私は、「10万人当り罹患率」を物指しとして比べ、日本の衛生水準が米国より低いとは思わない。 「養豚の友」 第2回原稿

Slides:



Advertisements
Similar presentations
保険需要曲線 保険加入時の健康診断のコストは保険金額の比例倍以上 or 以下 ⇒ <「逆選択」が生じやすいのは所得グループの所得は高い or 低い ? > 保険金額の高い保険に加入する個人の所得水準は高い or 低い?⇒ 以下 高い 加入時に健康診断が義務化されている保険の顧客の所得水準は高い.
Advertisements

多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
高年齢者における雇用開発の分析 国際経済学部 国際経済学科 4年 大貫 宣弥 2004/10/23.
⑤ 食品衛生法施行条例 の一部改正について.
~国民経済的な視点から見た社会保障~ 2000/6/14 木下 良太
第2章競争戦略 梶田 真邦 桑原 雪乃 斉藤 晋世.
鹿児島大学教授(獣医公衆衛生学) 岡本 嘉六
M.E.ポーターの競争戦略論 M.E.ポーターの競争戦略論は、「競争優位」に関する理論的フレームワークを提示した基本的理論である。SCPパラダイムという考えをもとに持続的な競争優位を確立するための戦略である。 SCPとは、市場構造(structure)、企業行動(conduct)、業績(performance)の略語であり、市場構造と企業行動が業績を決めるという考えである。
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
リスク解析(Risk Analysis) リスク解析(Risk Analysis)とは、組織、体制あるいは集団が危害(hazard)に曝された時にその状況を制御する手順。リスク解析は、リスク査定(risk assessment)、リスク管理(Risk management)およびリスクの情報交換(risk.
衛生環境課 ノロウイルスによる食中毒について.
オムニチャネル、グローバルリスク対応 R&Dコンサルティングのご提案 オムニチャネル、グローバルリスク対応
製品安全と消費者安全、 その達成には当社の最新のPL対策で!
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」 の説明
大谷経営労務管理事務所のISO9001認証取得について
FOODS eBASE Cloudプラットフォームで構築
【資料5】 条例の基本的な方向性について 平成28年8月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
雪印の食中毒 2005.5.5.
高年齢者活用促進コースの活用例 モデルケース① 高齢者を活用した異業種への新規参入 モデルケース②
4 第3次障害者基本計画の特徴 障害者基本計画 経緯等 概要(特徴) 障害者基本法に基づき政府が策定する障害者施策に関する基本計画
なぜ貧しい国はなくならないのか 第3章 なぜ貧困を撲滅できないのか?.
マーケティング計画.
製品ライフサイクルと マーケティング戦略.
食品の安全性確保に関するシステム構築 改革なくして成長なし 「安全性」を巡る情況の変化 慶 第38回定期総会 祝 鹿児島県獣医師会
(From farm to table)」の意味すること
コーヒーの向こう側.
顧客 「ISO9001」と「ISO22000」の違い ISO22000 ISO9001 リスクをなくす 顧客満足 食の安全性 品質の差別化
消費者は食品の安全性についてどのように感じているのか?
「リステリア」による食中毒を 防ぐために衛生管理を徹底しましょう
米トレーサビリティシステムのご紹介 日通情報システム 平成23年11月.
食鳥処理後の鶏肉でカンピロバクターが見つかる割合 鶏肉や鶏肉製品を扱っている場合、メニューを見直しましょう!
「食料・農業・農村基本法」、「環境基本法」
「食品安全基本法」、「食品安全委員会」の問題点 食品衛生法に「ハイリスク集団の規定」を設ける必要性 第三者認証による安全性保証システムの構築
