土・水環境における物質動態の鍵を握るコロイド界面現象 足立泰久

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土・水環境における物質動態の鍵を握るコロイド界面現象 足立泰久 土・水環境における物質動態の鍵を握るコロイド界面現象                                足立泰久  直径が10nm~10μm程度の大きさの粒子をコロイド粒子といいます。コロイド粒子はその大きさゆえ、ブラウン運動、光散乱現象、化学物質の吸着、電気泳動、膜形成など、科学的に興味深い性質を示します。この様なコロイド界面現象は生物資源に関係する環境科学、ナノテクノロジー、ライフサイエンスなど多くの分野で注目されています。   土壌中には粘土や腐植物質などおびただしい量のコロイド粒子が存在します。これらのコロイド粒子は農地では農薬や肥料などと作用しあい、農学的に非常に重要な役割を担っています。一方、河川や湖沼に流出したコロイド粒子は、その表面に大量の化学物質を吸着濃縮する能力を有しており、ダイオキシンなど有害な汚染物質や栄養塩のキャリアとて見逃すことは出来ません。興味深い点は、コロイド粒子は海水のような高い塩の濃度下において、分子間力の作用によってお互いに集まり、凝集し沈殿する性質にあります。牛乳がヨーグルトになって次第にかたまっていく過程、朝の味噌汁が段々と澄んでいくプロセスなどはその例です。浄水場ではこのようなコロイド粒子が凝集する性質を利用して、水の濁りを落とし透明な水道水を作ります。干潟が非常に高い生物生産性を有すのもコロイド粒子の凝集現象と無縁ではありません。これら環境中のコロイド界面現象は比較的身近にあるにも関わらず、まだ十分理解されていません。その理解は環境問題を考え、対策を立てる上で重要な鍵になると考えられます。  我々のグループではコロイド界面現象の基礎的知見の深化とその生物環境分野への応用を目指して研究を進めています。基礎研究は土壌コロイドの凝集現象を中心に進めていますが、国際的にも高い水準にあり、筑波大学の他学類や筑波地区の他の研究機関との研究交流をリードしています。コロイドの基礎研究に対しては高校での化学、物理、数学などの学習が必要です。生物資源学類で扱われる題材には、土壌以外にも食品、紙パルプ、生物細胞、医薬などコロイド界面現象の題材になるものが数え切れないほどあります。基礎から応用にわたるコロイドに関する総合的学習環境は他大学で得がたいものです。勿論、身につけたコロイド扱う専門的ノウハウは技術卒業後の進路選択においても強力な武器となります。 コロイド界面現象が仲立ちとなって環境中での化学物質のマクロな移動が決まる。 凝集過程をシミュレーションにより再現し、形成したフロック(凝集体)の理論模型。 カオリナイト粒子の凝集過程。コロイド粒子は海水の塩濃度において時間の経過と共に次第に凝集して行く。 5nm 研究成果 ○コロイド凝集体の形成過程と構造の関係を速度論的に明らかにした。 ○独自の手法を開発して、コロイド粒子間の付着強度、1ナノニュートン(10-9N)の計測に成功した。 日本に広く分布する火山灰土にはアロフェンというアモルファス質粘土鉱物が含まれており、燐の吸着や土の強度を担っています。アロフェンは直径5nmの中空粒子ですが、実際は電子顕微鏡写真(右)のように凝集体となっています。 農地の土壌コロイドは分散状態(左)にあると侵食される。写真イスラエル乾燥地研究所Dr.Schainberg 提供。

卒業研究で実施可能な主な研究課題 1.コロイド促進型汚染物質移動   土壌や地下水中を汚染物質が移動するとき、コロイドがキャリアとなって移動するメカニズムを解明します(実験室、日本原子力研究所、電力中央研究所との共同研究)。 2.感潮河川、干潟の懸濁質の挙動    有明海、北海道別冠辺牛川の懸濁態の水質調査に基づく、物質移動の解析、漁業や自然保護における位置づけを考える(フィールド、実験室、社会工学吉野先生、佐賀大学との共同研究)。 3.農地保全とコロイド界面現象    土壌コロイドの挙動を分析し、農薬やカドミウムなどの土壌汚染対策を踏まえた農地管理の方法を考える。また、この一環として土壌中のコロイド画分(粘土、腐植物質、酸化物)を大きさと成分ごとに分析し、その機能を考察します(農業環境技術研究所との共同研究)。 4.コロイドの凝集分散のダイナミクス、レオロジー    界面現象やコロイド粒子の凝集過程を流体力学および物理化学的に解析し、現象記述のモデルを考察する    (実験および理論解析、シミュレーション)。この研究は近年ソフトマターと呼ばれる分野に分類されますが、様々な材料設計に密接に関係しています。 5.水系コロイドの分析法の開発    環境への配慮から、多くの工業製品が水系へ転換している(例、塗料、インクなど)。しかし、水系コロイドの多くは凝集する性質を持ち、その分析手法は十分とはいえない。ここでは、既存の電気泳動法やレオロジーの計測手法を改良し、新規な分析法を構築する(実験、理論、シミュレーション)。

卒業生の進路実績 進学 筑波大学大学院(農学研究科、生命環境科学研究科、環境科学研究科、バイオシステム研究科、理工学研究科、システム情報工学研究科)、体育専門学群、九州大学、新潟大学   (大学院進学の基本形は生命環境科学研究科、生物圏資源科学専攻、持続環境学専攻です) 就職 研究職    大学教員:茨城大学、岩手大学、東京農業大学、  日本学術振興会特別研究員(東京大学、茨城大学、筑波大学(DC))、  農業工学研究所、国土総合研究所 公務員  農林水産省、茨城県 企業  日本ゼオン、国際航業、パシフィックコンサル、五洋建設、明和技研、荏原製作所、伊藤忠ソフトウエア、浜松ローム、東洋紡、ブリジストン 、 (本年度も修了予定者3名はすべて内定済み) 教育  常総学院、熊本有明高校 留学  ワーへニンゲン大学(オランダ)、ジュネーブ大学(スイス)

コロイド粒子の表面化学的性質 1μm以下の小さな粒子は表面積が膨大である コロイド粒子の表面は帯電している 表面化学的性質により、汚染物質を吸着濃縮する 環境変化に応じ、粒子は凝集したり分散したりする + + - + - - + + - + - + + - + - - +

DLVO理論(1945) (分散) 引力(凝集) + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 準平衡論的にコロイドの安定(分散)条件を予測 コロイド粒子の回りのイオン雰囲気が重なり合うとその部分のイオンの濃度が高くなり、浸透圧効果によって反発力が発生する。 DLVO理論(1945) + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + (分散) + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 水の流れ イオン雰囲気が発達しない場合にはコロイド粒子間の分子間引力により凝集する + + + + + + + + + + + + + + + 引力(凝集) + + + +