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生命科学の規制 講義その 18 本講義に関する追加の情報は、以下のスライドに設けられた右の各リンクボタンより参照可能です。 追加情報

1. 目次 文献レビュー 合成ゲノム科学の規制 バイオセキュリティ国家科学諮問員会 (NSABB)による提言 危険な病原体の管理 スライド 2 - 10 合成ゲノム科学の規制 スライド 11 - 15 バイオセキュリティ国家科学諮問員会 (NSABB)による提言 スライド 16 - 18 危険な病原体の管理 スライド 19 - 20 注釈:本講義の目的は、科学研究の敵対的な不正利用の危険を削減するために生命科学コミュニティーは何ができるかについて、現在行われている議論を受講者に紹介することである。ここでは研究及び公表過程に関する規制に注目する。

2. 文献レビュー (i) デュアルユース研究に伴う危険の最小化: 体系的文献レビュー 「メドライン(MEDLINE)データベースを用い、生物兵器防衛もしくはデュアルユースジレンマに関する倫理の役割を検討した研究の検索が行われた。全ての検索基準を満たす10の論文が特定され、慎重な検討と分析が行われた。」 注釈: 最初の文献レビューはメドラインを使用し広範囲な検索が行われた。Mararita Dolgitser(2007 )により実施され、きわめて興味深いいくつかの結論が得られた。「生物兵器防衛」はここで安全保障の専門分野で通常使用される場合より広い意味(生命科学の不正利用の防止を含む)で使われている。 追加情報

3.文献レビュー (ii) 体系的文献レビュー 「生命科学分野の査読付論文において、科学研究に伴う潜在的危害の最小化のために、最も多く示唆された戦略は、科学コミュニティーによる任意の自己規制、次に科学コミュニティにおける安全保障措置の強化、 国際協力、そして最後に、専門家のための生物兵器防衛教育の強化。(逆に)論文の1つは、安全保障措置の軽減が科学コミュニティーによる透明性の高い審査とコミュニティ内における自己規制の強化に繋がり、デュアルユース生物テロの危険を最小化をもたらすと考えた。」 注釈: ここで我々が確認できることは、例えばデュアルユース上の危険の抑制のための政府による新たな法・規制の導入よりは、自己の活動に関して生命科学者コミュニティーが自立的な規制を実施できるこを非常に明白に望んでいる点である。

4.文献レビュー (iii) 「自己規制、すなわちボトムアップ的手法を提言する論文の中でも、その規制の実施方法については意見が大きく異なっている。 また、多くの論文が安全保障措置の強化、すなわちトップダウン的手法の採用を提言した。ここで提案された安全保障措置の領域は広く、一方では実験室における物理的安全措置から、他方で学生及び教職の厳しい身元調査、並びに 情報・知識の入手規制を含む。」 注釈:我々がここで確認できることは、これまでに(科学コミュニティーにより)繰り返された本質的な議論がおそらく反映されていない点である。共通の理解が生まれつつあるというよりはむしろ、ボトムアップ的手法かもしくはトップダウン的手法かという点でまず多くの異なる見解が存在しているだけではなく、またさらにトップダウン・ボトムアップのそれぞれの手法の下で、具体的にどの様な措置が講じられるべきかという点においても広く合意された見解が見当たらない。

5.文献レビュー (iv) 「自己規制と安全保障措置の強化に次いで、生物兵器防衛のために多く提言された項目は、国際協力そして生物兵器防衛の強化であった。この提案の中心はまず何よりも生命倫理のあり方に関する国際的な合意を達成することであった。その他の論文はデュアルユース研究を規制するための国際法及び国際的枠組みの必要性を主張していた。」 注釈:ここで再び、現在行われている議論があまり発展していないことを指摘するのは合理的なことである。例えば、これまでの講義で紹介したように、現代生物学の不正利用を予防するための国際協力について、事実に基づいた議論をしようとするならば、生物毒素兵器禁止条約を詳細に理解することが必要であろう。

