自殺についての基礎知識 資料1 熊本県精神保健福祉センター 資料1とリーフレットをご覧下さい。 それでは、「自殺に関するさまざまな考え」について、みなさんと確認していきたいと思います。 これからお話することは、皆さんが書かれたことに対する「答え合わせ」ではありません。 世間一般でよく言われていることを、質問項目としてあげていますので、実態はどうなのかな?と考えていただく機会になればと思います。 熊本県精神保健福祉センター
①自殺は一部の特別な人だけにおこることで、自分達にはおこらない? 図12 周りに自殺した人はいるか い な い い る (計) 同居の親族(家族)以外の親族 そ の 他 友 人 職 場 関 係 者 同 居 の 親 族 (家族) 恋 人 無 回 答 ①番 「自殺は一部の特別な人だけにおこることで、自分達にはおこらない」ことでしょうか? このグラフは、内閣府が平成28年10月に実施した意識調査の結果です。 「あなたの周りに自殺した人がいますか?」という問いに対して、「いない」という方が57.9%、「いる」という方が36.9%という結果になっています。 また自殺をした人としては,上位から「同居の親族(家族) 以外の親族」(12.4%),「友人」(9.4%),「職場の関係者」(8.9%)となっています。 「自殺」というと、遠いところでおこっている出来事と思われがちですが、この調査によると回答した人の5人に約2人の割合で 「周りに自殺した人がいる」 ということになります。 内閣府「自殺対策に関する意識調査」(平成28年10月)
②自殺は常に衝動的で、前触れもなく起こる? ②自殺は常に衝動的で、前触れもなく起こる? ②番 「自殺は常に衝動的で、何の前触れもなく起こる」 ことでしょうか? これは、皆様にお配りしたリーフレットの中身です。 自殺の中には、何の前触れもなく突然亡くなってしまったという方もいますが、何らかのサインを出している方もいます。 このページの左半分にあるように「お酒の量が増えている」とか、例えば糖尿病の方が、これまでは食事療法や運動など頑張っていたのにそれをやめてしまって「自分の健康に無頓着になっている」など、「何かいつもと様子がちがう」と感じることがあるかもしれません。 また、「その方にとって大切な人や地位・財産をなくす」、「仕事の負担が急に増える」、「大きな失敗をする」、「原因不明のからだの不調が長引いている」等大変なことが重なっているときは、うつ病になっている可能性もあります。 「何かいつもと様子がちがう」「きつそうだけど大丈夫かな?」等、アンテナを高くして気づけるようにしていきたいものです。気づいた時は、勇気をもって声をかけ専門家に早めに相談するよう勧めてください。 <県精神保健福祉センター作成リーフレット 気づき・つなぎ・見守る あなたのそばにあるSOS より>
③自殺しようと考えている人は本当に死にたいと思っているし、死ぬことを決心している? 自殺を考えている人のこころ 問題を抱えて無力感、絶望感にとらわれている。 今の状況を「抜け出したい」「終わらせたい」という気持ちが「死にたい」という気持ちに変わってしまう。 追いつめられて、自殺することが唯一の解決方法だと思い込んでいる。 自殺を考える一方で、心のどこかで助けや救いを求めている。 ③番 「自殺しようと考えている人は本当に死にたいと思っているし、死ぬことを決心している」でしょうか? <自殺を考えている人のこころ>について、一緒に考えてみましょう。 自殺を考えている人のこころは、 ・様々な問題を抱えて無力感・絶望感にとらわれています。 ・「死にたい」ということを願っているのではなく、「今のきつい状況を抜け出したい」「終わらせたい」という気持ちが「終わらせたいから死にたい」という気持ちに変わってしまっています。 ・追いつめられて、自殺することが唯一の解決方法だと思い込んでいます。 ・自殺を考える一方で、こころのどこかで助けや救いを求めています。ちょっとしたきっかけで、「生」と「死」のどちらにも傾いてしまう状態です。 <県精神保健福祉センター作成リーフレット 自殺の危機にある人と出会った方々へ より> *自殺を考えている人と出会った時に を参照。
④悩んでいる人の前で、自殺の話をすると、寝た子を起こし、かえって自殺に追い込んでしまう? 根拠のない誤解と言われています。 死にたい思いについて聞いてもらうことで、一時的に衝動性が低くなり、自殺の危険性が低くなると言われています。 自殺を考えているのではないか?と思ったときには率直かつ真摯に尋ねてみる必要があります。 ④番 「悩んでいる人の前で自殺の話をすると、寝た子を起こし、かえって自殺に追い込んでしまう」ことになるのでしょうか? これも同じく根拠のない誤解と言われています。 自殺の考えがあるかを尋ねたことで自殺に追い込んでしまうということはなく、むしろ、死にたい思いを聴いてもらうことで、 一時的に衝動性が低くなり、自殺の危険性が低くなると言われています。 自殺を考えているんじゃないか?と気づかれたときには、率直かつ真摯に尋ねてみる必要があります。 具体的な、声のかけ方・話の聴き方については、のちほどの演習でまた説明していきます。
⑤「自殺する」と口にする人は、他人の注意をひきたいだけなので、本当に自分を傷つけることはない? 根拠のない俗説と言われています。 ⑤番 「自殺すると口にする人は、他人の注意をひきたいだけなので、本当に自分を傷つけることはない」のでしょうか? WHO(世界保健機関)の「自殺予防の手引き」によると「広く信じられているものの、根拠のない俗説」とされています。
