双極性(感情)障害の薬物療法.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
稲垣貴彦 *・*** 、田中恒彦 ** 、丸川里美 *** 、栗原愛 *** 、眞田陸 **** 、 藤井勇佑 *** 、中村英樹 **** 、栗山健一 *** 、山田尚登 *** * 滋賀県立精神医療センター ** 新潟大学教育学部 *** 滋賀医科大学精神医学講座 **** 長浜赤十字病院精神科.
Advertisements

統合失調症患者さんのための メタボ脱出大作戦 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.5 監修 : 順天堂大学大学院(文科省事 業) 河盛 隆造 スポートロジーセンター センター長 こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
・抑うつ:ゆううつ、悲しみ、苦しみなどが持続する感情 喪失に伴っておきることが多い ・不 安 :存在がおびやかされたときにおこる感情 ふるえ、動悸など、不快な自律神経症状を伴う がん患者の精神症状 - 抑うつ・不安の定義 - 大熊 2002.
34-2 今 日 の ポ イ ン ト今 日 の ポ イ ン ト 現代社会とストレスと糖尿 病 1.1. ストレスによる 血糖コントロールへの影響 2.2. QOL障害によるストレ ス 3.3. 糖尿病とうつ 4.4. ひとことアドバイス 5.5.
患者さんとご家族のための 双極性障害ABC すまいるナビゲーター 双極性障害ブックレットシリーズ No.1 監修 : 理化学研究所脳科学総合研究センター 精神疾患動態研究チーム チームリーダー 加藤 忠史 こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
あなたに合った 薬と出会うために すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.4 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
カウンセリングナースによる 新しい治療システム -ストレスケア病棟での治療体験と カウンセリングナースの導入- 福岡県大牟田市 不知火病院 院長 徳永雄一郎.
当科における腰椎疾患に対する 治療の現状と外来管理の チェックポイント    福島医大整形外科 脊椎クリニック 恩田 啓.
11-2 知っておくと役立つ、 糖尿病治療の関連用語 一次予防、二次予防、三次予 防 1.1. インスリン依存状態 インスリン非依存状態 2.2. インスリン分泌 3.3. 境界型 4.4. グルカゴン 5.5. ケトアシドーシス、ケトン体 6.6. 膵島、ランゲルハンス島 7.7. 糖代謝 8.8.
第4回病院祭 「ゆず春まつり」 家族・地域公開講座
発達障害と統合失調の類似性 原因を求めれば発達障害が増える
統合失調症ABC 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
統合失調症ABC 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3.
第12回: 心の病気とその治療 臨床心理学と精神医学.
すまいるナビゲーター うつ病 ブックレットシリーズ No.1
平成26年度 診療報酬改定への要望 (精神科専門領域) 【資料】
認知症関係のカルテ略語 Dementia 認知症 ATD Alzheimer Type Dementia アルツハイマー型認知症
体重増加 短期間で 急に太った いつもと同じ食生活をしているのに… 定期的に運動をしているのに…
全身倦怠感 全身倦怠感はさまざまな病気にみられます 疲れやすい… だるい…
冬期の健康管理 産業医科大学.
磁気治療機器が、線維筋痛症患者の痛みを抑制 できるかどうかを検討する。 同時に機器の安全性を検討する。
患者さんとご家族のための 双極性障害ABC
最近の肺結核の治療と診断 浜松医大救急部           白井 正浩.
医薬品と健康.
お薬について 統合失調症ABC 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.2
開放隅角や閉塞隅角でも治療済みであれば制限はありません
2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討
1. 経口薬(飲み薬)による治療が 必要なのは、どんなとき? 2. 糖尿病の飲み薬の種類と特徴 3. 飲み薬による治療を正しく
1. 糖尿病による網膜の病気 =糖尿病網膜症 2. 自覚症状が現れないまま 進行します 3. 糖尿病網膜症の 予防法・治療法 4.
薬物乱用防止教室 健康で幸せな生活を送るために.
双極性障害(躁うつ病)に対する リチウム療法開発に関わった人たち
うつ病 ~悩める現代人へ~ 学籍番号: 名前:永井 啓太.
不眠の症状は4タイプあります 入眠障害 寝つきが悪い ぐっすり眠れない 中途覚醒 夜中に目が覚めてしまい その後なかなか眠れない 早朝覚醒
ヒトゲノムの違いから わかること 東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 人類遺伝学分野 徳永 勝士 川崎市立川中島中学校
高血圧 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 二次性高血圧を除外 合併症 臓器障害 を評価 危険因子 生活習慣の改善
1. 血糖自己測定とは? 2. どんな人に血糖自己測定が 必要なのでしょうか? 3. 血糖自己測定の実際 4. 血糖自己測定の注意点
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
脳血管障害 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 緊急処置 一般検査 画像検査 治療 診断
糖尿病 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 検査 診断 治療
併用禁忌の薬剤の投与について 平成24年4月 日本薬剤師会.
エイズとその予防.
独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センター認知症疾患医療センター 川島 佳苗
睡眠障害改善に対する漢方薬使用の実態 1) 四国調剤グループ,2) 徳島文理大学薬学部医療薬学講座
患者さん 歯科衛生士 受付 歯科技工士 歯科医師 はじめに 当院は患者さんの“健康”に目を向け、
持参薬変更時の注意点 平成23年4月 日本薬剤師会.
睡眠剤の適正使用 不眠治療の基本的な考え方 症状を把握し、不眠の原因がはっきりしている場合はその原因を解決することが第一 そのために
2007年10月14日 精神腫瘍学都道府県指導者研修会 家族ケア・遺族ケア 埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 大西秀樹.
LAIガイド Long-Acting Injection 監修 :医療法人社団 宙麦会 ひだクリニック 院長 肥田 裕久
統合失調症ABC お薬について 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.2
「特定行為に係る看護師の研修制度」における特定行為(案)
あなたに合った 薬と出会うために 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.4
これまでに糖尿病重症化予防事業に ご参加いただいた皆様へ 日々、健康生活に向けてお取組みのことと存じます。 【送付内容】■本紙
1.
我が国の自殺死亡の推移 率を実数で見ると: 出典:警察庁「自殺の概要」
あなたに合った 薬と出会うために 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.4
下肢静脈瘤という病気 血管外科 外来 下肢静脈瘤 専門外来 済生会山口総合病院 下肢静脈瘤の重症度 治療法の比較 月曜・水曜 午前中
1. 低血糖とは? 2. 低血糖の症状 3. がまんは禁物。すぐにブドウ糖や、 炭水化物を口にする 4. 低血糖を減らすコツやアイデア 5.
7年くらい前の古いものなのですが8つの高齢者施設のスタッフさんに 意見を伺ったときのものです
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
緩和ケアチームの立ち上げ (精神科医として)
1. 糖尿病の合併症としての 性機能障害 2. 性機能障害と糖尿病治療 3. 性機能障害、とくにEDの 原因について 4.
糖尿病と口の中の健康 ★歯周病って何? ・歯を支えている周りの組織(歯ぐき)の病気です。歯周ポケットに細菌が入り込む慢性の感染症です。
1. 糖尿病による網膜の病気 =糖尿病網膜症 2. 自覚症状が現れないまま 進行します 3. 糖尿病網膜症の 予防法・治療法 4.
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3. ご高齢の糖尿病患者さんの
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
在宅 役割・準備・訪問   在宅における薬剤師の役割
衛生委員会用 がんの健康講話用スライド.
禁煙外来で禁煙を開始した人の半数以上が再喫煙する
33事件 精神障害者の自殺 (東京高判平13・7・19) 事実概要
Presentation transcript:

