光プローブと化学反応シミュレーション -光プローブの性質をシミュレーションで理解する- 黒田研究室 担当:小森靖則 光プローブと化学反応シミュレーション -光プローブの性質をシミュレーションで理解する- 黒田研究室 担当:小森靖則
分子間相互作用 題材と学ぶテーマ kf [A] + [B] [A・B] kb 発光たんぱく質(GFP) 有機化合物系色素 (カルシウム指示薬) 分子間相互作用 [A] + [B] [A・B] kf kb dt d[AB] = kf×[A]×[B] – kb×[AB]
実習の概要 光プローブの紹介(有機化合物系色素、GFPを利用したバイオプローブ) Ca指示薬について(メカニズムと種類) カルシウム指示薬使用上の注意点#1(反応速度) カルシウム指示薬使用上の注意点#2(乖離定数) カルシウム指示薬使用上の注意点#3(プローブのキレート作用) プローブによる細胞内カルシウム応答の阻害 ※プローブ:何かの同定や定量のために使う物質 ※キレート:金属イオンに配位結合して錯体を形成する事
第1章 光プローブについて
2008 ノーベル化学賞 緑色蛍光蛋白質の発見と開発 生体機能を調べる方法 2008 ノーベル化学賞 緑色蛍光蛋白質の発見と開発 プローブを使った生命機能のイメージング(可視化)技術が盛んになってきた 機能性プローブ、バイオプローブの開発による部分が大きい ⇒最新のイメージング技術とその問題点をシュミレーションを使って理解する
2008 ノーベル化学賞 緑色蛍光蛋白質の発見と開発 細胞 組織 個体 生体を生きたまま非侵襲に染色、可視化できる 望みの部位だけ可視化できる 蛋白質の発現等を定量できる
しかし、直接見たい信号を計測しているわけではない 機能性プローブ:Ca2+指示薬を例に EGTA(Ca2+キレート剤) ⇔ Ca2+指示薬(Fura2)の スペクトル変化 ⇒ Roger Tsien (Dr. Genius) Ca2+指示薬(BAPTA) Wave length(nm) 生体分子の挙動を蛍光スペクトルや 蛍光強度の変化として検出できる しかし、直接見たい信号を計測しているわけではない
Ca2+指示薬 様々な特性のCa2+指示薬が開発されている Ca2+指示薬の応答は分子間相互作用としてモデル化できる BAPTA Indo1 Fura 2 Ca指示薬 Kd(nM) kf (1/M/sec) kb (1/sec) Indo1 191 9.4*10^8 180 Fura2 230 15*10^7 23 Rhod2 1870 0.069*10^9 130 様々な特性のCa2+指示薬が開発されている BAPTA, Fura 2, Indo1すべてR.Tsienによる開発 Ca2+指示薬の応答は分子間相互作用としてモデル化できる
分子間相互作用のおさらい kf → ← kb 順反応速度 逆反応速度 ⇒反応速度定数kf、kbが大きいほどそれぞれ順反応、逆反応速度が大きい 平衡状態では両方向の反応速度が等しい (vf=vb) ⇒基質親和性が高いほど、Kdは小さい (平衡定数の定義)
カルシウムと結合しているプローブの割合P(=プローブの応答) 分子間相互作用のおさらい kf → ← kb カルシウムと結合しているプローブの割合P(=プローブの応答) 辺辺逆数をとると 1/Pは1/[Ca2+]に対する1次関数
各種のCa2+指示薬 名称 励起波長(nm) 蛍光波長(nm) Ca錯体乖離定数(Kd, nM) 摘要 Quin2 339 492 115 Fura2 340/380 510 224 2波長励起・1波長蛍光 Fluo3 508 527 0.4 Indo1 330 Ca free 485, Ca bind410 250 1波長励起・2波長蛍光 Rhod2 553 576 1000 Fluo4 493 518 345 Cameleon 各波長 各濃度 バイオプローブ、多数の変異体がある。 GCaMP バイオプローブ、多数の変異体がある
Ca2+イメージング (膵臓ランゲルハンス島) グルコース刺激した膵臓ランゲルハンス島のカルシウム応答 生体内のカルシウム応答(<100nM,数十 マイクロ秒)
観測されるカルシウム応答は生体内の応答を正しく反映しているか? 本実習で検証するポイント プローブはカルシウム応答に追従できる? 定量できるカルシウム濃度の限界と定量性は? プローブは生体(生化学反応)に影響を与えない?
