ストレンジネスで探る原子核 -ハイパー核の世界-

Slides:



Advertisements
Similar presentations
原子核物理学 第3講 原子核の存在範囲と崩壊様式
Advertisements

東海-神岡ニュートリノ実験 T2K 2010年8月5日 小林 隆.
J-PARCでのニュートリノ実験 “T2K” (東海to神岡) 長基線ニュートリノ振動実験
実習B. ガンマ線を測定してみよう 原子核・ハドロン研究室 永江 知文 新山 雅之 足立 智.
J-PARC出張報告 7/31 植木.
第2回応用物理学科セミナー 日時: 6月 2日(月) 16:00 – 17:00 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室
α α 励起エネルギー α α p3/2 p3/2 α α 12C 13B 12Be 8He α α α
W e l c o m ! いい天気♪ W e l c o m ! 腹減った・・・ 暑い~ 夏だね Hey~!! 暇だ。 急げ~!!
J-PARC E15実験 A search for deeply bound kaonic nuclear states
相対論的重イオン衝突実験PHENIX におけるシミュレーションによる charm粒子測定の可能性を探る
山崎祐司(神戸大) 粒子の物質中でのふるまい.
クラスター変分法による 超新星爆発用 核物質状態方程式の作成
COMPASS実験の紹介 〜回転の起源は?〜 山形大学 堂下典弘 1996年 COMPASS実験グループを立ち上げ 1997年 実験承認
中性子過剰核での N = 8 魔法数の破れと一粒子描像
J-PARCにおけるハイペロンを含む少数多体系の実験計画
埼玉大学大学院理工学研究科 物理機能系専攻 物理学コース 06MP111 吉竹 利織
Bファクトリー実験に関する記者懇談会 素粒子物理学の現状 2006年6月29日 名古屋大学 大学院理学研究科 飯嶋 徹.
数値相対論の展望        柴田 大 (東大総合文化:1月から京大基研).
高エネルギー物理学特論 岡田安弘(KEK) 2008.1.8 広島大学理学部.
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
HLab meeting 6/03/08 K. Shirotori.
CERN (欧州原子核研究機構) LEP/LHC 世界の素粒子物理学研究者の半数以上の約7000人が施設を利用
クォーク模型による バリオン間相互作用 鈴鹿高専 仲本朝基 1.Introduction 2.クォーク模型の特徴
原子核物理学 第8講 核力.
Λハイパー核の少数系における荷電対称性の破れ
核物理の将来 WG ストレンジネス sub group
岸本グループ 研究室紹介.
理科指導法D ノーベル物理学賞.
重力・重力波物理学 安東 正樹 (京都大学 理学系研究科) GCOE特別講義 (2011年11月15-17日, 京都大学) イラスト
最初に自己紹介 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 幅 淳二
最初に自己紹介 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 幅 淳二
Azimuthal distribution (方位角分布)
アトラス実験で期待される物理 (具体例編) ① ② ③ ④ ① ② ③ 発見か? 実験の初日に確認 確認! 2011年5月9日 ④ 未発見
D中間子崩壊過程を用いた 軽いスカラー中間子の組成の研究
原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布.
超高分解能測定によるΘの探索 Θ(もしあるなら)のハイパー核は作れるか?
理研RIBFにおける 中性子過剰Ne同位体の核半径に関する研究
高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 岡田安弘 2006年6月21日 茨城大学
担当教官 理論: 菅沼 秀夫 実験: 成木 恵 前期: それぞれ週1回のゼミ 後期: 理論ゼミ + 実験作業
MPPCを用いた ハイペロン散乱実験の提案
Y. Fujiwara, Y. Suzuki and C. N., to be published in PPNP;
K核に関連した動機による K中間子ヘリウム原子X線分光実験の現状 理化学研究所 板橋 健太 (KEK-PS E570 実験グループ)
Charmonium Production in Pb-Pb Interactions at 158 GeV/c per Nucleon
チャネル結合AMDによる sd殻Ξハイパー核の研究
素粒子原子核理論のフロンティア 岡田安弘 総研大大学院説明会 2006年6月.
目次 1. 原子における弱い相互作用 2. 原子核のアナポールモーメント 3. アナポールモーメントから何がわかるか?
「核力についてどんなことができるか」展望
原子核の殻構造の相対論的記述 n n n σ ω n σ ω n 柴田研究室 石倉 徹也 1.Introduction n n
電子線を用いた 高分解能Λハイパー核分光用 散乱電子スペクトロメータの研究
SciFi を用いたΣ+p散乱実験での (ほろ苦い)思い出
卒業論文発表 中性子ハロー核14Beの分解反応 物理学科4年 中村研究室所属   小原雅子.
中性子過剰F同位体における αクラスター相関と N=20魔法数の破れ
HLab meeting 4/22/08 K. Shirotori.
2015年夏までの成果:標準理論を超える新粒子の探索(その2)
格子ゲージ理論によるダークマターの研究 ダークマター(DM)とは ダークマターの正体を探れ!
高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 岡田安弘 2006年8月10日 日本物理学会科学セミナー
原子核物理学 第7講 殻模型.
Geant4による細分化電磁 カロリメータのシミュレーション
Cylindrical Drift Chamber
課題研究 P4 原子核とハドロンの物理 (理論)延與 佳子 原子核理論研究室 5号館514号室(x3857)
原子核物理学 第6講 原子核の殻構造.
核内ω中間子質量分布測定のための 検出器開発の現状
電子ビームラインの構築と APDを用いた電子計測試験
実験面からみたd(K-,Ks)反応によるXN終状態相互作用の研究
J-PARC 3 GeV RCS における 仮想加速器 に基づく 制御モデルの構築
Recoil catcher法による質量数90領域の
(K-,K+)反応によるΞハイパー核の生成スペクトル
RHIC (Relativistic Heavy Ion Collider)
J-PARC-HI 提案書へのコメント 高エネルギー原子核実験グループの立場から
荷電粒子の物質中でのエネルギー損失と飛程
Presentation transcript:

ストレンジネスで探る原子核 -ハイパー核の世界- 理学研究科 物理学専攻 原子核物理グループ D1 白鳥 昂太郎

概要 イントロダクション 原子核物理とは ハイパー核の研究 ハイパー核の実験 実験手法 ハイパー核g線分光実験 今後の展開 まとめ

原子核物理学とは(1) 4つの基本的な相互作用 重力 : 天体 電磁相互作用 : 化学反応 強い相互作用 クォーク間の相互作用、ハドロン間の相互作用、原子核の性質を決める 弱い相互作用 ハドロン : 陽子や中性子、p中間子等の強い相互作用をする粒子の総称

原子核物理学とは(2) 原子核の研究対象は幅広い ハイパー核 核子-核子(陽子、中性子)間相互作用(核力) 原子核の構造 恒星内、超新星爆発での原子核の形成 中性子星(超高密度物質) ハイパー核 Lハイパー核 L粒子 ハイパー核 通常の原子核にストレンジクォークを 持つバリオン-ハイペロン-を含む原子核 (バリオン : クォーク3つから成るハドロン) (ハイペロン: L粒子, S粒子, X粒子, W粒子) アップ(u)、ダウン(d)クォークだけでなくストレンジクォーク(s)も含んだ多様な原子核の研究

ハイパー核研究の特徴 ハイパー核を調べることで原子核の基本である核力の本質的な理解を得ることが出来る ハイペロン : パウリ効果を受けず、原子核深部に到達できる (電子軌道のように原子核にも軌道があり、同じ軌道に入る同種粒子の数は限られる) ⇒近距離での核力や原子核深部での核子(陽子、中性子)状態の解明に手がかりを与える 核子-核子間相互作用を核子-ハイペロン間の 相互作用、ハイペロン-ハイペロン相互作用に 核力を拡張 ⇒多種のバリオン間相互作用の研究 Lハイパー核 L粒子 ハイパー核を調べることで原子核の基本である核力の本質的な理解を得ることが出来る

from textbook by Tamagaki 核力の研究 from textbook by Tamagaki 核力:中間子交換モデル 斥力芯 陽子 中性子 中間子 斥力 交換する中間子の種類で核力の性質が決まる ×斥力芯 : 核子が重なるような状況 ×原子核の深部 : 核子がどう振舞っているか ⇒クォーク的な描像が必要 核子間の距離 引力 p p 現時点でクォークの相互作用から核力を得ることは出来ない ⇒ストレンジクォークまで含めたハイパー核の研究が重要 w p r s 核子の大きさ

ハイパー核の研究 原子核→バリオン多体系 に拡張 ⇒高密度核物質(中性子星内部やクォーク物質) ⇒バリオンの質量、磁気モーメントの起源 核力→バリオン間相互作用に拡張         LN、 SN、 XN、 LL 相互作用 ⇒クォーク描像による核力の統一的な理解 原子核→バリオン多体系 に拡張 ⇒高密度核物質(中性子星内部やクォーク物質) “不純物核物理”    大きさ、形、構造の劇的変化 (核圧縮効果など)       ⇒新しい自由度の有限多体系 核内バリオンの性質変化 ⇒バリオンの質量、磁気モーメントの起源         L粒子 核子 近距離では クォーク の相互作用 縮む! 原子核 ハイパー核 原子核内部 ハイパー核の研究から原子核やハドロンについての統一的な理解を目指す mL L粒子 膨れる!?

