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日本語文法論 2011/12/1 2014年度秋学期 日本語文法論 2018/11/7.

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1 日本語文法論 2011/12/1 2014年度秋学期 日本語文法論 2018/11/7

2 講義概要 教員氏名: 岡 智之(おか ともゆき) 連絡先:7235(研究室電話)、okatom@u-gakugei.ac.jp
教員氏名: 岡 智之(おか ともゆき) ● ねらいと目標… 現代日本語文法の最新の成果を学び、自ら考 えながら、言語を分析し、研究していく方法を学んでいく。 ● 内容… 今年度のテーマは、「イメージ日本語文法」である。 認知言語学や場所論の観点を応用し、イメージ(スキーマ) で、文法を可視化していく方法を学んでいく。トピックとし て、日本語の基本構造(主語の問題)、ハとガ、格助詞、自動 詞/他動詞、ラレル文、複合助詞、接続助詞などを取り扱う予 定。 ● テキスト… なし。パワーポイントを使用し、プリントを配 る。   ● 参考文献…岡智之『場所の言語学』ひつじ書房。授業時に適宜 指示。 ● 成績評価方法… 平常点(毎回のコメント票提出)30%、小レ ポート30%、期末試験40% 2018/11/7

3 授業スケジュール 1.オリエンテーション、日本語の事態把握の特徴 2.「なる(ある)」言語と「する」言語 3.主語不要論
4.基本助詞のスキーマ 「は」と「が」(1) 5.「は」と「が」(2) 場所論からのアプローチ 6.格助詞導入 7.格助詞「に」 8.格助詞「を」 9.格助詞「で」 10.格助詞のまとめ。助詞の教授法。 11. 日本語のヴォイス 自動詞/他動詞 12. ラレル文 13.複合助詞のスキーマ 14.接続助詞のスキーマ 15. まとめ 2018/11/7

4 第1回 日本語の事態把握の特徴 クイズ1:次の日本語原文と英語訳がどんな点で 違うか、答えてください。イメージを図で書いて みてください。また、自分の得意な外国語で翻訳 してみてください。 (1)国境の長いトンネルを抜けると雪国であっ た。(川端康成『雪国』) (2)The train came out of the long tunnel into the snow country.(サイデンステッカー訳) 2018/11/7

5 他の言語での翻訳 (3)ドイツ語:Als der Zug aus dem langen Grenztunnel herauskroch,lag das Schneeland.(O.Benl訳) (4)フランス語: Un long tunnel entre les deux regions, et voici qu’on etait dans les pays de neige. (B.Fujimori訳) (5)韓国語:국경의 긴 터널을 빠져나오자 설국이 었다. (6)中国語:火车穿出长长的边界隧道,一下子 就来到了雪国。 2018/11/7

6 どの絵をイメージしましたか 2018/11/7

7 2018/11/7

8 2018/11/7

9 日本語と英語の事態把握の違い 英語     トンネル 電車    話者の視点 日本語      トンネル  雪国 2018/11/7

10 英語 日本語 主語がある 主語がない 単文 複文 モノの移動 状況の推移 外的視点 内的視点 (神の視点) (虫の視点) (金谷 2004)
  英語       日本語  主語がある    主語がない  単文        複文  モノの移動    状況の推移  外的視点     内的視点  (神の視点)   (虫の視点)  (金谷 2004)  客観的把握    主観的把握 (池上2009) 2018/11/7

11 <好まれる言い回し>-事態把握の言語による違い(池上2009)
①(戦死者に言及して) a)彼は戦争で死んだ。 b)He was killed in the war.(戦争で殺された) ②(道に迷って尋ねるとき) a)ここはどこですか。 b)Where am I ? (私はどこにいますか) ③(財布を取られたことを届け出て) a)財布を盗まれました。 b)Someone stole my wallet.(誰かが私の財布を盗みま した。) 2018/11/7

12 ④(予期しないところで知人と出会って) a)どうしてこんなところに来ているの。 b)What brings you here
④(予期しないところで知人と出会って) a)どうしてこんなところに来ているの。 b)What brings you here? ⑤(ドアが開かなくて困っている人に鍵を届け て) a)これで開きますよ。 b)This key will open the door. ●英語…<起因>にこだわって事態把握-他動詞文、 無生物主語、動作主重視 ●日本語…起因を考慮外において、出来事そのもの に焦点を置く-自動詞構文、ラレル文、ナル文 2018/11/7

13 客観的把握と主観的把握 ・英語話者…認知の主体として、事態や自らをイ マ・ココの場から切り離して抽象化・対象化して 把握し、それに即して言語化する仕方を好む傾向 (客観的事態把握) ・日本語話者…認知の主体として発話のイマ・コ コの場にある話し手自らを原点とし、場に密着し たまま事態をまるごと(コト的・非分析的に)、 体験的・身体的に把握し、それを言語化する仕方 を好む傾向(主観的事態把握) →「見え」のま まに話す 2018/11/7

14 客観的把握    主観的把握 事態 事態 発話の場 発話の場 2018/11/7

15 クイズ2 ○にひらがなをひとつずつ入れて、正 しい文にしてください。 「風○窓○開○た」
クイズ2 ○にひらがなをひとつずつ入れて、正 しい文にしてください。   「風○窓○開○た」 2018/11/7

16 クイズ3 英語・日本語を比較して、どのような特徴があるか、考え てみよう。 English 日本語
クイズ3 英語・日本語を比較して、どのような特徴があるか、考え てみよう。   English         日本語      (所有)I have time.       時間がある。 (所有)I have son.       息子がいる。 (欲求)I want this house.       この家がほしい。 (欲求)I want to see this.      これが見たい。 (理解)I understand Chinese.    中国語がわかる。 (必要)I need time      時間が要る。 (知覚)I see Mt. Fuji.        富士山が見える。 (知覚)I hear a voice.       声が聞こえる。 (好き) I like this city.       この町が好きだ。 (嫌い) I hate cigarettes.     タバコが嫌いだ。 (経験)I have seen it.       見たことがある。 (可能)I can cook.       料理が出来る。   2018/11/7

17 「ある言語」と「する言語」(金谷2002、2004) 日本語は現実を「何かがそこで自然発生的に起こ る」、あるいは「ある状態で、そこにある」とい う発想を基本としてことばを組み立てている。そ のために、日本語は行為を起こす人間よりも場所、 空間にこだわる。 ―「ある(なる)言語」 英語は、現実を可能な限り「人間の積極的な行 為」として表現しようとする。―「する言語」 2018/11/7

18 スル的表現とナル的表現 クイズ4 どちらを使いますか。 (1)a.私たち、結婚することにしました。 b.私たち、結婚することになりました。
クイズ4 どちらを使いますか。 (1)a.私たち、結婚することにしました。   b.私たち、結婚することになりました。 (2)(レストランで)  a. こちら、ハンバーグ定食です。  b.こちら、ハンバーグ定食になります。 (3)(焼き肉パーティで)  a.「どの肉もよく焼いたからたくさん食べてね」 b. 「どの肉もよく焼けたからたくさん食べてね」 (4)(花瓶を誤って落とした)    a.「あ、割っちゃった」 b.「あ、割れちゃった」 2018/11/7

