英米法I 最近の連邦最高裁判決から見るアメリカ法の動向 #06 S. Union Co. v. U.S.

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英米法I 最近の連邦最高裁判決から見るアメリカ法の動向 #06 S. Union Co. v. U.S. 2012年8月27日~31日 筑波大学大学院ビジネス科学研究科 会沢 恒 (北海道大学)

Southern Union Co. v. United States, 132 S. Ct. 2344 (2012) 司法制度 > 陪審 刑事法 > 量刑

検察官: →被告人:有罪の答弁(への切り替え) 答弁取引plea bargaining See, e.g., Fed. R. Crim. P. 11(c) 検察官: ①被疑事実の一部の不起訴 ②軽い罪での起訴 ③軽い刑の勧告etc. →被告人:有罪の答弁(への切り替え)

陪審裁判を受ける権利 大陪審/起訴陪審grand juryと小陪審petty jury 連邦憲法 州憲法 連邦裁・大陪審 ○(第5修正) - 連邦裁・刑事小陪審 ○(第6修正) 連邦裁・民事小陪審 ○(第7修正) 州裁・大陪審 × △ 州裁・刑事小陪審 ○(第6修正を編入) ○ 州裁・民事小陪審

Fair cross-section of the community U.S. Const. amend. VI “In all criminal prosecutions, the accused shall enjoy the right to a speedy and public trial, by an impartial jury of the state and district wherein the crime shall have been committed, which district shall have been previously ascertained by law, and to be informed of the nature and cause of the accusation; to be confronted with the witnesses against him; to have compulsory process for obtaining witnesses in his favor, and to have the assistance of counsel for his defense.” Fair cross-section of the community 合理的な疑いを入れない証明proof beyond a reasonable doubt

○コモンロー上の訴訟 ←→ ×エクイティ上の訴訟 U.S. Const. amend. VII “In suits at common law, where the value in controversy shall exceed twenty dollars, the right of trial by jury shall be preserved, and no fact tried by a jury, shall be otherwise reexamined in any court of the United States, than according to the rules of the common law.” ○コモンロー上の訴訟 ←→ ×エクイティ上の訴訟

証拠の許容性の判断 説示instruction, charge 裁判官による陪審のコントロール手段 証拠の許容性の判断 説示instruction, charge 個別評決special verdict、質問事項に対する回答付きの一般評決general verdict accompanied by answer to interrogatories

「事実問題は陪審に、法律問題は裁判官に」 陪審の領域 1名の裁判官 + 12名の陪審 「事実問題は陪審に、法律問題は裁判官に」 →機能アプローチ 罪責の認定は陪審に、量刑は裁判官に ※トライアルとは区別された量刑手続 ←「政策判断policy judgment」としての量刑 →動揺

Cf. Harris v. United States, 536 U.S. 545, 122 S. Ct. 2406 (2002) Apprendi & its progeny Apprendi v. N.J., 530 U.S. 466, 120 S. Ct. 2348 (2000) 法定刑の上限を引き上げる事実は陪審によって認定されなければならない ヘイトクライム(hate crime)の事例 “Other than the fact of a prior conviction, any fact that increases the penalty for a crime beyond the prescribed statutory maximum must be submitted to a jury, and proved beyond a reasonable doubt. ” Cf. Harris v. United States, 536 U.S. 545, 122 S. Ct. 2406 (2002) 法定刑の下限を引き上げる事実については陪審による認定は要求されない 薬物(drug)規制の事例

Gregg v. Ga., 428 U.S. 153 (1976) Ring v. Ariz., 536 U.S. 584 (2002) Apprendi ルール②:死刑の場合 Cf. Furman v. Ga., 408 U.S. 238 (1972) Gregg v. Ga., 428 U.S. 153 (1976) 死刑の(制度自体の)合憲性の確認 Cf. Woodson v. N.C., 428 U.S. 280 (1976) →二段階審理・指針つき裁量制の一般化 まず、第一級謀殺(first degree murder)での有罪を認定 +一つ以上の加重事由の認定 Ring v. Ariz., 536 U.S. 584 (2002) 死刑にするために認定されなければならない加重事由を裁判官が認定する死刑制度は違憲

U.S. Const. amend. VIII “Excessive bail shall not be required, nor excessive fines imposed, nor cruel and unusual punishments inflicted.”