6.文献レビュー (v) 「多くの論文が上記に挙げられた各措置を併用する形で潜在的危険に対する予防を展開することを提案した。教育の強化は国際協力と安全保障措置の強化の両方に資することから、各措置の強化がその他の措置の強化に繋がることが容易に確認できる。予防の強化に向けて多くの措置を連携させて利用することが示唆された。」 注釈:これは重要な考えであり、例えば赤十字国際委員会(ICRC)は多面的な「予防の包囲網」という概念を発展させた。政策網の発展は本講義シリーズの最終講義その21の主題である。本スライドに列挙された要点よりはるかに進んだ概念となっている。

7.文献レビュー (vi) 「合成生命科学は『デュアルユース』技術の典型例であり、より大きな効用のために使用される反面、深刻な危害を引き起こす非道な目的にも利用できる。2002年にポリオウイルスの化学合成に関する研究結果が公表された際、多くの者が、同様の技術が天然痘の合成にまで使用できるとは考えなかった。しかし、技術の急速な進歩に伴い、現在では遺伝子配列情報のみからの天然痘ウイルス合成が可能であり、テロリストは元になるウイルスを獲得する必要が無くなった。」 注釈:Gabrielle Samuelら(2009)によるより広範囲な文献レビューは、彼らが合成生命科学とよぶ(合成ゲノミクスや合成生物学を含むと考えられる)研究分野の管理の難しさを集中的に扱っている。 この2009年のレビューによれば、彼らのいう「最悪の生物兵器」のひとつである天然痘を例にとって示したように、敵対的不正使用の重大な危険があることに疑いの余地はない。 追加情報

8.文献レビュー (vii) 「合成生命科学に対して一定の規制が必要であるという点においては議論の余地は殆ど無い。 しかしながら、正確に何が規制されるべきであるのか、どのような規制の枠組みが実施されるべきであるのか、そしてどのような形の統治構造が必要であるかといった問題は、さらなる議論を必要としている。多くの場面において科学者は、自己規制、または少なくともボトムアップ的な手法や法的拘束力の無い枠組みを望んでいることが明らかである。」 注釈:何が最もなされるべきかという詳細に関して合意が欠如していることを我々はここで再び確認できるが、生命科学者コミュニティーによるボトムアップ式の自己統治が明白に望まれている。

9.文献レビュー (viii) 「自己統治に懐疑的な識者はそれを不十分であるとして退ける。彼らは、合成生命科学に伴う危険は深刻であり、研究及び研究者も厳しい規制の対象となるべきであると主張する。彼らは、自己統治により、統治するものがその規制の恩恵を享受できることは不適切であると主張する。代わりに彼らは、研究・公表行為に関して政府の統制によるトップダウン式の統治を支持する。」 注釈:本スライドの提案は、殆どの現職の生命科学者にとって受け入れがたい潜在的な代替案であるが、問題が慎重に議論されない場合や新たな生物学的攻撃が発生した場合、容易に浮上する内容であることが予測される。しかし、ボトムアップ的手法とトップダウン式の手法の利点を統合する形で、科学の自由を担保できる方法は存在する。Miller and Selgelid (2007)の論文においてこの考えが紹介されている。 Ref: Miller,S., and Selgelid, M. J. (2007) Ethical and Philosophical Consideration of the Dual-use Dilemma in the Biological Sciences. Science and Engineering Ethics, 13, 523 - 580. Available from http://www.springerlink.com/content/n514272v537582vv/

10.文献レビュー (ix) 「合成生命科学は突如現れ、その潜在的有用性と不正利用の危険性が科学コミュニティー及び関係当局に驚きを与えた。これはいかに科学が急速に進歩するかという事実を説明するだけではなく、科学の進む方向を予測することがいかに困難であるかを示している。 しかしながらより重要なことに、科学は道徳的、社会的、法的議論を置いてきぼりにして進んでしまい、それがどのように規制され統制されるべきであるかについて、不確実な状態を引き起こすということを再認識させてくれる。」 注釈:このスライドの引用はSamuelら(2007)の論文の結論部によるものであり、生命科学コミュニティー内においてこれらの問題に関する議論がそれほど進んでいないことに我々は驚くべきではなく、生命科学における革命的進歩に伴い(潜在的デュアルユース上の危険に関して)更なる驚異的変化を我々は想定する必要がある。本講義の後半は合成ゲノミクス研究を手始めに科学研究の管理にむけた異なる見解に注目する。