19 参考文献 『月刊言語 特集「いま」と「ここ」の言語学 こと ばの<主観性>をめぐって』2006年5月号、Vol.35 No.5、 大修館書店 池上嘉彦(2006)『英語の感覚・日本語の感覚 <こと ばの意味のしくみ>』NHKブックス 池上嘉彦(2007)『日本語と日本語論』ちくま学芸文庫 池上嘉彦・守屋三千代編著(2009)『自然な日本語を教 えるために-認知言語学をふまえて』ひつじ書房 金谷武洋(2002)『日本語に主語はいらない』講談社選 書メチエ 金谷武洋(2004)『英語にも主語はなかった』講談社選 書メチエ 2018/11/7

20 日本語の基本構造は、主語と述語? 大槻文法と主語の導入…「文は主語と説明語より なる」
橋本文法における主語…「『何がどうする・何が どんなだ・何がなんだ』における『何』が主語で ある。」―基本的には意味の上で「動作主」であ れば助詞は問わない。―「は」も「が」も文脈に よっては「主語」をマークする。 2018/11/7

21 主語という概念についての二つの見解(金谷2002)
 A: 日本語にも、英仏語と同じように主語がある。 すべての文は主語と述語に分解することができる。 そもそも、主語とは人類のすべての言語に共通す る普遍文法の一要素である。だから日本語の他動 詞文の語順はS-O-Vであると言える。Sが主語であ る。ただ、日本語の主語は、省略されることが多 い。 2018/11/7

22  B: 日本語には主語の概念は不要である。日本語 の構文は朝鮮語や中国語などとおなじく、述語だ けで基本文として独立している。言語類型論(タ イポロジー)における語順比較では、世界中の言 語でS(主語)があたかも普遍的事実であるよう に扱っているが、実は主語の概念は普遍的ではな いから、抜本的な改正が必要である。 2018/11/7

23 ○クイズ2 次の文に主語はあるか。あるとすれば、 どれか。 (1)(ケーキを食べて)おいしいー! (2)今日、寒いね。 (3)好きです。
○クイズ2 次の文に主語はあるか。あるとすれば、 どれか。 (1)(ケーキを食べて)おいしいー! (2)今日、寒いね。 (3)好きです。 (4)ゴキブリだ! (5)あそこにウグイスがいる。 (6)秋刀魚を三枚におろします。 2018/11/7

24 (7)黒板に『あしたは休み』と書いてあった。 (8)いい陽気になりましたね。 (9)田中さんにこの問題は解けない。
(10)豊島区では、ただいまボラン    ティアを募集しています。 (11)象は鼻が長い。 (12) このクリームは、肌にやさしい。 (13) 僕は、うなぎだ。 (14) こんにゃくは、太らない。 2018/11/7

25 英仏語の主語の条件 (あ)基本文に不可欠の要素である。 (い)語順的には、ほとんどの場合、文頭に現れ る。
(う)動詞に人称変化(つまり活用)を起こさせ る。 (え)一定の格(主格)をもって現れる。 日本語に以上の主語の条件があてはまるか。 2018/11/7

26 三上章の主語廃止論 「日本文には主語と名づけるべき成分は決してあ らわれない。だから「主語」は日本語文法に関す る限り全く無益な用語である。無益であるのみな らず、正当な問題から注意をそらせる傾向がある 点で、有害な用語である。主語という用語が一日 も早く廃止されるよう望んでやまない。」 (『現代語法序説』p2) 2018/11/7

27 「西洋の文が主述の二本立てであるのに対し、日 本文はいわば述語の一本立てである」(『続現代 語法序説』p7)
 西洋語:天秤型    A introduced C to B.               主部 + 述部  日本語:入れ子型   甲ガ乙ニ丙ヲ紹介シタ。   日本語には「甲ガ」だけが述語と呼応すると いう現象はないし、「ガ」と「乙」との間に特に 大きい裂け目ができて、センテンスが上下に二分 されるわけでもない。(同p38) 2018/11/7

28 教室への応用: 盆栽型とクリスマスツリー型
Taro is making pizza at home. 太郎が家でピザを作っている。 Taro 太郎 ピザ  家 is making 作っている pizza at home 2018/11/7

29 英語:「主語」が突出している。意味的には動作 主。動詞の前に唯一置かれ、動詞に活用を起こさ せる。
日本語:「太郎が」は「主語」ではなくて、「が 格(主格)補語」にすぎない。 2018/11/7

30 非人称構文とダミー主語 (15)It is hot. (16)It is ten o’clock. (17)暑いね。 (18)10時だよ。
(19)暖かくなりましたね。 (20)ほんとうですね。 (21)静かだ。 (22)雨だ。 2018/11/7

31 参考文献 三上章(1953=1972)『現代語法序説―シンタク スの試み』くろしお出版
三上章(1972)『続 現代語法序説―主語廃止 論』くろしお出版、(1959刀江書院) 柳父章(2004)『近代日本語の思想ー翻訳文体成 立事情』法政大学出版局 2018/11/7

32 第3回 「は」と「が」 助詞「は」をめぐる二つの見解(金谷2002:100)
第3回 「は」と「が」 助詞「は」をめぐる二つの見解(金谷2002:100) A: 助詞「は」は文の主題を表す。文脈によっては 対比、否定を表すこともある。「は」と「が」の 違いは前者が既知、後者が未知のものを表すこと にある。 2018/11/7

33  B: 助詞「は」主語を表すという主張は明らかに 誤っているが、主題を表すと言い換えても、それ では係助詞「は」の一面しか捉えていない。 「は」に機能としてよく列挙される対比、否定、 主題などはもともと同じものである。「は」と 「が」の違いばかりを比較するのは無意味で、そ れは「主語」という考えのせいである。「は」は 文字通りのスーパー助詞で、その本当の役割は、 単文の境界を越えることである。 2018/11/7

34 1. 助詞「は」の働き: 主語から主題へ (1)2階を先生に貸しています。 (2)2階は先生に貸しています。
1. 助詞「は」の働き: 主語から主題へ (1)2階を先生に貸しています。 (2)2階は先生に貸しています。 (3)先生が2階を借りています。 (4)先生は2階を借りています。 (2)と(4)の二つの「は」の共通性は? →題目(主題:Topic)「~についていえば」(As for~) 「は」の本務=題述関係、兼務=格助詞(ガノニ ヲ)の代行(三上1960『象は鼻が長い』くろしお 出版) 2018/11/7

35 2. 旧情報と新情報 「は」は既知(旧情報)で、「が」は未知(新情報)を表す。
2. 旧情報と新情報 「は」は既知(旧情報)で、「が」は未知(新情報)を表す。  「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがありました。お じいさんは柴刈りに…」 ・ 他の格助詞も新情報を表す。 (5)2階を先生に貸しています。 (6)「もしもし、落ちましたよ」「えっ、何が?」「はい。ハ ンカチ」 (7)「もしもし、落としましたよ」「えっ、何を?」「はい。 ハンカチ」 ・「が」は新情報とは限らない。 (8)甲「太郎が来ました」    乙「そうですか。全くよく来るなあ」    甲「そうそう、太郎がこう言っていましたよ」 最後の「が」は新情報とはいえない。単なる繰り返しである。 2018/11/7

36 (9)(部屋に入ってきて)すみません。ここに 山田さんはいますか?
 旧情報ではない「は」 (9)(部屋に入ってきて)すみません。ここに 山田さんはいますか? (10)(インタビューに答えて)これまでの旅行? カナダは面白かったなあ。 小説の冒頭の「は」 (11)「ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係 りでした」 (12)「六の宮の姫君の父は、古い宮腹の生まれ だった」 2018/11/7

