ストレンジネスで探る原子核 -ハイパー核の世界- 理学研究科 物理学専攻 原子核物理グループ D1 白鳥 昂太郎
概要 イントロダクション 原子核物理とは ハイパー核の研究 ハイパー核の実験 実験手法 ハイパー核g線分光実験 今後の展開 まとめ
原子核物理学とは(1) 4つの基本的な相互作用 重力 : 天体 電磁相互作用 : 化学反応 強い相互作用 クォーク間の相互作用、ハドロン間の相互作用、原子核の性質を決める 弱い相互作用 ハドロン : 陽子や中性子、p中間子等の強い相互作用をする粒子の総称
原子核物理学とは(2) 原子核の研究対象は幅広い ハイパー核 核子-核子(陽子、中性子)間相互作用(核力) 原子核の構造 恒星内、超新星爆発での原子核の形成 中性子星(超高密度物質) ハイパー核 Lハイパー核 L粒子 ハイパー核 通常の原子核にストレンジクォークを 持つバリオン-ハイペロン-を含む原子核 (バリオン : クォーク3つから成るハドロン) (ハイペロン: L粒子, S粒子, X粒子, W粒子) アップ(u)、ダウン(d)クォークだけでなくストレンジクォーク(s)も含んだ多様な原子核の研究
ハイパー核研究の特徴 ハイパー核を調べることで原子核の基本である核力の本質的な理解を得ることが出来る ハイペロン : パウリ効果を受けず、原子核深部に到達できる (電子軌道のように原子核にも軌道があり、同じ軌道に入る同種粒子の数は限られる) ⇒近距離での核力や原子核深部での核子(陽子、中性子)状態の解明に手がかりを与える 核子-核子間相互作用を核子-ハイペロン間の 相互作用、ハイペロン-ハイペロン相互作用に 核力を拡張 ⇒多種のバリオン間相互作用の研究 Lハイパー核 L粒子 ハイパー核を調べることで原子核の基本である核力の本質的な理解を得ることが出来る
from textbook by Tamagaki 核力の研究 from textbook by Tamagaki 核力:中間子交換モデル 斥力芯 陽子 中性子 中間子 斥力 交換する中間子の種類で核力の性質が決まる ×斥力芯 : 核子が重なるような状況 ×原子核の深部 : 核子がどう振舞っているか ⇒クォーク的な描像が必要 核子間の距離 引力 p p 現時点でクォークの相互作用から核力を得ることは出来ない ⇒ストレンジクォークまで含めたハイパー核の研究が重要 w p r s 核子の大きさ
ハイパー核の研究 原子核→バリオン多体系 に拡張 ⇒高密度核物質(中性子星内部やクォーク物質) ⇒バリオンの質量、磁気モーメントの起源 核力→バリオン間相互作用に拡張 LN、 SN、 XN、 LL 相互作用 ⇒クォーク描像による核力の統一的な理解 原子核→バリオン多体系 に拡張 ⇒高密度核物質(中性子星内部やクォーク物質) “不純物核物理” 大きさ、形、構造の劇的変化 (核圧縮効果など) ⇒新しい自由度の有限多体系 核内バリオンの性質変化 ⇒バリオンの質量、磁気モーメントの起源 L粒子 核子 近距離では クォーク の相互作用 縮む! 原子核 ハイパー核 原子核内部 ハイパー核の研究から原子核やハドロンについての統一的な理解を目指す mL L粒子 膨れる!?
原子核の世界 核図表 知られている原子核数 ~4000 陽子数 原子核 中性子数
ハイパー核の世界へ 3次元核図表 ストレンジネスを含む広大な原子核の世界を開拓 陽子数 通常の原子核 中性子数 LLハイパー核 Xハイパー核 L,S ハイパー核 ストレンジネスの数 陽子数 通常の原子核 中性子数 ストレンジネスを含む広大な原子核の世界を開拓
ハイパー核の研究 -実験-
ハイパー核の研究手法 ストレンジクォーク : 地球上には存在しない ⇒自分達で作る必要がある 加速器を使用(KEK:高エネルギー加速器研究機構) *加速器で作られる二次粒子ビームを標的に当て、ハイパー核を作る ⇒散乱粒子や放出されるg線を測定することでハイパー核の構造等を調べる
Hotchi et al., Phys.Rev.C 64 (2001) 044302 ハイパー核構造の測定 Lハイパー核の構造 ⇒L粒子-核子間相互作用 Hotchi et al., Phys.Rev.C 64 (2001) 044302 L粒子-核子間相互作用を調べるにはさらに詳細な構造の情報が必要 ハイパー核が遷移するときに放出するg線を測定 p+ + n→L + K+ K+ p+ g線 中性子の軌道 L粒子の軌道 L粒子の束縛エネルギー 束縛エネルギー
ハイパー核g線分光実験 K+ p+ もっと詳細なハイパー核の構造を測定したい ゲルマニウム検出器群 Hyperball 非常に良いエネルギー分解能を持つゲルマニウム検出器で測定 ゲルマニウム検出器群 Hyperball K+ ゲルマニウム検出器 g線 p+ 標的
実験結果 ⇒L粒子-核子間相互作用の研究に大きく貢献 磁気スペクトロメータ ⇒ハイパー核の微細な構造は分からない ゲルマニウム検出器 分解能 2 MeV (FWHM) 磁気スペクトロメータ ⇒ハイパー核の微細な構造は分からない ゲルマニウム検出器 ⇒微細なエネルギー準位を初めて測定 ⇒L粒子-核子間相互作用の研究に大きく貢献 g線スペクトラム 分解能 0.002 MeV (FWHM) 103 倍の改善
今後の展開
J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex) 茨城県東海村 50 GeV シンクロトロン (15 mA) 物質・生命科学実験施設 3 GeV シンクロトロン (333 mA) 400 MeV 線形加速器 (350m) ニュートリノファシリティー 原子核・素粒子実験施設 60m x 56m ビーム強度 従来の加速器(KEK-PS)の100倍
ハイパー核g線分光実験@J-PARC 大強度ビームによる多量のハイパー核生成 ゲルマニウム検出器群 Hyperball Hyperball-J g線測定用のHyperballを”Hyperball-J”にアップグレード ⇒系統的なハイパー核の研究を推進
実験準備 -ゲルマニウム検出器- 機械式冷却によるゲルマニウム検出器の開発 ⇒企業との共同開発 ゲルマニウム検出器 機械式冷凍機 より低温にして性能を上げる 機械式冷凍機
実験準備 -ビーム測定用検出器- 実験で使用するビーム測定用の検出器の準備 ⇒海外の研究者との共同作業 170cm 270cm ビームライン 修理の様子
まとめ
まとめ ハイパー核の研究から原子核やハドロンについての統一的な理解を目指す L粒子-核子間相互作用の研究 原子核深部の探索 大型の加速器を用いたハイパー核の実験により、ハイパー核の構造を調べ、 L粒子-核子間相互作用の研究を行う ハイパー核g線分光実験はL粒子-核子間相互作用の研究に大きく貢献した J-PARCでのハイパー核g線分光実験に向け、検出器の準備を進めている 企業や海外の共同研究者との協力のもと実験準備を行っている
ありがとうございました