第2章 光プローブのODEモデル化 応答速度が速いプローブのシミュレーション 応答速度が遅いプローブのシュミレーション
モデルの作成 #1:分子間相互作用の改良 A (Ca2+) A (Ca2+) A (Ca2+) kf AB(complex) B kb 濃度:ステップ刺激(0⇒10nM) AB(complex) B (Probe) kb 初期濃度:0 *Kd =kb / kf 初期濃度:1μM ○微分方程式を作成し、その時間変動をプロットする dt d[AB] = kf ×[A]×[B] – kb×[AB] d[A] = – kf×[A]×[B] + kb ×[AB] d[B] = 0 各分子濃度の時間変化を微分方程式で表現する 各分子濃度:[A], [B], [AB] パラメータ: kb, kf ←注意!バッファーの仮定 (=カルシウム濃度は一定に保たれている)
発展課題:グラフ(19.95-20.05sec)を拡大して、プローブの応答を詳細に観察しなさい Ca 2+プローブのカルシウム結合 課題1: ステップCa2+刺激(t=20において0nM⇒100nM) を与えた時のCa2+指示薬(Indo1)の応答をシミュレートしなさい (Ca_probe1.m) 拡大 実行例 数値表 Ca指示薬 Kd(nM) kf(1/M/sec) kb(1/sec) Indo1 191 9.4*10^8 180 ^ : べき乗の演算子 * : 掛け算の演算子 発展課題:グラフ(19.95-20.05sec)を拡大して、プローブの応答を詳細に観察しなさい
Ca 2+プローブのカルシウム結合 課題1: ステップCa2+刺激(t=20において0nM⇒100nM) を与えた時のCa2+指示薬(Indo1)の応答をシミュレートしなさい(Ca_probe1.m) 発展 課題
-有機化合物系プローブ(反応速度定数が大きいプローブ)‐ Ca 2+プローブと反応速度定数 -有機化合物系プローブ(反応速度定数が大きいプローブ)‐ 課題2-1: Ca_probe1を書き換え、100nMパルスCa2+刺激を与えた時の Ca2+指示薬(Indo1)の応答をシミュレートしなさい(Ca_probe2.m) 実行例 Ca指示薬 Kd(nM) kf(1/M/sec) kb(1/sec) Indo1 191 9.4*10^8 180
-有機化合物系プローブ(反応速度定数が大きいプローブ)‐ Ca 2+プローブと反応速度定数 -有機化合物系プローブ(反応速度定数が大きいプローブ)‐ 課題2-1: Ca_probe1を書き換え、100nMパルスCa2+刺激を与えた時の Ca2+指示薬(Indo1)の応答をシミュレートしなさい(Ca_probe2.m)
Ca 2+プローブと反応速度定数 -バイオプローブ‐ Cameleonの構造 宮脇敦史(R.Tsien lab.出身) ほぼ同じ Indo1の1/700 Indo1の1/550 Ca指示薬 Kd(nM) kf(1/M/sec) kb(1/sec) Cameleon3.60 215 1.33*10^6 0.33 Cameleon-Nano15 15 2.36*10^7 Indo1 191 9.4*10^8 180 永井健治(宮脇研出身) Ref. ※Cameleon Nano15の反応速度定数は論文から推定した 課題2-2:Cameleon3.6に100nMのパルスカルシウム刺激を与えた時の応答波形をシミュレーションしなさい。 Ca_probe2.mを再利用してもよい
Ca 2+プローブと反応速度定数 バイオプローブ(速度定数が小さいプローブ) 課題2-2:Ca_probe2.mを再利用してCameleon3.6に100nMのパルスカルシウム刺激を与えた時の応答波形をシミュレーションしなさい。 ほぼ同じ Indo1の1/700 Indo1の1/550 Ca指示薬 Kd(nM) kf(1/M/sec) kb(1/sec) Cameleon3.60 215 1.33*10^6 0.33 Cameleon-Nano15 15 2.36*10^7 Indo1 191 9.4*10^8 180 Ref. ※Cameleon Nano15の反応速度定数は論文から推定した
Ca 2+プローブと反応速度定数 バイオプローブ(速度定数が小さいプローブ) 課題2-2:Ca_probe2.mを再利用してCameleon3.6に100nMのパルスカルシウム刺激を与えた時の応答波形をシミュレーションしなさい。 実行例 プローブの応答はカルシウム濃度の変化を正しく反映している? ⇒必ずしもカルシウム波形が正確に反映されるわけではない ⇒プローブを使う際は応答速度に注意する。
Ca 2+プローブと反応速度定数 -バイオプローブ‐ 課題3 Cameleon 3.6にパルス幅50msec ,100nMのカルシウムインパルス刺激を10回 行った時の応答をシミュレートしなさい。刺激間隔は0.5,1,2秒とする(Ca_probe3.m) インパルス刺激(※50msec幅の矩形波を仮定) ※マウス神経細胞を一定の時間間隔で刺激し、カルシウム応答を実測した波形 2,1,0.5sec 50msec 実行例 2秒間隔 1秒間隔 0.5秒間隔 2秒間隔 1秒間隔 0.5秒間隔 プローブの応答はカルシウム濃度の変化を正しく反映している? ⇒必ずしもカルシウム波形が正確に反映されているわけではない プローブを使う際は応答速度に注意する。
Ca 2+プローブと反応速度定数 -バイオプローブ‐ 課題3 Cameleon 3.6にパルス幅50msec ,100nMのカルシウムインパルス刺激を10回 行った時の応答をシミュレートしなさい。刺激間隔は0.5,1,2秒とする(Ca_probe3.m) この部分(刺激単位)を繰り返す ※ループ文を使う