SDQ-S利用上の問題点と精度の高い方向感覚測定法の確立に向けて

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SDQ-S利用上の問題点と精度の高い方向感覚測定法の確立に向けて 浅 村 亮 彦 (北海学園大学 経営学部)

方向感覚研究における方向感覚質問紙の位置づけ 方向感覚質問紙(自己評定)が利用される 方向感覚自己評定によって成績を比較する.被験者群の抽出などに利用. 自己評定の精度が研究の信頼性を左右する. 課   題 実験 方向感覚自己評定 抽出 方向感覚上位群 方向感覚下位群 成績の比較

方向感覚自己評定の現状と問題 SDQ-S(Sense of Direction Questionnaire Short Form,1992,教心研)が広く利用されている. 質問項目は20,5段階評定. 尺度は2つ.「方位・回転」(尺度1)と「記憶・弁別」(尺度2).

SDQ-Sを研究で使う場合の問題点・注意点 自己評定=意識上の方向感覚.精度が低い状態(“歪み”)の発生. “歪み”のために結果の信頼性に疑問が生じることも… SDQ-S得点と課題成績の逆転現象.女性では,SDQ-Sによる方向感覚の優劣と課題成績のそれとが対応したが,男性では全く逆の関係に(浅村2002日心,図1) . 評定の歪みによる影響を回避するには 評定に歪みを生じさせ得る(精度を低める)要因の特定 過去の失敗に対する評価 自分にとっての方向感覚の価値

図1.浅村(日心,2002)における方向判断課題の結果例.

“歪み”の影響を回避する方法を考える 何らかの方法で“歪み”の影響を除去する 自己評価によらない方向感覚テストの利用 歪んだデータの除外・補正 歪んだデータの補正 … …  などなど 自己評価によらない方向感覚テストの利用 “歪み”が生じた場合の補助的測定として利用… “歪み”の影響を回避する方法を考える SDQ-Sの評定値と実際の空間能力との対応関係が,被験者の態度によって異なるか? 自己評価によらない方向感覚測定手法は可能? 2つの研究例から考察.

SDQ-Sにおける評定の歪みの可能性: 方向感覚への態度による違い 目的   方向感覚に対する態度によって,SDQ-S各尺度と空間能力との対応関係が異なるかを検討. 方法 SDQ-Sの「方位・回転」尺度と「方位推定」との対応関係を検討. SDQ-Sの「記憶・弁別」尺度と「風景の再認」との対応関係を検討.

方向感覚を重視するかどうか,性別ごとに,上記の対応関係がどの程度認められるかを検討. 被験者   大学生160名のうち,学習経路を知らないなどの条件を満たす者を選び,最終的に男性107名,女性44名の計151名を分析対象とした. 課題と手続き(以下の順序で実施) SDQ-S及び方向感覚への態度に関する質問  SDQ-Sの20項目について,5段階評定で回答.「道に迷ったことがない」・「自分の方向感覚がどの程度か考えたことがある」について5段階評定.

経路学習   学習経路は,記憶すべき目印5箇所,方向を変える交差点7箇所を含む,全長1.5Km程度の実在の経路.学習材料は,学習対象経路上を自転車で移動した際の映像であり,約5分であった.   学習は,学習材料を2回観察することによって実施した.その間のメモ,地図描画は禁止した. 方向テスト   学習経路上に存在した目印の方向関係を推定させる.全8試行.推定の自信度も評定. 写真テスト   学習経路上・異なる経路上で撮影した写真を一枚ずつ呈示.それぞれについて,学習経路上の風景かどうかを判断させる.全12試行.推定の自信度も評定.

結果 方向感覚を重視する群とそれほど重視しない群に分類. 重視群のSDQ-S各尺度と課題成績との相関 項目評定値が6以上の者を「重視群」,それ以外を「非重視群」とした. 重視群のSDQ-S各尺度と課題成績との相関 全体では,尺度1と方向テスト成績との対応関係がなく,尺度2と写真テスト成績との対応関係が認められる. 男性では,尺度1と方向テスト成績,尺度2と写真テスト成績ともに対応関係が認められる. 女性では,各尺度に対応するテスト成績との対応関係が認められない.

SDQ-Sと課題成績との相関係数(方向感覚重視群) 表1 SDQ-Sと課題成績との相関係数(方向感覚重視群) 課 題 全体(N=87) 方向テスト 写真テスト 得点 自信度 正再認率 尺度1 .169 .359 ** .280 * .224 尺度2 .083 .348 .291 .297 SDQ-S全体 .157 .401 .284 .269 男性(N=62) .292 .323 .391 .127 .113 .367 .225 + .246 .374 .378 女性(N=25) -.195 .356 .050 .427 .001 .333 .145 .449 -.132 .072 .526

考察 非重視群のSDQ-S各尺度と課題成績との相関 男女ともに,各尺度に対応するテスト成績との対応関係が認められない. 考察 方向感覚をそれほど重視していない者については,SDQ-Sで測定される方向感覚の精度が低い可能性. 尺度1の再検討が必要? 「方位・回転」尺度(尺度1)と「方位推定能力」との対応関係が弱い. 男性は自身の能力をやや「過大評価」する傾向.

