金星昼面雲上における CO混合比半球分布の 地上分光観測 岩上研究室 M2 山路 崇
金星大気の構造 上層 中層 下層 大気の重要な化学サイクル CO2サイクル Sulfurサイクル 光化学活発 雲層 高温・高圧 金星大気モデルVIRA [Seiff et al. (1985)] 大気の重要な化学サイクル CO2サイクル Sulfurサイクル
CO2サイクル 混合比 CO2+hν→CO+O 2O→O2 CO+O→CO2 遅い 現在のシナリオ:触媒反応によるCO2の効率的生成 反応例 CO2:96.5% [von Zahn et al. (1983)] CO:高度~67kmで~45ppm [Connes et al. (1968)] O2:雲上で上限~0.3ppm [Trauger & Lunine (1983)] CO2+hν→CO+O 2O→O2 CO+O→CO2 遅い 現在のシナリオ:触媒反応によるCO2の効率的生成 反応例 Cl+CO+M→ClCO+M ClCO+O2+M→ClCO3+M ClCO3+O→CO2+Cl+O2 (正味)CO+O→CO2 [Yung & DeMore (1982)] 候補触媒 ClOx(Cl、ClCO、ClCO3等) HOx(H、OH、HO2) NOx(N、NO2、HNO3等)
Sulfurサイクル 硫酸雲の生成に関係 [Imamura & Hashimoto (1998)] CO2+hν→CO+O SO2+O→SO3 SO3+H2O→H2SO4 H2SO4→SO3+H2O SO3+CO→SO2+CO2
各サイクルの未解決問題 CO2サイクル…光化学モデルによる大気組成の再現が不完全(特にO2が合わない) Sulfurサイクル…各ステップの詳細が理解されていない 例)モデルによりH2SO4のコラム生成率が異なる Krasnopolsky & Pollack (1994、モデル1) : 2.2 (1012cm-2s-1) Sander et al. (2002): 0.4-0.5 (1012cm-2s-1) 着目: COは両サイクルの化学と密接に関係 解決へのアプローチ:各場所におけるCO分布の支配要因を調べる→COを含む化学の理解
これまでの CO観測 夜 昼 本観測の特徴 昼面雲上半球分布(初)→経度分布も得られる 複数時期→時期による変動を調べる CO混合比 (ppm) 高度 (km) 100 104 102 VIRTIS-M 4.7μm 65-70km [Irwin et al. (2008)] これまでの CO観測 夜 40 60 80 100 20 CO混合比 (ppm) 光化学支配 SPICAV SOIR [Vandaele et al. (2008)] 昼 IRTF CSHELL 2.3μm 64-71km [Krasnopolsky (2008)] 極で増加 上層からのCO供給を示唆 CO混合比 (ppm) ほぼ一様 →水平拡散支配 雲層 本観測の特徴 昼面雲上半球分布(初)→経度分布も得られる 複数時期→時期による変動を調べる CO混合比 (ppm) 20 40 30 緯度(°) 50 -50 上層からのCO供給を示唆 VIRTIS-M 2.3μm ~36km [Tsang et al. (2009)]
観測 観測箇所…金星昼面 手法…分光撮像 →2空間方向+波長方向の情報 スリット(30″×0.5″) 機器: IRTF3m望遠鏡 スキャン 赤道 スリット(30″×0.5″) スペクトル画像 機器: IRTF3m望遠鏡 CSHELL分光器(λ/δλ~40,000) 期間: 07年5月26日-6月1日 07年11月10-13日 09年6月12-15日 波長域: 2.3μm→~10cm-1範囲をカバー 観測箇所…金星昼面 手法…分光撮像 →2空間方向+波長方向の情報
解析の流れ 観測スペクトルの波長較正 CO2、CO等価幅半球分布の作成 CO2等価幅より雲高偏差の決定
1. 観測スペクトルの波長較正 カウント数 波数 (cm-1) 地球吸収計算に用いたデータ R14 R16 R18 波数 (cm-1) カウント数 CO2 R12 CO R19 R20 R21 地球吸収計算に用いたデータ 分子パラメタ HITRAN2004 [Rothman et al. (2005)] 地球大気モデル MSIS-E90 使用吸収線 CO2 R12、CO R19 選定理由 回転量子数小さい→大気の温度変化で線強度が変化しにくい 近くに地球吸収少ない
2. 等価幅半球分布 各日でCO2とCOの等価幅半球分布のペアを作る 07年11月10日 CO2 R12 CO R19 cm-1 位置合わせ