高齢者の救急搬送に係る意見交換会 資料7 1 意見交換会開催に至る経緯と今年度の取り組み  平成26年度    病院連絡会議にて,高齢者の救急搬送に関して,患者及び家族の延命治   療の希望確認ができているかの課題提起がなされた。  平成27年度   (1)介護サービス事業者協議会主催研修会および施設ごとの講演会の開催.
食糧自給率低下によって 日本が抱える危機とその対策
対エクアドル草の根・人間の安全保障無償資金協力
高年齢者における雇用開発の分析 国際経済学部 国際経済学科 4年 大貫 宣弥 2004/10/23.
人材育成 1.従業員の雇用 1-1 従業員採用への配慮事項 1-2 人材の募集 1-3 労働契約の締結 Appendix-1 労働者保護法規
需要・供給曲線のシフト.
農家等への「家畜衛生情報」の発信、広報誌「通信衛星」の発行
製造準備段階における 工程FMEAの実施と不具合未然防止
フラビウイルス属ウイルスの世界的分布 (CDC)
あなたの一杯が 世界を救う! TEAM SMILE.
高等学校(工業) 工業高校におけるキャリア教育 品質管理とは 品質管理の意味を説明することを伝える.
HACCPの考えを取り入れた本県独自の認証制度
「鹿児島の食の安全を考える」 リスク・アナリシスと安全性向上の社会システム: 「食品の安全」は生命(いのち)をいただくマナーを基礎とする
2017年度版  フード連合 産業政策.
言語XBRLで記述された 財務諸表の分析支援ツールの試作
1996年のPR/HACCP最終規則以降の消費者の知識、行動ならびに信頼に係る変化
HACCP 2005/4/4.
12 REPORT ON IMPLEMENTATION OF THE AGENCY’S FOODBORNE DISEASE STRATEGY. MHPF PAPER 02/02/ 患者数(万人) ,148 51,166 1, ,
販売名 ピオグリタゾン錠15mg「ケミファ」 製品回収
業種レベルでのCAGEの枠組み ○国ごとの差異のインパクトは業種ごとに違う ⇒企業は自分の業種を考慮すべき ①文化的な隔たり・・言語、宗教性、民族性 ②制度的な隔たり・・関税、国内調達規制 ③地理的な隔たり・・物理的な隔たり ④経済的な隔たり・・所得水準.
衛生委員会用 がん対策討議用スライド.
米国農務省のHACCP規則(1996年)が赤身肉施設と食鳥肉施設に及ぼした経済的影響の多段階評価
松下温風器 2006.4.16.
基調講演 「農場から食卓までの食の安全システムとは」
リスクコミュニケーションにおける 獣医学の役割
検討事項2 『医薬品製造販売業GQP/GVP手順書<モデル>』の改訂
ダウンロード違法化(文化庁案) ○法改正するとされていること ○権利者団体がするとされていること
~化学物質リスクアセスメント・ラベル表示が義務化されました~
トピック6 臨床におけるリスクの理解と マネジメント 1 1.
研究開発名称 (対象とする技術のイラストや図) 提案者:○○株式会社 研究開発の概要 概算経費
追加資料 補足説明資料 大阪府薬事審議会  医薬品等基準評価検討部会 平成30年1月16日.
農場からフォークまでの食品の安全性: 放射線照射の役割
「リステリア」による食中毒を 防ぐために衛生管理を徹底しましょう
第2回実務者会議の議論を受けた検討(データWG関係)
研究開発名称 (対象とする技術のイラストや図) 提案者:○○株式会社 研究開発の概要 概算経費
社会問題 食品偽造問題 (参考)
○ 大阪府におけるHACCP普及について S 大阪版 評価制度を設ける 大阪府の現状 大阪府の今後の方向性 《従来型基準》
Presentation transcript:

私は、「10万人当り罹患率」を物指しとして比べ、日本の衛生水準が米国より低いとは思わない。 「養豚の友」 第2回原稿 2.米国の経験から何を学び、何を採り入れるべきか? ・ 米国におけるHACCPの効果は上がっているのか? ・ それと関連する「食品安全確保システム」を米国はどのように構築してきたか? ・ 米国におけるHACCPの効果は上がっているのか? 「米国ではHACCPの実施により食中毒はなくなった」、「日本では生産者や加工業者が儲けに走って安全対策を講じないため、米国に遅れをとっている」かのように宣伝される「食材バッシングの嵐」を冷ますため、今回は米国における「農場から食卓まで」の最末端の状況をみてみたい。 私は、「10万人当り罹患率」を物指しとして比べ、日本の衛生水準が米国より低いとは思わない。 「養豚の友」 第2回原稿