37 3.三上章の構文論: ピリオド越えとコンマ越え
助詞「は」の働きは節を越え(コンマ越え)、文 さえ越える(ピリオド越え)。 (13)吾輩は → 猫である。        → 名前はまだない。        → どこで生まれたか頓と見当が つかぬ。        → 何でも薄暗いじめじめした所 でニャーニャー泣いて居た事だけは記憶してい る。 (14)この本は → 僕も読んだが、         → 大変おもしろかったから、         → 君もぜひ読んでみたまえ。 2018/11/7

38 クイズ 下記の文章の「この本は」は、後続の文 章にどのように係っていくか考えてください。
クイズ 下記の文章の「この本は」は、後続の文 章にどのように係っていくか考えてください。 (15)この本はタイトルがいいので、大いに期待し た。図書館ですぐ読んだが、得るところはなかっ た。全く期待はずれだった。 2018/11/7

39 4.「は」は文を切る (16)(甲)「小林さんは?」 (乙)「バスで来ます」 (17)(甲)「この傘は?」 (乙)「明美さんのじゃないかな」
   (乙)「バスで来ます」 (17)(甲)「この傘は?」  (乙)「明美さんのじゃないかな」 (18) 象ハ鼻ガ長イナア! (三上章『象は鼻が 長い』) 2018/11/7

40 5.教室への応用: 「は」は「コンマ」 (19) Ce livre (, il) est interesant. 「この本は、面白いです」
5.教室への応用:  「は」は「コンマ」 (19) Ce livre (, il) est interesant.     「この本は、面白いです」      (this book (, it) is interesting.) (20) Ce livre (, je l’) ail u.     「この本は、読んだ」      (this book (,I it) have read.) 「は」は「ツリーの外」の「日の丸」 2018/11/7

41 6.対比の「は」と否定の「は」 対比 (21)母は医者ですが、父は教師です。(ピリオド 越え) 否定
(22)豚肉は食べません。(他の肉なら食べます が。) ―潜在的に肯定文と対比させた否定文 (23)僕は学生ではありません。会社員です。 (「僕は学生です」と対比。) 2018/11/7

42 7.「論争」の謎解き (1)総主論争 「東京は面積が広い」「象は鼻が長い」「花子は頭が いい」 大槻文彦―二重主語文(「は」も「が」も主語)
 大槻文彦―二重主語文(「は」も「が」も主語)  草野清民―「は」は総主、「が」は主語。  橋本進吉―「東京は」が「面積が広い」の主語。 下位レベル(述語節)では「面積が」が「広い」の 主語である。  三上章―「象は」は主題、「鼻が長い」はコメン ト(述部)。「鼻が」は主格補語であり、「長い」 は形容詞文。この文には一つも「主語」はない。 (24) 象は、鼻が長い。→ 象の鼻が長いコト(無 題化、コト化→格助詞の代行) 2018/11/7

43 (2)ウナギ文論争 「AはBだ」は、「A=B」ではない。 (25)a. 「ぼくは、うなぎだ」
    b. (As) for me, it is eel.   c. Moi, c’est l’anguille. 「ぼくは」を「主語」とすると、この文は解釈で きない。 類例)「春はあけぼの。」「夏は絹。」「フォー クリフトはトヨタ」 (26) こんにゃくは、太らない。 2018/11/7

44 第4回 「は」と「が」 場所論からのアプローチ
2011/12/1 第4回 「は」と「が」  場所論からのアプローチ 日本語の論理と<場面>の支配  (中村雄二郎『場所―トポス―』)  西洋の形式論理学的思考   ―主語中心的思考(主語論理)  日本語における場所的思考  ・場面の支配(時枝誠記)    入れ子構造(辞が詞を包む)  ・場所の論理(西田幾多郎)    判断の構造(述語が主語を包む)  ・述語一本立て(三上章) 4.次に、場所論の観点ということですが、おおざっぱにいって、場所論の観点とは、発話者と発話者が発する文が、場に依存し、場によって規定されているという観点で、言語構造そのものも場所を中心に規定されるという立場です。私がいう場所論は、さまざまな立場のものがあり、統一した理論というものはまだ確立されていませんので理論というより観点といった方がいいかもしれませんが、これまでの次のような立場を統合した形で私は考えております。  古くは、19世紀ドイツの場所論者が提唱した場所理論(localistic theory)で、主に格の意味を空間的関係に基づいて説明しようとしました。これは、イギリスのアンダーソンに継承され次のような主張を行っております。すなわち、すべての格関係は、nominative(主格、中立的な場合)、 locative(位置的な場合), ablative(起点)という三つの項によって規定できるというものです。この理論は、現在の認知言語学でも受け入れられており、日本認知言語学会の前会長でもあった池上嘉彦氏は、この場所理論を、日本語の記述にも応用した研究をすでに80年代に行っております。今回の私の格助詞の説明にも、この場所理論が適用されております。 2018/11/7

45 日本語文法論における場所論 山田孝雄…文を主辞と賓辞の統覚作用による統一 によるとする→文には主語と述語がある
時枝誠記(1941)「一般に、主語格は述語格に対 立したものと考えられ、この対立を結合する所に 統一が成立するという形式論理学並びに印欧語的 統一形式の観念から離れなければならない。国語 に於いては、主語は述語の中に含まれる形に於い て述語に対立していると見なければならないので ある。」 2018/11/7

46 場と文の相関の類型(三尾砂) 1.場の文-それ自身がひとつの場であって、新し くひとつの場をもちだすもの。<…が+動詞>。現象 文。(例:雨が降っている) 2.場を含む文-課題に対して判断を行うもので、 課題の場の文と転位の文がある。<…は+用言(の だ)><…は+体言+だ>。判断文。(例:それは 梅だ) 3.場を指向する文-概念的な展開は不完全のまま だが、場の全領域を指向するもの。感動詞や一語文 など。未展開文。(例:あ!雨だ!) 4.場と相補う文―課題の場とその解決との2つの 文節を持つ一全体のうち、片方の文節が言い表され ていない文。分節文。(例:梅だ) 2018/11/7

47 2011/12/1 場の文        場を含む文  場を指向する文        場と相補う文 場=文 2018/11/7

48 佐久間鼎(1959)「発言の場・話題の場・課題の場」
2011/12/1 佐久間鼎(1959)「発言の場・話題の場・課題の場」 「課題の場」とは、題目を解答請求のために提出 し、それによって緊張状態を起こし、それが解決 を要請することにつながる場のことである。日本 語においては、課題の場を設定し、その範囲を確 立し、言明の通用(妥当)する限界を明示する働 き、すなわち題目の提起を行うのが提題助詞 「は」の働きである。 10.まず、「は」は概念的場であるということについて説明します。先ほども述べたように、日本語研究の中で、場という考え方が提唱され、「は」は課題の場である。としています。ここでは詳しくは述べませんが、佐久間鼎は、「発言の場」と「話題の場」「課題の場」というものを提唱し、そのなかでこう述べています。「課題の場」とは~(上記と同じ)。「は」の働きは、課題の場を設定することと明確に述べています。 ただ、佐久間では、三つの場の働きがどのように関係するのかということが明確には述べられてはいません。ここでは、「発言の場」は、話し手と聞き手が相対する「談話の場」であり、「話題の場」は、何か情景を述べる場合に設定される場、視界のようなものと考えておきます。 2018/11/7

