentation transcript:

重力波の重力レンズでの 波動効果 高橋 龍一 (国立天文台PD)

0. Abstract 重力波源 レンズ天体 検出器 重力レンズを受けた重力波

1. Introduction 世界の重力波検出器 ●地上のレーザー干渉計 周波数: ●スペースのレーザー干渉計 ●地上のレーザー干渉計   周波数:   LIGO(米)、TAMA(日)、VIRGO(仏・伊)、GEO(独・英)等 (運転中) 将来計画 advanced LIGO (米、~2007年) 、LCGT(日) ●スペースのレーザー干渉計   LISA(米・欧、~2013年)  周波数: 将来計画(2020年以降) DECIGO(日)、BBO(米) 周波数:

◆ 重力波源 ●地上の検出器 ●スペースの検出器 NS merger for advanced LIGO (Cutler & Thorne 2002 ) ●地上の検出器 ・中性子星(NS)やブラックホール(BH)連星の合体        NS merger              for advanced LIGO ・超新星爆発 ・中性子星の自転 (Kalogera et al. 2004) ●スペースの検出器 ・超巨大BHや中質量BH連星の合体 SMBH merger for LISA   ・銀河中心の超巨大BH ・銀河系内の白色矮星の連星 for LISA ・初期宇宙(インフレーション)起源の重力波

◆ 重力波の重力レンズ 重力波がレンズ天体の近傍を通過 重力ポテンシャルにより進路が曲げられる 重力波の振幅・位相の両方とも、影響を受ける       重力ポテンシャルにより進路が曲げられる 重力波 観測者 レンズ天体 重力レンズは(光と同様に)受ける 重力波の振幅・位相の両方とも、影響を受ける

◆ 重力波の重力レンズを研究する動機 ●重力波の波形(template)への影響 (e.g. Thorne 1987)     様々なレンズモデル(密度分布) ●detection rate への影響 レンズ効果により重力波の振幅が増幅 遠方からの弱いシグナルが受かりやすくなる detection rate が上がる?                     ほとんど、影響なし (Wang et al, 1996, T.T. Nakamura 1998, Varvella et al, 2003)

●距離決定の不定性 (Holz & Hughes 2002) 連星までの距離     チャ-プシグナル  から直接決定  周波数 観測者 連星 から距離  が決定 観測される振幅 レンズを受けると、振幅が増幅・減衰される            距離決定に不定性

2. 重力レンズの波動効果 波動効果:回折・干渉効果 ●重力レンズ(幾何光学) 光の重力レンズは通常、幾何光学近似を用いて記述される (Schneider, Ehlers & Falco 1992; T.T. Nakamura & Deguchi 1999) 波動効果:回折・干渉効果 ●重力レンズ(幾何光学) 光の経路 レンズ天体 光の重力レンズは通常、幾何光学近似を用いて記述される  光の波長    レンズ天体のサイズ

2.1 回折効果 波長がレンズ天体のサイズ(シュワルツシルト半径)より 長くなると回折効果が現れる 重力波は光と比べ波長が非常に長いため、波の性質が現れやすい   重力波の波長           可視光   波長がレンズ天体のサイズ(シュワルツシルト半径)より 長くなると回折効果が現れる : レンズの質量

回折効果 入射波 波が壁の後ろにまわりこむ現象 波長が長いほうが現れやすい 壁 (理化学辞典より)

●複スリット 波動効果 (回折) Einstein 半径 行路差 (T.T. Nakamura 1998) 単色波 複スリット スクリーン 観測者 レンズ天体 観測者 行路差 単色波 複スリット スクリーン 波動効果 (回折)

●波長が長い極限 重力波源 レンズ 重力波はレンズ天体の存在を感じずに伝播する

2.2 干渉効果 重力波:コヒーレントな波 干渉 干渉パターン 明暗の間隔 波の強度 単色波 複スリット スクリーン 重力波:コヒーレントな波     干渉 波の強度 干渉パターン 単色波 行路差  波長 複スリット スクリーン 明暗の間隔 (Ruffa 1999)

