第7章 不完全競争 市場経済の基本的なメカニズムは,健全な経済を維持する上で欠かせないものである。

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第7章 不完全競争 市場経済の基本的なメカニズムは,健全な経済を維持する上で欠かせないものである。 しかし,市場機構の調整機能は,「完全競争perfect competition」の状態においてのみ,はじめて十分な役割を果たしうるに過ぎない。 完全競争の特徴:誰もが自分だけの行動によって財の価格を左右しうるほどの力を持っていない。(プライス・テイカーとして行動する。) 各財の買い手と売り手が多数存在 各財の製品差別化product differentiationなし すべての成員が市場の価格や財の特性について完全な情報をもつ 企業の市場への参入・退出が自由(自由参入free entry) ミクロ経済学

第7章 不完全競争 市場の分類 独占市場は完全競争市場とは正反対の市場状態である。 独占市場の場合 完全競争市場の場合 完全競争 独占的競争 独占企業は価格受容者(つまり所与の価格の下で数量調整者)としての行動するとせず,多かれ少なかれ自社製品の価格に対して支配力を行使することが可能になる。 独占企業は自らの利潤を最大にするように価格と生産量の両方を決定する。(プライス・メイカー) 完全競争市場の場合 市場に参入している企業が多数あり,各企業は価格受容者(つまり所与の価格の下で数量調整者)としての行動し,自社製品の価格に対して支配力を行使することができない。 各企業は市場価格の下で自らの利潤を最大にするように生産量のみを決定する。(プライス・テイカー) 完全競争 製品差別化なし 買い手の 数 多 数              1 人              独占的競争 製品差別化あり (供給)独占 (供給)複占 (供給)寡占 双方独占 買い手独占 (需要独占) 売 り 手 の 数 複 数               多 数                     1つの企業               2つの企業               市場では,ある財を供給している企業が1つしかない状態は(売り手)独占または(供給)独占と呼ばれる。 ミクロ経済学

第7章 不完全競争 1 独占 ■供給独占の要因 規模の経済性: 自由参入の障壁: 製品差別化: 1 独占 ■供給独占の要因 規模の経済性: 大規模生産の利益によって生じる現象。自然独占の発生要因。   (鉄鋼産業,自動車産業,鉄道,電力,ガスなど) 自由参入の障壁: ある製品の生産にとって必要不可欠な原料・資源の供給が特定企業にのみ限定されたり,特許制度によって特定の技術的知識の使用権利が一企業に排他的に与えられたり,あるいは法律によって他の企業には当該製品の生産販売が一切禁じられたり場合に,生じる現象。  (タバコ産業,マイクロソフト社のコンピュータ・ソフトなど) 製品差別化: ルーズな意味では「同じ」種類とみなされる製品であっても,その品質,性能,外観,商標,デザイン,店舗の風囲気,買い手からの距離等々の違いによって,買い手がそれぞれの商品に独自の選好を持つ場合に,生じる現象。   (化粧品や服装,ホテル,レストラン,出版社,美容院など) ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占企業の特徴 利 潤 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: 平均費用曲線 総 収 入 総費用 需給量 X O 価格P D ■独占企業の特徴 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: P1 総 収 入 利 潤 X1 総費用 製品の価格を決定する ↓ その価格に応じる 需要量も分かる その価格で販売すれば独占企業の総収入の大きさが決まる。 生産量を決定する ↓ その生産量に応じる 価格も分かる その生産量に応じる生産によって発生する総費用の大きさも決まる。 総収入-総費用=利潤 ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占企業の特徴 利 潤 利 潤 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: 平均費用曲線 総 収 入 需給量 X O 価格P D ■独占企業の特徴 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: P2 利 潤 総 収 入 X2 P1 総 収 入 X1 総費用 利 潤 総 費 用 製品の価格を決定する ↓ その価格に応じる 需要量も分かる その価格で販売すれば独占企業の総収入の大きさが決まる。 生産量を決定する ↓ その生産量に応じる 価格も分かる その生産量に応じる生産によって発生する総費用の大きさも決まる。 総収入-総費用=利潤 ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占企業の特徴 利 潤 利 潤 利潤を最大化するために製品の価格および生産量を如何に決定するか? 平均費用曲線 需給量 X O 価格P D ■独占企業の特徴 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: 総 収 入 P2 X2 費 用 利 潤 P1 総 収 入 X1 総費用 利 潤 P3 利  潤 総 収 入 X3 総 費 用 製品の価格を決定する ↓ その価格に応じる 需要量も分かる その価格で販売すれば独占企業の総収入の大きさが決まる。 生産量を決定する ↓ その生産量に応じる 価格も分かる その生産量に応じる生産によって発生する総費用の大きさも決まる。 利潤を最大化するために製品の価格および生産量を如何に決定するか? 総収入-総費用=利潤 ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC 総 収 需給量 X O 価格P D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC MC P2 総 収 入 X2 P1 総 収 入 X1 P3 総 収 入 X3 Xの1単位の追加生産によってもたらす収入の増加分 Xの1単位の追加生産によってもたらす費用の増加分 MR X2 X1 X3 供給量 X O 総収入 総費用曲線TC 限界収入 MR=dR/dX 限界費用 MC=dTC/dX 総収入曲線TR ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC 価格P 需給量 X O 価格P D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC MC P* X* MR X* 供給量 X O 総収入 総費用曲線TC 総収入曲線TR ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC 利潤p 需給量 X O 価格P D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC MC P1 X1 P* X* MR X* 供給量 X O 総収入 総費用曲線TC 利潤p 総収入曲線TR ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC 需給量 X O 価格P D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC MC P* P2 X* X2 MR X* 供給量 X O 総収入 総費用曲線TC 総収入曲線TR ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占市場の均衡 利 潤 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC 総 平均費用曲線TC/X 需給量 X O 価格P D ■独占市場の均衡 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入TR-総費用TC MC P* 利 潤 総 収 入 X* 総費用 MR X* 供給量 X O 総収入 総費用曲線TC 総収入曲線TR ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占度 収入関数: TR=P(X)・X 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC P(1-m)=MC m =(P-MC)/P eD =ー(dX/dP)(P/X) eDは需要の価格弾力性である。 m=1/eD m は独占度またはラーナーの独占度と呼ばれている。 ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占度 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC P(1-m)=MC 需給量 X O 価格P D P X* MR MC ■独占度 限界収入: 利潤最大化の条件:  限界収入MR=限界費用MC   P(1-m)=MC m =(P-MC)/P 独占度m と需要の価格弾力性eD の関係: m は独占度またはラーナーの独占度と呼ばれている。 需要の価格弾力性eD 独占度m ∞ 1 弾力性は小さくなる 独占度は高くなる ミクロ経済学

