司法における男女共同参画 の現状と意義・課題

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家族と法律. 婚姻は のみに基づいて 成立し,夫婦が を有す ることを基本として, ○ により,維持されなければな らない。 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定, 離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の 事項に関しては,法律は と両性の ○ に立脚して,制定 されなければならない。 日本国憲法.
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個人情報保護講座 目 次 第1章 はじめに 第2章 個人情報と保有個人情報 第3章 個人情報保護条例に規定されている県の義務 第4章 個人情報の漏えい 第5章 個人情報取扱事務の登録 第6章 保有の制限 第7章 個人情報の取得制限 第8章 利用及び提供の制限 第9章 安全性及び正確性の確保 第 10.
少年犯罪の要因分析 ~抑止に向けて原因と対策を探る~ 大阪大学経済学部 山内直人研究室 豊増 智美 浅井 聡子 馬場 仁美 宮内 麻央.
地域社会論 第9回 _2 ⅩⅠ.自立する世帯 12 月 14 日. 1.大きな世帯.
1 経済学-第 14 回 年金③ 2008 年 7 月 11 日. 2 日本の公的年金制度 ( 続 )  制度上の問題点 ( 続 )  国民年金第 3 号被保険者問題  離婚のリスクと年金分割.
Japan Medical Association 17 Ⅰ‐ 3 ) 出産・育児休業の現状と問題点.
福利厚生の種類 大きく分けて二つ存在 法定福利 ・・・国会の議決を経て法律によって定め たもの 法定外福利 ・・・企業の意思決定で設定されたもの.
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1. 2 従来の割当雇用制度と雇用に対する差別禁 止法的アプローチの取り入れ方の問題 → 共存できるのか 福祉的雇用と一般雇用 → 差別禁止法的には考慮の必要 ex. 法的には福祉的就労者は労働者ではな い ex. 法的には福祉的就労者は労働者ではな い.
設置者・管理者の責務② ~職員の育成指導等~ 平成 26 年度 青森県障害者虐待防止・権利擁護研修 公益社団法人 日本社会福祉士会 平成 26 年度障害者虐待防止・権利擁護指導者養成研修から.
14章 ネットワーク論的アプローチ 家族集団論のゆらぎ:集団論の境界が曖昧→親族・近隣・友人・職場仲間の網目の中に家族を位置づける ネットワークを分析概念として検証 認知ネットワークとしての家族:世帯と家族は違う 家族は親族へ広がる 家族変動論の背景:高度成長期、都市化の時代、コミュニティ・ネットワークの弛緩の中で家族の単位が析出する→核家族化/性別役割分業の発生.
国及び地方公共団体が分担すべき役割の明確化 機関委任事務制度の廃止及びそれに伴う事務区分の再構成
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ドイツ 医師会強制加入の規定 義務違反に対する処罰規定
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第2次総合計画 【H22~H26】 ~本市の基本的な計画
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取得例 (夫婦で取得したパパ・ママ育休プラスの場合)
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性差と、性別(=ジェンダー)の相違とその調べ方
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5章 女性の社会復帰が進むために 【配偶者によるサポート】 ≪対策≫ 2009年:育児・介護休業法改正
2017年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
第9章 従業員の生活支援 C班  今西・鈴木・出山・藤野・大木・山口.
取得例 (夫婦で取得したパパ・ママ育休プラスの場合)
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○年○月○日 ハラスメントは許しません!! 株式会社○○○ 代表取締役社長○○○  
ワーク・ライフ・バランスの実現 重要性を増す生活と仕事の調和 従業員がワーク・ライフ・バランスを重要視する背景要因 ⒈家族形態の多様化
大津市自立支援協議会人材育成部主催 大津合同中堅研修 「中堅さん!一緒に学ぼう!2018」 私の研修ネタ ~高齢者虐待防止研修の場合~
Presentation transcript:

司法における男女共同参画 の現状と意義・課題 明治大学法科大学院 ジェンダーと法Ⅰ   2019・7・9 司法における男女共同参画 の現状と意義・課題 弁護士 金澄道子

弁護士白書2018年版

弁護士白書2018年版

弁護士白書2018年版

司法分野における女性割合の推移                        男女共同参画白書(平成28年版)                  

一週間の平均就労時間 2008年弁護士白書

男女別 顧問契約先の件数        2008年弁護士白書より 3060人 267人 931人 300人

弁護士経験年数別 経営者・非経営者の割合  2008年弁護士白書より

2008年弁護士白書より

最初に顕在化した女性差別

なぜ男女共同参画が必要なのか ・ 法曹は、人権擁護と社会正義の実現の担い手 →個別の事件について、人権と正義を実現 弁護士が人権侵害の存在に気がつくためには、 多様な価値観・意識が必要 ・ 弁護士会は、具体的な事件を超えた社会的活動で、人権と正義の実現に貢献する →法制度についての意見書の公表・人権救済申立を受けて勧告する・立法行政に働きかける運動をする 弁護士会の構成も、社会の構成員と同様、 多様な価値観・生き方を反映することが必要

男女共同参画推進基本計画の骨子 ・性差別防止に関する研修の実施 ・女性弁護士偏在解消のための情報提供 ・女性弁護士の理事としての活動等の阻害要因の調査  →第二東京弁護士会の副会長女性枠制度が発足 ・女性会員の業務分野拡大のための施策の検討と実施 ・女性会員採用促進のための事業主弁護士向けのリーフレッ    トとQ&Aの作成 ・性差別的取り扱い防止規則の制定と苦情処理体制の充実 ・産前・産後期間の会費免除、育児期間中の日弁連会費免  除 ・日弁連副会長の女性枠制度の創設

