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(依田研究室の研究プロジェクトに関る情報を含むので無断引用等禁止)
京都ネットエコン 産業融合と市場画定 (依田研究室の研究プロジェクトに関る情報を含むので無断引用等禁止) 京都大学大学院経済学研究科 助教授 依田高典
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産業融合時代の諸問題 マルチ・ネット・カンパニーの市場支配力をどう評価するか 産業横断的な支配的事業者をどのように有効競争レビューするか 産業横断的な大型企業合併をどう評価するか 従来の縦割り型行政をどのように改めるか など
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電力の広域流通が盛んになる今後、果たして関西電力は、関西地域の独占的事業者として扱われるべきか
2. 将来的に起こり得る(?)問題 電力の広域流通が盛んになる今後、果たして関西電力は、関西地域の独占的事業者として扱われるべきか 電力産業内の大型合併、例えば東京電力に対抗して、関西電力と中部電力が業務提携・資本提携・合併等を計画した場合、計画は認可されるべきかどうか エネルギー産業間の大型合併、例えば東京電力・大阪ガスに対抗して、関西電力が東京ガスと業務提携・資本提携・合併等を計画した場合、計画は認可されるべきかどうか (勿論、関西電力を例に用いたことに特別の他意はありません。) など
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3. 市場画定の重要性 独占禁止政策・競争政策の3ステップ STEP1:当該企業の提供する財・サービスの関連市場を画定 STEP2:当該企業が市場支配力を持っているかどうかを審議 STEP3:当該企業の市場支配力が不当な競争制限行為に結びついているかどうかを審議 実はSTEP1が一番厄介。産業融合時代には、当該企業の及ぼす範囲は広大にして画定困難
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4. セロファンの誤謬 United States v. E. I. du Pont de Nemours & Co., 351 U.S. 377, 391 (1956) 1951年、米国セロファン生産の75%を占有するdu Pont社は、その排他的なシェア協定等のために、司法省によって、セロファン市場を不法に独占化しているかどで訴えられた。しかし、連邦地裁も最高裁も、関連市場はセロファン市場ではなく、「柔軟性のある包装素材」市場であり、セロファンのみならず、アルミフォイル、グラシン紙、プライオフィルム、油紙、パラフィン紙等がすべて含まれるというdu Pontの主張を受け入れた。
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5. 「反トラスト市場」の画定 1982年米国司法省水平合併ガイドライン 「仮想的独占者のSSNIP*テスト」
5. 「反トラスト市場」の画定 1982年米国司法省水平合併ガイドライン 「仮想的独占者のSSNIP*テスト」 *Small but Significant and Non-transitory Increase in Price STEP1: 仮想的な独占者が、ある製品(又は地域)市場について「小幅であるが有意かつ一時的でない価格引き上げ(SSNIP)」(通常5%)を行う。 STEP2: 価格の引き上げによって、需要が減退したり、近接した代替財に移ったりすれば、仮想的な独占者の利益は減少する。従って、そのような場合には、独占企業は値上げを行わない。STEP1で考えた製品(又は地域)市場を関連市場として画定するのは適切ではない。 STEP3: 近接した代替財を含めて、SSNIPが行われる場合を考える。需要の減退や、他の財への代替が十分に大きくなければ、仮想的な独占者にとって、値上げは利益となるため、そのような製品・サービスの範囲を関連市場として画定できる。
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6. 数式による簡単な説明 ある製品Aの現行価格をP円、販売数量をX個とする。また、需要価格弾力性をE=-(dX/X)/(dP/P)とする。さらに、限界費用をcとする。この場合、 値上げ前の仮想的な独占者の利潤(Π0) =価格費用マージン×売上高 =[(P-c)/P] (PX) =(P-c)X となる。ここで、仮想的な独占者が値上げ率tの値上げを行い、価格が(1+t)P円に上昇したとする。価格弾力性はEであるので、販売数量は-tE減少し、(1-tE)Xとなる。従って、 値上げ後の仮想的な独占者の利潤(Π1) =[{(1+t)P-c}/(1+t)P][(1+t)P(1-tE)X] =[(1+t)P-c] [1-tE]X となる。
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値上げ前後の仮想的な独占者の利潤を比較すると、