Apprendiルール③:量刑ガイドライン 量刑ガイドラインsentencing guideline Blakely v. Wash., 542 U.S. 296 (2004) ワシントン州量刑ガイドラインに基づいて、陪審によって認定されていない事情に基づいて加重された刑期の宣告は違憲 United States v. Booker, 543 U.S. 220 (2005) 連邦量刑ガイドラインを一部違憲無効・合憲限定解釈 ガイドラインは勧告的なものに過ぎず、裁判官を拘束しない

Apprendiルール④:その後の展開 Cunningham v. Cal., 549 U.S. 270 (2007) カリフォルニア州の3段階固定量刑スキーム “high”←加重事由の認定 この加重事由を裁判官が認定するのは× Ore. v. Ice, 555 U. S. 160 (2009) 併合罪に対する複数の拘禁刑については原則として並列(同時)執行だが、一定の事実があれば逐次(連続)執行することも認めるオレゴン州のスキーム この事実は陪審ではなく裁判官が決定してもよい

→連邦環境法違反(Conservation and Recovery Act of 1976) →【被告】陪審による日数の認定が不十分 S. Union Co. v. U.S.:事案 S. Union. Co.:天然ガスの小売業者 水銀化合物を許可なしに保管 “[f]rom on or about September 19, 2002 until on or about October 19, 2004” →連邦環境法違反(Conservation and Recovery Act of 1976) 罰金:$50000/日 ×762日 = $3810万 →【被告】陪審による日数の認定が不十分 始期が不確定 説示では一日でも違反があれば有罪とされていた 【争点】Apprendiルールは罰金についても適用されるか

Apprendiルールは罰金についても適用される S. Union Co. v. U.S.:法廷意見 Apprendiルールは罰金についても適用される 罰金を包含しない理由はない 独立期でも現在でも罰金はありふれた刑罰 罰金が特定の事実に基づいて算出される例も多い 全ての罰金が “petty” とはいえない “Where a fine is substantial enough to trigger that [Sixth Amendment’s] right, Apprendi applies in full.” 本件はまさしくそうした例 歴史上、裁判官が罰金を算定してきた例も、陪審による認定で画された上限の範囲内 「構成要件要素」と「量刑事情」の区別は既に否定されている 単なる「被害の量的評価」とはいえない

歴史的に「構成要件要素」と「量刑事情」とは区別されてきた S. Union Co. v. U.S.:反対意見① 歴史的に「構成要件要素」と「量刑事情」とは区別されてきた 量刑の統一性の追求→量刑ガイドライン=量刑事情の制定法化 → なぜこれが新しい権利を創設するのか? 量刑事情を構成要件要素として/的に取り扱うのは不公正をもたらす 裁判官が量刑事情を認定してきたとの歴史理解

本件で問題となっているのは構成要件要素ではなく量刑事情 S. Union Co. v. U.S.:反対意見② 本件で問題となっているのは構成要件要素ではなく量刑事情 法定刑の上限を引き上げるあらゆる事実関連の判断がApprendiルールの対象となるわけではない コモンローにおいては、裁判官が関連事情を認定して罰金を算定していた 量刑事情の主たるものは犯罪行為の「態様」 第6修正の射程に罰金の算定は含んでいなかった 法定刑の結論は量刑の統一への努力の妨げとなる 特に法人処罰 違法行為からの「利得」や「違反期間」に関連づける刑罰

Markman v. Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370 (1996) 他の領域では? Markman v. Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370 (1996) 特許クレームの解釈は陪審ではなく裁判官が行う 陪審が判断するのは侵害の有無(と賠償額) Cooper Indus., Inc. v. Leatherman Tool Group, Inc., 532 U.S. 424 (2001) BMW of N. Am., Inc., v. Gore, 517 U.S. 559 (1996) 過大な懲罰的賠償は第14修正のDue Process条項違反になりうる Cf. State Farm Mut. Auto. Ins. Co. v. Campbell, 538 U.S. 408 (2003); Philip Morris USA v. Williams, 549 U.S. 346 (2007) 懲罰的賠償の額についてGore判決に基いて上級審が審査する場合の基準は、事実審に裁量の逸脱(abuse of discretion)があったかの基準ではなく、覆審的審査(de novo review)による Cf. Gasperini v. Ctr. for Humanities, Inc., 518 U.S. 415 (1996)