メロディの潜在記憶 ―注意分割課題を用いた検討―

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メロディの潜在記憶 ―注意分割課題を用いた検討― 北海道大学大学院文学研究科 伊藤範子・安達真由美

はじめに 潜在記憶 前に経験したことを意識的に思い出すという想 起意識を伴わない記憶 無意識的 潜在記憶 前に経験したことを意識的に思い出すという想 起意識を伴わない記憶 長期間保持                 (e.g., 5週間(Komatsu & Ohta, 1984), 7か月(西野, 2000)) 意識的

音楽分野における潜在記憶研究 Peretz, Gaudreau, & Bonnel (1998) 単純接触効果を測度とする印象評定課題 対象に繰り返し接触するだけで、その対象に対 する好意度を高める 3種類のインターバルを設けてメロディの潜在記 憶を検討 ⇒5分後・1日後で効果あり, 1か月後でなし

音楽分野における潜在記憶研究 上田・寺澤(2008) プライミング効果を測度とする間接再認課題 先行刺激が後続刺激の処理を促進 ⇒4週間前の学習の効果=メロディの潜在記憶を確認 T:ターゲット D:ディストラクタ

先行研究と問題点 Ito & Adachi (2012) 2つの潜在記憶課題を用いてメロディが1か月後も潜 在記憶として保持されるかどうか検討 ⇒ 単純接触効果   なし   プライミング効果 あり 問題点 間接再認課題は潜在記憶のみを反映しているのか? 少ない学習回数により、単純接触効果が見られな かった可能性?  →単純接触効果研究では、2回以上の回数で検討     したものが多い(Bornstein, 1989)

記憶と注意:注意分割(divided attention) Mulligan, Duke, & Cooper (2007) 学習段階:聴取+注意分割課題 vs 聴取のみ ⇒再認課題の成績低下  注意分割課題により刺激の記銘を妨害し、  顕在記憶を低減

本研究の目的 記銘を妨害する注意分割課題が、1か月後の2つの 潜在記憶課題に与える影響を検討 1回・5回の提示回数条件を設け、学習回数の効果 を検討 2つの記憶課題の、潜在記憶測度としての妥当性を 検証

方法 参加者 大学生・大学院生 15名(うち男性4名) 注意分割条件 7名 全注意条件 8名 大学生・大学院生 15名(うち男性4名)  注意分割条件 7名  全注意条件 8名 年齢 19~49歳(M = 23.67, SD = 9.05) 音楽経験 0~32年(M = 10.27, SD = 8.00)

メロディ刺激 図形刺激(注意分割課題) 6音メロディ60曲 G3~F5の平均律上の12半音から6音をランダムに並べ作成 1メロディ内は、同一音名2回以内 図形刺激(注意分割課題) 6~9個の図形からなる60の刺激パターン 形:丸・楕円・三角形・正方形・長方形・六角形・星 色:赤・青・黄・緑

手続き 注意分割課題

結果1 単純接触効果 S1:注意条件×提示回数(1回目・5回目提示)の分散分析 ⇒主効果・交互作用いずれも有意差なし(図1) 結果1 単純接触効果 S1:注意条件×提示回数(1回目・5回目提示)の分散分析  ⇒主効果・交互作用いずれも有意差なし(図1) S2:注意条件×提示回数(0回・1回・5回)の分散分析  ⇒主効果、交互作用いずれも有意差なし(図2) 評定値 評定値 図1. S1での平均好意度評定値 図2. 1か月後の平均好意度評定値

結果2 間接再認課題 Hit率 提示回数の主効果が有意(p < .0001, 分散分析) 多重比較(全体α = .05), 0回・1回 < 5回 *** p < .0001 *** p < .0001 Hit率

結果3 間接再認課題 FA率 提示回数の主効果が有意(p < .0001, 分散分析) 多重比較(全体α = .05), 0回・1回 < 5回 ***p < .001 **p = .008 FA率

考察:注意分割課題の効果 ⇒注意分割課題の効果は確認されなかった ⇒間接再認課題が長期間の潜在記憶検出測度として有効 であることを示唆 好意度評定課題・間接再認課題ともに,注意条件間で違いなし ⇒注意分割課題の効果は確認されなかった 好意度評定・間接再認課題は顕在記憶の影響が元々少ない可能性 ⇒間接再認課題が長期間の潜在記憶検出測度として有効 であることを示唆 今回用いた注意課題が,顕在記憶の影響低減に十分でない可能性 ⇒異なる妨害課題による検討等,注意課題の有効性につ いてさらに検証する必要

考察:提示回数の効果 S1において、5回提示でも単純接触効果はみられず ⇔2回提示でも単純接触効果確認(伊藤・松岡・安達, 2011) ⇒刺激提示間のタイムラグが短いことにより飽きが生じ た? 刺激提示間隔の影響 飽きさせないためのフィラーメロディの挿入

考察:2つの潜在記憶課題 単純接触効果(好意度評定課題) 間接再認課題 1か月後の効果は見られず 5回提示でも効果がない ⇒単純接触効果を指標とした好意度評定課題では、長期間の 潜在記憶の検出が困難 間接再認課題 5回提示においてHit・FA率で1か月前の学習の効果  =プライミング効果を確認 ⇒間接再認を用いた場合、メロディの潜在記憶が1か月保持 されることを確認

引用文献 Graf, P., & Schacter, D. L. (1985). Implicit and explicit memory for new associations in normal and amnesic subjects. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, & Cognition, 11, 501-518. Ito, N., & Adachi, M. (2012, May). One-month-long implicit memory for melodies explored by means of mere exposure paradigm and indirect recognition procedure. Poster presented at The 24th APS Annual Convention, Chicago, IL. 伊藤範子・松岡和生・安達真由美(2011).メロディの潜在記憶 -単純接触効果パラダイム と間接再認手続きを用いた検討-.日本音楽知覚認知学会2011年度秋季研究発表会資料集 (pp. 65-68).新潟:新潟大学. Komatsu, S., & Ohta, N. (1984). Priming effects in word-fragment completion   for short- and long-term retention intervals. Japanese Psychological Research, 26, 191-200. Mulligan, N. W., Duke, M., & Cooper, A. W. (2007). The effects of divided attention on auditory priming. Memory & Cognition, 35(6), 1245-54. 西野由利恵(2000). 構造記述システムにおける図形表象の長期保持. 基礎心理学研究, 19, 1-8. Peretz, I., Gaudreau, D., & Bonnel, A-M. (1998). Exposure effects on music preference and recognition. Memory & Cognition, 26, 884-902. 上田紋佳・寺澤孝文 (2008). 聴覚刺激の偶発学習が長期インターバル後の再認実験の成績に及 ぼす影響. 認知心理学研究, 6(1), 35-45.

ご清聴ありがとうございました