第3次男女共同参画推進委基本計画(2018年) 改善点 ・副会長のクオーター制の導入 ・育児休業期間の延長 女性弁護士ゼロの支部は 203支部のうち57(2016年)

弁護士白書2018年版

マジョリティでない者の視点の重要性 1 労働法の分野-貧困問題- ○女性は昔から貧困      (女性とは限らないが、社会的弱者・少数者の視点) 1 労働法の分野-貧困問題- ○女性は昔から貧困   →男性に貧困が拡大してはじめて、貧困の原因となる雇用形態の問題が注目されるようになる ・パート問題 同一価値労働同一賃金(ILO憲章、女子差別撤廃条約11条1項d号) であるべきなのに、家計補助的労働とみなされ、低賃金・景気の調整弁でも仕方ないと、不合理な差別を受けてきた ・労働者派遣法(1985年制定)  直接雇用の原則を崩した法律。制定当時はポジティブリスト方式(13業務)で、通訳・翻訳・事務機器操作・速記などに限定されていたので、女性職種が対象と思われていた これらの雇用の問題は、当初は女性に集中して現れ、問題を放置することで、社会全体に拡大する          ↓          女性は、差別・人権侵害のカナリアである     

2 家族法分野の問題 (1)DV法 ↓ 自己決定ができる基盤を作り、援助するなど、積極的に介 入する必要 2 家族法分野の問題 (1)DV法  ○伝統的な公私二分論を超えて    公=国家V.S私=市民 国家からの不干渉・・・伝統的自由権・私的自治    法は家庭に入らず・・・家族は、国家と市民という二元論から見えないも      のとされ、人権とは国家権力からの不干渉・自由の確保と思われてた       しかし、公私の間に「家族」があり、その中の人権保障こそ大切     ↓    法領域の拡大 人権の拡大  ○現実の人間像に沿った法へ   伝統的人間像=合理的判断ができ、他者から支配干渉を受けない人間   現実は、支配干渉を受け、他者に依存し、自由な意思決定が難しい人間    ↓    自己決定ができる基盤を作り、援助するなど、積極的に介   入する必要

家族における暴力の国の介入手法 人権アプローチ ・ 私的領域に属するひと ●DV・児童虐待の犯罪 化、DV被害者からの離 ・ 私的領域に属するひと  りひとりの構成員を人権  の主体とする ・ 家族間にも、市民社会  のルールを適用する ●DV・児童虐待の犯罪  化、DV被害者からの離  婚請求、保護命令制度  等 福祉アプローチ ・ 個々のニーズに応える 社会保障の様々な施策 を提供する ●被害者の一時保護、住居 の確保、児童扶養手当・生 活保護の支給、成年後見制 度など

(2)民法改正(選択的夫婦別氏制の2015年最高裁判決を   めぐって)   女性判事は全員違憲・・・           経験知がない   通称で不都合が緩和されることもない・・ と差別が理解で                                                         きない?                   ↓ マイノリティーである経験が、法曹としての判断に生かされる (3)認知制度・寡婦控除など  ・母の同意なく、一方的に男性が認知することができる  ・子どもを産んだ女性は、パートナーとの関係(死別・離別・未婚)で、所     得税の負担が変わる     ↓    制度の中に潜む差別の発見 

家 族 法 の 視 点 伝統的家族観 個人尊重家族観 ・日本の伝統的家族への回帰 大家族(三世代同居) 性別役割分担 家族内扶養 DVの多くは普通の夫婦喧嘩 専業主婦優遇 女性の権利拡大への危機感 法律婚のみ尊重 家族の一体感 家族内扶養 ・個人尊重とジェンダー平等 に基づく家族 DVは人権侵害 仕事と家庭の両立 女性の働き方に中立 男女平等 事実婚・同性婚等多様な家族 個人を基礎にした家族 育児・介護等の社会化

3 障がい者差別解消法への発展  障害が生み出されるのは、多数者が作り上げた環境としての「社会モデル」が理由であるから、障害者にとって障壁となる事物・制度・慣行・観念という「社会的障壁」をとりのぞくために「合理的配慮」を求める ・差別を、個人の属性(女性・外国人・住所地など)の問題としてではなく、社会のしくみとの関係から捉える   =医学的モデルではなく、社会モデルから障害を考える ・多数者の作り上げた障壁を取り除く合理的配慮を求める ・配慮するプロセスの模索を義務付けた

4 刑法改正(性犯罪の議論から) (1)被告人の側からの手続保障、刑法の謙抑性から重罰化反対、国家刑罰権の濫用の危険の視点が中心だった 4 刑法改正(性犯罪の議論から) (1)被告人の側からの手続保障、刑法の謙抑性から重罰化反対、国家刑罰権の濫用の危険の視点が中心だった (2)被害者の視点からの刑法改正 ・性交類似行為の処罰の必要性・・・・被害者の立場から重大な性虐待をとらえる  身体的境界線への侵入・性的自由への侵害である点では、強姦と変わりない ・強制性交罪の量刑の引き上げ・・・魂の殺人である(財産犯である強盗罪と同じ5  年に引き上げる) ・監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為または性交等にかか  る罪・・・性虐待の実態に即した犯罪類型の創設 ○しかし、暴行・脅迫要件は残っており、改正の必要性が高まっている (3)犯罪被害者の刑事手続への参加 ・被害者参加制度の創設(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律 5条以下 被害者参加弁護士                      17条以下 損害賠償命令の申立 ・刑事訴訟法 292条の2 被害者の意見陳述          157条の4 ビデオリンク方式による証人尋問          290条の2 被害者等特定事項の非公開 など

ご静聴、ありがとうございました。 法律家は、世の中の問題点を発見し、それを正していくことができる仕事です。おかしい!と思う感性も、リーガルリテラシーがあってのことです。時流に流されないで、法の理念を大切にしてください。