2018年6月13日 沖縄大学 島村 聡 (おきなわ障がい者相談支援ネットワーク) 2018年度 相談支援専門員指導者養成研修 【講義1】障害者の地域支援と相談支援従事者(サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者)の役割に関する講義 ③相談援助技術 2018年6月13日 沖縄大学 島村 聡 (おきなわ障がい者相談支援ネットワーク) S.Shimamaura okinawa univ.2018
講義の趣旨 対人援助とは何なのか? ソーシャルワークの相談援助技術の体系とは何か? ソーシャルワークの相談援助過程はどのようなものか? 相談支援専門員に求められる相談援助技術とは何か? なぜケアマネジメントが使われるのか? 講義の趣旨を大まかに伝える。 詳しい説明は次ページ以降にあると伝える。 参考文献 基本を知るために 稲沢公一・岩崎晋也「社会福祉をつかむ 改訂版」 有斐閣 2014 詳しく知るために 久保紘章・副田あけみ「ソーシャルワークの実践モデル―心理社会的アプローチからナラティブまで」 川島書店 2005 お時間があれば 東美奈子・大久保薫・島村聡「障がい者ケアマネジメントの基本 ―差がつく相談支援専門員の仕事33のルール」 中央法規 2015 S.Shimamaura okinawa univ.2018
対人援助とは何なのか? 援助関係 援助目標 援助対象 援助方法 ・信頼関係 ・専門的援助関係 *バイスティック7原則 ケースワーク、 生活課題を抱えた人 ※ICFで説明可能 援助対象 援助方法 ケースワーク、 グループワーク、 コミュニティワーク その他のアプローチ ここでは、対人援助の構成要件と専門的援助関係の技法、援助対象とは何かについて述べる。援助方法は後のスライドで触れる。 対人援助を構成しているのは 援助対象 援助関係 援助方法 である。それらを援助目標に向けて組み立てていく。 つまり、対人援助とは 「何らかの問題を抱えた人(援助対象)に対して専門的援助関係(援助関係)を結び、様々な対人援助技術(援助技術)を用いて、援助目標に向けクライアントとともに課題を乗り越えていく過程である。」 援助関係を示したものに信頼関係を基礎とした専門的援助関係という言葉がある。実際の援助過程では、信頼関係の構築そのものが大きな目的ともなりうることから、これらの関係は同時並行的に構築されていく。 専門的援助関係と示したのがバイスティックのケースワークの原則(援助関係を形成する技法)である。 *バイスティック7原則 ①個別化の原則(Individualization) ②意図的な感情表現尊重の原則(Purposeful expression of feelings) ③統制された情緒的関与の原則(Controlled expression of feelings) ④受容の原則(Acceptance) ⑤非審判的態度の原則(Non judgmental attitude) ⑥自己決定尊重の原則(Client self-determination) ⑦秘密保持の原則(Confidentiality) 援助対象とは何らかの生活課題を抱えた人である。生活課題は単に障がいがあるから存在するというものではなく、個人の持つ因子と環境の持つ因子との交互作用で生じるものである。 ここでICFの説明を入れても良い。 生活課題を抱えた人に対して、専門的援助関係を結び、様々な援助技術を用いて、援助目標に向けクライアントとともに課題を乗り越えていく S.Shimamaura okinawa univ.2018
ソーシャルワークとは 【全米ソーシャルワーカー協会編、日本ソーシャルワーカー協会訳「ソーシャルワーク実務基準および業務指針」 1997年】 ソーシャルワークとは 【全米ソーシャルワーカー協会編、日本ソーシャルワーカー協会訳「ソーシャルワーク実務基準および業務指針」 1997年】 ① 人々の問題解決能力や対処能力等を強化するという 目標を達成するため、事前評価、 診断、発見、カウン セリング、援助、代弁・能力付与等の機能を遂行する。 ② 人々と資源、サービス、制度等を結びつけるという目 標を達成するため、組織化、紹 介、ネットワーキング 等の機能を遂行する。 ③ 制度の効果的かつ人道的な運営を促進するという目 標を達成するため、管理/運営、 スーパービジョン、関 係者の調整等の機能を遂行する。 ④ 社会政策を発展させ改善するという目標を達成する ため、政策分析、政策提案、職員 研修、資源開発等 の機能を遂行する。 ソーシャルワークについては様々な説明の方法があるが、ここでは実務基準を明確化した全米ソーシャルワーカー協会の指針を使う。 (各県において、講師により説明方法が異なっても支障はない) 全米ソーシャルワーカー協会(1955年設立)が、以下のとおり、ソーシャルワーク実践の目標を達成するた めにソーシャルワーカーが果たすべき機能を示している。 ① 人々の問題解決能力や対処能力等を強化するという目標を達成するため、事前評価、 診断、発見、カウンセリング、援助、代弁・能力付与等の機能を遂行する。 ② 人々と資源、サービス、制度等を結びつけるという目標を達成するため、組織化、紹 介、ネットワーキング等の機能を遂行する。 ③ 制度の効果的かつ人道的な運営を促進するという目標を達成するため、管理/運営、 スーパービジョン、関係者の調整等の機能を遂行する。 ④ 社会政策を発展させ改善するという目標を達成するため、政策分析、政策提案、職員 研修、資源開発等の機能を遂行する。 【全米ソーシャルワーカー協会編、日本ソーシャルワーカー協会訳「ソーシャルワーク実務基準および業務指針」 1997年】 S.Shimamaura okinawa univ.2018
ソーシャルワークの相談援助技術の体系とは 対象別に、ケースワーク(個別援助)、グループワーク (集団援助)、コミュニティワーク(地域援助)がある。 実際の支援ではこれらの技術を統合的に使いながら 地域の中の利用者を支援するジェネリック・ソーシャル ワークが主流である。 間接援助技術として、ソーシャルアクション、社会調査、 行政計画策定、施設管理運営などがあげられる。 スーパービジョン、カウンセリング、コンサルテーション といった関連技術も重要である。 ここでは、一般的な相談援助技術の説明をしている。 対象別に、ケースワーク(個別援助)、グループワーク(集団援助)、コミュニティワーク(地域援助)がある。 ※1 1980年代にはアメリカ、イギリスでも地域生活支援には統合化された技術が用いられている。 実際の支援ではこれらの技術を統合的に使いながら地域の中の利用者を支援するジェネリック・ソーシャルワークが主流である。 ※2 この背景にはケアマネジメントや生態学的アプローチといった新たなアプローチの影響があるとされている。 この他、ソーシャルアクション、社会調査、行政計画策定、施設管理運営も場面に応じて駆使する。 ※3 ソーシャルアクション=社会へ直接働きかけ課題の解決に向け市民の力を引き出す 社会調査=地域内の障がい者の生活実態などを調べ、それを根拠として合意形成を図る 行政計画策定=行政職員が計画づくりを通して住民福祉の向上を図る 施設管理運営=福祉施設の運営を通して利用者はもちろん地域住民の福祉向上に寄与する スーパービジョン、カウンセリング、コンサルテーションといった関連技術も重要である。 ※4 スーパービジョン=支持的機能、教育的機能、管理的機能により職員の資質向上を図る カウンセリング=心理的アプローチを通して利用者の行動背景を読み取り支援の向上につなげる コンサルテーション=福祉活動に関する相談に乗ったり、情報提供を行う S.Shimamaura okinawa univ.2018
ソーシャルワークにおける相談援助過程とは何か ・インテーク(相談受付、緊急性の判断、窓口判断、 情報提供) ・アセスメント(情報収集、面接、見立て) ・契約(方針決定、支援決定) ・援助目標の設定と計画策定(計画案、関係者会議) ・介入(支援提供) ・評価(モニタリング、経過観察) ・終結(一応契約終了) 相談援助の過程(プロセス)は一般的な説明で十分である。 初任者のために実例を挙げて説明すると良い。その際に、計画相談で陥りそうな問題を特に強調して伝えていただきたい。 インテーク(相談受付、緊急性の判断、窓口判断、情報提供) アセスメント(情報収集、面接、見立て) 契約(方針決定、支援決定) 援助目標の設定と計画策定(計画案、関係者会議) 介入(支援提供) 評価(モニタリング、経過観察) 終結(一応契約終了) S.Shimamaura okinawa univ.2018
相談支援専門員に求められる相談援助技術とは何か アウトリーチ = 権利侵害を可視化する 想いを聴く = 意思疎通:wishを見逃さない 不断のアセスメント = 状況と関係性と過去・現在・未来 本人計画の作成 = 意思形成:失敗を恐れず試す 本人中心の会議 = 意思表明:主体性を引き出すチーム 地域づくりネットワーク =意思実現:パワフルな資源との 出会い 効果的なモニタリング = 本人のパワーの見立て ソーシャルワークの基本というよりは相談支援専門員としてどのような技術的視点を持つべきかを述べる。その際、相談支援専門員の面白さと業務の価値を是非お伝え頂きたい。 