SDQ-Sと課題成績との相関係数(方向感覚非重視群) 表2 SDQ-Sと課題成績との相関係数(方向感覚非重視群) 課 題 全体(N=64) 方向テスト 写真テスト 得点 自信度 正再認率 尺度1 .099 .335 ** .194 .003 尺度2 .031 .443 .159 .167 SDQ-S全体 .084 .416 .221 + .042 男性(N=45) -.040 .170 .040 .056 .007 .369 * .096 .225 -.003 .281 .106 .103 女性(N=19) .219 .388 .670 -.226 -.222 .407 .256 -.104 .009 .439 .537 -.212

課題遂行型方向感覚テスト開発の試み 目的 方法 方向感覚に関係する空間能力を測定できる課題を作成し,それらの利用可能性を検討する. 被験者   方向感覚に関係する空間能力を測定できる課題を作成し,それらの利用可能性を検討する. 方法 被験者 大学生202名(男性133名,女性69名).

課題 方向感覚自己評定および方向感覚への態度 被験者はSDQ-S,方向感覚への態度に関する項目,自身の方向感覚の程度(5段階)に回答. 既知空間を利用した空間認知テスト(6種類)   被験者が通学する大学構内の地点を使ったテスト.これらのテストはいずれも2分以内にできるだけ多く回答させた.

方向推定テスト(DI)   出発地点の写真が呈示され,被験者にこの地点に指定された向きで立っている状態をイメージさせる.そして,ターゲット地点を示し,その方向を推定させる.回答は,8つの選択肢から選ばせる形式. 回転方向推定テスト(DIR)   出発地点の写真が呈示され,被験者にこの地点に指定された向きで立っている状態をイメージさせる.さらに,別の地点の方向を向くように指示した後,ターゲット地点の方向を推定させた.回答は,8つの選択肢から選ばせる形式. 距離推定テスト(DIS)   2地点の組み合わせを2つ示し,どちらの直線距離が短いかを回答させた.

位置推定テスト(LI)    2地点の位置を示した地図を呈示し,それ以外のターゲット地点が地図上でどの地点にあるかを推定.回答は3つの選択肢から選択. 風景再認テスト(SR)    出発地点に指定した向きで立っている状態をイメージさせ,そこから見える風景を4枚の写真の中から選択. 心的位置更新テスト(MGU)    出発地点を示した地図を呈示し,指定した中継地点まで移動した状態をイメージさせる.さらに,その地点からターゲット地点へ向かって指定された距離を移動した状態をイメージさせる.そして,現在位置を地図上で推定させた.回答は3つの選択肢から選ばせる形式.

手続き 新奇空間を利用した空間認知テスト(6種類)   架空の街並みをCGによって作成し,これを対象として同様の空間認知テストを6種類作成した.被験者はこの街並みを移動する様子を観察した後,6種類のテストを遂行した. 手続き   被験者は,2日間に渡って実験に参加した.1日目は,SDQ-Sへの回答,方向感覚に対する態度に関する項目,自身の方向感覚の程度(5段階)に回答した後,既知空間の空間認知テストを遂行した.2日目は,新奇空間を学習した後,その空間の空間認知テストを遂行した.

結果 SDQ-S各尺度,5段階評定と各課題成績との相関(全体) SDQ-S各尺度,5段階評定と各課題成績との相関(方向感覚重視群) 既知空間のテストで相関が高い課題は 新奇空間のテストで相関が高い課題は SDQ-S各尺度,5段階評定と各課題成績との相関(方向感覚重視群) DI SR DIR DIS LI MGU DI DIR LI MGU DI SR DIR DIS DI MGU LI

SDQ-S,方向感覚自己評定と課題成績との相関係数(重視群) 表3 SDQ-S,方向感覚自己評定と課題成績との相関係数(重視群)

考察 方向感覚重視群の結果を重視 新奇空間テストには汎用性がある 既知空間テストでは,方向推定,回転方向推定,そして風景再認が方向感覚を予測できる可能性. 新奇空間テストでは ,方向推定,距離推定,位置推定,そして心的位置更新が方向感覚を予測できる可能性. 新奇空間テストには汎用性がある 新奇空間の方が,テスト作成・実施において条件を一定に保つことができる. 新奇空間のテストを標準化できるよう検討すべきではないか.

まとめ SDQ-Sの歪み(低精度)の影響回避のために SDQ-Sの再検討 SDQ-Sの評定が歪む可能性のある被験者への対策 (場合によっては)該当者の除外 該当者に自己評価によらないテストを実施 SDQ-Sの再検討 「方位と回転」尺度の再検討,全体の尺度構成を見直す必要も 男性被験者の歪みを補正する手立てを

課題遂行を併用する方向感覚測定法の検討 既知空間よりも新奇空間によるテストを中心にするべきである. 他にどのような課題が利用可能か検討. 方向感覚自己評定の精度が低い要因を持つ被験者に実施してもよいのでは?