明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当:神谷 正太郎、田口 友美 B 明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当:神谷 正太郎、田口 友美
原価計算システムと原価配賦 原価計算システム 製品、サービス、顧客などの原価対象のコストを算定するために用いる技法 コストを集計・分類して、原価対象に割り当てる その目的 特定の製品・サービスの設計、開発、生産(購買)、販売、流通、サービスに要するコストを測定すること 原価配賦 コストを製品、部門、顧客層、活動、事業部などの原価対象に結びつけること 原価配賦は原価計算システムの核心 コストプール 単一のコストドライバーを用いて原価対象に配賦されるコスト項目の集合 例えば、建設賃借料、公共料金、守衛サービスのコストは、すべて占有面積に基づいて配賦するので、同じコストプールに集計する
原価配賦のイメージ 1.原価集計 2.原価配賦 A.部門(原価対象)への 配賦 B.製品(原価対象)への 配賦 材料費 加工部門 仕上部門 原価配賦のイメージ 1.原価集計 2.原価配賦 A.部門(原価対象)への 配賦 B.製品(原価対象)への 配賦 材料費 加工部門 仕上部門 棚 棚 机 机 テーブル テーブル
配賦の4つの目的 計画とコントロールの意思決定の経済的影響を予測するため 組織単位のマネージャーは、組織単位外に対するものも含めて、意思決定のあらゆる帰結を知るべきである 望ましいモチベーションを得るため サービスのコストを上回る便益を確保するようにマネージャーを動機づける 利益と資産評価額を計算するため 棚卸資産価額と売上原価を測定するために、コストを製品とプロジェクトに配賦する コストの根拠を示し回収するため 価格は直接的にコストに基づくことがある
配賦の4つの目的(続き) 上の2つの目的は計画とコントロールにおける配賦の利用法 下の2つの目的は棚卸資産評価目的と価格決定目的では、どのように原価配賦が異なるのかを示している あくまで4つの目的すべてを同時に達成するのは理想 ほとんどのマネージャーや会計担当者は、そのような理想的なコストは存在しないという
3種類の配賦 関連する組織単位へのコストの配賦 直接費は組織単位に物理的に跡づけ、複数の組織単位が共通して利用するコストはコストドライバー活動に基づいて配賦する 例:賃借料は占有面積に基づいて各部門に配賦する ある組織単位から別の組織単位へのコストの再配賦 ある組織単位が製品・サービスを別の組織単位に供給する場合、製品・サービスと共にコストを振り替える 補助部門(人事部門、事業会社の法務部門など)は、他の部門を支援するために存在するので、そのコストはすべて再配賦する 組織単位や活動のコストの製品・サービスへの配賦 例:病院の小児科はコストを外来患者に配賦する、公認会計士事務所の税務部門はクライアントに配賦する
補助部門費の配賦① 補助部門費の望ましい指針 1.各補助部門について、予算を用いて業績を評価する。予算を用いれば、配賦で利用するための変動費プールと固定費プールを明らかにすることができる 2.変動費プールと固定費プールを別々に配賦する 3.サービスを提供する前に原価配賦方法の一部または全部を決める
補助部門費の配賦②~ある大学の例~ 経営学部と工学部にサービスを提供する大学のコンピュータ部門の例を考える 問題 メインフレームコンピュータは5年リースで取得しており、高い違約金を支払わなければ解約できない。配賦には主に2つの目的があるとしよう。①コンピュータ利用の経済的影響を予測すること、②コンピュータの能力を活用するように部門と個人を動機づけることである。コンピュータ部門費(給与、減価償却費、電力料、材料費など)は利用部門にどのように配賦すべきか。
補助部門費の配賦③~ある大学の例~ 第1の指針を適用するには、コンピュータ部門費を詳細に分析する必要がある コンピュータ部門の主要な活動は、コンピュータ処理である 消費した資源には、処理時間、オペレータ時間、コンサルティング時間、電力、材料、建物スペースがある コストビヘイビアを分析した結果、次年度の予算は、固定費が月間$100,000、変動費がコンピュータ時間あたり$200であったとする 次に指針2と3を取り上げる
補助部門費の配賦④~ある大学の例~ 変動費プールのコストドライバーは、コンピュータの利用時間である。従って、変動費は次のように配賦する 予算変動費率×実際のコンピュータ利用時間 補助部門の変動費を配賦するにあたって、実際率ではなく、予算率を用いることによって、利用部門に価格変動の影響が及ぶことを回避できると同時に、補助部門の非効率性の影響を排除できる コンピュータを600時間利用する部門への変動費の配賦を考える コンピュータ部門の変動費 予算では600時間×$200=$120,000となる ところがコンピュータ部門の非効率のために、実際には$140,000であったとする
