英文読解と語彙習得: 英語力、興味、タスクの影響

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英文読解と語彙習得: 英語力、興味、タスクの影響 英文読解と語彙習得: 英語力、興味、タスクの影響 研究の発端:語彙の少なさ→多読方式の授業→英文を読んで内容理解をしながら、語彙習得もできるのだろうか/どのようなテキストを選んだらよいのだろうか。   深谷 計子  聖路加看護大学看護学部 堀場裕紀江  神田外語大学大学院   日本テスト学会第5回大会 

背景 第二言語習得の関連先行研究 作動記憶モデル(Just & Carpenter, 1992) 作動記憶を運用する際、認知資源には容量制限がある テクスト理解:複数の層 (Kintsch 1998; Kintsch & van Dijk 1978) 表層記憶(言語情報) 命題テクストベース(文の基本的意味) 状況モデル(推論や背景知識を加味した理解) 読解=言語処理 × 内容情報処理(Gough, 1984) 第二言語習得の関連先行研究 ・ 読解と語彙力  (Qian, 2002) ・  読解と興味 (Pulido, 2004, 2007) ・ 読解と再生言語 (Donin &Silva, 1993)   作動記憶モデル 処理と保持とのトレードオフ : Carpenter and Justによればワーキングメモリを運用する際 の認知資源には容量制限があり、読解活動のような高次の活動 を成立させるために、情報の処理機能と保持機能への各配分量 を決定するためトレードオフ(trade-off)が行われていると 仮定される。 テクスト理解:複数層 

課題質問 英文読解中、内容理解と語彙習得は同時に起こるのだろうか。 1.テクストのトピックへの興味は、内容理解と語彙習得に影響を及ぼすだろうか。 2.英語力は内容理解と語彙習得に影響を及ぼすだろうか。 3.タスク(再生言語)は内容理解と語彙習得に影響を及ぼすだろうか。 4.興味、英語力、再生言語は相互に影響を及ぼすだろうか。

デザイン 説明変数 1) 英語力A(総合) TOEFL-ITP 2) 英語力B(語彙) VLT (Vocabulary Levels Test) 3) 興味 (看護 vs. 非看護) 4) タスク(再生言語) 記銘‐産出の言語 (日日 vs.日英 vs.英英) 5) テクスト (テクスト“Decision” vs. テクスト“Hope”) 従属変数 1)内容理解 再生テスト 2)語彙習得 4つの語彙習得テスト

研究協力者:看護大学生70 + 非看護大学生75 材料と手順 英語力テスト (総合) 内容理解テスト (再生テスト) 語彙習得テスト 英語力テスト(語彙) テクスト“Decision” “Hope”   の1つを 日日、日英、英英  の1つの条件で読み、再生。 TOEFL-ITP 4つの語彙習得テスト 文中の対象語15の ① 英訳 ② 文中の空欄埋め ③ 文中に出てきたか ④ 和訳 VLT TOEFL-ITP(団体向けTOEFLプログラム)は、文法と読解の部分のみを使用した。 内容理解テストでは、看護に関する内容の物語文を2種類(“Decision”-425語 24文; “Hope”-427語 28文)使った。参加者は再生言語について3条件(①日-日 ②日-英 ③英-英)のうちの1条件で1つの文を読み、内容を再生した。日-日条件は、英文を読む前に日本語での再生を指示し、日本語で再生させた。日-英条件は、日本語での再生を指示したが、読んだ後に英語で再生させ、英-英条件は、英語での再生を指示して英語で再生させた。 語彙習得テストは、15の対象語(医療関係の語)につき①英訳、②文中の空欄埋め、③文中にでてきたか判断 ④和訳の4つのサブテストを課した。このテストの一部として対象語が既知語であるか否か報告させ各人の対象語を決定した。その結果により対象語数は10-15語となった。 VLTは語彙のサイズを測るテストで2000語, 3000語, 5000語, academic word listレベルのテストを用いた。

Who Decides the Treatment Who Decides the Treatment? Michael Cantos, a 15-year-old who has recurrent *metastatic Ewing *sarcoma, has been hospitalized with fever and *neutropenia, common complications of his recent chemotherapy. Michael lives with his parents, two younger siblings, and his paternal grandmother. His parents and grandmother were born in the Philippines and emigrated to the United States about 30 years ago; all three of the Cantos children were born in this country. When Michael was first diagnosed, he was told that this type of cancer was aggressive and had already spread from the primary site in his *pelvis to his *bronchi and 下線のある語のうち、アステリスクのあるものは対象語で、ないものは錯乱語です。これらの語は英単語の頻出度が5000語以上のものを選んであります。

VLT (Vocabulary Levels Test) Nation 2000 birth dust being born operation game row winning sport victory