第7章 不完全競争 独占企業行動の数値例 需要関数: P=100-X 費用関数: TC=10X 限界費用: MC=dTC/dX=10 O 価格P MR 独占企業行動の数値例 需要関数: P=100-X 費用関数: TC=10X 限界費用: MC=dTC/dX=10 収入関数: TR=PX=(100-X)X =100X-X2 限界収入: MR=dTR/dX=100-2X 利 潤: p =TR-TC 100 D 55 45 MC 10 50 100 生産量 X 30 35 40 45 50 55 60 65 価格 P 70 費用 TC 300 350 400 450 500 550 600 650 限界費用 MC 10 収入 TR 2100 2275 2400 2475 2500 限界収入 MR 20 -10 -20 -30 利潤 p=TR-TC 1800 1925 2000 2025 1625 ミクロ経済学

第7章 不完全競争 独占企業行動の数値例 需要関数: P=100-X 費用関数: TC=10X 限界費用: MC=dTC/dX=10 O 価格P MR 独占企業行動の数値例 需要関数: P=100-X 費用関数: TC=10X 限界費用: MC=dTC/dX=10 収入関数: TR=PX=(100-X)X =100X-X2 限界収入: MR=dTR/dX=100-2X 利 潤: p =TR-TC 100 D 55 45 MC 10 50 100 独占企業の利潤最大化の解の計算方法: 利潤最大化条件: MR=MC 100-2X=10  X=45 X=45 を需要関数に代入して, P=100-X =100-45=55 ラーナーの独占度 m=(P-MC)/P   =(55-10)/55   =9/11=81.82% 利潤p =総収入TR-総費用TC =PX-10X   =55×45- 10×45 =2025 ミクロ経済学

第7章 不完全競争 独占企業行動の数値例 需要関数: P=100-X 費用関数: TC=10X 限界費用: MC=dTC/dX=10 O 価格P MR 独占企業行動の数値例 需要関数: P=100-X 費用関数: TC=10X 限界費用: MC=dTC/dX=10 収入関数: TR=PX=(100-X)X =100X-X2 限界収入: MR=dTR/dX=100-2X 利 潤: p =TR-TC 100 D 55 45 MC 10 90 50 100 独占企業の利潤最大化の解の計算方法: 利潤最大化条件: MR=MC 100-2X=10  X=45 X=45 を需要関数に代入して, P=100-X =100-45=55 生産者余剰=利潤p =2025 消費者余剰=(100-55)×45 / 2 =1012.5 余剰の損失=(55-10)×(90-45) / 2 =1012.5 ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■独占企業の供給曲線 独占市場の場合: 完全競争市場の場合: 企業の数は1つである。 独占企業は供給量と価格の ある最適な組合せを選択する。 完全競争市場の場合: 企業の数は多数である。 各企業は所与の市場価格の下で, 最適な生産量を選択する。 需給量 X O 価格P MC 平均可変費用AVC 需給量 X O 価格P D P X* MR MC X* X* X* P S P P ミクロ経済学

