2015 年 5 月下旬のインドの熱波について 報 道 発 表 資 料 平成 27 年 6 月 2 日 気 象 庁

Slides:



Advertisements
Similar presentations
過去の気象データ ダウンロードページ紹介 気象庁 気候情報課 気候リスク管理技術係 荒井 宏明 8 月 21 日(水) ヤマセ研究会.
Advertisements

宇宙開発事業団 (NASDA) が開発した、環境観測技術衛星「みど りⅡ」 (ADEOS- Ⅱ ) 搭載の高性能マイクロ波放射計 (AMSR) による オホーツク海の流氷 ( 海氷 ) 画像。左図は 2003 年 1 月 18 日の夜間 (20 時半頃 ) に取得されたデータによる擬似カラー合成画像。
ヤマセ海域の SST 変動と 海洋内部構造の関係 ー2011年の事例解析ー 理工学部 地球環境学科 気象学研究室 4 年 08 S 4025 佐々木 実紀.
気候 - 海・陸炭素循環結合モデルを用い た 地球温暖化実験の結果 吉川 知里. 気候 - 海・陸炭素循環 結合モデル.
過去 100 年に観測された 夏季日本の気候変動 気象研究所 遠藤洋和 第 10 回ヤマセ研究会.
CMIP5 気候モデルにおける ヤマセの将来変化: 海面水温変化パターンとの関係 気象研究所 気候研究部 遠藤洋和 第 11 回ヤマセ研究会 1.
降水セルから見た 甑島ラインの形成過 程. 諫早ライン 1997/07/11/16:00JST 2001/06/19/11:30JST 五島ライン 五島列島 甑島列島 長崎半島 甑島ライン 2002/07/01/12:20JST 長さ:約 80km 長さ : 約 70km 長さ : 約 150km.
傾圧不安定の直感的理解(3) 地上低気圧の真上で上昇流、 高気圧の真上で下降流になる理由
JRA-55再解析データの 領域ダウンスケーリングの取り組み
4月1日魚沼守門週間天気情報 ポイント予報 魚沼市 週間天気予報 中越地方 注意報 雷 なだれ
数値気象モデルCReSSの計算結果と 観測結果の比較および検討
北日本における4月と8月気温の強い相関関係とその時間変動(2)
シーロメーターによる 海洋上低層雲、混合層の観測
東京23区の気温分布と リモートセンシングを用いた 緑被面積率の関係
三重大学・大学院生物資源学研究科 共生環境学専攻 地球環境気候学研究室 教授 立花義裕
GLI初画像 冬の低気圧の渦 九州と東シナ海
地球温暖化 現在(2010)起きていること.
2週目の気温予測を用いた東北地方の稲作への影響予測
来客者数に与える気温と降水量の影響に関する研究
北部を中心とした 関東平野の夏季の気温分布特性
力学的ダウンスケールによる2003年東北冷夏の アンサンブル予報実験
第2回  長期予報についての基礎-2 季節予報で主として用いる天気図 季節予報でよく用いる用語類 確率予報の利用等.
成層圏突然昇温の 再現実験に向けて 佐伯 拓郎 神戸大学 理学部 地球惑星科学科 4 回生 地球および惑星大気科学研究室.
クイズ早押し環境グランプリ 社団法人 未踏科学技術協会.
ジェット気流が延々と吹き続けている理由を理解する
気温の予想を用いた 栽培管理指導に向けた水稲の生育量予測
*大気の鉛直構造 *太陽放射の季節・緯度変化 *放射エネルギー収支・輸送 *地球の平均的大気循環
平成24年8月下旬~9月中旬の 北・東日本の高温について
極端化する日本の気象 日本近海の 海水温上昇率 ほかの海域よ 2倍ほど高い 日本近海の海面水温 2015.9.7 大量の 熱帯魚類の北上
CMIP5マルチ気候モデルにおける ヤマセに関連する大規模大気循環の 再現性と将来変化(その2)
東京商船大学における 地上気象データの解析
東京大学地震研究所 地震予知研究センター 平田直
水の災害について学ぶ 国土交通省 北海道開発局 事業振興部 防災課.
1km格子で再現された2003年・2004年7月の気温場 気温場 降水分布の比較 沢田雅洋 岩崎俊樹 (東北大学) Miyagi Pref.
近年の北極振動の増幅 Recent Arctic Oscillation amplification
2016.3/10 ヤマセ研究会 2013年5月13日の仙台山形の 気温差について 東北大学流体地球物理学講座 修士1年 岩場遊.
2013年7月のヤマセについて 仙台管区気象台 須田卓夫 昨年のまとめ(赤字は研究会後の調査)
熱中症の救急搬送者数 今日は,熱中症について勉強したいと思います。.
東北地域のヤマセと冬季モンスーンの 先進的ダウンスケール研究
バングラデシュにおける対流活動と局地風に関する研究
※今後、気象台や測候所が発表する最新の防災気象情報に留意してください。
地学b 第5回雲と降水 Koji Yamazaki (山崎孝治)
COP21 パリ協定 気温上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑える
冬季北大西洋振動が 翌冬の日本の気候に与える影響
2013年7月の東北地方の長雨と 日照不足の要因とその予測
南北両半球間を横断する 水蒸気輸送と降水量との関連性
事業リスク分析をベースとした 意思決定・事業評価手法
地球温暖化予測情報第8巻 GPVデータを用いた 宮城県の夏の気温の将来予測
バングラデシュ北東部における夜間の対流活動極大と風の日変化
2週目の気温予測情報の 農業情報への翻訳 農業分野において利用しやすい情報作成のために
気候モデルのダウンスケーリングデータにおける ヤマセの再現性と将来変化
Johnson et al., 1999 (Journal of Climate)
流速ベクトル.

