2009年秋の北極海ラジオゾンデ観測によって観測された 大気の順圧不安定とメソ渦列

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2009年秋の北極海ラジオゾンデ観測によって観測された 大気の順圧不安定とメソ渦列 Barotropic instability of the atmosphere and meso vortex line observed by radiosonde observation on the Arctic sea in autumn, 2009  地球環境気候学研究室 506307 伊藤 匡史  指導教員: 立花 義裕 教授

北極の気候が注目されるのは・・・ はじめに 北極は温室効果ガスの増加に伴って熱帯域よりも大きな温度変化が起こると予想される地域 。 (IPCC 2007)

はじめに 減少傾向 気圧場との関係 長波放射 L H 短波放射 海氷は風によって移動する ( 気象庁HPより) 北極域の海氷域面積の年最小値の経年変化(1979年~2008年) 海氷と大気の関係 (イメージ) 気圧場との関係 長波放射 L H 短波放射 海氷は風によって移動する

局地的な観測を通してメソスケールの大気場が どのようになっているかを研究する. はじめに    しかし・・・ 北極海での気象観測は少ない! 北極地域を覆う雲と関係する多くの物理的プロセスはまだ十分に理解されていない. (Curry et al. 1996) 大気場が引き起こす現象の理解が必要! 本研究では 局地的な観測を通してメソスケールの大気場が どのようになっているかを研究する. そして、水平シアーの大きな部分に着目した!

北極航海概要 観測対象領域:北極海 海洋地球観測船「みらい」(JAMSTEC保有) 航海期間:2009/9/6-10/15 Alaska Russia Japan 観測対象領域:北極海  海洋地球観測船「みらい」(JAMSTEC保有) 航海期間:2009/9/6-10/15  ラジオゾンデ観測:136回  全長 : 128.5m 幅 : 19m 総トン数 : 8,687t

研究対象 観測点・ 観測期間 観測点 観測期間 ラジオゾンデ観測 研究対象 観測点・ 観測期間 観測点 観測点 西経168度 ・西経168度 ・北緯73.5度~北緯71.5度 北極海 73.5°N UTC 2009/10/07/00 観測期間 0.5度毎 3時間毎 ・UTC 2009/10/07/00~      2009/10/07/12 71.5°N UTC 2009/10/07/12 ラジオゾンデ観測 ・5回放球 チャクチ海 アラスカ シベリア

使用データ ラジオゾンデ ・風の東向き成分 NCEP/NCAR 再解析データ ・海面更正気圧 MODIS  Terra, Aqua ・可視画像データ

順圧不安定: 南北方向にシアーを持つ平均東西流に伴って 計算手法① 順圧不安定: 南北方向にシアーを持つ平均東西流に伴って            擾乱が発生する大気の不安定状態のこと。 相対渦度 :地上で見た時の空気の回転の方向・強さを表す量 y 観測点 U1 U2 U3 U4 U5 u

順圧不安定が生じる条件として、成長する擾乱が存在するためには この勾配の値が符号を変えなければいけない 計算手法② 渦位勾配 :東西流の安定性の指標 y 観測点 極域において u 順圧不安定が生じる条件として、成長する擾乱が存在するためには この勾配の値が符号を変えなければいけない

渦位の気候値 北に行くほど渦位は大きい           高 極域で負の値は不安定 アメリカ 日本 低 気象庁HPより

正負の符号が入れ替わる変曲点が有れば順圧不安定とされる 計算手法② 渦位勾配 つまり となる点が必要 の値を求めて安定度を求める (Holton 2004) 正負の符号が入れ替わる変曲点が有れば順圧不安定とされる

観測対象領域 H L 観測期間中の平均地上気圧 (広域) 気圧配置 シベリア アラスカ [hPa] 990 995 1000 1005 1010 1015 1020 1025 1030 1035 観測期間中の平均地上気圧 (広域)

H H シアーがありそうなので順圧不安定が起こりそう! 観測結果 実際にデータを見てみる・・・ 地衡風の向き 観測点 1033 地衡風の向き 観測点 1033 1034 1035 1034 H H 1036 1035 1033 1035 1034 1032 1034 1031 1030 1029 1028 1027 1026 1025 観測期間中の平均海面気圧 [hPa] と観測点

観測点 風:東向き成分 下層でシアーが大きい 南 北 168°W観測ラインの空間分布 東風 西風 風の東向き成分

北 南 渦度 観測点 惑星渦度と同等の逆渦が存在する。 一般的な相対渦度より十分に大きな値を持っている。 よって、回転する大きな力を持っている可能性がある。 気圧 (hPa) 下層で渦度変化が大きい 負の渦度が大きい 北 南 時間 168°W観測ラインの空間分布 観測点間における渦度

南 北 渦位勾配 観測点 変曲点 変曲点 観測点での渦位勾配 正 負 正 168°W観測ラインの空間分布 -8 [×10 m-1s -1] -0.6 -0.4 -0.2 0.2 0.4 0.6 観測点での渦位勾配

(a) 北上 みらい シアー不安定エリア 観測ライン(168°W) 衛星画像 72°N アラスカ 衛星可視画像 UTC 2009/10/07 01:25 (Terra) 青色の円は「みらい」の位置。緑の線は観測ライン(168W)。緑の円は観測点。

(b) シアー不安定エリア みらい 観測ライン(168°W) 衛星画像 72°N アラスカ 衛星可視画像 UTC 2009/10/07 23:15 (Aqua) 青色の円は「みらい」の位置。緑の線は観測ライン(168W)。緑の円は観測点。

図6(b)の拡大図

まとめ ・ラジオゾンデ観測から水平シアーによる大きな  相対渦度が観測された。 ・渦度勾配の変曲点と負の領域が見られ、  擾乱が存在する可能性が高いという結果がでた。 ・衛星可視画像で確認したところ         順圧不安定によるメソ渦列が確認された。 ・負の渦度勾配領域のスケールとメソ渦列は同じスケールであった。これから、ラジオゾンデでとらえられた可能性は高いと判断できる。 極域のラジオゾンデ観測でとらえた事例はほとんど無い!

参考文献 1) IPCC, 2007: Climate Change 2007, Synthesis Report, Geneva, Switzerland. pp104. 2) Curry, J. A, Rossow, W. B., Randall, D., and Schramm, J. L., 1996: Overview of    Arctic Cloud and Radiation Characteristics, J. Climate, 9, 1731-1764. 3) Holton R. J., 2004: An Introduction to DYNAMIC METEOROLOGY, -Forth Edition,  ACADEMIC PRESS, 535pp 4) 小倉義光 (編著), 1997: メソ気象の基礎理論, 東京, 東京大学出版会. 249pp