双極性(感情)障害の薬物療法

双極性障害の治療動向 欧米ではもっとも注目される心の病気に 双極性障害の診断の範囲も広がる傾向 新たな治療薬の開発も盛んである アメリカでは推定患者数も急激に増えている うつ病と診断されているケースが多い 新たな治療薬の開発も盛んである 小児や思春期に対する試験も行われている

双極性障害は うつ病から始まる方が多いので注意が必要 慢性の病気で、長期の治療が必要 躁よりもうつ病のエピソード方が数も多く、長く続く 再発予防を行っても、うつ病相の再発が躁よりも多い 慢性の病気で、長期の治療が必要 予防しないと再発しやすい 適切に治療しないと、再発の間隔が短くなる

気分の変動と気分障害

双極性障害の薬物治療の現状 気分の高揚が目立たず、うつ病として抗うつ薬だけが出されているー単極性のうつ病との誤診が多い 不安定化(なかなか安定した状態にならない) 気分安定薬の併用が欠かせない 中には再発の多い急速交代型(ラピッドサイクリング)に移行 急速交代型では抗うつ薬の中止も必要になる 双極性障害の診断治療を受けているが、なかなか安定しない

診断治療を受けているのに不調 躁を抑えることに主眼が置かれ、軽いうつが続いている 通院服薬はしているが再発してしまう QOLの低下 自殺のリスク 通院服薬はしているが再発してしまう 薬を医師から指示された通り、きちんと服用していない きちんと服用しているのに再発してしまう 1種類の薬でコントロールできれば理想的ではあるが、現実には2-3種類の併用が必要な場合が多い

なぜ双極性のうつが注目されるのか 長期に気分の変化を記録してみると うつの週が人生のかなりを占め、気分の高揚した 週は少ない 病気による人生への悪影響 対人関係のトラブル、職業上の困難 自殺 一生の間でみると約 15% にも うつのときだけでなく、躁とうつの混じった混合状態が危険

双極性障害患者は 平均して人生の1/3 を うつ症状で過ごす 気分の状態 気分高揚:躁・軽躁 急速交代 ごく軽いうつ 正常気分 慢性軽うつ うつ NIMH の研究データ 、2002

双極性感情障害の治療法 いわゆる気分安定(化)薬 リチウム バルプロ酸 カルバマゼピン 抗けいれん薬(気分安定薬候補) ラモトリジン  リチウム  バルプロ酸  カルバマゼピン 抗けいれん薬(気分安定薬候補)  ラモトリジン  ギャバペンチン 第二、第三世代の抗精神病薬 クロザピン オランザピン リスペリドン クエチアピン ジプラシドン アリピプラゾール 心理面からの治療法  認知行動療法(CBT)  その他の心理社会的  治療アプローチ 薬以外の身体的治療 電気けいれん療法(ECT) 光線療法 磁気刺激(TMS) 迷走神経刺激(VNS) (?)

