N型Si基板を用いたMOSFETの自己冷却効果 Self-cooling on power MOSFET using n-type Si wafaer H.Nakatsugawa1, T.Sato1, Y.Okamoto2, T.Kawahara3 and S.Yamaguchi 3 1Yokohama National University, 2National Defense Academy, 3Chubu University E-mail : naka@ynu.ac.jp TEL/FAX : +81-45-339-3854 序論 実験方法 近年、IGBTやpower MOSFETに代表されるパワー半導体デバイスは電力変換器等に広く応用されている。微細化・高性能化に伴うデバイス発熱の増大は原理的に不可避ではあるが、発熱による温度上昇はデバイス性能低下に直結するので、デバイス冷却が極めて重要な問題である。デバイス冷却の現状は、放熱板等を用いた熱伝導による冷却に依存している。ペルチェモジュールを用いた冷却もあるが、別電源が必要であり、大量の放熱が不可欠であることから、パワーデバイスの冷却には不向きである。しかし、自己冷却デバイス[1-3] は、別電源が不要であり、従来の熱伝導による冷却に加えペルチェ熱流による吸熱・放熱も冷却に利用できるので、ジュール発熱を抑制できればパワーデバイスの冷却に有効である。 n型Si基板による自己冷却効果の可能性を検証するために、赤外線サーモグラフィー(TVS-200EX, NEC Avio)を用いて10分毎1時間撮影し、InfReC Analyzer NS9500 (NEC Avio) を用いたデータ解析により温度分布の時間依存性を測定した。MOSFETとn型Si基板は、Fig.4下部の水冷ヒートシンクと上部の低熱伝導率材料(macor)との間に銅片で挟み、ねじ式プレス機で固定して、ジュール発熱が予想される上部の銅片とmacorの部分の温度分布を撮影した。電流は直流安定化電源(EX-1500L2, TAKASAGO)を用い、60A一定とした。水冷ヒートシンクの水温は銅片のみで通電した際に発熱しないことを確認し、冷却水循環装置(CA-1112, EYELA)を用いて4℃(±2℃)に一定保持した。更に、n型Si基板のみに通電して自己冷却効果を確認し、MOSFETのみでON抵抗によるジュール発熱を確認した後、両者に通電し、n型Si基板の自己冷却効果を検証した。 Fig1. 従来のペルチェモジュール (動作温度 ≦ 150℃) による冷却 Fig2. power MOSFETの大電流とジュール発熱 (≧室温) Fig3. 自己冷却デバイス 研究目的 自己冷却デバイスに求められる熱電性能は低い電気抵抗率・高いゼーベック係数・高い熱伝導率である。適度にキャリア添加されたn型Si基板は、これらの性能を十分満足しており、n型Si基板を用いて自己冷却素子を作製する事により、市販のpower MOSFETの発熱を、従来の熱伝導と新たにペルチェ熱流による吸熱・放熱によって低減させる自己冷却効果の可能性を検証する事を目的とする。 Fig4. 自己冷却効果測定装置 自己冷却素子 自己冷却素子は、市販のpower MOSFET(IRF1324PbF, ON抵抗:1.5mΩ)と1.5cm×3.0cmに切り出したSb添加されたn型Si基板(厚さ:520μm)を用いて構成した。Fig.7に示す通り、n型Si基板の両面には0.1μmのTi及び0.4μmのAuスパッタリング加工を施し、電極として1μmの銅鍍金加工を施している。単結晶Siの熱伝導率は150W/mKであり、電気抵抗率とゼーベック係数はFig.8とFig.9にそれぞれ示した。 Fig5. power MOSFET (IRF1324PbF), RDS(ON) = 15mΩ Fig6. Cu plating n-type Si wafer Fig8. electric resistivity of n-type Si wafer Fig9. Seebeck coefficient of n-type Si wafer Fig10. carrier concentration of n-type Si wafer Fig11. carrier mobility of n-type Si wafer Fig7. EPMA measurement 結果と考察 av. 14.5℃ av. 14.5℃ av. 32.8℃ av. 32.3℃ 銅片のみの通電測定は、温度分布のピークが14.5℃付近でほぼ一定であり、ジュール発熱による温度分布の高温シフトも見られないことから、水冷ヒートシンクによる熱伝導が十分機能している。n型Si基板のみの通電測定は、n型Si基板自身の抵抗と周辺の接触抵抗によるジュール熱 : 約2Wに対し、ペルチェ冷却 : 約2Wの発生が14.5℃付近での温度分布一定の原因である事を示唆している。MOSFETのみの通電測定は、MOSFETのON抵抗 : 約1.5mΩ によるジュール発熱 : 6Wを示している。また、n型Si基板とMOSFETの通電測定では、温度分布のピーク平均温度がMOSFETのみの平均温度よりも0.5℃低減されており、n型Si基板による自己冷却効果の可能性が示唆された。 結論 references ・n型Si基板のジュール熱と同程度のペルチェ熱流による吸熱・放熱が期待される。 ・n型Si基板の自己冷却効果によってMOSFETの発熱低減の可能性が示唆される。 ・n型Si基板自身の持つ熱電性能を最大限発揮できる条件の解明が今後の課題である。 [1] S.Yamaguchi, ULVAC, 52, pp.14-17 (2007). [2] H.Nakatsugawa et al., J.Elec.Mate., 38, pp.1387-1391 (2009). [3] S.Fukuda et al., Jpn.J.Appl.Phys., 50, pp.031301 (2011). Acknowledgments : This study has been partly supported by the Grants-in-Aid for Scientific Research #22560691.