●チャープシグナルでの干渉パターン SMBH binary 質点レンズ 行路差 波長 明 暗 干渉パターン (RT & Nakamura 2003) 振幅 明 暗 合体 1年前 合体 SMBH binary at detected by LISA 質点レンズ 干渉パターン 周波数

●光(電磁波)の重力レンズとの違い ・光学的に厚い領域が見える ・重力レンズを受けたかどうかは、time delay で調べる ・軽いレンズ天体まで確認出来る   (電磁波) ・レンズ確率が上がる (Ruffa 1999; RT & Nakamura 2003)  ・重力波源は十分コンパクトなので、大きさを考慮しなくていい :Einstein angle : 角度分解能 銀河スケール

3. 曲がった時空上での重力波の伝播 基礎方程式 Background metric 波動方程式 :レンズ天体の重力ポテンシャル (Misner, Thorne & Wheeler 1973; Schneider, Ehlers & Falco 1992) 基礎方程式 Background metric :レンズ天体の重力ポテンシャル 波動方程式 : 重力波テンソル : Background Riemann tensor :  のフーリエ成分 (Peters 1974)

◆ レンズを受けた重力波波形 波動方程式 の解 ◆ レンズを受けた重力波波形         波動方程式              の解 ・回折積分 with thin lens 近似(Schneider, Ehlers & Falco 1992)    ・幾何光学近似 ・球対称レンズ(Suyama, RT & Michikoshi in preparation)    角度と動径成分の変数分離    常微分方程式  ・弱い重力ポテンシャル(RT, Suyama & Michikoshi in preparation )    重力ポテンシャルの1次摂動(Born近似) ・質点レンズの場合    解は超幾何関数で与えられる(Peters 1974; Deguchi & Watson 1986)

●回折積分 thin lens 近似 : レンズ面上のみで 他は 源、レンズ、観測者の配置図 重力波はレンズ面上のみ で散乱される (Schneider, Ehlers & Falco 1992) thin lens 近似 : レンズ面上のみで    他は レンズ面 重力波はレンズ面上のみ で散乱される thin lens 近似の妥当性 (Suyama, RT & Michikoshi in preparation)

●Amplification factor (又はTransmission function ) :レンズを受けた波 :レンズなしの波 time delay : レンズ面上の2次元重力ポテンシャル

●幾何光学近似 Amplification factor の停留点 (stationary point) が積分へ寄与する : レンズ方程式 : time delay ●幾何光学近似 の停留点 (stationary point) が積分へ寄与する : レンズ方程式 像の位置   が決まる レンズ面上での積分   それぞれの像の和 : j 番目の像の magnification : j 番目の像の time delay

例: 時間空間での波 : magnification : time delay Flux は 倍 Amplitude は 倍 :レンズを受けた波 :レンズなしの波 : magnification 例: : time delay レンズ 源 観測者 Flux は  倍 Amplitude は   倍 上の経路            下の経路 

●質点レンズ (回折効果) : 増幅率 (magnification) は十分小さい : 幾何光学近似 干渉 : time delay の差 : Einstein 半径

F の位相

4. レンズを受けたシグナルの見分け方 ・同じ形の波形が同じ方向から複数来た場合 ・チャープシグナルの振幅に(干渉による)振動パターンが Time delay だけ遅れてシグナルが到着 ・チャープシグナルの振幅に(干渉による)振動パターンが   ある場合 ・理論的に予想される振幅   と観測されたもの   とが   一致しないとき D : host galaxy までの距離    redshift から決定

●重力レンズを受ける確率 遠方の QSOs が手前の銀河により重力レンズをうけて多重像を 作る(strong lensing)確率 : 0.1-1 % 銀河より軽いレンズ天体も含めれば確率は上がる 弱い重力ポテンシャルによる散乱(weak lensing)なら起こる

5. まとめ 重力波の重力レンズでの波動効果 回折と干渉効果 ・回折 重力波の波長 > レンズ天体のシュワルツシルト半径 ・干渉           回折と干渉効果 ・回折   重力波の波長   > レンズ天体のシュワルツシルト半径 ・干渉   重力波がコヒーレントな波