11. 合成ゲノム科学の規制 (i) 「我々は主要な3つの政策介入点を定義する。 合成DNA (オリゴヌクレオチド、 遺伝子もしくは遺伝情報)を使用者に販売する企業 独自のDNAの生産が可能な『卓上』 DNA合成装置の保有者 合成DNAの使用者(消費者)と彼らの支援・監督機関」 注釈:2007年度、米国において合成生物学に関わった幾らかの科学者及び政策担当者は当該分野の科学研究の潜在的な不正利用に懸念を示し、その危険を減少するために講じられるべき措置に関する報告書を公表した。本報告書は政策的介入に関する3つの主要事項を定義し、異なる場面において応用可能な一連の政策を提示した。本報告書は問題領域を十分に取り扱っていないとして批判を受けることとなったが、自分たちの研究成果を不正利用から守るための新たな政策を発展させる目的で、生命科学分野の専門家がその経験によって貢献できることを確かに示した。 追加情報

12. 合成ゲノム科学の規制 (ii) 企業に関する選択肢 「発注内容をスクリーニングするために、認可されたソフトウェアを使用することを義務づける 企業に合成DNAを発注する者は、所属研究機関のバイオセーフティー監督官から許可を与えられた者であることを義務づける 企業による認可ソフトの使用と合成DNA使用者の認証の両方を義務づける 企業に顧客とその発注内容の情報を保存することを義務づける」 注釈:政策的介入の第一点目は商社であり、この報告書においては幾つかの段階的に厳格になる選択肢が考案され、それらはリスク減少の効用と政策実施のコストに関する分析の対象となった。例えば認可されたソフトウェアーの使用は、危険な遺伝子情報の一部を購入しようとする者を明らかに抑止できる可能性がある。同様の過程は次のスライドでも確認するようにその他の政策介入の項目にも当てはまる。この報告書は何がなされるべきかという点に関して具体的な提言は行ってはいないが、有益な政策の全体像に関する洞察は結果的に示されている。

13.合成ゲノム科学の規制 (iii) DNA合成装置に関する選択肢 「DNA合成装置の所有者に装置の登録を義務づける

14.合成ゲノム科学の規制 (iv) 使用者に関する選択肢 「大学の履修課程に合成ゲノム科学の危険性と適切な研究実施に関する教育を導入する 『合成生物学実験室におけるバイオセーフティマニュアル』を編纂する 適切な研究実施のための情報センターを設置する 危険を伴う実験を網羅できるように、機関内バイオセーフティー委員会(IBC)による審査の所掌範囲を拡大する」

15.合成ゲノム科学の規制 (v) 使用者に関する選択肢 「機関内バイオセーフティ委員会(IBC)の所掌範囲の拡大に加え、危険な研究の評価のための国立諮問グループによる監視を追加する 機関内バイオセーフティ委員会(IBC)の所掌範囲の拡大に加え、 バイオセーフティ指針にたいする遵守実施の強化を行う」 注釈:最後に、ここで示された政策的介入点は使用者に関する監視を示唆している点で興味深いだけではなく、個別の研究所と(次のスライドで紹介する米国バイオセキュリティ国家諮問委員会(NSABB)のような)国家諮問委員会の両者による2層構造の審査制度を示唆している点においても興味深い。