生産が過小で,価格が過大のため超過負担があり 第7章 不完全競争 ■独占企業の供給曲線 独占市場の場合: 企業の数は1つである。 独占企業は供給量と価格の ある最適な組合せを選択する。 完全競争市場の場合: 企業の数は多数である。 各企業は所与の市場価格の下で, 最適な生産量を選択する。 独占市場の場合 完全競争市場の場合 企業の数 1つ 多数 企業の主体的 均衡条件 限界収入=限界費用 市場価格=限界費用 供給曲線 存在しない 右上がり 資源配分の効率性 生産が過小で,価格が過大のため超過負担があり 効率性が 満たされている 需給量 X O 価格P MC 平均可変費用AVC 需給量 X O 価格P D P X* MR MC X* S P P ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■ 独占の弊害 厚生損失 独占の下で,P>MC ,社会的に見て供給量は過小,価格は過大となっている。 独占的行為の結果,消費者余剰が減少することによって,独占企業の獲得利潤がより大きくなった。独占的行為が社会的余剰の減少をもたらすのは,過小生産による資源配分の歪みに基づくものである。完全競争市場と比較して独占市場の超過負担あるいは死荷重deadweight loss (=厚生損失)が生じる。 MC D,S P D D,S P X* P* D S E MR 完全競争市場 独占市場 消費者余剰 消費者余剰 P* X* 厚生損失 E 生産者余剰 ミクロ経済学 生産者余剰

市場の分類 完全競争 独占的競争 (供給)独占 (供給)複占 (供給)寡占 双方独占 買い手独占 (需要独占) 製品差別化なし 買い手の 数 多 数              1 人              独占的競争 製品差別化あり (供給)独占 (供給)複占 (供給)寡占 双方独占 買い手独占 (需要独占) 売 り 手 の 数 複 数               多 数                     1つの企業               2つの企業               ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■ 独占的競争 産業内に多数の企業が存在し,個別企業の製品が他の企業と差別化しているので,自己の商品の顧客も存在し,自己の商品に対する右下がりの需要曲線を持っている。しかし,企業同士が互いに競争し,相手企業の価格付けによって,自己の需要曲線は上方や下方にシフトする。長期には産業内の企業の参入や退出が自由である。 (例えば,小売業,飲食店など) 短期において,正の利潤が得る場合: 独占的競争市場の企業は自己の生産物の右下がりの需要曲線を想定して, 限界収入mr=(短期の)限界費用SMC となるように,利潤最大化の産出量Xsと価格Psを決定する。 正の利潤が得る限り,この産業に新規企業が参入してくる。この結果,個別企業の需要曲線は左下にシフトする。 短期的な利潤 需給量 X O 価格P SMC SAC PS XS d mr d' ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■ 独占的競争 産業内に多数の企業が存在し,個別企業の製品が他の企業と差別化しているので,自己の商品の顧客も存在し,自己の商品に対する右下がりの需要曲線を持っている。しかし,企業同士が互いに競争し,相手企業の価格付けによって,自己の需要曲線は上方や下方にシフトする。長期には産業内の企業の参入や退出が自由である。 (例えば,小売業,飲食店など) 正の利潤が得る限り,この産業に新規企業が参入してくる。この結果,個別企業の需要曲線は左下にシフトする。 このような新規参入は個別企業の利潤がゼロになるまで続く。長期において,独占的競争市場の企業利潤はゼロとなる。 この状況を長期均衡と呼ぶ。個別企業 限界収入mr'=(長期の)限界費用LMC 価格PL=(長期の)平均費用LAC 企業利潤TR=0 需給量 X O 価格P LMC LAC d mr SMC SAC PS XS PL XL d' mr' ミクロ経済学

第7章 不完全競争 ■ 独占的競争 産業内に多数の企業が存在し,個別企業の製品が他の企業と差別化しているので,自己の商品の顧客も存在し,自己の商品に対する右下がりの需要曲線を持っている。しかし,企業同士が互いに競争し,相手企業の価格付けによって,自己の需要曲線は上方や下方にシフトする。長期には産業内の企業の参入や退出が自由である。 (例えば,小売業,飲食店など) 長期均衡において,個別企業の 限界収入mr'=(長期の)限界費用LMC 価格PL=(長期の)平均費用LAC 企業利潤TR=0 個別企業の製品に対する需要曲線は,LACと接している。 生産量XLが完全競争の場合の最適規模X*より小さい。 X*-XLは過剰能力と呼ばれる。 需給量 X O 価格P LMC LAC d mr SMC SAC PS XS PL XL X* d' mr' ミクロ経済学