DECIGO/DPF 用の 周波数安定化光源の開発

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DECIGO/DPF 用の 周波数安定化光源の開発 中村 真大*、松島隆敏、武者満、中川賢一、植田憲一 電気通信大学 レーザー新世代研究センター 2008年9月23日  於 日本物理学会 秋季大会

DECIGO と DPF の周波数安定度の要求は同レベル 目的 宇宙重力波望遠鏡DECIGOの光源開発 DECIGO PathFinder (DPF)・・・DECIGO の技術実証機 DECIGO と DPFの要求性能 DECIGO DPF 光強度 10 W 100 mW 波長 532 nm (or 515 nm) 1064 nm (or 1030 nm) 強度安定度 dI / I ≦10-8/√Hz 周波数安定度 df ≦ 0.5 Hz/√Hz @ 1 Hz @1064 nm df ≦ 1 Hz/√Hz @ 1 Hz 本研究の最終目標は宇宙重力波望遠鏡DECIGOの安定化光源を開発することです。 そして、その前段階として、DECIGOの技術実証機としてDECIGO Path Finderの光源開発を当面の目標にしています。 DECIGOとDPFの光源の要求性能をまとめたのがこの表です。 この中で特徴的なことは、DPFで要求される光強度はDECIGOに比べ2桁低いものの、 周波数安定度の要求はDECIGOとほぼ違いがないという点です。 よって、まずは周波数安定度の目標達成に主眼を置き開発を進めました。 DECIGO と DPF の周波数安定度の要求は同レベル まず周波数安定度の目標達成を目指す

レーザー周波数安定化 周波数基準 周波数基準には2方式ある ・ファブリ・ペロー光共振器の共振周波数 ・物質の共鳴周波数 Not yet... レーザー光 周波数基準 レーザー光源 周波数誤差の検出系 フィードバック系 Clear Not yet... フィードバック系の 利得と雑音 周波数基準の性能 まずは、レーザーの周波数安定化の具体的なプロセスについてご説明します。 レーザー周波数の安定化はレーザー光源から出た光を周波数基準と比較し、 その周波数誤差を検出して光源にフィードバックすることで、安定化制御を行います。 そこで先回発表の結果からフィードバック系の雑音スペクトル特性はDECIGOの要求を満たしていることが確認されました。 しかし、周波数基準の安定度がネックとなりDECIGOの要求する周波数安定度を実現することができませんでした。 そのために、周波数基準のこれら2方式の比較を行なって、より安定度の高い周波数基準の構築を目指しました。 周波数基準には2方式ある ・ファブリ・ペロー光共振器の共振周波数 ・物質の共鳴周波数

飽和吸収分光の感度を向上し目標達成を目指す 周波数基準の2方式 ファブリ・ペロー光共振器 光共振のフィネス(S/N)が高い DECIGO要求値の df を達成 外乱の影響に弱い 宇宙での再現性に疑問 レーザー光 振動 外乱で共鳴中心周波数がゆらぐ 共鳴周波数の安定性が低い 飽和吸収分光 外乱の影響に強い 宇宙での再現性が高い S/Nを向上する必要がある DECIGO要求値の df を未達成 周波数基準のそれぞれの方式の特徴を次に挙げました。 「短縮」 これらを比較すると、F.P共振器に比べ飽和吸収は外乱の影響やアライメントの崩れに強いものの、 周波数基準としての感度が低く、信号のS/Nや線幅の狭窄化により周波数感度を向上する必要があります。 そこで我々のグループは信頼性の観点を重視し、人工衛星上で可動する安定化光源には、 吸収分光の感度向上による目標達成が適すると考えました。 「通常」 まず、ファブリペロー共振器は光共振のフィネスが高く、周波数基準として高い安定度を持っています。 さらに、この方式の周波数安定化ではDECIGOの要求する周波数安定度が達成されているという実績があります。 その一方で問題点としては、光共振器に振動などの外乱が加わると、共鳴周波数がゆらいでしまうという点が挙げられます。 それを防ぐためには共振器を防振などで外乱から遮断する必要があり、人工衛星に搭載するDECIGOの光源としては問題になります。 また、光学系のアライメントの乱れに敏感なため、衛星打ち上げ時の衝撃で、周波数安定度が劣化してしまう恐れもあります。 つぎに、物質の吸収線を利用した周波数基準についてですが、まずF.Pと比べアライメントのずれに強く、外乱の影響にも比較的強いという特徴があります。しかし問題点としては、周波数基準としてのS/N はF.P.ほど高くなく、DECIGOの要求を満たすためには、信号の周波数弁別性を向上する必要があります。 ここで我々のグループでは、飽和吸収分光のS/Nを向上し、DECIGOの要求を満たす安定度を実現しようと考えました。 S/N がF.P.共振器より低い 信号強度の安定性が低い 飽和吸収分光の感度を向上し目標達成を目指す