治療のゴールは、一回の躁やうつの波を抑えることよりも、長期の安定化である

双極性障害治療の2つのステージ 第一段階:躁やうつの急性期治療 第二段階:躁とうつのエピソードの再発防止 重い躁(妄想や攻撃性、暴力を伴う) 機嫌の良い多幸的な躁 軽い躁 躁うつが混じった混合状態、 うつ 急速交代型 第二段階:躁とうつのエピソードの再発防止 むしろこちらが重要 完全に再発がなくなることが理想 再発までの間隔が長くなり、症状が軽くなる

急性期の治療 ー状態により選択する薬が異なるー 重い躁(妄想や激しい興奮、攻撃性、暴力を伴う) 機嫌の良い多幸的な躁 軽い躁 躁とうつが混じった混合状態(見かけ上はいらいらの強いうつ) 急速交代型ラピッドサイクリング

状態別の薬の選択(1) 重い躁(妄想や激しい興奮、攻撃性を伴う) 新しいタイプの抗精神病薬(オランザピン、リスペリドン、クエチアピン)かバルプロ酸、その併用 さらに鎮静させる必要があるときは、ロラゼパム、クロナゼパムなどの効果の強い抗不安薬を短期間併用する 古いタイプの抗精神病薬は過度の鎮静、パーキンソン症状、うつ転などの副作用が出易い クロナゼパムの錠剤

状態別の薬の選択(2) 機嫌の良い多幸的な躁, 軽い躁 躁とうつが混じった混合状態(見かけ上はいらいらの強いうつ) リチウムを単独で 躁とうつが混じった混合状態(見かけ上はいらいらの強いうつ) バルプロ酸を 急速交代型ラピッドサイクリング 抗うつ薬を徐々に減らして中止し、バルプロ酸に 効果不十分であれば2-3種類の気分安定作用のある薬の併用に

状態別の治療(3) うつ病エピソード まずは主剤の気分安定薬を十分に用いる ラピッドサイクリングの可能性がないかチェックする 一ヶ月以上慢性的にうつ状態が持続する場合は抗うつ薬の服用を考慮する かならず気分安定薬と併用する 抗うつ薬だけの服用は波が多くなるので避ける(特に古いタイプの三環系抗うつ薬は躁にスィッチする危険が高いので避ける) リスクの低いSSRI, SRNI, ブプロピオン(わが国では試験中)を用いる 症状によっては非定型(新世代)の抗精神病薬も考慮する 古いタイプの抗精神病薬では逆にうつに転じるリスクも

双極性感情障害の治療法 いわゆる気分安定(化)薬 リチウム バルプロ酸 カルバマゼピン 抗けいれん薬(気分安定薬候補) ラモトリジン  リチウム  バルプロ酸  カルバマゼピン 抗けいれん薬(気分安定薬候補)  ラモトリジン  ギャバペンチン 第二、第三世代の抗精神病薬 クロザピン オランザピン リスペリドン クエチアピン ジプラシドン アリピプラゾール 心理面からの治療法  認知行動療法(CBT)  その他の心理社会的  治療アプローチ 薬以外の身体的治療 電気けいれん療法(ECT) 光線療法 磁気刺激(TMS) 迷走神経刺激(VNS) (?)

第二段階: 躁とうつのエピソードの再発防止 気分の波の安定化 むしろこちらが重要 ムードスタビライザー(気分安定薬)の服用だけでなく、心理社会的な面からの注意も欠かせない 現時点では本当の意味でムードスタビライザーと呼べる薬物は存在していない リチウムが現時点ではもっとも、それに近い薬剤

双極性障害治療の基本薬 ムードスタビライザー 双極性障害治療の基本となる薬 躁うつ治療・再発予防薬のこと その定義はあいまいである 本当の意味でムードスタビライザーといえる薬はない 抗躁薬と呼ぶべき薬も、マーケティング上そう呼ぶ傾向がある 現時点では かなりそういえるのはリチウム(微量の金属元素) 次がバルプロ酸(元来はてんかんの治療薬) その次がカルバマゼピン(同じくてんかんの治療薬)

理想のムードスタビライザー 躁に効く うつに効く 副作用が少ない 安全性が高い

4種のムードスタビライザー候補

リチウムといえば

リチウム元素とは