補助部門費の配賦⑤~ある大学の例~ 優れた原価配賦の仕組みでは、利用部門には$120,000だけを配賦し、$20,000については配賦しないで、コンピュータ部門に不利な予算差異として残すことになる この方法によれば、$20,000の差異についてはコンピュータ部門のマネージャーが責任を持つことになり、利用部門のマネージャーの不満を抑えることができる 利用部門のマネージャーは、コストドライバーの選択よりも、配賦の不確実性と補助部門における管理のまずさに不満をもらすことがある 補助部門のマネージャーが予算責任を持ち、利用部門への配賦額から短期的な価格変動や非効率性の影響が排除されていれば、こうした不満は生じないだろう
補助部門費の配賦⑥~ある大学の例~ 固定費プールのコストドライバーはコンピュータ設備の取得時における必要キャパシティ量である。従って、固定費は次のように配賦する 予算キャパシティ利用割合×予算固定費総額 例 学生部長は、当初、長期平均的月間利用量について、経営学部は210時間、工学部は490時間、合計700時間と予測していたとしよう。固定コストプールは次のように配賦される $100,000×210/700(=30%)=$30,000(経営学部) $100,000×490/700(=70%)=$70,000(工学部) この予定総額アプローチは、月間の実際の利用量ではなく、ユーザーにとって利用可能な長期キャパシティに基づいている その理由は? 固定費の大きさは、総利用量と相対的な利用割合に関する長期計画によって決まるのであって、実際利用量と相対的利用割合の短期的変動によって決まるわけではないから 利点は? ある利用部門への短期的な配賦額が他の利用部門における実際利用量によって影響を受けないこと 短期・長期のサービス需要に関して望ましい動機づけ効果をもつ
補助部門費の配賦⑦~ある大学の例~ 実務では、固定費プールについて、キャパシティの利用可能量ではなく、利用量に基づいて配賦していることが多い 月末に、実際コスト総額を各利用部門の実際利用時間に応じて配賦する。経営学部は200時間、工学部は400時間を利用したとして、配賦額を比べてみよう コスト発生額:$100,000+(600×$200)=$220,000 経営学部:200/600×$220,000=$73,333 工学部:400/600×$220,000=$146,667 配賦額合計:$220,000
補助部門費の配賦⑧~ある大学の例~ 翌月において、経営学部は100時間しか利用せず、工学部は400時間のままであったらどうなるか コスト発生額:$100,000+(500×$200)=$200,000 経営学部:100/500×$200,000=$40,000 工学部:400/500×$200,000=$160,000 配賦額合計:$200,000 工学部では何の変化もなかったのに、$13,333も多いコストを負担することになる 固定費について、配賦額が各利用部門の実際利用量に応じて大きく変化してしまうような配賦方法をとったため この欠点を克服するには、予算利用量に基づいて予算固定費総額を配賦する方法にすればよい
一括配賦による問題 固定費を長期計画に基づいて配賦すると、利用者は計画利用量を過小に見積もることでコスト配賦額を抑えようとする傾向がみられる トップマネジメントは、予測のモニターやフォローアップ、フィードバックを利用して、将来の予測をより信頼できるものにすることで、こうした傾向をに対抗できる
本社費の配賦 本社費 社長の給料、PR、法務、税務、全社広告、基礎研究など 本社費の配賦は会計的な観点からは必要ではないし、経営情報としても役に立たない しかし、ほとんどのマネージャーは、すべてのマネージャーが同じように公正に扱われている限りは、本社費を避けられないものとして受け入れている 本社サービスのコストドライバーとしては、可能であれば、利用量が望ましい しかし、PR、本社経営陣の間接費、不動産部門などのサービスに要するコストを利用量に基づいて配賦することは難しい データ処理、広告、オペレーションリサーチなどについては利用量を用いることができそうである 本社費を利用量に基づいて配賦している企業では不満が少ない傾向にある しかし、利用量に基づく配賦は経済的に実行可能でないこともある
本社費の配賦(続き) 多くの本社費は、因果関係に基づいて配賦するのが難しい そのため、各事業部の売上高、売上原価、総資産額、総原価などをコストドライバーとしている企業もある
