楕円銀河の銀河風モデル Arimoto & Yoshii (1986) A&A 164, 260

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楕円銀河の銀河風モデル Arimoto & Yoshii (1986) A&A 164, 260 Yoshii & Arimoto (1987) A&A 183, 13 J.-C.Cuillandre (CFHT)

楕円銀河の銀河風モデル もし原始銀河雲が半径約100kpcの大きさを持っていたならば、 ハッブル膨張から抜けたときに、その内部圧力だけで雲を支えるのは 不可能であり、ただちに重力収縮する (Eggen, Lynden-Bell & Sandage 1962, ApJ 136, 748) この考えを踏襲してLarson (1974; MNRAS, 169, 229)は楕円銀河の モデルを作り、初期の大規模な星生成の結果発生する大量の 超新星爆発が銀河のガスを吹き飛ばすことを示した。 この銀河風モデルはその後、Arimoto & Yoshii (1987)によって 詳しくその観測的諸量の振る舞いが調べられ、楕円銀河の起源を 考察するには有効なモデルになっている。 現在のCDMパラダイムとは対立するが、楕円銀河の形成を 考えるにはまず銀河風モデルについての理解が不可欠である。

星生成のタイムスケール

星生成のタイムスケール 銀河の原始雲の質量が1012Moであったとすると、その密度はρ=9.15 10-25gcm-3 となり、温度はT=104度となる(Silk 1977)。そのとき熱エネルギーMGRT~1057ergs 束縛エネルギーΩG~1060ergsに比べて圧倒的に小さい。このようなときには、 ジーンズ半径は銀河の半径に比べて遥かに小さくなり、原始銀河雲はジーンズ半径を 持つような小さな雲に分裂するだろう。 もし、分裂した雲の相互作用fが起きないなら、雲はほぼ等温的に収縮し、 自由落下のタイムスケールで星になる。 もし、分裂した雲の相互作用が重要なら、その運動は常に超音速であり、衝突して 圧縮された領域を形成する。星はこのとき、雲の衝突のタイムスケールで生まれる。

星生成のタイムスケール 自由落下のタイムスケール 雲の相互衝突のタイムスケール 二つのタイムスケールで短い方で星生成のタイムスケールが決まると考える。 すると、銀河の初期質量が109Moよりも大きいときは衝突のタイムスケールの 方が短く、逆のときは自由落下のタイムスケールが短い。つまり、普通の楕円銀河 での星生成のタイムスケールは分裂雲の相互衝突のタイムスケールで決まっている。

銀河風発生の条件 (1) 超新星爆発で加熱されたガスの熱エネルギーが ガスの束縛エネルギーを超える(Larson 1974)。 (1) 超新星爆発で加熱されたガスの熱エネルギーが ガスの束縛エネルギーを超える(Larson 1974)。 (2) 銀河の全域が超新星の膨張する残骸で覆われる (雪かきモデル: Ikeuchi 1977)

銀河風の発生 Yoshii & Arimoto (1987) A&A183,13 球状星団 銀河の熱エネルギーは星生成が進む につれて増加するが、束縛エネルギー はガスの量が減るのに伴い減少する。 すると、銀河内では二つのエネルギー が一致する時期が存在する。 球状星団のような小さな系では わずかにひとつの超新星で銀河 風が発生する。 巨大楕円銀河では熱エネルギー が増加するというよりは、星生成 によってガスが消費され束縛エネ ルギーが減少する結果、銀河風の 条件を満たす。 矮小楕円銀河 巨大楕円銀河 ガスの冷却が効きすぎると銀河風が吹かない

初期質量関数の推定 楕円銀河の星生成率を太陽系近傍の50倍と仮定して、化学進化を追いかけ 楕円銀河の色=Spectral Energy Distribution (SED)を計算する。星生成は 最初の1Gyrで停止したとする。このとき銀河のSEDは化学進化を考慮しない とIMFの傾きにほとんどよらないが、化学進化を入れると金属量の効果と星の 種族の効果に強く依存し、フラットIMFでは金属量が高くて銀河は赤くなり、 逆にステープIMFでも晩期型の星が卓越するので赤くなる。 巨大楕円銀河の色(SED)の観測と比較すると、IMFの傾きがX~1のとき によく再現されていることが分かる。これは楕円銀河の赤い色を説明するには 大質量の星が数多く生まれて、金属量を高くする必要があることを示唆する。

