紛争、テロリズムと市民意識 パレスチナ市民の自爆攻撃に関する意識調査の分析

Slides:



Advertisements
Similar presentations
地方自治体による 住民意識調査の回収率の動向 山田 茂 2009 年 5 月 9 日 経済統計学会 関東支部 1.
Advertisements

Miguel, Edward (2005) “Poverty and Witch Killing”. Review of Economic Studies, 72(4): 報告者:有本寛 2009/11/18 1.
政権交代は、政策変化・制度改 革につながるか? 奥井克美ゼミナール 岩山 寛 大川 啓介 大原浩 平 呉之昊 辻 貴之 松本 明 奥井克美ゼミナール 岩山 寛 大川 啓介 大原浩 平 呉之昊 辻 貴之 松本 明.
制度経済学Ⅰ ①. 制度経済学とは何か 制度 institutions 最も根本的な制度は・・・・ 言語、法、貨幣 いずれも経済、そして経済学に関係する それらなしに、経済は成立しない.
イラクにおける政党支持構造とその変容 山尾大(九州大学) 浜中新吾(山形大学).
シンポジウム 子どもの豊かな育ちを 支援する地域力
老舗に見る持続的発展 出見世ゼミナール 五期生.
ひでき 平成17年4月12日 「日本教」モデルを ネットワーク分析する ひでき 平成17年4月12日.
仙台防災枠組の実施に向けて 海外の災害・東日本大震災から生まれた広域復興トークライブ 仙台防災未来フォーラム
メディア論 第13回 テレビと政治 ( ) 担当:野原仁.
小林盾(シカゴ大学) 大浦宏邦(帝京大学) 谷口尚子(帝京大学) 2004年9月19日 数理社会学会 山形大学
パレスチナ人の越境移動に関する意識と経験
私たちの考える理想のコーチング ◎仮説 私たちの考える理想のコーチングとは・・・ 「命令・従順のコーチングを使い分けること」
国際システム理論によるイラン問題へのアプローチ
総合演習(国際理解教育) 学籍番号10341229 法学部法学科 森 健志.
実証分析の手順 経済データ解析 2011年度.
米ソ 冷戦       ~今現在とのつながり~       11-3      福島 愛巳.
イスラエル旅行準備会 第二回(8月24日) イスラエル全史.
情報社会とガバナンス 歴史的経緯から 吉田寛.
宗教 ~イスラム教~  法学部法学科    北浦 愛.
アンゴラ内戦 ~武装解除の具体例.
「過去生の記憶」の研究.
場所1 空間分析批判と場所の概念化 政治地理学の理論と方法論 第4週.
小林盾(シカゴ大学) 大浦宏邦(帝京大学) 谷口尚子(帝京大学,ミシガン大学) 2004年11月21日 日本社会学会 熊本大学
法とコンピュータ 法的知識の構造(3) 慶應義塾大学法学部 2008/11/25 吉野一.
(民主主義の当事者としての)市民による社会運営
第12章 現在のグローバル化を考える.
現代のグローバル化を考える 冷戦体制解体 民主主義とグローバル化.
中東諸国における グローバリゼーションと 政治体制の頑健性
イラク戦争2 イラク-アメリカの絡み合い.
いじめ問題を考える いじめは人間の本性なのか.
民営化とグローバリゼーション 国家の役割は何か.
