太陽フレアと彩層底部加熱に関する 観測的研究 斉藤祥行 京都大学2005年修士論文発表会資料より抜粋
Kurokawaらによると、2000年6月に出現し、Xクラスフレアを発生した活動領域9026において、その発生の2時間前から1600Åでの増光が発生していることがわかった。 Kurokawa et al. (2002)
そこで、このような1600Åでの増光現象が フレア発生領域に共通して見られる現象なのかどうか、 フレアの発生と関連する現象なのかどうか、 について、TRACE衛星による紫外線観測データを使用して統計的な調査を行った。
IC IV = αI1550 + βIclean1600 +εC IV Iclean1600 = I1600 – (1.07)I1700 IC IV = αI1550 + βIclean1600 +εC IV IUVcont. = γI1550 + δIclean1600 +εclean1600 I : number intensity ( photons s-1 cm-2 sr-1 ) εn : systematic error ( Handy et al. 1998 )
C IV ⇒ 遷移領域 1600Å continuum ⇒ 彩層底部
AR 9236 2000.11 18hr
一部、観測時間の空白のためかはっきりとしない領域も存在したが、ほぼ全ての領域についてフレア発生前の増光が存在した。 そしてそれらの増光の発生場所は、主としてフレアの発生場所でもある、極性の異なる磁場領域同士が接しあう場所であった。 またそれらの増光の継続時間は6時間から18時間であり、大半が8時間程度のものであった。 これらは1600Åcontinuumによる彩層底部イメージを用いた先の結果を支持するものであり、やはりフレア発生前の十分に早い段階から、彩層底部においてそのエネルギーが徐々に解放され始めているものと考えられる。
1600Åの一般的な増光
1600Åでの増光が一般にどのような場所に発生するものなのかを調べるため、1998年4月から2002年7月までにTRACE1600Åでの観測が行われていた全ての領域について調査を行った。 太陽ディスクセンター通過日を含む4日以上連続して観測されていた領域を解析対象として選択したところ、このような領域は57領域存在した。 しかしMDIによるマグネトグラムが存在した領域はこのうちの51領域であり、この51領域について以後の解析を行った。
このような方法で増光の顕著な場所を検出すると、増光領域はEFRなどのイベントごとに、空間的時間的に小領域のグループとなって存在していることが多い。 そこでこのようなグループの1つ1つを1つのイベントと考え、これらのイベントがどのような場所に発生したものなのかを調査した。
このようなイベントは全51領域中に253例発生していて、マグネトグラムを用いて各イベントの発生場所について精査したところ、これらは次の8種に分類されることがわかった。 密着(衝突)
EFR本体による増光
1600Åでの増光が発生していた全253イベントの発生場所について調査したところ、EFRやMMF本体による、衝突を伴わない純粋な磁場の変動領域での増光が約6割を占めた。 残りの約4割は、極性の異なる磁場領域が何らかの形で接触している、その磁気境界線周辺での増光であった。 しかしMクラス以上の大規模フレアの発生領域に限ると話は逆転し、磁場の接触領域が7割を超えるのに対して、変動領域は3割以下に留まった。 さらにXクラスフレアの発生領域に限ればこの傾向はより顕著となり、フレアを発生した領域のいずれもが磁場の接触領域に見られたものであった。
結論 1600Åcontinuumイメージ、1600Å観測データを用いてXクラスフレア発生前の増光について調査したところ、そのほぼ全ての場合で、フレア発生の8時間程度前からの増光が存在していた。 またそれらのほとんどが、フレアの発生場所でもある磁気境界線周辺に分布していた。 これらのことから、数分から数十分程度のタイムスケールであるフレアに対して8時間程度前という十分に早い段階から、その発生場所である磁気境界線周辺で、彩層底部の加熱が始まっていることが強く示唆される。
しかし1600Åでの増光という意味では、それは必ずしもフレア発生領域にのみ存在しているのではなく、むしろEFRなどに数多く見られる現象であった。 したがって、宇宙天気予報、フレアの予測という観点では、極性の異なる磁場の接触領域での1600Åの増光というものが1つの鍵になるものと考えられる。 またこのような領域では、増光段階では時間をかけてゆっくりと増光し、いざフレアが発生すると急激にその光度を下げるという、特徴的な光度変化を見せる傾向があった。 今後、このような光度変化に注目することが、この1600Å観測を利用したフレア予測に繋がるのではないかと考えられる。
大規模フレアを頻繁に発生する「十分に発達した磁場同士の接触領域」について、今回は、複数の磁力線が実際に衝突を起こしているものと、1本の磁力線の捻れのために極性の異なる磁場が接触しているものをまとめて扱ったが、これらの相違点に注目することにより、フレア発生との関連についてさらに詳細に迫れるのではないかと考えられる。 最後に、大規模フレアの発生と彩層の加熱との関連が強く示唆されることから、飛騨天文台のSMART望遠鏡による高分解のHα線観測や、目前に迫ったSolar-B衛星による安定した連続観測などを有効に活用することによって、今後一層、この宇宙天気研究が推進されてゆくことが強く期待される。
1600Å continuum
Carbon IV