アウトリーチ = 権利侵害を可視化する ※1 相談に来るのを待つだけでは、在宅の障がい者の声なき声を聴くことが出来ない。行政や他機関と同行しての訪問や関係職種からの聴取、本人の出入りしている場所での面談など積極的なアウトリーチが必要なことも多い。 想いを聴く = 意思疎通:wishを見逃さない ※2 本人自身が抑圧されたり、自己表現が難しいことを前提に相談支援専門員は本人の想いを引き出す努力をする必要がある。これは意思決定支援の入口にもあたり、本人との信頼関係構築の鍵でもある。 不断のアセスメント = 状況と関係性と過去・現在・未来 ※3 アセスメントは支援の始まりだけでなく、支援過程の中で常に行われる不断の行為である。アセスメントは現在の本人の障がい・経済・社会状況、地域社会との関係性、過去から将来にわたる履歴と希望を確認する。 本人計画の作成 = 意思形成:失敗を恐れず試す ※4 誰のための計画なのかを踏まえ、計画を見ると本人の意思形成の跡がわかるくらい、本人が見て感じるものにする必要がある。(ex 想いのマップ) 本人中心の会議 = 意思表明:主体性を引き出すチーム ※5 個別支援会議の主役は本人であり、どのように重度な障害があっても参加して、参加メンバーも本人を意識して意見を述べ合う場とする。この機会を経て、本人が大きくパワーアップすることが多い。 地域づくりネットワーク =意思実現:パワフルな資源との出会い ※6 相談支援専門員が地域の中にある元気な事業所や頼れる支援者、居場所、団体などとしっかり関係を築くことで、本人の地域生活支援の可能性が大きく拡がる。 効果的なモニタリング = 本人のパワーの見立て ※7 モニタリングは様々な機会で可能である。ポイントは本人のパワー(自己効力感)がどう変化しているかを見立てることであり、それは関係している人たちと機会あるごとにコミュニケーションを図っていれば可能である。 S.Shimamaura okinawa univ.2018
なぜケアマネジメントが使われるのか? ニーズを明確化し、適切な社会資源と結びつけるとい う流れが、サービス提供型制度の運用に適している。 ケアマネジメントはソーシャルワークの方法としてでは なく、効率的なサービス提供の仕組みとして発展した。 制度にあるメニューを利用者に押し付けたり、制度にな い支援策を講じずにいると、相談支援専門員としての 資質が問われる。 ジェネリック・ソーシャルワークの感覚が試されている。 利用者の自己効力感や権利擁護の実現が達成される ことが評価のポイントである。 次の講義となる「ケアマネジメントのプロセス」に繋げるためにソーシャルワークのアプローチにおける位置づけを説明する。 ポイントはケアマネジメントありきではなく、ジェネリックソーシャルワークをベースにした援助活動の一方法としてケアマネジメントを活用しているというスタンスである。 なぜケアマネジメントが使われるのか? ※1 ここではイギリスで発展したケアマネジメント=アメリカで発展したケースマネジメントとして用語を統一する ニーズを明確化し、適切な社会資源と結びつけるという流れが、サービス提供型制度の運用に適している。 ※2 介護保険制度や障害者総合支援法のように制度的にサービスメニューが規定されている場合を指している。 ケアマネジメントはソーシャルワークの方法としてではなく、効率的なサービス提供の仕組みとして発展した。 ※3 利用者の自立のため幅広くニーズを捉える「利用者指向モデル」と限りある地域資源をコントロールして配分する「システム指向モデル」が想定される(Austin.C.D)。どちらかが主目的とされる可能性がある。相談支援専門員としては、利用者指向でありながら、限られた資源の調整を行うという点で、利用者への関わりに難しさがある。 制度にあるメニューを利用者に押し付けたり、制度にない支援策を講じずにいると、ソーシャルワーカーとしての資質が問われる。 ※4 上記の難しさとは別の次元で、本人のニーズを中心にせず、自分の事業所のサービスを薦めたり、制度にないからといってインフォーマルな地域の資源につながないことがあるなら、それはソーシャルワーカーの倫理に反する。 ジェネリック・ソーシャルワークの感覚が試されている。 ※5 ケアマネジメントの欠点は資源の調整屋になってしまい、本人のニーズについて他に働きかけることをしないこと。 ソーシャルワーカーの原点に戻って、本人の立場から課題の解決に統合的な力を発揮することが求められる。 利用者の自己効力感や権利擁護の実現が達成されることが評価のポイントである。 ※6 意思決定支援による利用者の主体性発揮や社会との関わりによる自己実現などを目指している。 S.Shimamaura okinawa univ.2018