計算スペクトルの作成 平行平面大気の放射輸送コードを用い、多重散乱計算を行う 計算入力値 雲高が全球一様な場合、赤道で等価幅が大きくなる 計算結果例 平行平面大気の放射輸送コードを用い、多重散乱計算を行う (RSTAR [Nakajima & Tanaka (1986,1988)]) 計算入力値 計算波数分の2km厚50層の光学厚み(line-by-line法, HITRAN2004, VIRA) 雲のパラメータ(粒径高度分布、雲の高さなど) 計算地点における太陽・地球天頂角、地球方位角 太陽方向 地球方向 地球方位角 計算地点 CO2 R12等価幅 (cm-1) 雲高が全球一様な場合、赤道で等価幅が大きくなる
3. 雲高偏差の決定 観測と計算のCO2 R12等価幅が一致するよう雲高偏差を調整 仮定:雲の鉛直方向の総光学厚みは全球一様 Pollack et al., 1993 改訂雲モデル 地表 雲層 上げる →等価幅小 下げる →等価幅大 仮定:雲の鉛直方向の総光学厚みは全球一様 理由 雲の鉛直構造の空間変化の観測データが不足 反射高度(~64km)は雲の密度小さく、変化も小
雲高偏差の先行研究との比較 傾向同じ→OK N ~50°あたりまで一定 ~40°あたりまで一定 N 高緯度で下がる 高緯度で下がる 雲頂高 (km) 緯度 (°) km VIRTIS-M 1.6μm [Ignatieiv et al. (2009)] 傾向同じ→OK
4. CO混合比の決定 決めた雲高偏差の条件で、放射輸送計算によりCO吸収スペクトルを求める [Pollack et al. (1993)] CO等価幅小 CO等価幅大
結果:CO混合比半球分布 A C B 半球平均 (ppm) (|φ|≦60°) A:37±13 B:64±18 C:53±11 着目点 07年6月1日 09年6月12、15日 半球平均 (ppm) (|φ|≦60°) A:37±13 B:64±18 C:53±11 A C 07年11月10、11、12、13日 B 着目点 時期ごとの絶対値の差 経度分布 緯度分布
絶対値1:CO混合比の測定精度 ●単独点 ●半球平均 →各時期CO混合比の半球平均値は測定精度としては有意な差 等価幅測定のランダム誤差をSr=Sa/A (%)とおくと SrCO2=~6%、SrCO=~5% CO2とCO二本使うため、混合比のランダム誤差は =~7% ●半球平均 半球全体を足し合わせたスペクトルを使うと SrCO2=~2.2%、SrCO=~1.5% Srtotal=~2.7%…半球平均値の誤差 →各時期CO混合比の半球平均値は測定精度としては有意な差
絶対値2:違う高度を見てる? →ほとんど同じ 代表高度…64-(64+1H)=64-69km 各波数における2km厚50層の光学厚みの値を用いCO2 R12線の透過率を計算。等価幅が観測と計算で一致するよう反射高度を決める 地表 上げる →等価幅小 下げる →等価幅大 反射面 45° 日付(UT) CO2 R12 等価幅 半球平均(cm-1) 反射高度 (km) 2007/6/1 0.0237 ±0.0030 63.9 11/10 0.0214 ± 0.0024 65.0 11/11 0.0206 ± 0.0014 64.7 11/12 0.0225 ± 0.0025 64.8 11/13 0.0228 ± 0.0027 64.5 2009/6/12 0.0235 ± 0.0015 6/15 0.0258 ± 0.0020 45°…太陽・地球天頂角の代表値 各日の反射高度は最大でも~1km差 →ほとんど同じ 代表高度…64-(64+1H)=64-69km
絶対値3:大気の温度変化の影響 VIRA 実際の温度がモデルと異なる→測定CO混合比は真の値からずれる (cm) S0@T0、h:プランク定数、c:光速、k:ボルツマン定数、E”:下の準位のエネルギー (cm) VIRA 例)モデルより実際の温度が低い 観測SR19が小さくなる →CO積分量が同じでも等価幅が小さく出る →CO混合比が実際より小さく判定 実際の温度がモデルと異なる→測定CO混合比は真の値からずれる
Pioneer Venus OROで得た温度のばらつき 絶対値4:半球平均した温度のばらつき 半球平均 (ppm) (|φ|≦60°) 07年6月1日:37 07年11月:64 09年6月:53 誤差~2.7% Pioneer Venus OROで得た温度のばらつき (期間:1978/12-1981/10) ΔTRMS (K) 高度 (km) 真の混合比(ppm) =測定混合比(ppm)×補正倍率 低中緯度では高度64-69kmで ΔTRMS=~3K →温度変化少ない 絶対値の差は有意 [Seiff et al. (1985)]