49 認知言語学における「は」 <話題>とは<コト>が成り立つ<場(所)>で ある(池上2000)ー「主題」(topic)ーtopos (場)
2011/12/1 認知言語学における「は」 <話題>とは<コト>が成り立つ<場(所)>で ある(池上2000)ー「主題」(topic)ーtopos (場) ・東京は人が多い。  ・象は鼻が長い。         東京      象 鼻が長い 人が多い 14.さて次に、認知言語学の立場からの日本語の「は」の取り扱いですが、もちろんアメリカの言語学者は日本語をほとんど知らないわけで「は」の取り扱いをするわけはありません。日本でまず認知言語学を受容し、広めた池上嘉彦氏の論をあげます。池上氏は、2000年から2009年の10年間日本認知言語学会の会長を務め、「意味論」や「するとなるの言語学」、「日本語論への招待」など数多くの著作を出されています。 この日本語論の招待(池上2000)では、「話題とはコトが成り立つ場所である」ということを提起しています。話題すなわちtopicとはギリシャ語のtoposすなわち場所という意味であったことを明らかにします。話題とは場所ということであり、「は」が場所であることを提起しているわけです。たとえば、「東京は人が多い」では、文字通り「東京」という場所で、「人が多い」という出来事が成り立っていることを表していますが、「象は鼻が長い」という文では、「象」が比ゆ的に場所に見たてられ、「象」という概念的な場所において、「鼻が長い」という出来事が成り立っていると解釈されるわけです。この文は、三上章がタイトルとして使った著作で取り上げていますが、同じ文に「は」と「が」が両方出てくる二重主語文として問題とされてきました。西洋言語では、一文に二つの主語があるということはあり得ないので、主語を前提とする文法論では、不思議な文となるのでしょうが、「は」も「が」も主語ではないと考え、「は」は主題、「が」は主格と解釈すれば何の問題もないと三上章は提起したわけです。私は、池上の考えを継承し、これを場でことが成り立つ文であると考えます。 2018/11/7

50 Reference-point construction(Langacker1993)
2011/12/1 「は」は参照点をマークする(山梨2000) Reference-point construction(Langacker1993)    C: conceptualizer  概念化者 RP: reference point 参照点  T: target     目標 D: dominion 参照点の支配域 T D 15.次に、同じく日本認知言語学会の現会長である山梨正明氏は、「は」は参照点をマークするとして、参照点構造を「は」の文の基本構造であると提起しました。参照点構造とは、認知文法の提唱者ロナルド・ラネカーが提唱した構造で、まず、人間の基本的認知能力として、参照点能力があることを前提とします。参照点能力とは、あるものを参照点として、別のものを指し示す認知能力で、たとえば、自分の子供が人ごみにまぎれてどこかに行ってしまったとき、子供を捜すために、 子供が持っている風船を見て、風船の下に子供を見出すというような認知の仕方です。このときの風船が参照点であり、「子供」が捜している対象としての目標です。図では、まずCの概念化者がいます。概念化者とは、当該の発話を概念化する主体という意味で、話し手または聞き手も含みます。ここでは話し手と考えていいでしょう。概念化者は、RPの参照点を差し、その参照点が作り出す支配域であるDOMINIONで、目標を捜しそれを指し示すという構造になっています。さまざまな言語表現にこの参照点構造が反映しているといいます。たとえば、dog’tail という所有表現では、dogを参照点にtailが目標として指し示されるという参照点構造を持っています。日本語では、「犬の尾」といいますが、この「AのB」という表現も参照点構造として解釈されます。同じように、「XはY」という構造も参照点構造として解釈されます。 RP C 2018/11/7

51 「XハY」のスキーマ Xを参照点にした場の中で、Yを指し示す。 は ~X X Y X:参照点、Y:目標、~X:Xでないもの
2011/12/1 「XハY」のスキーマ Xを参照点にした場の中で、Yを指し示す。 ~X X Y 16.ここで、「XはY]のスキーマを示しておきます。  一言で言うと、発話者が「Xを参照点とした場の中でYという目標を指し示す」という構造として図式化されます。このような図式を認知図式(diagram)と呼んでいます。 ここでの「は」の働きは、Xを参照点にした場を作り出し、目標Yに結びつける働きであると解釈できます。この意味で、「は」は場であり、そして繋辞(copula)でもあるわけです。そしてもう一つ、Xを参照点にした場を作り出すということは自動的に、Xでないものと切り分けるということから、これが後で述べる「は」の対比的な意味を表すと考えます。 X:参照点、Y:目標、~X:Xでないもの 2018/11/7

52 2011/12/1 「は」の働き1ー主題  この本はタイトルがいいので、大いに期待した。図書館 ですぐ読んだが、得るところはなかった。全く期待はずれ だった。(金谷2002) 「この本は」…主題 (この本の)タイトルがいい (この本に)大いに期待した (この本を)図書館ですぐ読んだ (この本から)得ることがなかった (この本が)全く期待はずれだった 17.それでは、「は」の働きを具体的に考えていきましょう。「は」は日本語研究では、主題と呼ばれてきました。ただ、主題というと、日本語では、「と言えば」「って」など他の表現も主題と呼ばれますし、「は」をつけずにタイトルだけ挙げても主題といえることから、「は」=主題とは言えないという保留を付け加えておきます。重要なのは、三上章が提起した「ピリオド越え、コンマ越え」の働き、つまり、「は」が、係っていくのは一文の文末だけではなく、ピリオドを超え、コンマを超え、複数の文の文末にかかっていくことです。ですから、「は」の働きは、一文において文末にまでかかり、文の統一性を表すのみならず、一つの談話レベルで複数の文を統括していくような働きをなすわけです。金谷氏があげている例でいいますと、「この本はタイトルがいいので、~まったく期待外れだった。」という文章は、「この本」が主題すなわち参照点となって、その場、枠といってもいいでしょうが、格関係を度外視して、「タイトルがいい、~ まったく期待外れだった」まで次々と指し示していくわけです。これは新たな場がしめされるまで続くことが可能です。 2018/11/7

53 この本 は 図書館ですぐ読んだ 得るところがなかった 大いに期待した 全く期待はずれだった タイトルがいい 2018/11/7
2011/12/1 この本 図書館ですぐ読んだ 得るところがなかった 大いに期待した 全く期待はずれだった タイトルがいい 18.この例文を図式で表わすとこのようになります。 2018/11/7

54 「は」の働き2ー対比 佐藤さんは、紅茶は好きですが、コーヒーは嫌い です。 佐藤さん は コーヒー 紅茶 は は 好きです 嫌いです
2011/12/1 「は」の働き2ー対比 佐藤さんは、紅茶は好きですが、コーヒーは嫌い です。 佐藤さん コーヒー 紅茶 好きです 19.次に、「は」の用法として、あげられるのが「対比」という用法ですが、これは2文の対比を表します。たとえば、「佐藤さんは、紅茶は好きです」というと、最初の「佐藤さんは」は主題として最初の参照点を表しますが、次の「紅茶は」は、対比を表わすというものです。「佐藤さんは、紅茶が好きです」は、佐藤さんが好きなものが紅茶だけということを表しますが、「佐藤さんは、紅茶は好きです」というと、紅茶以外のものが必ず想起されます。それを言語表現化すると、「コーヒーは嫌いです」という文が出てくるわけです。これは、先ほどの「XはY」のスキーマで、Xを参照点として場を指し示すと必然的にX以外のものを対比的に生み出すという図式から出てくるものです。対比という機能は、「は」の機能から必然的に出てくるものなのです。 嫌いです 2018/11/7