Foodborne-disease outbreaks reported to CDC January 1, 1990 through March 15, 2002 1 農場や食肉センターにHACCPを導入することで汚染は軽減したが、食中毒事故数は減っていない。生産・処理・加工段階での努力の成果が生かせないのは何故か! 消費者教育の重要性を示す。 1: As reported by state health departments through the Foodborne Disease Outbreak Surveillance System. *Preliminary data; not all states have completed reporting.

家畜と共通する主要血清型のヒトにおける推移 U.S. Foodborne Disease Outbreaks 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 : 1991 : 1996 : 2001 分離菌株数 1991 1996 2001 S. Newport S. Newport S. Infantis S. Agona S. Enteritidis S. Enteritidis S. Heidelberg S. Montevideo S. Typhimuriuim 食中毒事故数は減少していないが、生産段階で汚染軽減に努力したサルモネラ(ST,SE)については、着実に減少した。すなわち、食中毒原因物質はこれ以外にも多数有り、それらの事故を減らす責任は、生産者ではなく消費行動にある! 家畜と共通する主要血清型のヒトにおける推移

カリフォルニア州をみると、主要4種の食中毒菌による患者は、10万人当り約100人である。あなたの町が5万人だとすれば、年間50人の食中毒が発生していることになります。これでも、米国が日本より進んでいると思いますか? 10万人当たり患者数 Figure 3. Annual incidence (per 100,000 population) of laboratory confirmed cases of Campylobacter, Salmonella, Shigella, and E. coli 0157:H7 infections, by selected sites, 1996. (Food borne disease active surveillance network, 1996. MMWR 46:258-261, 1997.)

第三者認証による安全性保証システムの構築  9歳以下の小児と 60歳以上の高齢者が全体の45%を占める Isolates from human sources 10,581 33.4% ハイリスク集団への重点対策 安全の価格 より安全な高付加価値商品の開発 3,584 11.3% 第三者認証による安全性保証システムの構築

食品衛生法には、ハイリスク集団の規定がなく、健康成人を含めた一律の対策しか採れない  食中毒に罹りやすく、しかも重度の健康障害に陥りやすい健康弱者への重点対策が必要!  健康弱者向けの、安全性がより高い「食品供給システム」の構築が肝要! そのために、護送船団方式から自己責任への転換 1. 生産・製造業者が講ずる安全性対策費を価格に上乗せできるようにする 2. 生産・製造業者の安全性対策が確実に実行されていることを保証するシステムが必要 3. 自分の健康状態に見合った安全性を選択できるための、消費者教育

リスクアナリシスの考え方と法・機構 (2003) 誰にとっての安全か? リスクアナリシスの考え方と法・機構 (2003) 誰にとっての安全か? オーストラリア・ニュージーランドの食品規格コード(Standard 3.1.1)では、次のように規定している。 「安全で適切な食品の意味 (1)    安全基準は、その食品が製造された目的に応じて適切かつ合理的に消費される条件下で満たされる。 (2)    大多数の人には影響がなく、アレルギーや過敏体質をもった人だけに現れる危害があってもその食品が安全でないとは言わない。(以下略)」  また、米国の食品規格コード(1-2.44 Definitions)では、高感受性集団(Highly susceptible population)を次の2群に分けている。 (44)高感受性集団とは、次の理由で、一般集団の人より食品媒介性疾患に罹りやすい人をいう。 (i)免疫低下者、就学前児童、老人。 (ii)デイケア施設、腎臓透析センター、病院または療養所、看護付老人ホームなどの健康管理または補助生活を受けている人。