絶対値5:他の観測結果との比較 過去の観測でも時期により有意なCO混合比の絶対値差あり 観測範囲 CO混合比 半球(緯度)平均 (ppm) 日付 [Connes et al. (1968)] 昼面64-69km 45±10 1966/6 VIRTIS-M [Irwin et al. (2008)] 夜面65-70km 40±? 2006/5/19、6/26 IRTF CSHELL[本研究] 37±1 2007/6/1 〃[Krasnopolsky (2008)] 〃 70±? 2007/10/17 〃[本研究] 64±2 2007/11/10-13 〃[〃] 53±1 2009/6/12、15 +一ヶ月 過去の観測でも時期により有意なCO混合比の絶対値差あり 一ヶ月程のタイムスケールではCO混合比は大きく変化しない 初めて、同一手法でCO混合比の時期ごとの有意な絶対値差を検出
経度分布1 CO混合比 (ppm) 経度(°) 経度方向にはほぼ一様→予想通り 07年6月1日 09年6月12、15日 07年11月10、11、12、13日 経度(°) SZA、EZA≦80°、|φ|≦60°の点を使用。経度10°ごとに平均化。地球直下点でλ=0°。誤差棒は標準偏差 経度方向にはほぼ一様→予想通り
経度分布2:代表高度でのCOのバランス 各dfCO/dtはどれも絶対値小さく、拮抗 i:分子種、n:数密度(cm-3)、P:生成率(cm-3s-1)、L:損失率(cm-3s-1) 、φ:フラックス(cm-2s-1) 、z:高度(km) 100 80 60 109 1013 1011 CO フラックス (cm-2s-1) 高度 (km) CO+OH →CO2+H (CO損失) CO2+hν →CO+O (CO生成) 104 106 反応速度 (cm-3s-1) Yung & DeMore (1982) 1次元光化学モデル計算結果(cos(SZA)=2/3、モデルA) 代表高度 要素 dnCO/dt (106cm-3s-1) dfCO/dt (ppm/day) 生成 +1.2 +0.05 損失 -3.2 -0.13 流入 +5.0 +0.20 流出 -3.0 -0.12 各dfCO/dtはどれも絶対値小さく、拮抗 →夜明けから正午(移動時間~1日)で変化が見えないのは妥当
緯度分布1 CO混合比 (ppm) 緯度(°) |φ|≦60°…ほぼ一様 |φ|>60°…高緯度で増加する日あり 07年6月1日 SZA、EZA≦80°の点のみ使用。緯度10°ごとに平均化。誤差棒は標準偏差 07年6月1日 09年6月12、15日 CO混合比 (ppm) 07年11月10、11、12、13日 緯度(°) |φ|≦60°…ほぼ一様 |φ|>60°…高緯度で増加する日あり
緯度分布2:高緯度でCO混合比増加? VIRAの高度64kmでの気温、気圧の値を用い、成長曲線を作成 等価吸収幅→見かけのコラム密度 2007/11/12 成長曲線による結果 放射輸送計算による結果 高緯度での大きな増加なし 輸送計算の高緯度の結果怪しい…
結論 時期ごとのCO混合比半球平均値の差(07年6月1日:37ppm、11月: 64ppm、09年6月:53ppm)…有意 経度方向…ほぼ一様(予想通り) 緯度方向…|φ|≦60°でほぼ一様→水平拡散支配 修論までにやること 放射輸送計算の見直し(雲モデル再改訂?) 07年5月の残りのデータの解析(あと4日分)
緯度分布3:緯度方向の温度変化 中緯度で低緯度に比べ~50K低い ~64km 温度分布 Pioneer Venus ORO [Seiff et al. (1985)]
緯度分布3:緯度方向の温度変化 中緯度で低緯度に比べ~50K低い 90 80 70 64km 60 大気温度子午面分布 Venera15 赤外分光 [Zasova et al. (2006)]
緯度分布3:緯度方向の温度変化 中緯度で低緯度に比べ~20K低い 大気温度子午面分布(Venera15号、赤外分光) [Zasova et al. (2006)] 観測範囲 中緯度で低緯度に比べ~20K低い
Winick & Stewart (1980、観測): 0.2-1 (1012cm-2s-1)
27May 29May 30May 31May 01Jun R12 R19
07年11月10日 11月11日 11月12日 11月13日 CO2 R12 (cm-1) CO R19 (cm-1)
09年6月12日 6月15日 CO2 R12 (cm-1) CO R19 (cm-1)
07年11月10日 11月11日 等価吸収幅(cm-1) 11月12日 11月13日 緯度(°)
等価吸収幅(cm-1) 09年6月12日 6月15日 緯度(°)
観測範囲 CO混合比 半球(緯度)平均 (ppm) 日付 [Connes et al. (1968)] 昼面64-69km 45±10 1966/6 VIRTIS-M [Irwin et al. (2008)] 夜面65-70km 40±10 2006/5/19、6/26 IRTF CSHELL[本研究] 37±13 2007/6/1 〃[Krasnopolsky (2008)] 〃 70±10 2007/10/17 〃[本研究] 64±18 2007/11/10-13 〃[〃] 53±11 2009/6/12、15