光プローブと化学反応シミュレーション -光プローブの性質をシミュレーションで理解する- 黒田研究室 担当:小森靖則

Slides:



Advertisements
Similar presentations
22 ・ 3 積分形速度式 ◎ 速度式: 微分方程式 ⇒ 濃度を時間の関数として得るためには積分が必要 # 複雑な速度式 数値積分 (コンピューターシミュ レーション) # 単純な場合 解析的な解(積分形速度式) (a)1 次反応 1次の速度式 の積分形 [A] 0 は A の初濃度 (t = 0 の濃度.
Advertisements

実習の前に … 黒田研の実習では、ファイルをダウンロードしても らうことが多くあります。 まずは、下記のホームページを開いてください。 tokyo.ac.jp/class/Summer/2013 → 直打ち または ① Google で「東京大学黒田研究室」検索.
基礎ゼミ:電子と光と物質 多元物質科学研究所 上田潔・奥西みさき・高桑雄二・虻川匡司・佐藤俊一 大学とは何か? 大学で学ぶとはどういうことか? 大学:人類の遺産としての知識の伝 達 未知のものへの挑戦! 基礎ゼミの特徴:学生が積極的に授業に参加する。 自分で考え、自分で工夫して調べ、教室で発表する。
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
生体分子解析学 2017/3/2 2017/3/2 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
医薬品素材学 I 3 熱力学 3-1 エネルギー 3-2 熱化学 3-3 エントロピー 3-4 ギブズエネルギー 平成28年5月13日.
プロセス制御工学 3.伝達関数と過渡応答 京都大学  加納 学.
光化学 5章 5.2 Ver. 1.0 FUT 原 道寛.
大阪工業大学 情報科学部 情報システム学科 宇宙物理研究室 B 木村悠哉
Control of Power Generation in Actin-Myosin Gels
薬学物理化学Ⅲ 平成28年 4月15日~.
ブロック線図によるシミュレーション ブロック線図の作成と編集 ブロック線図の保存と読込み ブロック線図の印刷 グラフの印刷
担当 : 山口 匡 伊藤 祐吾 (TA) 宮内 裕輔 (TA)
アンモニア(アミン類) 配位結合:結合を形成する2つの原子の一方からのみ結合電子が分子軌道に提供される化学結合。
緩衝作用.
電子物性第1 第6回 ー原子の結合と結晶ー 電子物性第1スライド6-1 目次 2 はじめに 3 原子の結合と分子 4 イオン結合
Real Time PCR Ver.1.00.
3)たんぱく質中に存在するアミノ酸のほとんどが(L-α-アミノ酸)である。
TTF骨格を配位子に用いた 分子性磁性体の開発 分子科学研究所 西條 純一.
(b) 定常状態の近似 ◎ 反応機構が2ステップを越える ⇒ 数学的な複雑さが相当程度 ◎ 多数のステップを含む反応機構
生物機能工学基礎実験 2.ナイロン66の合成・糖の性質 から 木村 悟隆
有機EL材料を用いた 新しいシンチレーターの開発
微粒子合成化学・講義 村松淳司
菊地夏紀 荒木幸治、江野高広、桑本剛、平野琢也
基礎無機化学 期末試験の説明と重要点リスト
物理化学III F 原道寛.
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
システムモデルと伝達関数 1. インパルス応答と伝達関数 キーワード : 伝達関数、インパルス応答、 ステップ応答、ランプ応答
緩衝液-buffer solution-.
京大岡山 3.8m 望遠鏡 分割鏡制御に用いる アクチュエータの特性評価
Real Time PCR Ver.2.00 R Q TaqManプローブ法.
一分子で出来た回転モーター、F1-ATPaseの動作機構 ーたんぱく質の物理ー
Dissociative Recombination of HeH+ at Large Center-of-Mass Energies
奈良女子大集中講義 バイオインフォマティクス (9) 相互作用推定
et1 et1 et2 et2 信号 T2減衰曲線 Mxy(t) = M0 e-t/T2 T2*減衰曲線
シミュレーション演習 狙い 初日 イントロ 2日目 プローブと信号 3日目 実験結果からの数理モデル作成
プローブの基質親和性と応答感度および定量性の問題
テーマⅧ:低気圧放電の基礎と電子密度・電子温度計測
生体分子解析学 2019/1/ /1/16 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
ディジタル信号処理 Digital Signal Processing
プラズモン共鳴を用いたC-dot-Ag ナノ粒子-シリカコンポジット 薄膜蛍光増強
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
Cr-アセチリド-テトラチアフルバレン型錯体による
Chemistry and Biotechnology
実習課題B 金属欠乏星の視線速度・組成の推定
音・音楽の設計と表現Ⅱ キーワード : サンプリング(標本化)、周波数、量子化 音は空気を伝わる波 → 音をデジタル(0と1の数値)にする。
質量分析の概要 対応ページ:p1~13 担当:伊藤.
2008年ノーベル化学賞について.
(昨年度のオープンコースウェア) 10/17 組み合わせと確率 10/24 確率変数と確率分布 10/31 代表的な確率分布
生体親和性発光ナノ粒子の医薬送達担体への応用
桐蔭横浜大学工学部ロボット工学科 箱木研究室 T20R022 山下 晃
シミュレーション演習 狙い 初日 イントロ 2日目 プローブと信号 3日目 実験結果からの数理モデル作成
A4-2 高強度レーザー テーマ:高強度レーザーと物質との相互作用 井上峻介 橋田昌樹 阪部周二 レーザー物質科学分科
Chapter 26 Steady-State Molecular Diffusion
シミュレーションパラメータの設定 一次系の時間応答 二次系の時間応答
正弦波.
ギャップ結合の機能評価 H27.8.1 体験学習.
機器分析学 赤外吸収スペクトル ラマンスペクトル.
薬品分析学3.
22・3 積分形速度式 ◎ 速度式: 微分方程式 ⇒ 濃度を時間の関数として得るためには積分が必要
22・3 積分形速度式 ◎ 速度式: 微分方程式 ⇒ 濃度を時間の関数として得るためには積分が必要
流動を伴う物質移動(p.483) y x 壁を伝わって流れ落ちる 薄い液膜にA成分が拡散 δ NA,y 速度分布:p.96.
My thesis work     5/12 植木             卒論題目 楕円偏光照射による不斉合成の ためのHiSOR-BL4の光源性能評価.
物理学実験 II ブラウン運動 ー 第2日目 ー 電気力学結合系の特性評価 物理学実験II (ブラウン運動) 説明資料.
化学1 第11回講義 ・吸光度、ランベルト-ベールの法則 ・振動スペクトル ・核磁気共鳴スペクトル.
フィルター利用 対象物は何か? 細胞をフィルターにかけるという従来技術は? どういった点で勝てそうか?夢ある応用は?
生体分子解析学 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
Imaging Digitization 細胞イメージ解析セミナー 概要 開催日時・場所・講師 プログラム
信号データの変数代入と変数参照 フィードバック制御系の定常特性 フィードバック制御系の感度特性
北大MMCセミナー 第100回 附属社会創造数学センター主催 Date: 2019年7月11日(木) 16:30~18:00
Presentation transcript:

光プローブと化学反応シミュレーション -光プローブの性質をシミュレーションで理解する- 黒田研究室 担当:小森靖則 光プローブと化学反応シミュレーション -光プローブの性質をシミュレーションで理解する- 黒田研究室 担当:小森靖則

分子間相互作用 題材と学ぶテーマ kf [A] + [B] [A・B] kb 発光たんぱく質(GFP) 有機化合物系色素 (カルシウム指示薬) 分子間相互作用 [A] + [B] [A・B] kf kb dt d[AB] = kf×[A]×[B] – kb×[AB]

実習の概要 光プローブの紹介(有機化合物系色素、GFPを利用したバイオプローブ) Ca指示薬について(メカニズムと種類) カルシウム指示薬使用上の注意点#1(反応速度) カルシウム指示薬使用上の注意点#2(乖離定数) カルシウム指示薬使用上の注意点#3(プローブのキレート作用) プローブによる細胞内カルシウム応答の阻害 ※プローブ:何かの同定や定量のために使う物質 ※キレート:金属イオンに配位結合して錯体を形成する事

第1章 光プローブについて

2008 ノーベル化学賞 緑色蛍光蛋白質の発見と開発 生体機能を調べる方法 2008 ノーベル化学賞 緑色蛍光蛋白質の発見と開発 プローブを使った生命機能のイメージング(可視化)技術が盛んになってきた 機能性プローブ、バイオプローブの開発による部分が大きい ⇒最新のイメージング技術とその問題点をシュミレーションを使って理解する

