ハザードマップの理解に対する ドリルマップ提示の効果

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ハザードマップの理解に対する ドリルマップ提示の効果 村越真・小山真人 (静岡大学教育学部)

研究の経過 ハザードマップの地図表現は適切なものか? ハザードマップは、一般利用者に適切に活用される可能性があるか? 実際の活用には情報が不十分との示唆 不確定・集約的表現が十分に理解されていない可能性 地図の特性が生かされていない

ドリルマップ提示の効果(1) (昨年度会議にて報告)  ハザードマップ作成の元となったドリルマップを提示し、その説明と、そこからハザードマップがどのように作られたかを解説し、さらにいくつかの読みとりのヒントを与えた実験群と、ただハザードマップを与えた群で、その読みとりを比較した。  その結果、実験条件により危険の程度のゾーニングへの配慮、季節や川・流路への言及が増える傾向にあった。また総合評価は実験群のほうがよかった。 一方で、印象面では異なった影響がある。教示は課題解決には有効であったが、やや難しく、消化不良であったと思われる。これは課題解決中の様子としても担当教員からも指摘されている。 ドリルマップ提示の効果はみられたが、著しい効果とまではいえない。原因として、「避難計画策定」が、ハザードマップの理解に加え、対処についての知識や考え方を要求する課題であった?

研究2:目的 緊急火山情報発令時における火山周辺の地点の「緊急度」を問うことで、ドリルマップの提示がハザードマップの理解を促進しているかを、直接検証する。

方法 被験者: 手順: 国立大学学生47名中42名(男性16名、女性26名)を、実験群と統制群にランダムに割り当て 対照として、火山防災を専門とする研究者10名。 手順: ハザードマップの簡単な説明 噴火時に危険なハザード3つの解答 ハザードの紹介(図版) ハザードマップの凡例の説明 実験群へのドリルマップの提示 実験課題

ドリルマップの提示 3つの火口想定による溶岩流下の様子を示したドリルマップを提示しながら、以下の文章を読み上げた。 「この地図はハザードマップを作る時の参考にしたドリルマップと呼ばれるものです。コンピュータのシミュレーションによって、溶岩がどのように流れるかを計算して地図にしたものです。図のように、火口のできる位置によって、溶岩の流れ方は異なります。実際のハザードマップは、様々な場合を想定したシミュレーション結果をまとめて作られたものなので、示された範囲すべてが同時に危険になることはありません。また溶岩以外のハザードについても、火口のできる場所によってその影響を受ける範囲は異なってきます。」

提示したドリルマップ

課題 以下の3想定それぞれについて、地図上に示したAからF地点それぞれに住んでいると想定した時の緊急度を、以下の目盛り上に示す。 想定1: 「臨時火山情報が発表され、富士山に火山活動の兆候があることが発表されました。」 想定2: 「緊急火山情報が発表され、地図の×1印のところに火口ができて、噴火が始まった模様であるという発表がありました。」 想定3: 想定2と同様の状況だが、火口が別の位置(×2)にできたことを想定

表3:質問紙の評定 統制群 実験群 平均値 SD 平均 t どうしたらいいか分かった 2.77 0.61 3.10 0.79 -1.51 ns HM難しい 3.43 1.12 3.20 1.01 0.69 確認問題 4.35 1.18 4.90 1.37 -1.36 ハザード指摘数(前) 0.18 0.08 0.15 0.09 ハザード指摘数(後) 0.64 0.14 0.55 火山があるのは不安(前) 2.36 1.22 2.55 0.94 火山があるのは不安(後) 2.73

3群の中央値の比較

想定0(臨時火山情報発令時) 実験群・統制群ともに専門家より緊急度を高く評価しているが、3群とも相対的な傾向については大きな差が見らず、有意な差があったのも、cのみに限られていた。いずれの群もcやfといった「火口ができる可能性がある」とされたエリアの緊急度を比較的高く評価し、周辺領域ほど緊急度を低く評価 想定1/2 統制群では、想定1と2(緊急火山情報)のいずれでもabcdの4地点の緊急度が高まる一方、専門家の想定1dを除くと、実験群・専門家とも、緊急度が高まっているのは、想定2のabdのみ。 実験群と専門家の間で評定が有意に異なったのは1地点であったのに対して、統制群と専門家の間では想定1においてbcdf4地点の評定4地点で評定が有意に異なっていた。

理由付け c地点 想定1統制群 もっとも危険な「火口ができるかもしれない範囲」に入っていることだけを手がかりにした理由づけが多かった 想定1実験群  「迷ったんですが、すぐ避難が必要な、でも、状況を見てからのほうが良いと思ったので。ここが火口だとした時に、流れる方向はDの方には向いてこないと思った。」「火口と反対方向なので、来ることはないかなと。そんなに急がなくて良い。もし違うところに火口ができて危なくなったら逃げれるように、荷物はまとめておく。」といった、火口の位置を意識した解答が見られた。

結論 依然、火口からの距離に単純に依存した解答はみられるが、ドリルマップの提示(2分間)と説明により、火口との関係によりリスクが異なることへの理解が深まった 一般市民は専門家よりそれを過大に評価している。 特に統制群ではその傾向が強い。適切な行動のためにはハザードマップの理解が有効。