55 「が」の諸用法 (1) 鳥が飛んでいる。(主格―動作主) (2) あそこにウグイスがいる。(存在物) (3) 富士山が見える。(知覚の対象)
2011/12/1 「が」の諸用法 (1) 鳥が飛んでいる。(主格―動作主) (2) あそこにウグイスがいる。(存在物) (3) 富士山が見える。(知覚の対象) (4) 犬がこわい。(情意の対象) (5) このクラスで、太郎が一番優秀だ。(排他) これら「が」の共通性は何か 「が」は「主語」ではない。では、「主格」か? 22.「が」には様々な用法があるとされています。 (1)鳥が飛んでいるでは、「鳥が」は動作主、つまり主格を表わします。(2)あそこに鶯がいます、では、「うぐいすが」は、存在物を表します。(3)富士山が見える、では「富士山が」は知覚の対象を表します。(4)犬が恐い、では「犬が」は情意の対象を表します。(5)このくらすで、太郎が一番優秀だ、では、「太郎が」はある範囲で、そのものだけが、という排他の意味を表します。これらの「が」の共通性は何でしょうか。「が」=「主語」でも「主格」でもないのです。そのような意味を表す場合もありますが、「が」の共通した意味はそれではないという意味です。 2018/11/7

56 動作主(主格)の用法 「鳥が飛んでいる」 鳥ガ 飛んでいる 話者の視界 2018/11/7 2011/12/1
23.これらの用法を認知図式で示してみましょう。動作主用法の「鳥が飛んでいる」では、話者の視界という場所において、鳥というものを指し示しています。 話者の視界 2018/11/7

57 存在物 「あそこにウグイスがいる」 いる 鶯が あそこに 話者の視界 2018/11/7 2011/12/1
24.存在物の用法の「あそこにうぐいすがいる」では、話者の視界という場所において、鶯というものを指し示しています。 2018/11/7

58 知覚の対象 「(あそこに)富士山が見える」 cf.私には富士山が見える 富士山が 話者の視界 見える 2018/11/7 2011/12/1
25.知覚の対象の「富士山が見える」では、話者の視界という場所において、富士山が指示されるのは、存在物と同じです。そして、「見える」は、その存在物が話者の目に向かって飛び込んでくるというような認知を示しています。ここで、認知主体を言語化すると「私には、富士山が見える」となりますが、知覚の主体が「私に」と「に」でマークされており、「私」が一種の場所的に捉えられていることが分かります。また、「私」が言語化される場合は、「私」を今ここの場所から離れて、認知主体が捉えていますので、この図式とは違った認知図式となります。詳しくは、「に」の説明で述べます。 2018/11/7

59 情意の対象 「犬がこわい」 犬 こわい 話者の情意の領域 2018/11/7 2011/12/1
26.情意の対象の「犬が恐い」では、話者の情意の場所において、犬を指し示しています。 2018/11/7

60 排他の用法 「このクラスで太郎が一番優秀だ」 このクラスで 太郎が 優秀だ 2018/11/7 2011/12/1
  このクラスで 太郎が 優秀だ 27.排他の用法では、このクラスという範囲内で、一番優秀な太郎を選び出して、示しています。 2018/11/7

61 ガのスキーマ ある場において、出来事のもっとも顕著な存在物 を指し示す。(出来事の中核的対象) 「事態の認知的中核」(尾上2004) 亜
2011/12/1 ガのスキーマ ある場において、出来事のもっとも顕著な存在物 を指し示す。(出来事の中核的対象) 「事態の認知的中核」(尾上2004) 出来事 モノ 28.認知図式で、諸用法を図示してみますと、共通するスキーマが浮かび上がってきます。すなわち、ある場所において、出来事のなかのもっとも顕著な存在物を指し示すということです。これを尾上2004では、「事態の認知的中核」といい、菅井2002は、ガは叙述部(ドメイン)内の最高の顕著性を表す」としています。「が」が述語と取り結ぶ関係は、出来事内に限られるとともに、話者の視界や情意・知覚領域といった、ある場において成り立つということが、「は」との違いになってきます。 2018/11/7

62 2011/12/1 「は」と「が」の境界性の確定 「は」の条件は、係り性、提題性、対比性 (A/非A)、コンテクスト性(疑問を前提と しない辞)であり、「が」の条件は、円周 「で」のなかの3つ以上の範列物の中の1つ、 すなわち矢印・排他(浅利2008)  「は」の条件:対比 「格助詞」の条件:排他 ・  ・  ・ 29.ここでようやく、「は」と「が」の違いについて述べるときになりました。ボルドー第3大学の浅利誠教授は、「は」と「が」の境界性の確定として、次のようなことを述べています。「は」の条件は、(~以下スライドと同じ)つまり、係性とは、文末までかかり、あるいは文を超えて係っていくことで、提題性は、題目を示すこと、対比性は、AとAでないものを分けること、そして、コンテクスト性とは、疑問を前提としないということ、すなわち「なには」「だれは」「どこは」などと疑問詞が絶対につけられないことです。これに対し、「が」を含めて、すべての格助詞は、「なにが」「だれが」「どこが」と疑問詞をつけることが前提となります。疑問詞をつけるということは、すなわち、排他の用法でみられたように、「~で」という範囲内で、3つ以上のものから一つを選びだし、指し示すことです。ここでの矢印とは、格助詞がついたものを指し示すという操作を表します。ここで重要なのは、「は」と「が」を比べることではなく、まず、「は」と格助詞全体の働きを比べることです。そういう意味で、まず「は」と格助詞の境界画定をしなければならないのです。端的に言うならば、二つのものを分ける対比の「は」と三つ以上のものから選び出す排他の「格助詞」として両者を弁別しなければならないわけです。この見解を私も支持します。 非A A 2018/11/7

63 現象文と主題文 鳥が飛んでいる 鳥は飛んで いる 鳥 飛んでいる 鳥 飛んでいる は 2018/11/7 2011/12/1
鳥が飛んでいる          鳥は飛んで いる 飛んでいる 飛んでいる 33.比較的、容易に「は」と「が」を比較するためには、「鳥が飛んでいる」と「鳥は飛んでいる」のように、動詞文で比較した方がまだいいです。「鳥が飛んでいる」は、今ここの場の中で、鳥を指し示しているのに対し、「鳥は飛んでいる」は「鳥が飛んでいる」を前提として、そこから「鳥」を引き出して、参照点にしたうえで「飛んでいる」に結びつけるという認知図式として示すと分かりやすいでしょう。以上で、「は」と「が」の使い分けについては、話を終わります。 2018/11/7