梅雨前線に伴う沖縄島を通過した 線状降水システムの構造の変化
CMIP3 マルチモデルにおける熱帯海洋上の非断熱加熱の鉛直構造 廣田渚郎1、高薮縁12 (1東大気候システム、2RIGC/JAMSTEC)
「ヤマセの季節変化と経年変化について」 境田清隆(東北大学環境科学研究科)
図表で見る環境・社会 ナレッジ ボックス 第2部 環境編 2015年4月 .
2015 年5 月下旬のインドの熱波について 報道発表資料平成27 年6 月2 日気 象 庁
竜巻状渦を伴う準定常的なスーパーセルの再現に成功
南アジアの大気災害とMM5 寺尾 徹(大阪学院大学).
ラジオゾンデで観測された 千島列島周辺の 激しいSST勾配が駆動する大気循環
地球環境気候学研究室 513M230 松本直也 指導教員 立花義裕
北極振動の増幅と転調は 何故20世紀末に生じたか? Why was Arctic Oscillation amplified and Modulated at the end of the 20th century? 地球環境気候学研究室 鈴木 はるか 513M228 立花 義裕, 山崎 孝治,
仙台管区気象台 気象防災部 地球環境・海洋課 渕上 隆雄
将来気候における季節進行の変化予測 (偏西風の変化の観点から)
地球環境気候学研究室 谷口 佳於里 指導教員:立花義裕 教授
夏季日本における前線帯の変動と その天候への影響
気象庁 気候情報課 伊藤 晋悟、比良 咲絵、萱場 亙起、中三川 浩
CMIP3マルチ気候モデルにおける 夏季東アジアのトレンド
Presentation transcript:

2015 年 5 月下旬のインドの熱波について 報 道 発 表 資 料 平成 27 年 6 月 2 日 気 象 庁 報 道 発 表 資 料 平成 27 年 6 月 2 日 気 象 庁 2015 年 5 月下旬のインドの熱波について ・インドでは、2015 年 5 月下旬に熱波1に見舞われ、中部を中心に合計で 2200 人以上が 死亡したと伝えられました。 ・顕著な高温をもたらした要因として、インド上空では下降気流が平年より強かったこ と が影響していたものと考えられます。 ・顕著な高温は、今週末にかけて徐々に解消する見込みです。 *平成 27 年 5 月 26 日に発表した「世界の異常気象速報(臨時)~2015 年 5 月下旬のインドの熱波に ついて~」の内容を更新し、特徴や要因を追加しました。 1.天候の経過と影響 2015 年 5 月 21 日~31 日で平均した日最高気温の分布図(図 1)を見ると、インドの 広い範囲で 42℃以上となっており、北部や中部に 45℃以上の領域も見られます。ハイデ ラーバード(テランガーナ州)と首都ニューデリーのこの 11 日間の日最高気温の平均値 を、5 月の日最高気温の平年値(インド気象局算出)2と比べると、どちらの都市も約 4℃ 高い状況となっています。 図 1 2015 年 5 月 21 日から 2015 年 5 月 31 日までの 11 日間で平均した日最高気 温の分布図(℃) 各国気象局の通報に基づき、気象庁で作 成。 インド気象局による「熱波」の定義は以下の通り。最高気温が平野部では 40℃以上、丘陵部 では 30℃以上、かつ、最高気温の平年値が 40℃以下の地点であれば平年より 5~6℃高い場合(7℃ 以上高いと「猛烈な熱波」)、最高気温の平年値が 40℃を超える地点であれば平年より 4~5℃高 い場合(6℃以上高いと「猛烈な熱波」)に、「熱波」という。また、平年値に関わらず、最高気 温が 45℃を超えた場合も「熱波」という。 インド気象局によると、ハイデラーバードの平年値(39.0℃)は 1951 年~2000 年のデータか ら算出、ニューデリーの平年値(39.8℃)は 1901 年~2000 年のデータで算出しているとのこと 。