前回発表の結果 バルク型 PPLN Nd-NPRO λ=1064 nm EOM 最大出力500 mW l = 1064 nm 380 mW 温調 l = 532 nm 1.75 mW Dichroic mirror (l = 532 nm) Nd-NPRO λ=1064 nm 最大出力500 mW バルク型 PPLN Beam Dump l/2 PBS 507 kHz 励起光 Beam Dump EOM 信号光 PBS ヨウ素セル (10 cm) DBM TEC Free run 次に前回発表の結果についてですが、 Lock 波長 532 nm吸収帯より自然幅が細い1 (250 kHz →100 kHz) 波長 515 nm吸収帯で周波数安定化を目指す 1 W-Y. Cheng, et al. Opt. Lett. 27 (2002) 571

実験系 Yb-NPRO 導波路型 λ=1030 nm PPLN EOM AOM 昨年度 今年度 レーザー媒質 Nd:YAG Yb:YAG l = 1030 nm 70 mW l = 515 nm 12 mW Dichroic mirror (l = 515 nm) Yb-NPRO λ=1030 nm 導波路型 PPLN Beam Dump l/2 AM 80 MHz PBS 400 kHz Beam Dump EOM 励起光 AOM 信号光 昨年度 今年度 レーザー媒質 Nd:YAG Yb:YAG 波長 532nm 515nm 光源最大出力 380mW 120mW 第2高調波発生 バルク 1.7 mW 導波路 12 mW ヨウ素セル長 100mm 400mm 音響光学変調器(AOM) なし あり PBS ヨウ素セル (40 cm) DBM TEC DECIGO用の安定化光源の開発という研究テーマは、本研究室が以前より取り組んでいるテーマです。 昨年度はこのように532nm吸収帯による安定化を行いましたが、このときは目標を達成することができませんでした。 そして、今年度はこのように各部の改良を施し、要求の達成を目指しました。 その改良の中でも特に有効なものは基準の吸収線の変更で、これにより線幅を約4倍ほそくできると予想しました。

実験 (第2高調波発生) ・第2高調波への変換効率が17.1 %に向上(前年0.46 %) ・多重反射による吸収作用長の延長も可能に 実験 (第2高調波発生) Dichroic mirror (l = 515 nm) l = 1030 nm 70 mW l = 515 nm 12 mW Yb-NPRO λ=1030 nm I = 70 mW 導波路型 PPLN beam dump 波長515 nm 最大出力:12 mW 温調 第2高調波発生の実験ですが、光源は半導体レーザー励起 モノリシック型Yb:YAGレーザーを使用して、波長1030nm、出力70mWの赤外のレーザーです。 この光は、アイソレータとアッテネータを通り波長変換素子へ入射します。この波長変換素子は 周期反転分極 リチウムナイオベートで、 この図のようなホルダーと温調の製作を行いました。 この素子は導波路型構造をとっており光の閉じ込め効果があり、波長変換の効率が向上しています。 ただし、±0.5℃の温度変化で出力がほぼ半減し、正確な温度コントロールが必要な素子だとわかりました。 こうして得られた第2高調波が波長515nm、出力8mWでした。 カタログ値より出力がほぼ半減してしまっているのは、導波路へのカップリングが原因だと考えられます。 今回は、この出力でも充分に昨年度のパワーの4.5倍ほど出ているため、次のステップへ進みました。 SHG出力の素子温度特性 ・第2高調波への変換効率が17.1 %に向上(前年0.46 %) ・多重反射による吸収作用長の延長も可能に

実験 (吸収線の観測) 線形吸収 飽和吸収 EOM 波長1030.151706 nm P (71) 45-0 信号強度が最大 AOM 拡大 実験 (吸収線の観測) l/2 AM 80 MHz PBS 400 kHz EOM ポンプ光 AOM Beam Dump プローブ光 PBS ヨウ素セル DBM TEC 波長1030.151706 nm P (71) 45-0 信号強度が最大 線形吸収 まず、線形吸収という光吸収の大まかな構造を観測することによって、吸収線幅の前に信号強度についての評価を行いました。 ここに光源の周波数掃引可能な範囲にあった主な吸収をここに示します。 この結果から、最も信号強度が強い吸収はこの吸収で、 この微細構造、つまり飽和吸収を観測すると、このような幅700MHzに渡り吸収が並ぶ結果になりました。 そのなかでも強度が最大のこの吸収をもとに、線幅の評価を進めました。 飽和吸収 100 GHz 拡大 700 MHz