予算売上高を利用した配賦 予算売上高を基準として、固定全社広告費$100を2つの営業地域に配賦するとしよう A B 計 % 予算売上高 $500 $500 $1,000 100 本社広告費配賦額 $50 $50 $100 10 実際売上高が次の通りであったとして、両者の違いを考えてみよう A B 実際売上高 $300 $600 全社広告費 1.予算売上高に基づく配賦額 $50 $50 2.実際売上高に基づく配賦額 $33 $67
予算売上高を利用した配賦(続き) 1と2の配賦を比べれば、配賦1のほうが望ましいといえる 理由は? A地域では広告費の割に売上高が低いことがわかるから これに対し、配賦2によると、結果を出したB地域には多くの広告費を配賦し、あまり成功しなかったA地域の配賦額は軽減されてしまう これは、ある利用部門へのコスト配賦が別の利用部門の活動に依存している場合に生じる分析上の混乱の例である よって、本社費を売上高に基づいて配賦する場合には、実際売上高でなく予算売上高を利用するほうが望ましい
相互提供サービス 補助部門は、製造部門だけでなく、ほかの補助部門へもサービスを提供することが多い 例 あるメーカーには鋳造部門と仕上げ部門という2つの製造部門と、施設管理部門と人事部門という2つの補助部門があるとしよう。補助部門の全コストは単一のコストドライバーによって引き起こされ、それに比例して変化すると仮定されている。同社では、施設管理部門費は占有面積、人事部門費は従業員数が最善のコストドライバーであると判断した。図12-2は、各部門の直接費、占有面積、従業員数を示す。施設管理部門は、製造部門に加えて、人事部門にもサービスを提供しており、人事部門も、製造部門に加えて、施設管理部門の従業員も支援していることに注意しよう。 このような場合に補助部門費を配賦するには、2つの方法がある 直接配賦法 階梯式配賦法
イメージ図 施設管理部門 人事部門 製造部門
図12-2 コストドライバー 施設管理部門 人事部門 鋳造部門 仕上部門 図12-2 コストドライバー 施設管理部門 人事部門 鋳造部門 仕上部門 直接費 126,000 24,000 100,000 160,000 占有面積 3,000 9,000 15,000 3,000 従業員数 20 30 80 320 直接労働時間 2,100 10,000 機械作業時間 30,000 5,400
直接配賦法 名前の通り、収益獲得部門に補助部門費を配賦するに当たって、他の補助部門を無視する方法 製造部門の占有面積合計:15,000+3,000=18,000 鋳造部門への施設管理部門費配賦額 =(15,000÷18,000)×$126,000=$105,000 仕上部門への施設管理部門費配賦額 =(3,000÷18,000)×$126,000=$21,000 同様に、人事部門費は従業員数に基づいて製造部門だけに配賦する 製造部門の従業員数合計=80+320=400 鋳造部門への人事部門費配賦額=(80÷400)×$24,000=$48,000 仕上部門への人事部門費配賦額=(320÷400)×$24,000=$19,200
階梯式配賦法 補助部門は製造部門に加えて他の補助部門の活動も支援していることを考慮する方法 通常、最も多くのサービスを最も多数の他の補助部門に提供している補助部門を優先する 施設管理部門 人事部門 鋳造部門 仕上部門 合計 配賦前直接費 $126,000 $24,000 $100,000 $160,000 $410,000 Step1 施設管理部門 $(126,000) $42,000 $70,000 $14,000 Step2 人事部門 $(66,000) $13,200 $52,800 配賦後合計 $ 0 $ 0 $183,200 $226,800 $410,000 (9÷27)×$126,000=$42,000 (15÷27)×$126,000=$70,000 (3÷27)×$126,000=$14,000 (80÷400)×$66,000=$13,200 (320÷400)×$66,000=$52,800
両方法の比較 直接配賦法を利用した場合 鋳造部門は遥かに費用のかかる業務に見える 階梯式配賦法を利用する場合 仕上部門に費用がかかっているように見える どちらが優れているか? 一般的には階梯式配賦法 なぜか? 補助部門が他の補助部門に提供した重要な支援の影響を考慮しているから(直接配賦法では因果関係を無視) では直接配賦法の存在意義は? 利点=簡便さ どちらの方法によっても結果がそれほど違わなければ、多くの企業は直接配賦法を選択する
最終的な原価対象への原価配賦 最終的な原価対象 製品、サービス、顧客など 原価配分 収益を生み出す製品・サービスへの全部門費の配賦 最後に 伝統的アプローチ まず部門内でコストを集計し、次いで製造部門へ配賦し、最後に製品、サービス、顧客に配賦する 部門などの組織単位への原価集計に着目 ABC 製品・サービスを生産するために必要な活動を明らかにし、活動を遂行するために利用した資源のコストを集計する 主要な活動への原価集計に着目