64 参考文献 浅利 誠(2008)『日本語と日本思想』藤原書店. 池上嘉彦(2000)『「日本語論」への招待』講談社.
浅利 誠(2008)『日本語と日本思想』藤原書店. 池上嘉彦(2000)『「日本語論」への招待』講談社. 井出祥子(2006)『わきまえの語用論』大修館書店 佐久間鼎(1959)「発言の場・話題の場・課題の場」 「ことばと論理」『日本語の言語理論』恒星社厚生 閣. 中村雄二郎(1989)『場所―トポス』弘文堂 三尾 砂(1948)『国語法文章論』(三尾砂著作集 Ⅰ、ひつじ書房、2003所収) 山梨正章(2000)『認知言語学原理』ひつじ書房. 2018/11/7

65 格助詞 導入 格助詞とは…助詞のうち格関係を表すもの。ある名 詞句が述語とどのような関係にあるかを標示する。
格助詞 導入 格助詞とは…助詞のうち格関係を表すもの。ある名 詞句が述語とどのような関係にあるかを標示する。 1.鳥が飛んでいる。(主格ー動作主) 2.リンゴを食べる。(対格ー対象) 3.彼女にプレゼントをあげる。(与格ー相手)  では、次のようなものは、どういう格関係だろうか。 4.富士山が見える。 5.道を歩く。 6.木の上にウグイスがいる。 7.図書館で勉強する。  2018/11/7

66 クイズ:次の( )内にどんな助詞を入れると最 もいい俳句になりますか。また、それを入れた理 由について説明してください。
クイズ:次の( )内にどんな助詞を入れると最 もいい俳句になりますか。また、それを入れた理 由について説明してください。  米洗う 前( )蛍が 二つ三つ 2018/11/7

67 第5回 格助詞「に」 (1)子どもが学校に着く。(移動の着点) (2)おばあさんが孫に絵本をやる。(授与の相 手)
第5回 格助詞「に」 (1)子どもが学校に着く。(移動の着点) (2)おばあさんが孫に絵本をやる。(授与の相 手) (3)机の上に本がある。(存在の場所) (4)1時に事務所に来てください。(時点) (5)信号が青に変わる。(変化の結果) (6)犯人が警察に捕まった。(受身的動作の相 手) (7)私には大きな夢がある(所有の主体) (日本語記述文法研究会編2009) 38.さて、格助詞として「が」の次には、「に」のスキーマを考えることにします。 「に」は格助詞の中でも、一番多い用法を持っていると言われます。上記は、着点、授与の相手、動作の相手、存在の場所、時点、変化の結果、受身的動作の相手、目的、所有の主体、心的活動の対象、起因など11の用法が挙げられています。このほかにも用法としては、もっと挙げられるでしょう。こうした「に」の用法に共通するスキーマをどうやって抽出できるでしょうか。 2018/11/7

68 日本語話者の想起テストの結果 上位5位は、1.移動の着点(23%)、2.(動 作、授与の)相手(18%)、3.存在の場所 (15%)、4.時間(8%)、5.変化の結果 (7%) もっとも中心的な用法は、移動の着点。 3大用法-着点、相手、存在の場所。 これらの用法に共通のスキーマは? 39.私は、日本語学を教えている教室で、日本人の学生に、「に」で作ることのできる例文を考えた順に、5つあげてください、という想起テストを行いました。この結果は、上位5位は、1.着点、2.相手、3.存在の場所、4.時間、5.変化の結果という結果が出ました。この中で、一番先に想起し、量も多かった着点が最も中心的な用法と考えられます。ただ、相手と存在の場所も無視できない比率なので、着点、相手、場所を三大用法として、設定します。これらの用法に共通するスキーマをまず抽出します。 2018/11/7

69 ニのスキーマをめぐっての先行研究 国広(1986)…ニの意義素は密着性。 「「ニ」は一 方向性をもった動きと、その動きの結果密着する対 象物あるいは目的の全体を本来現している」 菅井(2005)…ニは着点を具現化したもの。ガ格から ニ格への移動、働きかけの一方向性がある。 問題点… 「親友にノートを借りる」や「先生に論文 を否定される」「首相が凶弾に倒れた」のような用 法は「着点」とは逆の「起点」をマークするもので あり、「着点」をニ格の一次的なスキーマとすると これらの用法を説明することが困難。   太郎は花子に(思いがけず)プレゼントをもらっ た。 40.ニのスキーマをめぐる認知言語学者の先行研究として、まず、国広氏はニの意義素を密着性としました。これを受けて、菅井氏は、二は着点が具現化したものとしています。菅井は、ガからニへの移動、働きかけがあるの一方向性があるとしています。これは、着点などの用法にはあてはまるものですが、「親友にノートを借りる」「先生に論文を否定された」などの用法は、着点というより、起点をマークするものであり、着点を一次的スキーマにすると、起点用法を説明することが困難になるという問題点があります。たとえば、「太郎は花子におもいがけずプレセントをもらった」では、プレゼントの移動は「花子」から「太郎」であって、「太郎」から「花子」になんらかの働きかけがあったとは考えにくいと思われます。 2018/11/7

70 位置づけ操作機能 フランス・ドルヌ+小林康夫(2005:68)
 「に」の機能は、位置づけ操作、つまりその操作の 位置基準点を表示するものである。→位置を示す 「に」にそれが端的に現れている。「何かがある場 所にある」    夫はいま、東京にいる。    夫は明日、東京に行く。    先生は、太郎に貴重な本をあげた。    太郎は、先生に貴重な本をもらった。    様々な人が、6時に 券を買いに行きました。    家の猫が車にひかれた。 2018/11/7

71 移動の着点用法 「太郎が学校に行く」 その拡張 「太郎が医者になった」(変化の結果) 「トラックにぶつかる」(動作の相手)
「買い物に行く」(目的) 「先輩にあこがれる」(指向の対象) 移動 41.まず、移動の着点用法から見ていきます。「太郎が学校に行く」では、このような図式になり、ニはガが移動する着点としての場所になります。この拡張として、「太郎が医者になった」のような変化の結果があげられます。これは、「医者」という状態が場所に見立てられています。「状態は場所である」というメタファーが働いていると認知言語学では説明します。また、動作の相手や目的、指向の対象などの用法もニでマークされているものは、ガでマークされる主体の動作などが向かう場所に見たてられていると言えるのではないでしょうか。 2018/11/7

72 「に」と「へ」の違いから説明してください。
クイズ  a. 学校に行く。  b. 学校へ行く。  の違いはなんでしょうか。  「に」と「へ」の違いから説明してください。 2018/11/7

73 授与の相手 太郎が花子に花束をあげた あげ手 もらい手 (起点) (着点)
あげ手        もらい手      (起点)         (着点) ・ 授受関係は、あげ手(起点)からもらい手 (着点)にモノが移動する →移動の着点の拡張 である。 42.授与の相手は、あげてからもらい手にモノが移動すると考えれば、あげてが起点、もらい手が着点としてメタファー的に解釈できます。この意味で、授受関係は、移動の着点の拡張であると考えることができます。 2018/11/7

74 存在の場所 「机の上に本がある」 存在物Xが場所Yに包含される。 (一体化、密着性) 存在物Xが場所Yに位置づけられる。 (位置づけ操作)
認知主体のニ格へ向かっての心的走査。 (指向性)ニ格からガ格への方向性 43.次に「存在の場所」では、「YにXがある」というスキーマがあり、この関係は、存在物Xが場所Yに包含される関係ということが直感的に見てとれます。これは、一体化や密着性と関係してきます。またもっと抽象的には「XがYに位置づけられる」という位置づけの関係としてスキーマ化できます。存在の場所では、ニが語順として先頭にくることから、認知主体がまずニ格にむかって心的走査をし、そこからガを指し示すという参照点構造があると考えられます。存在の場所では、まず、ニに向かっての指向性があるわけです。 2018/11/7