結果と考察 1.英語力:総合& 語彙 (興味別) 結果と考察 1.英語力:総合& 語彙  (興味別) 興味   (専攻) 英語力 総合 (TOEFL:%) 語彙 (VLT:%) 看護 (n=70) 65.7 (SD= 7.6) 67.5 (SD=14.9) 非看護 (n=75) 72.1 (SD=7.4) 77.0 (SD=13.2) 総合 語彙 英語力(総合+語彙):看護専攻 < 非看護専攻  総合 (F(1, 143) = 26.4, p<.001)においても語彙(F(1, 143) = 16.7, p<.001)においても非看護が看護より1%水準で有意に高かった。(一元配置分散分析) TOEFL-ITPでは非看護学生(M=72.1, SD=7.4)、看護学生(M=65.7, SD=7.6)、またVLTでは非看護学生(M=77.0, SD=13.2)、看護学生(M=67.5, SD=14.9)、となり非看護学生の方が看護学生より一般的な英語力と語彙力が高い結果が出た。 TOEFLとVLTの相関は.70(p<.001)。

2.内容理解 (再生テスト)  (分散分析) 再生テスト」の分析方法ですが、テクストの中身をいくつのイベントから成っているかを調べるイベント分析を行い、再生された文のイベント数を百分率で示しました。 「興味」、「再生言語」、「テクスト」を固定因子、「英語総合」と「英語語彙」を共変量とする共分散分析を行いました。 「興味」と「再生言語」の有意な交互作用がみられた(F (2,131) = 4.91, p<.01)ため、単純主効果の検定を行いました。

「興味」と「再生言語」 (F (2,131) = 4.91, p<.01) 2.内容理解 (再生テスト)  「興味」と「再生言語」 (F (2,131) = 4.91, p<.01) 「テクスト」 ( F(1, 131) = 85.09, p<.001) 「再生言語」 ( F(2, 131) = 25.82, p<.001) 単純主効果の検定で、 「テクスト」 と「再生言語」の単純主効果に0.1%水準で有意差が見られたが、「興味」の有意な主効果は見られなかった。 「興味」と「再生言語」 1→2への折れ線の傾きは看護が大きい。アウトプットが日本語と英語の差。 ・看護グループは再生言語のアウトプットが英語である日英、英英の条件で再生率が低くなり、日英より英英が低い。看護の英英グループは語彙力が低いので、初めから再生のために人名やその他の英単語を記憶しようと、 単語の記憶に認知資源を多く使い、内容理解への認知資源の配分が少なかった。非看護の英英グループでは語彙力があるので再生のために単語の記憶への認知資源の配分は少なく、内容理解に認知資源を配分できたので、日英と英英がほとんど同じ結果になった。 非看護は2つのテクストにおいてアウトプットが日本語か英語かでの差が見られるのみ。英語でアウトプットする予定でも語彙力があり、英単語を覚える必要はないために認知資源を内容理解に向けた結果、日英と英英における内容理解に差が見られなかったと考えられる。

2. 1. 内容理解 (再生テスト)(%):テクスト 興味 テクスト 全体 看護 42.9 24.8 33.3 非看護 43.0 23.1 2. 1. 内容理解 (再生テスト)(%):テクスト 興味 テクスト “Decision“ (n=70) “Hope“ (n=75) 全体 看護 42.9 (SD=23.0) 24.8 (SD=13.2) 33.3 (SD=20.5) 非看護 43.0 (SD=19.3) 23.1 (SD=13.0) 32.9 (SD=19.1) (SD=21.0) 23.9 33.1 (SD=19.7) テクストについてみると、 “Decision” (M = 43.0, SD = 21.0)が “Hope” (M = 23.9, SD = 13.0)より再生率が高かった。

2.2. 内容理解 (再生テスト)(%):再生言語 2.2. 内容理解 (再生テスト)(%):再生言語 興味 再生言語 日日 日英 英英 看護 M=48.8 (SD=22.0) n=24 M=27.8 (SD=16.1) n=23 M=22.8 (SD=11.9) 非看護 M=40.2 (SD=18.4) n=25 M=29.4 (SD=20.0) M=29.2 (SD=17.5) 全体 M=44.4 (SD=20.5) n=49 M=28.6 (SD=18.1) n=48 M=26.1 (SD=15.3) 「再生言語」では、日-日は日-英、英-英より有意に高かった(F(2, 142) = 14.7, p<.001)が日-英、英-英間には有意差は見られなかった。 英文での産出は理解したことすべてを伝えられない。 また「再生テスト」と「TOEFL」、「VL」との間には共に低い正の相関が認められた( r = .35, p<.01; r = .31, p<.01)。以上の結果から、英語力の低い看護学生は、英語力の高い非看護学生と同等の再生テスト結果を得たことが分かり、L2学習者の文章読解再生は、英語力によって影響を受けるものの、トピックへの興味が文章理解再生を促進し、英語力によるハンディをある程度補うのではないかと考えられる。 多重比較 従属変数: 内容理解(再生) Bonferroni (I) 日日・日英・英英 (J) 日日・日英・英英 平均値の差 (I-J) 標準誤差 有意確率 95% 信頼区間 1 2 15.80(*) 3.673 .000 6.91 24.70 3 18.30(*) 3.673 .000 9.41 27.20 2 1 -15.80(*) 3.673 .000 -24.70 -6.91 3 2.50 3.692 1.000 -6.44 11.44 3 1 -18.30(*) 3.673 .000 -27.20 -9.41 2 -2.50 3.692 1.000 -11.44 6.44 観測された平均に基づく。 * 平均値の差は .05 水準で有意です。