2008 ノーベル化学賞 緑色蛍光蛋白質の発見と開発 細胞 組織 個体 生体を生きたまま非侵襲に染色、可視化できる 望みの部位だけ可視化できる 蛋白質の発現等を定量できる

しかし、直接見たい信号を計測しているわけではない 機能性プローブ:Ca2+指示薬を例に EGTA(Ca2+キレート剤) ⇔ Ca2+指示薬(Fura2)の スペクトル変化 ⇒ Roger Tsien (Dr. Genius) Ca2+指示薬(BAPTA) Wave length(nm) 生体分子の挙動を蛍光スペクトルや 蛍光強度の変化として検出できる しかし、直接見たい信号を計測しているわけではない

Ca2+指示薬 様々な特性のCa2+指示薬が開発されている Ca2+指示薬の応答は分子間相互作用としてモデル化できる BAPTA Indo1 Fura 2 Ca指示薬 Kd(nM) kf (1/M/sec) kb (1/sec) Indo1 191 9.4*10^8 180 Fura2 230 15*10^7 23 Rhod2 1870 0.069*10^9 130 様々な特性のCa2+指示薬が開発されている BAPTA, Fura 2, Indo1すべてR.Tsienによる開発 Ca2+指示薬の応答は分子間相互作用としてモデル化できる

分子間相互作用のおさらい kf → ← kb 順反応速度 逆反応速度 ⇒反応速度定数kf、kbが大きいほどそれぞれ順反応、逆反応速度が大きい 平衡状態では両方向の反応速度が等しい (vf=vb) ⇒基質親和性が高いほど、Kdは小さい (平衡定数の定義)

カルシウムと結合しているプローブの割合P(=プローブの応答) 分子間相互作用のおさらい kf → ← kb カルシウムと結合しているプローブの割合P(=プローブの応答) 辺辺逆数をとると 1/Pは1/[Ca2+]に対する1次関数

各種のCa2+指示薬 名称 励起波長(nm) 蛍光波長(nm) Ca錯体乖離定数(Kd, nM) 摘要 Quin2 339 492 115 Fura2 340/380 510 224 2波長励起・1波長蛍光 Fluo3 508 527 0.4 Indo1 330 Ca free 485, Ca bind410 250 1波長励起・2波長蛍光 Rhod2 553 576 1000 Fluo4 493 518 345 Cameleon 各波長 各濃度 バイオプローブ、多数の変異体がある。 GCaMP バイオプローブ、多数の変異体がある

Ca2+イメージング (膵臓ランゲルハンス島) グルコース刺激した膵臓ランゲルハンス島のカルシウム応答 生体内のカルシウム応答(<100nM,数十 マイクロ秒)

観測されるカルシウム応答は生体内の応答を正しく反映しているか? 本実習で検証するポイント プローブはカルシウム応答に追従できる? 定量できるカルシウム濃度の限界と定量性は? プローブは生体(生化学反応)に影響を与えない?

第2章 光プローブのODEモデル化 応答速度が速いプローブのシミュレーション 応答速度が遅いプローブのシュミレーション

モデルの作成 #1:分子間相互作用の改良 A (Ca2+) A (Ca2+) A (Ca2+) kf AB(complex) B kb 濃度:ステップ刺激(0⇒10nM) AB(complex) B (Probe) kb 初期濃度:0 *Kd =kb / kf 初期濃度:1μM ○微分方程式を作成し、その時間変動をプロットする dt d[AB] = kf ×[A]×[B] – kb×[AB] d[A] = – kf×[A]×[B] + kb ×[AB] d[B] = 0 各分子濃度の時間変化を微分方程式で表現する 各分子濃度:[A], [B], [AB]  パラメータ: kb, kf ←注意!バッファーの仮定 (=カルシウム濃度は一定に保たれている)

発展課題:グラフ(19.95-20.05sec)を拡大して、プローブの応答を詳細に観察しなさい Ca 2+プローブのカルシウム結合 課題1: ステップCa2+刺激(t=20において0nM⇒100nM) を与えた時のCa2+指示薬(Indo1)の応答をシミュレートしなさい (Ca_probe1.m) 拡大 実行例 数値表 Ca指示薬 Kd(nM) kf(1/M/sec) kb(1/sec) Indo1 191 9.4*10^8 180 ^ : べき乗の演算子 * : 掛け算の演算子 発展課題:グラフ(19.95-20.05sec)を拡大して、プローブの応答を詳細に観察しなさい