結果 (飽和吸収線幅の評価) ヨウ素蒸気圧の最適化 線幅が前回の 3分の1 に狭まった(3.14 MHz → 1.12 MHz) 結果 (飽和吸収線幅の評価) 線幅の狭窄化には 圧力拡がりの除去が有効 ヨウ素蒸気圧の最適化 ●線の飽和吸収の観測結果は次のような信号になり、 この中でも信号強度が最大であるこのラインを線幅の評価に使うことに決めました。 そして、気体状のヨウ素の、蒸気圧を変化させたとき、吸収線幅はこのように変化していき、 その半値半幅はおよそ●kHzで、前年の約3MHzという結果からは●桁小さくなった。 これは吸収線の周波数感度が●桁増したことを意味しており、 JILAのジョン・ホールらのグループが2mという長大なガスセルを用いてですが、1Hz帯で10Hz/√Hzの周波数安定度を実現しているので、 この度の改善点を用いれば、DECIGOとDPFの要求である1Hz/√Hzの周波数安定度が実現できると考えられます。 そのために今後は、吸収の参照信号強度を増強するためにヨウ素とレーザーの光学作用長を増す、マルチパス化をする必要があります。 では次に、今年度中のDPFの光源の開発計画についてご説明します。 線幅が前回の 3分の1 に狭まった(3.14 MHz → 1.12 MHz) ⇒ 自然幅は約100 kHz なので更なる狭窄化も可能

DPF 試作機の光源 (光学系) 鉛直方向・・・光学系の真上に電子機器 光学系 ・・・ヨウ素セルを対角に配置 光源から光ファイバーで入力 TEC 光源から zz 干渉計測系へ WG-PPLN 電子機器 Beam Dump PBS 400 mm 光学系 400 mm EOM TEC FR AOM 鉛直方向 FR Signal Out 光学系 次に、衛星搭載であるDPF光源として要求される点は、コンパクトかつ高い信頼性です。 その点を考慮して、現在計画している試作の安定化システムは、1辺40cmの立方体に収まるように計画しています。 そのために40cmのガスセルを対角線上に配置し、制御用の電子機器は高床の上に配置する予定です。 この系は今年度末までに構築し、その後は通総研の周波数基準光源と比較を行ない、周波数安定度の評価を行う予定です。 また、その後は振動試験などの信頼性に関する評価も行ない、DPFの光源として要求される性能を実現させる予定です。 PBS 400 mm 鉛直方向・・・光学系の真上に電子機器 光学系 ・・・ヨウ素セルを対角に配置       光源から光ファイバーで入力

DPF 試作機の光源 (周波数オートロック) NPRO光源 レーザー光 吸収分光の光学系 飽和吸収信号 線形吸収信号 フィードバック系 ゲイン制御 H8マイコン 線形吸収+飽和吸収 レーザー周波数掃引 周波数オートロック系 まずは、宇宙空間で運用されるDECIGOやDFPの光源には、自動的にレーザー周波数を安定化制御するシステムが必要です。 その制御系の図を次に示します。 この点に関しては以前のTAMA300の光源開発のノウハウがあるので、 いくつかの点を改良することで対応可能と考えています。 ロック外れ検出 ・マイコン (or FPGA)による完全な自律制御 ・周波数ロック外れの自動検出 ・同様の系をアセチレン安定化レーザーで構築し動作確認済

独立な2台のレーザーの beat 信号スペクトル DPF 試作機の光源 (性能評価) 通総研の光コム( df / f ≦ 10-15 )を用い レーザー周波数の安定度を評価する 周波数安定化レーザー λ=1030 nm フェムト秒レーザー光コム Mode-Locked Ti3+:Al2O3 df / f ≦ 10-15 周波数軸上で等間隔に並んでいる 独立な2台のレーザーの beat 信号スペクトル 周波数安定度の評価

まとめ 結果 予定 ・導波路型の波長変換素子を用いて 17.1%の高い変換効率で第2高調波を発生させた ・ヨウ素の515 nm 吸収線幅の評価を行ない 線幅が前年の3分の1 に狭まったと確認した ・吸収信号の S/N を改善し、周波数ロックを掛ける ・DPFの安定化光源の試作機を製作し、 周波数安定度、機械的信頼性などの評価を行う 結果 予定

ご清聴ありがとうございました