Pb添加された[Ca2CoO3]0.62CoO2の結晶構造と熱電特性

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Pb添加された[Ca2CoO3]0.62CoO2の結晶構造と熱電特性 横国大工 ○五味奈津子、田中紀壮、中津川博  TEL : 045-339-3854 E-mail : naka@ynu.ac.jp 研究背景 変調構造 Ca2CoO3層のCo-O間距離  p型熱電変換材料として期待されている[Ca2CoO3]0.62CoO2は、異なるb軸の長さを持つ伝導層CoO2層とRS層の[Ca2CoO3]CoO2層からなる複合結晶である。RS層は、中心がCo-O層で外側2つがCa-O層の3層からなる岩塩型構造を形成している。更に、CoO2層の対称性C2/mと、[Ca2CoO3]CoO2層の対称性C21/mの違いにより、両者の間には大きな変調構造が観測される。  これまでに、そのRS層中のCaまたはCoにイオン半径が近く、価数が同じになるSrやBiを添加させることで、結晶構造が変化し、熱電特性が改善されることが研究されてきた。そこで本研究では、イオン半径がCaに近く、価数が同じになるPbをCaO層に添加させることで結晶構造を変化させ熱電性能を改善させることができるかを調べた。 x = 0.03 x = 0.02 x = 0.04 変調 実験方法 [(Ca1‐xPbx)2CoO3]0.62CoO2 (0.02 ≦ x ≦ 0.06) の合成方法  1. 原料粉末CaCO3 ・ Co3O4 ・ PbOの湿式混合    2. 大気中920℃で12時間仮焼 (固相反応法)  3. 大気中920℃24時間焼結 (固相反応法)       4. 酸素雰囲気中700℃で12時間アニーリング 測定方法 粉末X線回折測定 ・ 抵抗率測定 ・ 熱起電力測定 ・ 磁化率測定(SQUID MPMS) CoO2層のCo-O間距離 x = 0.02 x = 0.03 x = 0.04 緩和 熱電特性 ρ・α 抵抗率の温度依存性 熱起電力の温度依存性 23 mΩcm 128 μV/K   Ca2CoO3層とCoO2層の変調構造を示す。ここで、両層位相差を表す第4の座標 t’の周期関数として 変調波:                           は、フーリエ級数の展開(2次まで)で表現される。 原子間距離計算にはPRJMS、変調波の作図にはMODPLTを用いて解析を行った。   Ca2CoO3層のCo-O間距離は、x = 0.03 から  x = 0.04 にかけて大きな変調を示し、0.04以上の試料で変調増加している。さらに、CoO2層のCo-O間距離は、x = 0.03で変調の緩和が見られる。  これらのCo-O間の変調は、抵抗率の増減と関係していることが伺える。例えば、CoO2層での緩和が見られる x = 0.03で抵抗率は最小であり、 Ca2CoO3層の変調増加が見られる x ≧ 0.04の試料の抵抗率は増加している。このことは、Sr置換試料で、 Sr置換によりCoO2層が緩和、抵抗率減少。Bi置換試料では、CoO2層の変調に加えCa2CoO3層の緩和が表れ、抵抗率の減少が見られていることからも判断できる。さらに、抵抗率が減少するSr置換試料の格子定数cより、抵抗率が増加するPb置換試料の格子定数cの方が大きいことからも Ca2CoO3層の変調増加が抵抗率増加の原因となっていることがわかる。 磁化率 χ T(K) Χ-1mol(Co)/emu) 磁化率のfitting x = 0.02 H = 1 T Co1 Co2 置換量増加 @ 300 K non dope ρ = 15 mΩcm α = 130 μV/K Sr dope ρ 減少 α 減少 Bi dope ρ 増加 α 増加 ρ = 24 mΩcm α = 170 μV/K Pb dope (x ≧ 0.04) α 一定  ρ = 23 mΩcm ( x = 0.03) α = 128 μV/K Tg=18K x = 0.02 x = 0.03 x = 0.04 x = 0.05 x = 0.06 χ(10-3emu/mol(Co)) T(K) 磁化率の温度依存性(T ≦30) H = 10 Oe FC ZFC Co3.3+  抵抗率測定では、全試料が金属的挙動を示した。