⑥自傷行為をしたり、自殺を図って助かるような人は、実際に死に至るような行為はしない? 平成29年における自殺未遂歴の有無別自殺者数の割合 ⑥番 「自傷行為をしたり、自殺を図って助かるような人は、実際に死に至るような行為はしない」のでしょうか? これは、平成29年における自殺者の自殺未遂歴の有無について、警察庁の自殺統計を基に内閣府が作成したものです。 左が男性で、右が女性です。 全ての年齢階級で、自殺未遂歴が「あり」の割合は女性が多く、特に20歳未満の年代において、9割の方が自殺未遂歴が「あり」となっています。 また、男女別に比較して見ると、自殺未遂歴が「あり」の割合について 女性が男性より多くなっていますがその差は年々小さくなってきており、20歳未満の年代においては男性は9割を超えて女性より多くなっています。年代別による未遂歴の数は、男女とも割合の差が小さくなってきています。
⑦自殺者の大部分が精神的に不調をきたしている? 自殺とこころの健康 ⑦番 「自殺者の大部分が精神的に不調をきたしている」のでしょうか? 自殺とうつ病などのように、精神疾患との関連は非常に強いと言われています。 このグラフについては世界保健機関(WHO)の自殺死亡者に関する研究の結果です。 自殺者の90%以上が自殺前に治療対象となる何らかの精神障害を有していた可能性があったということが明らかにされました。 その中でも,特に「うつ病」の割合が30%と高く、つづいて「アルコール依存症」「統合失調症」が高くなっています。 資料:自殺とこころの健康(WHO 2002)
⑦-2自殺者の大部分が精神的に 不調をきたしている? 医療機関の受診状況 平成14年こころの健康問題と対策基盤の実態に関する研究 不調をきたしている? 医療機関の受診状況 これは、平成14年に行われた調査の結果ですが、うつ病などを患ったことのある人の受診状況を調べたものです。 この調査を見ると、受診している人は約25%にとどまっています。 先程の調査と併せて考えると、自殺をする方の多くは、うつ病などの精神医療上の問題を抱えておられても、その中で医療機関を受診している方は少ないという状況が考えられます。 うつ病やアルコール依存症、統合失調症など、自殺につながりかねない精神疾患を早期に発見して、適切な治療につなげるということが大切になってきます。 平成14年こころの健康問題と対策基盤の実態に関する研究
⑧高齢者の場合、一人暮らしの人の自殺が多い? 平成29年における同居人の状況別自殺者数 ⑧番 「高齢者の場合、一人暮らしの人の自殺が多い」のでしょうか? これは、自殺をした方に同居者がいたかどうかを調べたものです。 「高齢者の自殺」と聞くと、一人暮らしの方が将来を悲観して・・・などとイメージしがちですが、実際は6~7割以上の方に同居者がいました。 また男女とも、全ての年齢階級で同居人が「いる」方が多くなっています。
⑨自殺は予防することができる? (平成29年熊本県警資料をもとに作成) ⑨番 「自殺は予防することができる」のでしょうか? ⑨番 「自殺は予防することができる」のでしょうか? これは、自殺の原因が特定された方について、その原因の統計をとったものです。 これを見ると、健康問題が大半を占めていて、ついで、経済生活問題、家庭問題となっており、28年から29年にかけて順位が入れ替わっています。 県警資料を基に作られていますが、警察では自殺の原因を3つまで計上することができます。 なので、この中でも「健康問題」のほか、 「経済問題」 や「家庭問題」「勤務問題」など複数の要素が重なって自殺に至った方もいます。 重なることで、自殺への危険性が高まりますが、一つでも少しでも減らすことができると危険性が低くなるという視点が大事です。 そして、いろいろな関係機関と連携して対応していくことも大事になってきます。 もちろん全ての自殺を予防することはできませんし、全ての方の自殺のサインに気付くことはできません。 しかし、本日ご参加いただいた皆様のように、多くの方が自殺を考えている人への対応について学び、実践していくことで、自殺する人を減らすことはできると考えられます。 (平成29年熊本県警資料をもとに作成)
⑨-2自殺は予防することができる? (平成27~H29年熊本県警資料をもとに作成) このグラフは、熊本県の、平成27年から平成29年の自殺原因特定者の原因別自殺者数を表しています。 経済生活問題と勤務問題は、28年の数値が低くなっていましたが、経済問題は29年度から、再び増えてきています。 (平成27~H29年熊本県警資料をもとに作成)
家族の支え 大切な友人 お世話になった上司 死 昔からの趣味 大好きだった先生 身近な 相談機関 ペット 身近な 相談機関 これまで、自殺に関するさまざまな考えについて9項目みてきましたが、最後に自殺を考えている人の心の状態について確認していきます。 とてもきつい状況にあり、この状況から抜け出したい時、「死」という選択肢を考えることはあっても、自分の周りにいる家族や友人など大切な人に相談して解決するという選択肢があったり、趣味やペットに支えられて「死」を選ぶことなく生活しています。 ところが、追いつめられると本来あるはずの選択肢が見えなくなり、今のきつい状態から抜け出すためには「死」しかないと思い込んでしまいます ペット
心理的視野狭窄 死
どうしたらよいでしょう? まず、見て見ぬふりをせず、声をかけてみましょう。 相手が話さなくても、いつでも話を聞く用意があることを伝えてみましょう。 相手の話にじっくり耳を傾けましょう。 よしあしの判断をせずに話を聴きましょう(傾聴) 孤立させないようにしましょう。 相談機関があることを伝えましょう。 では、このような人と出会ったら、どうしたらよいのでしょうか? まず、「何かいつもと様子がちがう」とか「きつそうだけど大丈夫かな?」など、気付いたときは、見て見ぬふりをせず声をかけてみてください。 そして、相手が話をしなくても、「いつでも話を聴きますよ」ということを伝えてみてください。 もし、相手が話してくれたら、善し悪しの判断をせずに、相手の話にじっくり耳を傾けましょう。 それから、孤立させないような配慮や相談機関があることを伝えるということが大切です。