食品のリスクは個々人の健康状態によって異なっており、全ての人に一律に「安全」を保障することは不可能である。  基礎疾患をもった方は、自己責任で防備することが肝要であり、そのための衛生教育が急がれる。  特異体質の方を含めて健康危害のないことを求めるのは、安全性の問題を混乱させるだけである。 議論の場では「100%安全」と同様に「全ての人に安全」という主張が繰り返される。このことは、現在の食品衛生法の中に明示されていないことによるものであり、消費段階で自己防衛すべき問題までを一律規制の対象とすべきとの意見が出されるのは、安全性について大きな誤解が広がっていることを示している。 日本の法令ではそうした区分がないために、健康弱者が享受すべき特別な安全対策を実施できなくしている。

コストに見合った安全  米国では品質規格と同様に、衛生規格があり、「AA」、「A」、「B」、「C」などと表示される。生育・生産・加工段階で、より高度な安全性対策を採用するには、施設・設備の改良、時には能率を悪くすることもある作業手順の見直し、従業員教育など通常より経費がかかる。それを商品価格に転嫁できないとしたら、業界はどこから資金を捻出できるのか? 昨年、産地等の「偽装表示」が明るみに出たが、ある意味では「安全性では金をとれないから、品質(産地)で資金調達しよう」と考えても故なしとはしない。  90年代初頭に、牛肉の対米輸出を行うため、鹿児島、宮崎、群馬に一箇所ずつ米国の基準に合わせて、食肉センターの牛を処理するライン全体について衛生対策をした。そのラインで処理される牛肉の一部が米国に輸出され、大半は国内販売されているのだが、それらの食肉センターで処理された牛肉の国内価格が他のものより高価格で取引されているという話は聞いていない。それ故、3箇所では米国並みのHACCPシステムが導入されたにもかかわらず、他の食肉センターにそのシステムが広がる契機とはならなかった。

「破壊検査」しかないものについて「100%フリー」はあり得ないことを周知させることが最も重要である。 最も安価なリスクの低減方法 「破壊検査」しかないものについて「100%フリー」はあり得ないことを周知させることが最も重要である。 同一ロットの食材を原因と推定した食中毒事故で、ロットのごく一部でのみ発症があったり、発症率に大きな偏りがある事実について、日本ではほとんど無視されているが、米国では流通過程における細菌の増殖に基づくと判断している。 細菌の増殖に好適な水分活性、pH、蛋白質を備えている食肉、卵、乳製品、海産物などを潜在的危害性食品(Ptentially Hazardous Food)と規定 し、それらの輸送・保管中の所定管理項目についての記録を2年間保存することを義務付けている。たとえば、最も重要な輸送・保管中の温度については、殻付卵で7.2℃以下とすることが数年前定められた。  『食品輸送衛生法』など社会システム上の不備を是正することが大切だ 。「100%フリー」の幻想を振りまくことによる流通業界や消費者の油断こそ食中毒のリスクを高め、食材バッシングを続けさせる根源である。

「全ての人にとって安全でなければならない」という護送船団方式ではなく、「個々人の選択による安全性の確保」へと梶を切る必要がある。 対費用効果を踏まえた農場から食卓までの安全性確保 消費段階で管理できる危害までを生産段階で制御する必要はない。 「全ての人にとって安全でなければならない」という護送船団方式ではなく、「個々人の選択による安全性の確保」へと梶を切る必要がある。 生産・流通段階でのリスク管理 「安全性向上の努力はしたが、値段が据え置かれたため倒産した」という実施に伴う不安は消せない。消費者が安全性に対価を払うシステムができていないからである。現在進めている「トレーサビリティー」も、多額の税金を投入することで賄われており、消費者が負担するという話はない。こうした護送船団方式を変えない限り、生産業や流通業は安心して乗り出せない。 「生産・流通段階でのリスク管理」は、「個々人の選択による安全性の確保」という対価を払う社会構造改革によって推進される。