原子核の世界 核図表 知られている原子核数 ~4000 陽子数 原子核 中性子数

ハイパー核の世界へ 3次元核図表 ストレンジネスを含む広大な原子核の世界を開拓 陽子数 通常の原子核 中性子数 LLハイパー核 Xハイパー核 L,S ハイパー核 ストレンジネスの数 陽子数 通常の原子核 中性子数 ストレンジネスを含む広大な原子核の世界を開拓 

ハイパー核の研究 -実験-

ハイパー核の研究手法 ストレンジクォーク : 地球上には存在しない ⇒自分達で作る必要がある 加速器を使用(KEK:高エネルギー加速器研究機構) *加速器で作られる二次粒子ビームを標的に当て、ハイパー核を作る ⇒散乱粒子や放出されるg線を測定することでハイパー核の構造等を調べる

Hotchi et al., Phys.Rev.C 64 (2001) 044302 ハイパー核構造の測定 Lハイパー核の構造 ⇒L粒子-核子間相互作用 Hotchi et al., Phys.Rev.C 64 (2001) 044302 L粒子-核子間相互作用を調べるにはさらに詳細な構造の情報が必要 ハイパー核が遷移するときに放出するg線を測定 p+ + n→L + K+ K+ p+ g線 中性子の軌道 L粒子の軌道 L粒子の束縛エネルギー 束縛エネルギー

ハイパー核g線分光実験 K+ p+ もっと詳細なハイパー核の構造を測定したい ゲルマニウム検出器群 Hyperball 非常に良いエネルギー分解能を持つゲルマニウム検出器で測定 ゲルマニウム検出器群 Hyperball K+ ゲルマニウム検出器 g線 p+ 標的

実験結果 ⇒L粒子-核子間相互作用の研究に大きく貢献 磁気スペクトロメータ ⇒ハイパー核の微細な構造は分からない ゲルマニウム検出器 分解能 2 MeV (FWHM) 磁気スペクトロメータ ⇒ハイパー核の微細な構造は分からない ゲルマニウム検出器 ⇒微細なエネルギー準位を初めて測定 ⇒L粒子-核子間相互作用の研究に大きく貢献 g線スペクトラム 分解能 0.002 MeV (FWHM) 103 倍の改善

今後の展開

J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex) 茨城県東海村 50 GeV シンクロトロン (15 mA) 物質・生命科学実験施設 3 GeV シンクロトロン (333 mA) 400 MeV 線形加速器 (350m) ニュートリノファシリティー 原子核・素粒子実験施設 60m x 56m ビーム強度 従来の加速器(KEK-PS)の100倍

ハイパー核g線分光実験@J-PARC 大強度ビームによる多量のハイパー核生成 ゲルマニウム検出器群 Hyperball Hyperball-J g線測定用のHyperballを”Hyperball-J”にアップグレード ⇒系統的なハイパー核の研究を推進

実験準備 -ゲルマニウム検出器- 機械式冷却によるゲルマニウム検出器の開発 ⇒企業との共同開発 ゲルマニウム検出器 機械式冷凍機 より低温にして性能を上げる 機械式冷凍機

実験準備 -ビーム測定用検出器- 実験で使用するビーム測定用の検出器の準備 ⇒海外の研究者との共同作業 170cm 270cm ビームライン 修理の様子

まとめ

まとめ ハイパー核の研究から原子核やハドロンについての統一的な理解を目指す L粒子-核子間相互作用の研究 原子核深部の探索 大型の加速器を用いたハイパー核の実験により、ハイパー核の構造を調べ、 L粒子-核子間相互作用の研究を行う ハイパー核g線分光実験はL粒子-核子間相互作用の研究に大きく貢献した J-PARCでのハイパー核g線分光実験に向け、検出器の準備を進めている 企業や海外の共同研究者との協力のもと実験準備を行っている

ありがとうございました