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プラットフォームビジネスと 最恵国待遇条項(MFN)
競争法フォーラム月例会(2017年3月16日) 弁護士法人大江橋法律事務所 弁護士 植村幸也
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序 論
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最近の事例 アップル電子書籍事件(米国2012年・欧州委2013年)
アマゾン・マーケットプレイス事件(ドイツ2013年・イギリス2013年) オンライン自動車保険事件(イギリス2014年) オンラインホテル予約事件(ドイツ2015年・フランス2015年) アマゾン電子書籍事件(欧州委調査中) アマゾンジャパンへの立入検査(公取委2016年)
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MFNの競争阻害効果 値引抑制効果 協調促進効果 カルテル実効性確保手段 低価格小規模新規参入者の排除
手数料競争の緩和(エージェンシー・モデルの場合)
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MFNの競争促進効果 より有利な契約条件の要求 ただ乗り防止 長期契約での高価格へのロックインの軽減
価格低下の可能性がある場合における早期契約の促進
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MFNの排除効果が大きい場合 競争者に対するよりも有利な条件を要求する場合(追加優遇型MFN)
ライバルが品質は劣るが安い価格で原材料を調達し品質は劣るが安い商品を供給する戦略の場合 MFNが市場で相当のシェアを占める売手に対して課される場合 MFN対象取引が、MFN義務を負わされる売手にとって相当の重要性を占めている場合 MFNで保護される買手が、市場で相当の地位を占めている場合 遡及型MFN
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プラットフォームの経済学
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Armstrong(2006) 効用:u1=α1n2-p1 グループ1:1, 2, ... , n1 価格:p1 費用:f1
α1:グループ2のユーザーが1人増えることによるグループ1のユーザーの効用の増加 価格:p1 費用:f1 プラットフォーム 価格:p2 費用:f2 グループ2:1, 2, ... , n2 効用:u2=α2n1-p2
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Armstrong (2006) プラットフォームの利潤
各グループのユーザー数は効用の関数として表すことができる(効用が多いとユーザー数も多い)
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Armstrong (2006) プラットフォームの利潤をユーザーの効用で表すと プラットフォームの利益最大化価格 n1 p1 n2 p2
グループ1のユーザー数 グループ2の外部性 グループ1の参加の弾力性
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Armstrong (2006) グループiの消費者余剰をvi(ui)と置くと(ただし、vi’(ui)≡φi(ui))、総余剰は以下のとおり
総余剰最大(社会的最適)化の条件 社会的に最適な価格が限界費用を下回る
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プラットフォームの特徴(まとめ) プラットフォームから一方のグループへのサービス提供価格が限界費用を下回ることが社会的に最適でありうる
マイナスのサービス提供価格が社会的に最適だということもありうる 間接的外部性の存在によるクリティカル・マスの存在
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プラットフォームとMFN
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Johnson (2014):概要 エージェンシー・モデルでは、メーカーは製造費用のすべてを負担するが売上の全部が収入にはならないため、実質的な(知覚される)限界費用(perceived marginal cost)が現実の限界費用(c)を上回る エージェンシー・モデルでは、小売価格に化体したメーカー間の差別化による超過利潤の一部を小売が享受する エージェンシー・モデルでのMFNは、小売間の手数料率競争を消滅させ、消費者余剰は最小化する
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Johnson(2014):前提 メーカー(S):N人 小売(R):M人 各メーカーは1種類の商品を製造 各メーカーの限界費用:c>0
メーカーと小売はそれぞれ差別化されている 需要者は、いずれかの小売からいずれかの商品を1個買う(需要は完全に非弾力的)
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Johnson (2014):卸売モデル ゲームの手順 各メーカーnが、卸売価格wnを設定 各小売mが、小売価格 pm を設定
需要者が、まず(i) どの小売mから購入するか決定し、次に(ii)どの商品nを購入するか決定
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Johnson (2014):卸売モデル S1 S2 Sn SN ・・・ ・・・ ① R1 R2 Rm RM ・・・ ・・・ ② ③
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Johnson(2014):卸売価格の決定 卸売モデルでの卸売価格wを設定するメーカーの利益 対称的な均衡での卸売価格w*は、
他のすべてのメーカーの卸売価格 メーカーnの市場シェア 対称的な均衡での卸売価格w*は、 メーカー段階のマークアップ
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Johnson(2014):小売価格の決定 卸売モデルでの小売価格pを設定する小売の利益 対称的な均衡での小売価格p*は、
他のすべての小売の小売価格 小売mの市場シェア 対称的な均衡での小売価格p*は、 小売段階のマークアップ
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Johnson(2014):卸売モデルまとめ 均衡卸売価格 均衡小売価格 メーカー段階のマークアップ メーカー段階のマークアップ
小売段階のマークアップ
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Johnson (2014):エージェンシー・モデル
ゲームの手順 各小売mが、メーカーへの分配率rm (0< rm <1)を設定 各メーカーnが、小売価格pnを設定 需要者が、まず(i) どの小売mから購入するか決定し、次に(ii)どの商品nを購入するか決定
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Johnson (2014):エージェンシー・モデル
Sn SN ・・・ ・・・ r r rm r ① ② R1 R2 Rm RM ・・・ ・・・ ③
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Johnson(2014):エージェンシー・モデル
メーカーの利益 メーカーnの市場シェア メーカーの実質限界費用 均衡価格 メーカー段階のマークアップ
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Johnson(2014):マークアップの比較 卸売モデルの総マークアップ ただし、 エージェンシー・モデルの総マークアップ
小売段階のマークアップ メーカー段階マークアップ ただし、 エージェンシー・モデルの総マークアップ メーカー段階のマークアップ 実質限界費用と限界費用の差=