75 存在の場所から経験主体(所有・能力・知覚・感 情の領域)への拡張 私には子どもがいる。(所有の主体)
妹にはバイオリンが弾ける。(可能の主体) 太郎には幽霊が見える。(知覚の主体) 私には彼の思いやりが嬉しかった。(感情の主 体) 44.存在の場所からの拡張としては、上記のように、経験主体への拡張が考えられます。たとえば、「私には、子供がいる」では、「私に」が、いわば「子供」を支配する場所としてメタファー的に理解されます。英語では、「I have a child」とhaveという他動詞で表わされるのと対照的で、韓国語やロシア語でもこのような「~にーがある」という形で所有があらわされます。また、可能や知覚や感情においても、ニはその主体を場所として、概念化させます。ある言語学者は、これを「与格主語構文」といいますが、私は、与格で表わされているのは、一種の場所であると解釈するのが自然であると考えます。 2018/11/7

76 「太郎には幽霊が見える」 見える 太郎 幽霊 ニハ(太郎の知覚領域) 2018/11/7
45.上記は、「太郎には幽霊が見える」という知覚構文を表しています。認知主体は、太郎の知覚領域で、幽霊が見えるという事態が成り立つことを表しています。ハがつくことによって、その参照点構造がよりはっきりします。また、このときのハは他の人には見えないが、太郎には見えるというような対比のニュアンスを帯びています。 2018/11/7

77 授受のあげ手ともらい手 太郎が次郎に本をあげた。 (太郎→次郎 モノの移動) 次郎が太郎に本をもらった。 (次郎→太郎 指向性)
(太郎→次郎 モノの移動) 次郎が太郎に本をもらった。 (次郎→太郎 指向性)     与益構文         受益構文  あげ手       もらい手   あげ手     もらい手 指向性 指向性 47.それでは、次に授受関係のあげてともらい手について、述べたいと思います。 「太郎が次郎に本をあげた」では、太郎から次郎にモノが移動し、同時に指向性も次郎に向かっております。そして同じ事実を次郎の観点から述べた「次郎が太郎に本をもらった。」では、モノの移動は太郎から次郎ですが、逆方向に、次郎が太郎に対してなんらかの指向性を持っているということが表されています。このときの指向性とは、本をくれた「太郎」に対して、次郎が何らかの気持たとえば感謝の気持ちなどを持っていることを表しています。 それでは、受益構文で、「次郎が太郎から本をもらった」との違いは何でしょうか。このときカラでは、太郎から次郎へのモノの移動のみを表していますが、ニでは、あげてへの指向性があり、これは本をくれた相手に対する感謝の気持ちなどが含意されます。それゆえ、ニ格は人に限られることになります。ですから、a,bのように、図書館から、警察からとは言えますが、図書館に、警察にとはいえません。 またそもそも受益構文は与益構文を前提としますから、前提となる「図書館が太郎に本を貸した」とか「警察が彼に感謝状をあげた」が言えないことからも来ることでしょう。警察の場合、若干、容認性が上がるのは、警察を警察署長などに擬人的に解釈する余地があるからだろうと思われます。 2018/11/7

78 次の例文で、なぜ「に」が不自然で、「から」 だけをとるのか説明してください。 a. 図書館 に/から 本を借りた。
クイズ  次の例文で、なぜ「に」が不自然で、「から」 だけをとるのか説明してください。  a. 図書館 に/から 本を借りた。 b. 警察  に/から 感謝状をもらった。 2018/11/7

79 受身におけるニ格 a.太郎が次郎をたたいた。 (働きかけ ガ→ヲ) b. 次郎が太郎にたたかれた。 (働きかけ ニ→ガ) 能動文 直接受身
(働きかけ ガ→ヲ) b. 次郎が太郎にたたかれた。 (働きかけ ニ→ガ)   能動文          直接受身  動作主  非影響者        動作主   非影響者 働きかけ 指向性 49.次に受身におけるニ格について述べます。受身は、「太郎が次郎をたたいた」のような能動文を、非影響者の立場から述べるものです。このとき当然、太郎から次郎への働き掛けがあります。受身文の「次郎が太郎にたたかれた」で、なぜ元の動作主がニであらわされるのでしょうか。これも、非影響者であるガ格からニ格への指向性を表していると考えられます。 2018/11/7

80 クイズ…受身の動作主を表す格助詞の「に」と 「から」の意味的違いがあるでしょうか。 a. 次郎が太郎 に/?からたたかれた。
b.優勝者には、主催者 ?に/からメダルが贈られ た。 c.妹が駅で見知らぬ人 に/から声をかけられた。 d.佐藤さんは 両親 に/から 深く愛されてい る。 2018/11/7

81 場所受身 ニが場所として解釈される。 富士山の頂上は万年雪におおわれている。(富士 山の頂上⊂万年雪)
レモンにはビタミンCがたくさん含まれている。 旗が風に吹かれている。(自然現象) 52.日本語では、受身の主語は、人であって、モノにはならないと言いましたが、実際は、モノが主語になる受身があります。富士山の頂上は万年雪に覆われている、では、「万年雪」は、動作主というより、場所として解釈されます。富士山の頂上が万年雪に包まれるというイメージです。このような受け身を「場所受け身」と呼びたいと思います。これまでの研究では、このような受け身の類型を看過してきました。ですから、受身のニは、もとの能動文の動作主を表すとされてきたのですが、このように文字通り、ニが場所として解釈される受身があるということを提起したいと思います。それゆえ、この類型は、起点用法というより、存在の場所用法からの拡張だと考えた方がいいと思われます。(2)~(4)の例文も同様です。 指向性 2018/11/7

82 起因のニ格 職員の横柄な態度に腹を立てる。 寒さに震える。 潮風に帆が揺れていた。 感情の起因 自然現象 指向性 寒さに ニ ガ 震える
  感情の起因       自然現象          指向性 寒さに 53.ニ格の最後に「起因」のニ格について述べます。(1)のような感情の起因を述べると言われるニ格は、ニ格名詞に対する指向性を表します。自然現象の「寒さに震える」や「潮風に帆が揺れていた」のような用例は、自然現象の中で事態が起こっているという捉え方をしており、先の場所受け身と同様の認知過程を持っていると考えられます。 震える 2018/11/7

83 ニのスキーマとネットワーク ニのコア・スキーマ 指向性 (位置づけ操作) 授与の相手 移動の着点 存在の場所 時間点
       ニのコア・スキーマ       指向性     (位置づけ操作) 授与の相手    移動の着点     存在の場所   時間点 起点用法(与益者、受身)                 変化の結果                  働きかけ  所有、知覚、 情意の主体                      場所受け身、自然現象の起因 54.最後にニ格のスキーマとネットワークをまとめておきます。 2018/11/7

84 格助詞二格参考文献 国広哲弥(1986)「意味論入門」月刊『言語』 第15巻第12号:pp194—202、大修館書店.
菅井三実(2005)「格の体系的意味分析と分節 機能」『認知言語学論考No.4』pp.95—131,ひつ じ書房. フランス・ドルヌ+小林康夫(2005) 『日本語の森を歩いて-フランス語から見た日本 語学』講談社 2018/11/7

