第一章 走れメロス 第一節 作者の紹介 明治四十二年~昭和二十三年。小説家。青森県生まれ。東大仏文科中退。東大入学の際、井伏鱒二に会い、終生師事する。昭和8年古谷綱武・今官一と「海豹」を発行し、「魚服記」「思い出」を発表した。10年「日本浪漫派」に合流し、「道化の華」で新進作家の地位を固めた。
戦後は多彩な才能を開花させ、『斜陽』『人間失格』を発表した。「逆行」は芥川賞の候補となった。昭和23年6月13日に玉川上水に入水し山崎富枝と一緒に死んだ。38歳。 めちゃくちゃな人生を送った。
芥川賞(安部公房、松本清張、大江健太郎、石原慎太郎) 直木賞(直木三十五):(井伏鱒二、今官一、檀一雄、司馬遼太郎、水上勉つとむ) 菊池賞(川端康成、大宅壮一(おおやそういち)、司馬遼太郎、石川達三) 横光利一賞(大岡昇平) 大宅賞(大宅壮一、1965年、13回菊池賞受賞) 松本清張賞
第二節 作品鑑賞 書き出しから、いきなり引き込まれてしまった感じ。文章のリズムにも引き込まれるのかな。 第二節 作品鑑賞 書き出しから、いきなり引き込まれてしまった感じ。文章のリズムにも引き込まれるのかな。 次の場面ごとに作者はメロスの心情をどのように描写しているか。ソレが分かる部分に印や色をつけよう。 1、王の前に引き出された場面71ページの8行目 2、村を出発して走り出した場面77ページ3-5 3、疲れ切って倒れた場面 4、再び走り出した場面 5、セルノンデウスと再会した場面
優れていると思う表現や自分が気に入った表現を抜き出そう。この作品の表現の仕方や文章の特徴を捉えてみよう。 ・ 一睡もせず十里を急ぎに急いで、村へ。 ・村人はめいめい気持ちを引き立て満面に 喜色を湛える。メロスはこのよい人たちと 生涯暮らししていきたい ・猛勢一挙、獅子奮迅、精も根も尽きた
第三節 描写特徴、人物像、主題 特徴:作者は物語の語り手としてすでに出来上がっている話しにユニークな解釈を加え、新たな感動を生み出していく。 第三節 描写特徴、人物像、主題 特徴:作者は物語の語り手としてすでに出来上がっている話しにユニークな解釈を加え、新たな感動を生み出していく。 人物像:邪悪に人一倍に敏感である牧人。 人を疑うのが一番嫌いだ。 わが身を殺して名誉を守る。 主題:自分の命よりも信実と名誉を大切にす る精神を唱える。 精神世界の充実と 精神幸福を主張。
第四節 メロスに対する感想 人は何を幸福とするのだろうか。金をたくさん得ることか。 <心の王者>・精神の貴族有名になり名誉を得ることか。衣食住に何不自由のない状態か。美しく賢い相手と結婚し安定した家庭を築くことか。たしかにそれらも幸福の構成要素の一つかもしれない。 が、なによりも大切なことは、幸福は、衣、食、住、金などの物質的なものによっては決して得られない、もっと心や精神と深く関わった問題だということであろう。図式的にいえば、人間の真の幸福は、物質よりも精神の問題にかかっているということである。 太宰は津軽でも屈指の大地主の家に生まれ育った。父親は、衆議院議員、貴族院議負なども勤めた。物質的には何不自由ない生活であった。しかし、そのなかで、どうしても幸福を実感できなかった。
<弱さの文学>への疑問 太宰文学を<弱さの文学>としたり<滅びの文学>としたりする見方がある。太宰の文学に影響されて自殺する青少年がいるということも聞く。が、はたして太宰治は本当に弱かったのか。太宰文学は人間の弱さを書いた文学なのか。たしかに、太宰文学に弱い部分を持った人間が登場する場合が多いのは否定できない。大宰が弱い面を持っていたのもたしかだろう。が、世の中に強いだけの人間がいないように、弱さだけの人間もいないだろう。太宰のなかには弱い面と同時に強い面が、太宰文学のなかに、弱さの面と同時に強さの側面が、不健康な傾向のなかにきわめて健康なものが、下降せんとする志向とともに上昇せんとする志向が、同時に存在しているのである。
太宰は自分の弱い部分に苦しみ悩みながらも、なんとか生き続けようと苦闘したのだ。彼の文学は、その苦闘の反映であり、かつ、読者に対して、苦しくてもなんとか強く生きようとのはげましの思いで綴っているのである。世にいうように、ただ、自分の弱さを愚痴(ぐち)る(愚痴を言う)ためだけでどうして、あれだけの分量の小説を書く必要があろうか。
今後の展望 太宰文学は終始一貫、物質的幸福を否定し、精神の幸福、精神の豊かさを強調している。 これからの太宰文学は、太宰の現実生活上のさまざまな伝説にまどわされることなく、作品に素直に接することにより、正しく受容読解されていくことが望まれる。太宰は作品の中で全てを語っている。太宰の作品に虚心に触れあうところから、正しい太宰像と太宰文学像とを築き上げていきたいものである。