銀河風の発生時刻と星の金属量分布 Arimoto & Yoshii (1987) A&A 173, 23 重い楕円銀河ほど銀河風が遅く吹く

楕円銀河の星の金属量分布 楕円銀河の星の金属量は太陽と異なる。 金属量には幅があり、質量の大きな銀河 Yoshii & Arimoto (1987) A&A 183, 13 楕円銀河の星の金属量は太陽と異なる。 金属量には幅があり、質量の大きな銀河 ほど金属量分布は[Fe/H]の高い方に偏 る。巨大楕円銀河ではガスが殆ど星に なっているので、金属量のピークはイールド に等しくなっているが、矮小銀河ではガス の突然の流出(銀河風)によって化学進化 が中断するかたちとなり、金属量分布には シャープなカットオフが見られる。 銀河の星の平均の金属量には光度を重み として定義するものと、質量を重みとして 定義するものがある。実際の観測は明るい 星の金属量に比重がかかっているであろう から、光度で重みをつけた平均を使用する のが望ましいであろう。

銀河の質量と色(金属量) 質量の大きな楕円銀河は金属量が 高いので、より赤くなる。巨大な銀河 ほど星形成が長期にわたって継続し、 Arimoto & Yoshii (1987) A&A 173, 23 質量の大きな楕円銀河は金属量が 高いので、より赤くなる。巨大な銀河 ほど星形成が長期にわたって継続し、 その結果として化学進化が進む。 のちに、[α/Fe]の組成パターンから これでは観測が説明できないという 問題が発生している。星の組成解析 からは矮小銀河では星形成が長く 続き、大きな楕円銀河ほど短い期間 で星形成が終了したとしないと説明 が難しい結果がでてきている。

楕円銀河の金属量と絶対等級 Arimoto & Yoshii (1987) A&A 173, 23 楕円銀河の金属量の質量平均は矮星の金属量が卓越し、光度平均は巨星の金属量が聞いてくる。一般に光度平均の方が質量平均よりも金属量が低くでる。

楕円銀河の色ー等級関係 銀河風モデルでは楕円銀河の 色ー等級関係(CMR)は星の 平均の金属量が明るい銀河程 高いことで説明される。 Arimoto & Yoshii (1987) A&A 173, 23 銀河風モデルでは楕円銀河の 色ー等級関係(CMR)は星の 平均の金属量が明るい銀河程 高いことで説明される。

楕円銀河の色ー等級関係の進化 Arimoto & Yoshii (1987) A&A 173, 23 楕円銀河の色ー等級関係は星形成の時期の直後から静的に進化する。つまり、新しい星形成は行われず、既に生まれている星が老齢化することでSEDが変化する。これをPassive Evolutionと呼ぶ。

このずれはml=0.10Moとすると解消する(現在ではこの値が通常採用される)。矮小楕円銀河の中には極端にM/Lが大きなものがある。 楕円銀河の質量ー光度比 Yoshii & Arimoto (1987) A&A 183, 13 dE’s gE’s 球状星団が低いのは 力学的な蒸発の影響 GC’s 銀河風モデルと観測との間には系統的なずれがある。モデルのほうが約二倍大きい。これはモデルでIMFの下限値としてml=0.05Moとしたためである。 このずれはml=0.10Moとすると解消する(現在ではこの値が通常採用される)。矮小楕円銀河の中には極端にM/Lが大きなものがある。

Dynamical Response Yoshii & Arimoto (1987) A&A 183, 13

銀河風モデルのまとめ 銀河風モデルでは楕円銀河の色―等級関係を銀河風の発生する時刻が銀河の質量に依存する結果としてよく再現する。このとき、星の平均の金属量が色を変える原因である。 また、銀河が質量放出する結果、銀河は膨張し、表面輝度は減少、星の速度分散は小さくなる。これは実際の楕円銀河の観測をよく説明する。 銀河風で放出された鉄などの重元素は銀河団の高温ガス中に検出される元素の組成を定量的に説明する。 色―等級関係がシャープに規定されていることや、基準平面が薄いということは楕円銀河の年齢の幅が小さかったことを示唆している。 けれども、力学的な揺籃は説明できない。