33事件 精神障害者の自殺 (東京高判平13・7・19) 事実概要 33事件 精神障害者の自殺 (東京高判平13・7・19) 事実概要 A(患者)は、平成5年2月から翌年9月ころまでN病院(Y1経営、B医師勤務)に通院 状態が悪化したため、同月H病院(Y2経営、C医師勤務)に緊急入院 入院当日、Aは縊首自殺
当事者の主張 原告…X1(Aの妻)、X2~X4(Aの子) Y1の主張 Y2の主張 Y1に対し、Aはうつ病であったにもかかわらず、B医師が神経症ないしヒステリー性人格障害と誤診し、うつ病治療をせずにAを自殺に至らしめたとして診療契約上の債務不履行に基づき損害賠償請求 Y2に対し、Aに自殺念慮があり自殺の予見可能性があったのにもかかわらず、C医師は自殺の予防措置をとることなくAを自殺に至らしめたとして同様の請求 Y1の主張 Aはうつ病ではなく、B医師の診断と治療に誤りはなかったうえ、自殺と治療の間には相当因果関係なし Y2の主張 Aはうつ病ではなく、心因反応 Aに自殺の具体的危険性はなく、C医師の処置とAの自殺との間には相当因果関係なし
第1審(横浜地判平12・2・25) Aの精神疾患はうつ病であった B医師にもC医師にもAの自殺につき予見可能性があり、各医師の診療過誤とA自殺との間に相当因果関係も認められる 不真正連帯責任(共同不法行為)を否定 責任…A:Y1:Y2=2:5:3 Yら控訴、Xら附帯控訴
本判決 Y1の責任について 「 Aの精神障害ないし神経障害の疾病について、医学的に判断を下すことが難しい症例であった」 「B医師の下したAがヒステリー性格及びヒステリー症状という心因反応的症状あるいは神経症であるとの診断は、その方法が適切な診断方法によるものではなく、安易な疾病診断であったということができ、誤診の余地があり、そのために疾病の具体的状況に応じた適切な治療を施す機会を失わせた可能性があるから、Aに対する診療契約上の義務を誠実に尽くしておらず、債務不履行に当たる」
本判決 「Aの自殺は、Y1との診療契約関係が断絶した後の事故であり、B医師の前記診療契約上の債務不履行の結果として発生したものといえないから、AのH病院での自殺とY1の債務不履行との間には相当因果関係があるということはできない」 「しかしながら、少なくとも、B医師がAの自殺の危険性を察知し、適切な治療方法等をとっていれば、自殺に至らなかった可能性がある」 「医師の患者に対する診療契約上の債務不履行と患者の自殺との間の相当因果関係は証明されないが、医師の債務不履行がなければ、患者が自殺しなかった可能性があれば、医師は患者がその可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき債務不履行責任を負う」 「Aの相続人Xらは、…Aが自殺しなかった可能性の利益を侵害された損害につき、慰謝料の請求権を有する」 X1に300万円、X2~X4にそれぞれ100万円
本判決 Y2の責任について 「C医師は、Aの過程での異常言動ないし錯乱行動についての認識を有していたものと認められ、その中には家人が制止した自殺しようとする言動と制止が困難になった自殺念慮を徴憑する行動とが含まれていたのであるから、当時、Aをうつ病と診断していた(又はその疑いを有していた)C医師とすれば、Aの前記行動は、まず、自殺念慮の発現、あるいは自殺企図の現れではないかとの疑いを抱くべきものであった」 「AのH病院入院時においては、Aに自殺の客観的危険性があったと認められ、C医師にとっては自殺に対する予見可能性があったと認められるうえ、X1らが当面自殺の危険を防止するために入院措置を望んでY2との診療契約を締結したと認められるから、Y2には、Aの自殺の防止を図るべき診療契約上の義務があった」
本判決 「当時のAにはある程度の自殺念慮があったと認められるし、これを予見することもできたと認められるから、…Aに対する投薬処方だけに止まらず、自殺衝動を抑制するに至る身体抑圧の措置をとるか、監視の度合を強化することによって、Aの自殺を防止すべき義務がH病院にあった」 「C医師や看護婦らは、Aに対して身体的抑圧の措置をとることはなかったことや、D看護婦も…巡回を怠り、Aの…意識の動勢の探知を怠ったものであるから、H病院にはAの自殺の危険性に対してこれを認識し、その自殺という結果を回避する義務を尽くしていなかった」 過失相殺→3割減 X1に約3140万円、X2~X4にそれぞれ約985万円
感想 Y1に対して…「可能性の利益」? Y2に対して…「巡回を怠」ったのか? 「相当程度の可能性」とは限らない →事実的因果関係? 適用範囲が不明確? Y2に対して…「巡回を怠」ったのか? D看護婦は23時15分に一回巡回、その次の巡回で23時45分にA自殺を発見→その間30分 巡回を怠ったと言えるのか?