3大陸と海洋の地理的分布によって生じる大規模な季節風のこと。夏は陸地が暖まって地上付近 被害の大きかった地域のハイデラーバード(テランガーナ州)とマチリパトナム(ア ーンドラ・プラデーシュ州)の日最高気温、日最低気温の経過図(図 2)を見ると、ど ちらの地点も 5 月 19 日頃から、5 月前半に比べて日最高気温で 3~9℃、日最低気温で約 2℃高くなっています。マチリパトナムの日最高気温は、22 日~27 日の 6 日間連続で 45℃ を超えました。 このような状況の中で、5 月 23 日頃から熱波により多くの犠牲者が出ていることが伝 えられました。その後も気温の高い状況が持続したことにより、犠牲者数は連日更新さ れ、アーンドラ・プラデーシュ州やテランガーナ州を中心に、合計して 2200 人以上が死 亡したと伝えられました(インド災害管理局、5 月 31 日発表)。 図 2 2015 年 5 月 1 日から 2015 年 5 月 31 日までの気温の時系列図(℃) (a)ハイデラーバード(テランガーナ州)、(b)マチリパトナム(アーンドラ・プラデーシュ州)。日最 高気温を赤で、日最低気温を青で示す。インド気象局の通報に基づき、気象庁で作成。 2.大気の流れの特徴(図 3) 5 月中旬後半頃から、ベンガル湾では積雲対流活動が活発な状態となりました。これ に伴って上昇した空気がインド上空で下降気流を強めたことにより、インドでは雲が発 生しにくい状態となり、強い日射が続いて地表付近の気温を上昇させたと考えられます。 また、強い下降気流に伴う昇温効果も作用していたものとみられます。 インドでは、例年、モンスーン3入りの直前にあたる 5 月が年間で最も気温の高い時期 と なります。2015 年 5 月下旬は、上記のような大気の流れの特徴がさらに気温を押し上 げたことで、顕著な高温になりました。 3大陸と海洋の地理的分布によって生じる大規模な季節風のこと。夏は陸地が暖まって地上付近 で低気圧になるため、海洋から大陸に向かって風が吹き込む。通常、インドでは南東部のモンス ーン入りが最も早く 5 月末~6 月中旬頃で、その後、北西部に向かってモンスーン域が拡大する。 モンスーンが始まると、インド洋から流入する水蒸気により、活発な降水を生じる。

図 3 2015 年 5 月下旬のインド付近の大気 の流れの特徴を示す模式図 陰影は高度 5800m 付近における大気の鉛直 方向の流速の平年差(2015 年 5 月 21 日か ら 2015 年 5 月 31 日までの 11 日間平均)を 表し、寒色系は平年より上昇気流が強い(又 は下降気流が弱い)領域を、暖色系は下降 気流が強い(又は上昇気流が弱い)領域を 示している。緑の矢印は、高度 12000m 付近 の大気の流れを示している。 3.今後の見通し 今回の熱波の一因と考えられるベンガル湾の対流活発な状況は、今週末にかけて解消 する見込みです。また、6 月 1 日発表のインド気象局の予報によると、5 月下旬に見られ た顕著な高温の状況は、今週末にかけて徐々に解消する見込みです。なお、インドでは、 夏のモンスーンが始まると降水量が多くなり気温が低下しますが、平年のモンスーン入 りはインド南東部で 5 月末~6 月上旬頃、中部~北東部で 6 月中旬頃、北西部で 6 月下 旬~7 月上旬頃となっています。 ※気象庁ホームページ「世界の異常気象」 http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/extreme_world/index.html において、最近の世界の異常気象や気象災害の状況を週、月、季節別にまとめていますので、あわせ てご利用ください。 本件に関する問い合わせ先: 気象庁 地球環境・海洋部 気候情報課 異常気象情報センター 03-3212-8341 内線 3158