CPA結晶を用いた冷凍機用 ソルトピルの製作

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相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
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CPA結晶を用いた冷凍機用 ソルトピルの製作 宇宙物理実験研究室 五明有貴子 目的 ・TESマイクロカロリメータで高いエネルギー分解能のX線観測を実現するために、極低温で動作させたい → 断熱消磁冷凍機を開発 より低温を実現するCrKミョウバン(CPA)結晶の作製 結晶カプセル --- ソルトピル(磁性塩)の製作  『CPA結晶を用いた冷凍機用のソルトピルの製作』 研究室では、TESマイクロカロリメータで高いエネルギー分解能のX線観測を実現するために、極低温で動作させる、ということを目指し、断熱消磁冷凍機を開発しています。 私は、その断熱消磁冷凍機の心臓部である磁性塩の結晶カプセル=ソルトピルの製作を、より到達温度の低いクロムカリウムミョウバンを用いて行いました。

冷却の原理 ④ エントロピー B 弱い ① ③ B 強い ② 温度(K) 等温磁化 断熱消磁 温度制御 昇温リサイクル 断熱消磁では (B:磁場、T:温度) 断熱消磁では 断熱消磁冷凍の冷却の原理を説明します。 グラフは、温度(横軸)とエントロピー(縦軸)の関係を示したものです。 曲線は等磁場曲線で、右下に行くほど磁場は強くなっていきます。 ①最初、磁場がかかっていない状態では磁性塩=ソルトピルのスピンはバラバラですが、温度一定のまま磁場をかけると、スピンが揃い、エントロピーが下がります。 この過程を等温磁化といいます。 ②ここで熱浴と切り離して、断熱状態で磁場を下げていきます。 断熱されているのでエントロピーは一定に保たれ、磁場と温度が近似的に比例関係になることから、温度が下がり、最低到達温度が得られます。 この過程を断熱消磁といいます。 検出器の動作温度に合わせて、磁場を0まで下げずに制御に入れます。 ③ここで測定を行います。外部からの熱によりスピンがばらけますが、磁場を制御して減少させていくことで、等温のままエントロピーが上昇します。 ④磁場を増加させ、熱浴と接続し、初期状態へ戻します。 この図は、断熱消磁冷凍機の内部模式図です。 これが磁性塩のカプセル=ソルトピルで、超伝導コイルで磁場を制御し、熱スイッチで熱浴との接続を切り替えます。 断熱消磁冷凍機 超伝導 コイル ソルトピル 熱スイッチ

CPAの利点 26 mK 1 K 鉄ミョウバン CrKミョウバン (Chromium(Ⅲ) Potassium Alum) 化学式:[KCr(SO4)2・12H2O] モ ル 比 熱 C 従来の鉄ミョウバンより相転移温度が低いため、より低い到達温度が得られる 密度が小さく軽量 溶質が水なので扱いやすい (鉄ミョウバンは硫酸) 融点が89℃と高いため、溶解・保存方法の自由度が高い(鉄ミョウバンは40℃) CPA 次に、CPAを用いる利点について述べます。 CPAとは、クロムカリウムミョウバンのことで、化学式を見ればわかる通り12水和物です。 カロリメータの動作温度である1K以下の状態を作り出せる磁性塩の1つです。 CPAを用いる最大の利点は、現在研究室でソルトピルに使用している鉄ミョウバンよりも相転移する温度が低いため、より低い到達温度が得られるということです。 右のグラフは、温度(横軸)とモル比熱(縦軸)の関係を示しています。 鉄ミョウバンはここで(磁気的に)相転移してしまうため、ここが最低到達温度となります。 CPAが相転移するのは、もっと低温なので、到達温度はより低いことがわかります。 他の利点としては、密度が小さく軽量であるとか、溶質や融点の点で鉄ミョウバンよりも扱いやすいということなどが挙げられます。 ((<相転移する温度> CPA:10mK弱(9mK)、FAA:20mK強(23mK) 温度T(K)

CPA結晶には2種類ある 約1cm 約1cm 八面体構造→12水和物 六方晶体構造→6水和物 ソルトピルとしての最低到達温度が低いのは、スピン間相互作用が弱い12水和物であり、それは八面体構造をもちます。 再結晶させる際の溶液の冷却の仕方によって、結晶構造が違ったものが析出することがわかりました。 左は、冷蔵庫で急激に冷却して析出させたもので、六方晶体構造をしていることから、6水和物だと考えられます。 昨年度はこれを用いて冷却実験を行いましたが、低い到達温度は得られませんでした。(224mK) 右は、恒温槽内で1時間に1℃以下の遅い速度でゆっくりと冷却して析出させたものです。 この方法で、八面体構造の結晶を得られました。 冷却速度を変えての実験も行いましたが、効率を考えると1時間に1℃ずつの冷却速度が適していると思われます。 再結晶させる時の溶液の冷却方法 六方晶体:冷蔵庫で急激に冷やす 八面体:恒温槽内で1時間に≦1℃ずつ ゆっくり下げる 到達温度が低いのは、スピン間相互作用が弱い12水和物で八面体構造をもつ