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Johnson(2014):比較まとめ エージェンシー・モデル 卸売モデル 小売価格 低 高 合計利潤 小売利潤 メーカー利潤 消費者余剰
・ エージェンシー・モデルでは、メーカーの差別化によるレントの一部が小売と消費者に移転する ∵エージェンシー・モデルでは小売が(メーカー差別化による価格上昇が化体した)小売価格の分け前にあずかることが可能だから ・ これに対して卸売モデルでは、メーカー差別化による価格上昇は卸売価格の形で小売に転嫁されるため、小売はメーカー差別化による価格上昇の利益を一切享受できない ⇒これがアマゾンやアップルがエージェンシー・モデルを要求する理由か? ・ メーカー、小売のいずれかが完全に競争的(Nx’(0)→∞、My’(0)→∞)なら、両モデルに差はなくなる
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Johnson(2014):MFNの効果 卸売モデルでのMFNの効果 エージェンシー・モデルでのMFNの効果
メーカーの取り分(rm):低下 ∵MFNのために、小売の手数料競争がなくなる 小売価格:上昇 消費者余剰:低下
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Johnson(2014):MFNの効果の証明 エージェンシー・モデルでのメーカーの利潤 =1 =(r1+...+rM )/M
小売mの市場シェア 他メーカーの小売価格 メーカnの 市場シェア =(r1+...+rM )/M (∵ym=1/M) =1 メーカーの実質的限界費用
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Johnson(2014):MFNの効果の証明(続)
∴メーカーが設定する小売価格は ⇒いずれかの小売がrmを減らすと・・・ ①その小売は自らの販売からの収入が増える ②メーカーが他の小売を通じて販売する際の実質的限界費用が上昇し、小売価格が上昇する ∴小売はrmを減らして市場価格を上げさせるインセンティブを有する
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Johnson (2014):電子書籍への応用 もし電子書籍市場がMFNなしでエージェンシー・モデルに移行したとすれば、価格は下がったであろう MFNの保証がなければアップルは電子書籍市場に参入しなかったのではないか? (出版社にとって電子書籍を供給する限界費用はゼロに近いのではないかとの批判に対して)出版社は電子書籍を売ることで紙の書籍を売れないという機会費用を負担している
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Boik & Corts (2016):モデル S: 売主 Ks: 売主の固定費 cs: 売主の限界費用
Mi: プラットフォーム(Market Place), i={1,2} Ki: Miの固定費 ci: Miの限界費用 fi: MiがSに請求する商品1個当たりの手数料 pi: SがMiで販売する価格 : SがMiで販売する需要量(pは価格ベクトル)
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Boik & Corts (2016):ゲームの手順 プラットフォームがMFNを採用するかどうか決める プラットフォームが手数料を設定する
需要者が購入を決定する
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Boik & Corts (2016):モデル S M1 M2 Ks:固定費 cs: 限界費用 ②f1: 手数料 ②f2: 手数料
①MFN? ①MFN? ③p1: 価格 ③p2: 価格 q1(p) q2(p) ④
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Boik & Corts (2016):MFNの価格への影響
売主の利益 Miを通じた需要を次のように置くと・・・ 売主の利益を最大化する価格 MFNなし: 両方MFNあり:
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Boik & Corts (2016):MFNの手数料への影響
各プラットフォームの利益 各プラットフォームの利益最大化手数料 MFNなし: 両方MFNあり:
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Boik & Corts (2016):MFNの手数料への影響(続)
両プラットフォームの費用が対照的だと仮定して、前頁の最適反応より、均衡手数料は・・・ MFNなし: 両方MFNあり: ∴
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Boik & Corts (2016):MFNの新規参入への影響
既存プラットフォームと非対称的な新規参入プラットフォームへの影響をみるため、以下の仮定をおく c2<c1 M2の販売量は、同じ価格において、常に X だけ少ない 新規参入者の固定費がxの関数だとして、以下の条件を満たす場合に参入が生じる
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Boik & Corts (2016):MFNの参入への影響
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Boik & Corts (2016):まとめ 参入者の下方差別化(downward differentiation. 例、低コスト)の程度が大きい場合、MFNは参入を阻害する 反対に、参入者の下方的差別化の程度が小さい場合(例、既存プラットフォームと似たビジネスモデルの場合)、MFNは参入を促進する MFNは、低コスト・低サービスのプラットフォームを好む需要者から高コスト・高サービスのプラットフォームを好む需要者への実質的な補助金
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検 討 アマゾン・マーケットプレイスは、日本でそもそも市場支配力がないのではないか?
検 討 アマゾン・マーケットプレイスは、日本でそもそも市場支配力がないのではないか? アマゾンは日本の電子書籍市場で市場支配力を有する可能性があるが、紙の書籍との代替性をどう考えるか? フリーライドの危険はマーケットプレイスと電子書籍で異なる? プラットフォームMFNは再販拘束と同じ?(Fletcher and Hviid, 2016 )
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参考文献 Armstrong, M., 2006, “Competition in Two-sided Markets.” The RAND Journal of Economics 37 (3): 668–691. Johnson, J., 2014, “The Agency Model and MFN Clauses," SSRN working paper. Boik, A., and Corts, K., 2016, “The Effects of Platform Most-Favored-Nation Clauses on Competition and Entry,” Journal of Law and Economics, vol. 59: Fletcher, A., and Hviid, M., 2016, “Broad Retail Price MFN Clauses: Are They RPM “At Its Worst”?” Antitrust Law Journal, vol. 81: Lear, 2012, “Can `Fair‘ Prices Be Unfair? A Review of Price Relationship Agreements,“ UK Office of Fair Trading Paper #1438.
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