16. NSABB 提言 (i) 「本報告書において、NSABB はデュアルユース性を持つ生命科学研究の監視を支える次のような重要な特徴を挙げて、科学者の役割と責任を提案する。重要な特徴とは例えば、 連邦指針、意識啓発と教育、デュアルユース性研究の強化と審査、危険の評価と管理、遵守及びローカル(例えば研究施設レベル)及び連邦レベルでの影響に関する)監視措置の定期的評価のリスト化、そして科学者の役割と責任の提言である。」 注釈:米国NSABBはフィンク委員会の報告書に基づいて設立され、デュアルユース性の生命科学研究に関する監視の枠組みを提言した報告書を作成した。おそらく、2004年度の同報告書はデュアルユース研究に伴う危険をどのように軽減することが可能かを検討した最も詳細な公的調査であると、現在においても考えられる。 追加情報

17. NSABB 提言 (ii) 「NSABBの根本的な任務の1つは、デュアルユースの懸念される研究を特定するための基準の開発である。提案された基準によれば、懸念される研究とは、他者によってそのまま不正利用されると、公衆衛生及び安全、農産物並びにその他の植物、環境もしくは物質に対して脅威を与える可能がある知識、製品または技術を提供すると、現在の理解に基づき合理的に予見される研究である。」 注釈: 「合理的に予見」もしくは「そのまま不正利用」という表現に見られるように、その定義にはある程度不明瞭な点があるものの、この定義の対象とされる潜在的な生命科学分野は非常に広範囲である。

18. NSABB 提言 (iii) 「本諮問委員会の基準の下では、研究責任者は自己の研究が潜在的に懸念されるデュアルユース研究であるかどうか、研究の開始時に評価を行うべきであるとNSABB委員は合意した。 開始時の評価によりデュアルユース上の懸念が特定された場合(NSABB委員はそれらが真にデュアルユース上の懸念のある研究ことは非常に少ないと予測しているが)、研究機関による追加の審査の対象となる。」 注釈:ここで興味深い点は二点ある。まず、何がデュアルユース上の懸念のある研究かという評価を下すのは、研究機関による審査ではなく研究者自身である点、そして次に、現実にデュアルユースの懸念がある研究はきわめて少ないと想定されている点である。

19.危険な病原体の管理(i) 「最大限の効果を発揮するために、監視制度は以下の基準を備える必要がある。 世界的に実施され、 関係する研究を行う全ての研究者に例外なく適用され、 適切に予算の裏付けがあり、 効果的な組織をもち、 適切な法的権限を担保し、そして、 監視権限の不正使用を予防するための信頼できる準備措置を伴っていること」 注釈:おそらく、デュアルユース問題と生命科学における研究レベルの規制に関する最も詳細な分析は米国メリーランド大学John Steinbrunnerの研究グループにより実施されている。彼らは、デュアルユース上の懸念を理由に監視の対象とされる必要がある生命科学研究は殆どないというNSABBの見解に賛成しているが、潜在的な懸念対象とされる内容の管理に関してより厳格な制度を提案している。ゆえに、NSABBの政策提言では、例えば政府による生物兵器防衛は監視の対象とされていないが、メリーランド方式では監視の対象となる。さらに後者は法の執行を伴い、最終的にその規制範囲は病原体に関する研究分野を越え、国内的な文脈よりは世界的に適用される。 追加情報

20.危険な病原体の管理(ii) 「監視過程は2つの重要な要素を含む。 まず、関係者及び研究施設を特定し、彼らに基本的規範を遵守させることを制度化するために、国家免許制度を使用する。 第二の要素は、関連研究の着手に先立った、研究者相互の審査制度 である。監視制度の対象となる研究の実施に関心をもつ個人はすべて、計画する研究を審査・承認してもらうために、研究の情報を適切な監視機関に提出することが求められる。」 注釈:メリーランド方式では機関及び個人の両者が国内的に免許を取得している必要があり、研究計画の一時審査はその機関における査読審査に基づいて行われる。これはNSABBの方法とは非常に異なり、 多くの異なる国において効率的、効果的及び許容可能な異なる監視制度を特定するために膨大な労力が要求されることを示唆した。

参考文献と質問 参考文献 質問