ΔΠ =Π1-Π0 =tPX-tE[(1+t)P-c]X =t[P-{(1+t)P-c}E]X となる。 因みに、二つ目の等式の右辺第一項(tPX)は価格増加による利潤増加分、右辺第二項[tE{(1+t)P-c}X]は販売数量減少による利潤増加分を表している。 もしもΔΠ>0ならば仮想的な独占者は値上げによって利潤を増やすことができるので、製品Aを関連市場として画定することができる。 もしもΔΠ<0ならば仮想的な独占者は値上げによって利潤を増やすことができないので、製品Aを関連市場として画定することができない。
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7. 数値による説明(1) ある区域内のA電力の電気価格を20円/1kWh、販売量を10000kWhとし、その価格弾力性を2とする。また、1kWhあたりの限界費用を10円とする。ここで5%のSSNIPを行った場合、果たしてA電力の利潤は増加するかどうか。 それぞれ数値を代入すると、 ΔΠ=t[P-{(1+t)P-c}E]X =0.05 [20-{(1+0.05)20-10}2]10000 =-1000(円) となり、利潤は減少する。 つまり、A電力が当該区域内において電気料金のSSNIPを行うと、顧客はライバルに相当流出するので、当該区域におけるA電力の電力供給を反トラスト市場として画定できない。
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8. 数値による説明(2) ある区域内のA電力と隣接区域のB電力が合併することを仮定し、両電力を仮想的な独占者とする。その電気料金を20円/1kWh、販売量を10000kWhとし、その価格弾力性を1.5とする。また、1kWhあたりの限界費用を10円とする。ここで5%のSSNIPを行った場合、果たしてA電力の利潤は増加するかどうか。 それぞれ数値を代入すると、 ΔΠ=t[P-{(1+t)P-c}E]X =0.05 [20-{(1+0.05)20-10}1.5]10000 =1750(円) となり、利潤は増加する。 つまり、A電力とB電力が当該区域内において電気料金のSSNIPを行っても、顧客はライバルにさほど流出しないので、当該区域におけるA電力とB電力の電力供給を反トラスト市場として画定できる。
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9. 収支均等臨界弾力性 仮想的な独占者が、SSNIPを実施することによって、利益を得ることができる価格弾力性の最大値 価格前後の収支均等条件ΔΠ=0より、収支均等臨界弾力性はCE≡P/[(1+t)P-c] となる。 もしも価格費用マージン率をmとすれば、収支均等臨界弾力性CE≡1/(t+m)となる。
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実際の需要の弾力性>臨界弾力性 ⇔ 値上げが利益とならないほど需要が弾力的 もしも当該製品(又は地域)を関連市場とすると、狭く画定しすぎることになる。次善の代替品を含めて、再度SSNIPテストを実施する必要がある。 実際の需要の弾力性<臨界弾力性 ⇔ 値上げが利益となるほど需要が非弾力的 当該製品(又は地域)を関連市場とすることが適当。(先ほどの数値例のケース。)
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8. 数値による説明(3) 市場を狭くA電力のみと仮定する数値による説明(1)の実際の弾力性Eは2であるのに対して、収支均等臨界弾力性CE1.82である。E>CEなので、当該地域を関連市場と確定できない。 市場を広くA電力とB電力と仮定する数値による説明(2)の実際の弾力性Eは1.5であるのに対して、収支均等臨界弾力性CE1.82である。E<CEなので、当該地域を関連市場と確定できる。
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11. 産業融合と市場画定 基本的に、市場画定は(1)SSNIPの大きさ、(2)需要価格弾力性、(3)価格費用マージンに依存して決定される。 例えば、果たして地域独占的電力会社は本当に「独占者」なのだろうか そうでない場合、地域独占的電力会社が別の地域独占的電力会社と合併することは可能なのだろうか あるいは、地域独占的電力会社が別の地域独占的ガス会社と合併することは可能なのだろうか 以上の問題は、「反トラスト市場の画定」によって判断されるべき学術問題であり、潜在的には回答可能な問題でもある。依田研究室は、若い戦力の育成をまって、この課題に取組む予定。
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参考文献 五十嵐俊子(2003)「米国の企業結合審査における経済分析の活用:市場画定の経済分析手法」公正取引628: 27-34.
Church, J. and R. Ware(2000), Industrial Organization : A Strategic Approach; Chapter 19: The Theory of the Market, McGraw-Hill.
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