諏訪邦夫 (当時東京大学医学部麻酔学教室所属) 一番悪い血液ガスはどれか? 諏訪邦夫 (当時東京大学医学部麻酔学教室所属) 1995年1月コペンハーゲン
状況 裁判の鑑定を依頼された 心臓手術後に意識障害 異常な血液ガス値を発見 これをみた小児麻酔科医が私に鑑定依頼を原告に示唆 患者(の両親)が手術後に病院を告訴 心臓手術後に意識障害 異常な血液ガス値を発見 これをみた小児麻酔科医が私に鑑定依頼を原告に示唆
心臓手術後の脳障害 患者 問題は術後に発生 術中の血液ガス値が異常 1歳男児 診断:心室中隔欠損 手術:心室中隔欠損閉鎖術 術後に意識回復せず 神経内科は広範なハイポキシアを示唆 術中の血液ガス値が異常
患者を障害する血液ガスはどれか Pao2 Paco2 1) 体外循環 40 30 2) 体外循環 280 10 3) 体外循環 100 13 1) 体外循環 40 30 2) 体外循環 280 10 3) 体外循環 100 13 *体外循環:人工心肺使用による体外循環 単位: mmHg in Po2 & Pco2
状況の経過 Pao2 Paco2 1) 体外循環 40 30 :体外循環開始 ガス流量増加 2) 体外循環 280 10 :開心術 1) 体外循環 40 30 :体外循環開始 ガス流量増加 2) 体外循環 280 10 :開心術 3) 体外循環 100 13 :体外循環終りに
悪いのはどっちだ? Pao2 低値か Paco2 低値か? 血流低下か低Pao2 か ? 血流低下か酸素解離曲線の左方移動か ?
Paco2 と脳血流量の関係 脳血流量はPaco2と略平行する Paco2 20~60で,脳血流はPaco2に比例 20 mmHg以下のデータは少ない
酸素解離曲線の問題 ヘモグロビンと酸素の親和性はPaco2とpH に依存する Pco2 低値とpH 高値は酸素解離曲線の左方移動を招く ヘモグロビンは組織で酸素を放ちにくくなる
問題の解決法 臨床研究? → 不可能、許可が出ない 動物実験? →可能だが高価 評価をどうするか? 理論解析つまりモデル分析→可能
3本の基本数式:酸素運搬 Vo2 = Q ( Cao2 - Cvo2 ) 酸素の移動 Vo2 = D ( Pc‘o2- Pto2 ) 酸素の拡散 D:拡散係数 Vo2 = F ( Pto2 ) 酸素の消費 F(): この関数型は不知 Q:血流 Cao2 とCvo2 動脈血と静脈血の酸素含量 Pc‘o2 毛細管血酸素分圧 Pto2 組織酸素分圧
Pto2(組織Po2)と酸素消費の関係
血液ガスの表に体温を付記 Pao2 Paco2 体温 1) 体外循環 40 30 37 2) 体外循環 280 10 27 1) 体外循環 40 30 37 2) 体外循環 280 10 27 3) 体外循環 100 13 37 単位: Po2 & Pco2 はmmHg 体温は ℃
Pto2 がわかればどの血液ガスが悪いか評価可能 Pao2 Paco2 体温 Pto2 1) 体外循環 40 30 37 13.8 2) 体外循環 280 10 27 9.6 3) 体外循環 100 13 37 2.1 体外循環から降りる時点が、断然悪い !
酸素運搬の結論 酸素運搬は組織酸素分圧を計算して評価可能 本例の3つの血液ガスのうちでは、体外循環から降りる時点の血液ガスが脳を損傷する危険が高い。 理由は,酸素の供給が低下している一方で、体温上昇によって酸素消費が上昇していたからである。
わかりました! 本例では、Paco2 低値がPao2 低値より障害度が高い 脳血流低下はハイポキセミアより重大