12水和物の検証 ②X線粉末回折測定 ①密度測定 飽和水溶液中に結晶を沈め 体積と重量を測定した 六方晶体 飽和水溶液中に結晶を沈め 体積と重量を測定した 六方晶体:1.62±0.08 g/cm3 八面体: 1.74±0.09 g/cm3 文献値(12水和物): 1.826 g/cm3 →比重からは、12水和物の方がよく合う 六方晶体 八面体 カウント数 12水和物の 文献値と一致 角度 CPAの結晶と考えられる回折 パターンが得られた しかし、2つの結晶で有意な違いは見えず、原因は検討中 製作したCPA結晶が12水和物かどうかを検証しました。 行ったのは密度測定とX線粉末回折測定です。 密度測定は、アルキメデスの原理を用い、飽和水溶液中に結晶を沈めて体積と重量を測定しました。 結果として、八面体結晶の密度が、12水和物の文献値に近い値が得られました。 次に、X線粉末回折測定の結果です。 線源はCuのKαを用いました。 図の横軸は回転角度θ、縦軸はカウント数です。 六方晶体と八面体結晶共にCPA結晶と考えられる回折パターンが得られたものの、2つの結晶で有意な違いは見られず、原因は検討中です。 ((FAAの密度→12水和物:1.71、6水和物 :1.86 XRD→12水和物:20.9、28.2、22.3、6水和物:25.0、21.3、22.0 測定方法:FT法、スキャン軸:2θ/θ、ステップ: 2θ、1点の計測時間:2sec、測定範囲:5~90deg、ステップ幅:0.1deg X線:40kV、100mA、Cu Kα(1.54Å) 発散スリット・散乱スリット:1.0deg、受光スリット:0.60mm

ソルトピルの製作 現在製作中 45℃で1時間攪拌する ろ過した飽和水溶液を容器に注入 結晶注入口 金線160本 外筒(SUS) 熱リンク(Cu) 135mm 張り板 (ガラスエポキシ) 結晶作製中の様子 左:ソルトピル本体 右:メスシリンダー(確認用) 45℃で1時間攪拌する ろ過した飽和水溶液を容器に注入 恒温槽内で1時間に1℃ずつゆっくりと温度を下げ、再結晶させる 廃液除去→結晶1~2 gを析出 最終的にCPA 60 gを結晶化 確立した手法で現在製作中の、ソルトピルの製作方法について説明します。 ソルトピルの内部構造は左の図のようになっています。 直径25mm、長さ135mmのステンレスの容器の中に、全体の温度を均一に保つため金線が160本張ってあります。 結晶の作製は、CPA粉末を蒸留水に溶かし、ろ過して容器に注入し、恒温槽内で1時間に1℃ずつゆっくりと冷却して再結晶させました。 目標とする結晶析出量は約60gですが、容器内に結晶を隙間無く詰めるために、1回に1~2g程度の析出させ、その後、廃液を取り除く、という作業を繰り返す必要があります。 また、結晶成長状態を確認するために、同時並行してメスシリンダー内でも結晶成長させています。 25mm ソルトピルの構造模式図

まとめ 12水和物のCPA結晶を作る方法を確立した ソルトピルの製作は今後も進める 製作日数は全体で約3ヶ月 冷却速度を1℃/hr 程度でゆっくり冷やす ソルトピルの製作は今後も進める 製作日数は全体で約3ヶ月 今後、新しいソルトピルを組み込んで冷却実験を行なう 12水和物のCPA結晶を作る方法を確立しました。 ゆっくり冷やすという温度管理がとても重要で、効率を考えると、冷却速度は毎時1℃が適当だと思われます。 研究室でソルトピルの製作は今後も進めていきます。 ソルトピル本体の組み立てや結晶成長の期間を含めると、製作日数は全体で約3ヶ月かかります。 今後、CPAを使った新しいソルトピルを組み込んだ冷却実験を行なう予定です。

冷却の原理 断熱消磁では A C B (H:磁場、T:温度) 磁性体の温度TとエントロピーSの関係 ここで、冷却の原理を説明します。 最初、温度がT0と高く、磁場がかかってない図のAの状態であるとします。この状態では、磁性体のスピンはバラバラの向きを向いています。 まずここから温度を一定に保ったまま磁場をかけます。この過程を等温磁化といいます。 この過程で、磁性体のスピンはバラバラの状態からそろい、エントロピーがS0からS1に下がります。つまり、磁性体は図の赤い線を辿り、図のBの状態に移行します。 この状態から、断熱状態で磁場を消していきます。この過程を断熱消磁といいます。すると、断熱されているため、エントロピー一定のまま磁場が0に下がるにつれ、温度もT1まで下がります。磁性体は図の青い線を辿り、図のCの状態へ移行します。 この2つの過程によって、冷却がなされます。 また、断熱消磁の過程では、近似的に磁場と温度が比例関係になります。 磁性体の温度TとエントロピーSの関係

断熱消磁冷凍機(ADR)の構造 50cm この冷却に用いるのが、断熱消磁冷凍機、ADRという装置です。 各部分について、おおまかに説明していきます。 まず、図の水色の部分はヘリウムタンクと言います。ここに、まず液体窒素を入れ、次に液体ヘリウムを入れることで、予冷させます。 次に、黄緑色の部分は超伝導マグネットです。ここで、先程説明した等温磁化・断熱消磁の際の磁場をコントロールします。 そして、だいだい色の部分に、マイクロカロリーメータX線検出器を置きます。図の真下から入射したX線を検出します。 タンクの内側にはアルミ蒸着フィルムで覆い、外部からの熱輻射を遮断しています。 赤い部分をソルトピルと言います。磁性体のカプセルのことです。詳しくは次のスライドで説明します。ヒートスイッチは、ソルトピルに繋がっており、ヘリウム温度までソルトピルを下げる時には onにしてヘリウムタンクと接触させ、断熱消磁の際にはoffにして、断熱状況を作ります。

ソルトピルの製作 張り板間に金線(0.2mmφ、純度99.99%)160本を張る 金線が弛まないようにしながら、両端をまとめて切り、熱リンク(Cu)にはんだ付けする 腐食防止のため、接続部をスタイキャストで覆う