第3回 説得コミュニケーション& プロパガンダほか ( ) 担当:野原仁
サンプル図表について なるべく図表は (写真も図としてお願いします) 鮮明なものをパワーポイントファイルに図表番号、キャプションと共に1枚づつ貼り付けてください。 タイトルを図の上に、キャプションは図の中か、図の下に書いてください 文字は、フォントを修正できる形で張り付けていただくと印刷用フォントになります.
地政学2 「新しい地政学」の登場 政治地理学の理論と方法論 第3週.
言葉を用いた革命の試み 東北学院大学 小宮友根.
2013 現代文明論 10 3つめの原理 資本主義.
社会福祉調査論 第15回_2 第5章 倫理と個人情報保護 第7章 社会科学としての社会福祉
神戸大学大学院法学研究科 博士課程後期課程
浜中 新吾(山形大学) イスラーム地域研究 東京大学拠点グループ2 パレスチナ研究班 研究会
対北朝鮮「最大限の圧力へ」.
離婚が出生数に与える影響 -都道府県データを用いた計量分析
企業を調査客体とする統計調査の 回収率の最近の動向について 日本統計学会 (大阪大学) 国士舘大学 山田 茂
麗澤大学 国際経済学部 国際経済学科4年 下田ゼミ 網澤隆之
ソウル市立大 2008/05/06 韓日の社会意識と行動 -社会調査データをもとに-
アフリカにおける主な紛争 マノ河流域諸国 アフリカの角 大湖地域
〈拡張する人権〉と高度不信社会 ―人権の基礎としての民主政治を考える 吉田 徹 北海道大学公共政策大学院
麗澤大学 国際経済学部 国際経済学科4年 下田ゼミ 網澤隆之
日常生活から社会へ~社会学理論とジェンダー 1
~ゲームによる暴力性と社会性の変化はあるか~
日本政治の第一歩 第1章 戦後の日本政治.
民主主義ってどういうこと? 1、始まり 2、見方 3、政治 4、課題 5、これから.
中東諸国における 非民主体制の持続要因 レンティア国家論と 体制変動の経路依存性 日本国際政治学会 2005年度研究大会 山形大学 浜中新吾.
グローバリゼーションと 人の移動 移民・難民問題.
2001年参院選挙新潟選挙区における真島氏の当選理由の解明
主権者教育プログラム みらいく 2017 公益社団法人 日本青年会議所 教育再生グループ 政治参画教育委員会.
イクレイの発展とローカルアジェンダ21 岸上 みち枝 2006/11/29
グローバリゼーションは 国際的画一化なのか
「パレスチナ社会の民主主義的価値観」 報告のアウトライン はじめに 民主主義的価値観 仮説とデータ 検証1:パレスチナ社会における民主化の
Gaza Kids ガザの子どもたちを囲む会 立食パーティ 日時:2015年11月4日(水)午後6時半~
政権交代は、政策変化・制度改革につながるか
慶応義塾大学21世紀COEプログラム 報告者:浜中新吾(山形大学)
ー政党数に対する制度の影響と戦略的投票行動ー 浜中新吾(山形大学)
クロス表とχ2検定.
総選挙後の日本の進路 情報パック11月号.
シリア避難民の流入がもたらす レバノン市民の態度変容
比較政治学における パレスチナ研究 ~交渉ゲーム理論を中心に~
:冗談のようなパワポ利用に関する実証研究
中東政変の比較政治分析 権威主義体制の持続と崩壊
D 加川大輔 スポーツの偉大なエピソード.
Presentation transcript:

紛争、テロリズムと市民意識 パレスチナ市民の自爆攻撃に関する意識調査の分析 紛争、テロリズムと市民意識 パレスチナ市民の自爆攻撃に関する意識調査の分析 慶應義塾大学21COE-CCC 国際シンポジウム 多文化多世代交差世界の政治社会秩序形成 浜中 新吾(山形大学) 2007年11月25日

はじめに 9.11テロ事件に際して歓喜するパレスチナ人たち 世界を震撼させた事件を受けて、別の意味でショッキングな出来事 パレスチナ人の日常とは?

イスラーム=テロリスト/テロ組織? わかりやすい構図なのか? 自爆テロという不可解な事件の説明原理となりうる? イスラームがマジック・ワードになっている

本報告の趣旨 パレスチナ市民を対象に実施された世論調査データを題材として 殉教攻撃(自爆テロ)をどの程度、そしてなぜ支持するのか? 実行犯は確実に死に至り、周囲の人間を無差別に巻き込む戦術はイスラーム的情熱の高まりによって説明されるのか?

オスロ合意後のパレスチナ情勢 1994年2月に発生したヘブロン事件 4月にハマースが報復の自爆攻撃を行う 1996年5月までに8件の自爆攻撃を実行 ハマース幹部暗殺への報復                                                                                    

1996年~1999年 自治政府議長選挙でアラファトが勝利 ネタニヤフ政権(リクード)樹立のために和平交渉は進展せず 98年にようやく会談がもたれ、「ワイ合意」へ

バラク政権樹立からCDへ 1999年5月の総選挙でバラク政権(労働党)が樹立 シャルム・エル・シェイク合意が調印 キャンプ・デービッド会談では合意に到らず

アル・アクサ・インティファーダへ シャロンがハラム・アッシャリーフ(神殿の丘)視察を強行 パレスチナ人が「聖地を守れ」をスローガンに蜂起を開始

インティファーダと自爆攻撃 9月30日の衝撃的なパレスチナ少年の死 短期間で集中的に発生した自爆攻撃 インティファーダ以前は4年間で16件だった自爆テロが、以後は 1年2ヶ月で39件

リサーチ・クエスチョンの特定 インティファーダ以降、パレスチナの武装組織は、なぜ自爆テロという戦術をこぞって決行するようになったのか Kydd and Walter (2002) 和平プロセスをスポイルする役割がある インティファーダ以降の状況を説明しない 「暴力の連鎖」説? Bloom (2005)とRicolfi (2005)が否定

図1:自爆テロへの支持/不支持 インティファーダが勃発

本報告のリサーチ・クエスチョン 多くのパレスチナ人は1994年にハマースが決行した自爆戦術にはショックを受けていた⇒低い支持率 インティファーダ勃発後の世論調査では、自爆攻撃への支持率が急増 武装組織が自爆テロを頻発させた背景には世論の変化がある なぜパレスチナ市民はテロへの態度を変えたのか?(リサーチ・クエスチョン)

分析と検証 仮説1:イスラエル占領による市民生活の悪化、貧困化がテロへの支持に結びついた 仮説2:イスラーム主義への期待が高まり、テロへの支持に結びついた 仮説3:中東和平への失望感が広がって テロへの支持に結びついた

仮説1について 経済的困窮や貧困がテロの原因になっているとの指摘はしばしばなされるが、学術的研究の多くがこの説を否定する 社会経済的要因の影響を指摘する研究 ガザ地区・難民キャンプ居住者は自爆テロを支持する傾向がある 社会的に「強い」属性を持つパレスチナ人は自爆テロを支持する傾向がある

Sheikh Yusuf al Qaradawi 仮説2について Islam is solution. 自爆攻撃を正当化する論理 ジハードの一環 不信仰者によって占領されたムスリムの土地を取り戻す イスラエル人は子ども以外すべて兵士 Sheikh Yusuf al Qaradawi

仮説3について 中東和平への失望感がインティファーダの勃発に先行? 世論調査の結果はこれを否定 2000年6月の時点でオスロ合意への支持率は50%以上 キャンプ・デービッド会談が失敗に終わっても、パレスチナ社会には楽観的ムードが支配していた

図2:将来についての楽観/悲観 楽観ー悲観の比率が 逆転する

図3:和平プロセス/オスロ合意の支持率 インティファーダが勃発

回帰分析の結果①

回帰分析の結果②

インティファーダ勃発前後にイスラーム主義への期待が急激に高まったという判断はできない 政党支持率の変動 インティファーダ勃発前後にイスラーム主義への期待が急激に高まったという判断はできない

本報告の結論 自爆攻撃を含む、市民を標的としたテロ行為をパレスチナ人が支持するようになったのはなぜか?(リサーチ・クエスチョン) アル・アクサ・インティファーダ勃発によって将来に期待が持てなくなり、和平プロセスを支持できなくなったためである。

むすびにかえて 「なぜイスラームからテロが生まれるのか」という奇妙な問題提起 自爆テロはイスラームに固有のものではない 「アラブの戦士が一矢報いた」ゆえのビンラーディン支持