Ca 2+プローブのカルシウム結合 課題1: ステップCa2+刺激(t=20において0nM⇒100nM) を与えた時のCa2+指示薬(Indo1)の応答をシミュレートしなさい(Ca_probe1.m) 発展 課題

-有機化合物系プローブ(反応速度定数が大きいプローブ)‐ Ca 2+プローブと反応速度定数 -有機化合物系プローブ(反応速度定数が大きいプローブ)‐ 課題2-1: Ca_probe1を書き換え、100nMパルスCa2+刺激を与えた時の Ca2+指示薬(Indo1)の応答をシミュレートしなさい(Ca_probe2.m) 実行例 Ca指示薬 Kd(nM) kf(1/M/sec) kb(1/sec) Indo1 191 9.4*10^8 180

-有機化合物系プローブ(反応速度定数が大きいプローブ)‐ Ca 2+プローブと反応速度定数 -有機化合物系プローブ(反応速度定数が大きいプローブ)‐ 課題2-1: Ca_probe1を書き換え、100nMパルスCa2+刺激を与えた時の Ca2+指示薬(Indo1)の応答をシミュレートしなさい(Ca_probe2.m)

Ca 2+プローブと反応速度定数 -バイオプローブ‐ Cameleonの構造 宮脇敦史(R.Tsien lab.出身) ほぼ同じ Indo1の1/700 Indo1の1/550 Ca指示薬 Kd(nM) kf(1/M/sec) kb(1/sec) Cameleon3.60 215 1.33*10^6 0.33 Cameleon-Nano15 15 2.36*10^7 Indo1 191 9.4*10^8 180 永井健治(宮脇研出身) Ref. ※Cameleon Nano15の反応速度定数は論文から推定した 課題2-2:Cameleon3.6に100nMのパルスカルシウム刺激を与えた時の応答波形をシミュレーションしなさい。 Ca_probe2.mを再利用してもよい 

Ca 2+プローブと反応速度定数 バイオプローブ(速度定数が小さいプローブ) 課題2-2:Ca_probe2.mを再利用してCameleon3.6に100nMのパルスカルシウム刺激を与えた時の応答波形をシミュレーションしなさい。 ほぼ同じ Indo1の1/700 Indo1の1/550 Ca指示薬 Kd(nM) kf(1/M/sec) kb(1/sec) Cameleon3.60 215 1.33*10^6 0.33 Cameleon-Nano15 15 2.36*10^7 Indo1 191 9.4*10^8 180 Ref. ※Cameleon Nano15の反応速度定数は論文から推定した

Ca 2+プローブと反応速度定数 バイオプローブ(速度定数が小さいプローブ) 課題2-2:Ca_probe2.mを再利用してCameleon3.6に100nMのパルスカルシウム刺激を与えた時の応答波形をシミュレーションしなさい。   実行例 プローブの応答はカルシウム濃度の変化を正しく反映している? ⇒必ずしもカルシウム波形が正確に反映されるわけではない ⇒プローブを使う際は応答速度に注意する。

Ca 2+プローブと反応速度定数 -バイオプローブ‐ 課題3 Cameleon 3.6にパルス幅50msec ,100nMのカルシウムインパルス刺激を10回 行った時の応答をシミュレートしなさい。刺激間隔は0.5,1,2秒とする(Ca_probe3.m) インパルス刺激(※50msec幅の矩形波を仮定) ※マウス神経細胞を一定の時間間隔で刺激し、カルシウム応答を実測した波形 2,1,0.5sec 50msec 実行例 2秒間隔     1秒間隔     0.5秒間隔 2秒間隔 1秒間隔 0.5秒間隔 プローブの応答はカルシウム濃度の変化を正しく反映している? ⇒必ずしもカルシウム波形が正確に反映されているわけではない プローブを使う際は応答速度に注意する。

Ca 2+プローブと反応速度定数 -バイオプローブ‐ 課題3 Cameleon 3.6にパルス幅50msec ,100nMのカルシウムインパルス刺激を10回 行った時の応答をシミュレートしなさい。刺激間隔は0.5,1,2秒とする(Ca_probe3.m) この部分(刺激単位)を繰り返す ※ループ文を使う