x = 0.04 以上の試料では、Pbの置換量を増加していくにつれ抵抗率が増加する傾向が見られた。Pb置換した試料の室温での抵抗率の最小値は、x = 0.03のとき  ρ = 23 mΩcmであり、置換していない試料に比べ増加している。  熱起電力は全試料でほぼ同じ挙動を示した。x = 0.03は室温でα = 128 μV/K の値得を示し、置換していない試料の熱起電力の値よりわずかな減少が見られた。また、Pbの置換量を増加しても値は変化しなかった。 Miyazaki 等による研究では、Sr置換した試料は置換量増加に伴い抵抗率ρの減少、Bi置換試料では熱起電力αが増加する熱電性能の改善が見られた。 それぞれの出力因子α2/ρ は室温で 1.1×10-3 m W/K2㎝、 1.2 ×10-3 m W/K2㎝ であった。                 本実験でのPb置換試料の出力因子は、ρの増加により室温で 7.1 ×10-3 m W/K2 と小さい値となった。しかしながら、これまでの試料では置換量の増加に伴い、抵抗率と熱起電力の双方が変化していたのに対し、Pb置換の試料は抵抗率のみが変化し、熱起電力は不変であった。 Co3.4+ CCo1 : Co1のCurie定数  CCo2 : Co2のCurie定数  Tc = 18 K CCo1 = 0.08 emu K/ mol CCo2 = 0.13 emu K/mol 平均形式価数  Co1 : Co3.3+  (Co4+ 0.3 Co3+ 0.7)  Co2 : Co3.4+ (Co4+ 0.4 Co3+ 0.6)  全試料においてスピングラス温度Tg = 18 Kとなり、Tgは置換量増加に対し不変であった。また、T < Tg で磁化率は、 スピングラス的な挙動を示した。Bi置換試料では、Tgは置換量増加に伴い高温側への移動が見られ、Co形式価数にも変化が見られる。Pb置換試料では、Co形式価数がCoO2層/Ca2CoO3層でそれぞれCo3.3+ / Co3.4+と一定であり、Bi置換試料で熱起電力αが増加したのに対して、Pb置換試料では熱起電力αは不変であった。 結晶構造 格子定数 Ca O Co Pb2+ a 減少@x増加 b 一定@x増加 c 増加 @x増加 Ca2CoO3層 CoO2層 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 4.5 4.6 4.7 4.8 4.9 10.7 10.8 10.9 11 11.1 x a b RS c Sr dope C(Å) a , bRS(Å) 結論 ◎複合結晶[Ca2CoO3]0.62CoO2について、その抵抗率ρを支配しているのはCoO2層及びCa2CoO3層の変調構造であり、これらの変調構造が増加すると抵抗率ρは増加する。Pb置換試料では x ≧ 0.04 でCa2CoO3層の変調構造が増加し抵抗率ρが増加した。  ◎熱起電力αは、RS層中のCoイオンの形式価数により決定されると思われる。価数が減少すると熱起電力αが増加する。Pb置換試料ではCoイオン形式価数が一定で熱起電力αも一定であった。 ◎Ca2CoO3層のCaサイトにPb置換することで熱起電力αを一定にすることが可能となった。抵抗率ρを増加させるSrと共に置換させることで、更なる熱電特性の改善が予想される。  構造解析にはPREMOS (http://www.nims.go.jp/aperiodic/yamamoto/index.html) を用いた。  Sr置換試料で置換量増加に対し全ての格子定数が増加しているのに対し、Pb置換試料は、格子定数aで減少、格子定数bで一定、格子定数cで増加する傾向が見られた。