3.語彙習得 4つの語彙習得テストの合計点を総語彙習得として表示。 4つの語彙習得テスト間は「英訳」、「空欄埋め」、「和訳」間には.66~.74の相関が見られたが、「文中に出てきたか」と他の3つのテストの相関は.38と低い。 語彙習得を測定する場合、どの局面を測定の対象とするかで結果に大きな差が出てくる。この表から総語彙習得の数値が4つのテストとの相関が高いので、この数値を今回の研究における語彙習得の測定値とする。(抄録では「英日」を使用) 英語力(総合)と「文中に出てきたか」は、r=.17(p<.05)以外相関なし。 英語力(語彙)は「英訳」以外の語彙習得テストと低い相関が認められた。 内容理解(再生テスト)と4つの語彙習得テストとの間に相関は見られなかった。 以上の結果から、文中語彙の習得には、語彙力は影響するが、テクスト内容理解との相関はないと考えられる。

3.語彙習得 総語彙習得を従属変数、「興味」「再生言語」「テクスト」を固定因子、「英語力(総合)]「英語力(語彙)」を共変量として共分散分析を行った。 「テクスト」「再生言語」「興味」「英語力(語彙)」が有意であった。抄録では「和訳」での得点で分析したので、「興味」が入らなかった。

3.語彙習得 再生言語 英英は他の2条件より1%水準で有意に高かった。

結論 →内容理解:興味と再生言語の交互作用(日日◎、日英・英英△) 語彙習得:影響あり →内容理解:総合・語彙の両方の影響 1.興味は、内容理解と語彙習得に影響を及ぼすか。 →内容理解:興味と再生言語の交互作用(日日◎、日英・英英△)    語彙習得:影響あり 2.英語力(総合・語彙)は? →内容理解:総合・語彙の両方の影響     語彙習得:語彙の影響 3.タスク(再生言語)は? →内容理解:興味との交互作用(日日◎)     語彙習得:英英◎ 4.興味・英語力・タスクは相互に影響を及ぼすか。 →内容理解  日日: (興味+)(英語力-) > (興味-)(英語力+)             英英:  (興味+)(英語力-) < (興味-)(英語力+)     語彙習得       (興味+)(英語力-) > (興味-)(英語力+) 1.内容理解テストに興味と再生言語の交互作用が見られた。再生言語が日本語の場合は興味の影響が大きいが、再生言語が英語の場合は興味の影響は小さい、あるいは逆転する。語彙習得では興味の影響が見られた。 2.英語力(語彙)は内容理解にも語彙習得にも影響を及ぼす。語彙力が大きいほど内容理解も語彙習得も進む。語彙習得には英語力(総合)の影響はなく、語彙力の影響のみ見られた。 3.タスク(再生言語)は内容理解においては興味と交互作用があった。日日が他の2つの条件に比べて有意に高かった。語彙習得では英英の条件が他の2条件より有意に高かった。 4.英語力(総合・語彙)が高いと内容理解も高く、語彙力が高いと語彙習得も高い。しかし、英語力の低い看護グループでも興味のあるテクストを読む場合には、内容理解で日日条件では、興味はないが英語力の高い非看護グループより高い得点であったが英英条件では低くなった。 また、一般の語彙力が高いと語彙習得も高いが、語彙力の高い非看護グループより、語彙力の低い看護グループが語彙習得が高いという結果になった。

読解中、内容理解と語彙習得は同時に起こるか? 日日:内容理解◎、語彙習得△ 内容理解と語彙習得の相関なし(r=-.01, n.s.) よって、 内容理解と語彙習得は平行して起こるとは言えない。 内容理解の高かった日日のタスクでは語彙習得が低く、内容理解と語彙習得の間に相関関係がなかったことから、内容理解と語彙習得は同時に平行して起こらないと考えられる。これは、文章を読んで再生するという学習タスクの中で、学習者がどの程度の認知資源をどのような情報(言語か内容か)の処理にどのように配分するかによって、テクスト内容理解と文中言語習得がどのくらい起こるのかが異なるからであろう。このことから、英文を読む場合、初めは内容理解しようと読み、次に語彙習得を目指して読むという読み方が望ましいと言える。