85 第6回 格助詞「を」 格助詞「を」の用法 1.リンゴを食べる。(動作の対象) 2.道を歩く。(経路) 3.家を出る。(起点)
第6回 格助詞「を」 格助詞「を」の用法 1.リンゴを食べる。(動作の対象) 2.道を歩く。(経路) 3.家を出る。(起点) 4.10月の1ヶ月間をボルドーで過ごす。(期 間) 5.雨の中を学校に歩いていく。(状況) 大きく「対象」と「場所」、「時間・状況」の用 法があるがこれらの共通点はあるのだろうか。 55.格助詞をの用法もさまざまあります。大きくは、「対象用法」と「場所用法」、「時間・状況の用法」がありますが、これらの共通する意味があるのでしょうか。 2018/11/7

86 先行研究① ヲ格のプロトタイプを対象とする
先行研究① ヲ格のプロトタイプを対象とする 森山(2008) ヲ格のプロトタイプ  ガ格参与者(動作主)から他動的な動力連鎖を 受ける受動的参与者(被動作主)、すなわち対格 の用法。 ヲ格の場所用法は、「ガ格参与者を起点とする動 力連鎖の終点に置かれ、その支配を受けている」  「家を出る」「橋を渡る」…「家」や「橋」に 動作主の力が加えられ、その反動で移動が成立す る。 56.まず、先行研究として、ヲ格のプロトタイプを対象として、そこから場所用法を説明しようとする立場があります。最近の研究として、森山2008は、ヲ格をガ格参与者から働きかけを受ける受動的参与者、すなわち対格の用法としており、場所用法もその拡張で、ガ格参与者を起点とする動力連鎖の終点におかれ、その支配を受けている」としています。たとえば、「家を出る」「橋を渡る」なども、「家」や「橋」に動作主の力が加えられ、その反動で移動が成立するという説明です。 2018/11/7

87 →「状況」「時間」用法は当然、動力連鎖で説明 できない。
(1)おにぎりが坂を転がり落ちていった。 (2)丸太が川を流れていく。 →「おにぎり」や「丸太」が「坂」や「川」に力 を行使して支配しているとは考えがたい。(ガ格 →ヲ格の動力連鎖ではない。)逆に受動的対象で ある。 →「状況」「時間」用法は当然、動力連鎖で説明 できない。 57.しかし、この説明は、無理があります。(1)(2)では、「おにぎり」や「丸太」が「坂」や「川」に力を行使して、支配していると考えるのは無理であり、逆にこれらは重力や川の力を受ける受動的対象です。また、(3)(4)のように、「状況」「時間」用法を動力連鎖で考えるというのも無理があります。森山の規定は、動力連鎖を事態の典型的なものとするラネカーの認知文法をそのまま日本語にもあてはめたため無理が生じたものです。 2018/11/7

88 先行研究② ヲ格のスキーマを「過程」とする
先行研究② ヲ格のスキーマを「過程」とする 菅井(2005) 「起点・経路・着点」のスキーマを援用しなが ら、経路を<過程>と変更し、ヲ格が<過程>を 具現化したものと規定。 <起点>→ <過程>→ <着点>   カラ   ヲ      ニ (5)太郎が東京から国道1号線を大阪に向かっ た。 58.先行研究として、先に述べた菅井では、ヲ格のスキーマを過程としました。この研究の問題点としては、上記のような疑問が挙げられ、また過程から対象を引き出すということがどうして可能なのか 理解に苦しみます。「太郎が次郎をたたいた」では、過程を持つのは動詞であって、ヲガ過程を表すとはどういうことか理解に苦しみます。 2018/11/7

89 起点・過程・着点のスキーマ 起点 過程 着点 カラ ヲ ニ 限定(デ) 太郎が車で国道1号線を大阪から東京に向かった。 ガ
   起点     過程      着点     カラ ヲ      ニ           限定(デ)   太郎が車で国道1号線を大阪から東京に向かった。 37.これを図式化するとこのようになります。すべての格助詞を含む例文としては、「太郎が車で国道一号線を大阪から東京に向かった」となります。このスキーマは、移動のスキーマとしては妥当性を持つかと思いますが、疑問点は、「起点・経路・着点」という移動のスキーマは空間的概念であるのに、その中の「経路」を時間的概念である「過程」というものに変更したかふに落ちないところがあります。また、「過程」ということで、「を」の対象としての用法を説明できるか、また、「に」を「着点」として規定すると、「に」全体のスキーマとしては妥当しないのではないかという問題があります。この個々の問題点は、各格助詞の説明で触れたいと思います。 2018/11/7

90 先行研究③対象格と場所格の連続性 加藤(2006) (6)第3ゲートを突破する。 場所性と対象性が共存。「通過域」が
「対象格」と「場所格」の接点となる。 許(2010) (7)ランナーがテープを切る。 (8)雛が卵を割って出る。 難点…すべての動詞で対象性と場所性が共存する わけではない。(おもちゃを壊す) 62.また、加藤や許は、場所性と対象性が共存する例をあげており、図のようにいわば「通過域」が「その接点となるとしています。しかし、すべての動詞で対象性と場所性が共存するわけではないという難点が挙げられます。「おもちゃを壊す」などでは、「おもちゃ」を場所性として理解することは難しいです。 2018/11/7

91 ヲ格のスキーマとネットワーク ヲ格のコアスキーマ 起点 経路 着点 起点用法 経路用法 対象用法 時間用法→状況用法
          起点  経路   着点    起点用法       経路用法        対象用法 家を出る            道を歩く          動作主  ドアを押す                             時間用法→状況用法                  夏休みをカナダで過ごす。 雨の中を歩いて大学に行く。    63.ここで私が提案するヲのスキーマは、起点・経路・着点のスキーマをベースにしたものです。このコアスキーマをベースに 起点が焦点化されたものが、起点用法になり、経路が焦点化されたものが、経路用法、着点が焦点化されたものが対象用法と説明できます。「時間用法」は、経路用法が時間概念に拡張されたものであり、状況用法は経路用法と時間用法を複合したものと考えられます。 2018/11/7

92 経路のヲ クイズ: 次の文の意味の違いを説明しよう 山を登る 山に登る 川を泳ぐ 川で泳ぐ 2018/11/7

93 起点用法「家を出る」 (9)今日8時にいつも通り家を(?から) 出て、学校へ行った。(日常的に移動を 実現)
(10)日曜日は、家から(*を)一歩も出 なかった。(森田2006)(移動を実現し ない) 「家を出る」ー家から離脱後の移動を含 意。 起点      着点       家を出る          家から出る                      64.まず、起点用法の「家を出る」では、家を出てからの移動が含意されています。 (10)のように、家からの移動が否定される場合は、ヲが使えず、カラになります。 つまり、カラは家からの離脱のみを表しますが、ヲは離脱後の移動まで含意されるわけです。 2018/11/7

94 クイズ: 次の文の意味の違いを説明しよう バスを降りる バスから降りる 大学を出る 大学から出る 2018/11/7

95 対象用法(働きかけの対象) <起点> →<移動体>→ <着点> <動作主>→(エネルギー)→<対象> (11)太郎が 美術品に 触った。
(11)太郎が 美術品に 触った。   <起点>(太郎)→<移動体>(手)→<着点>(美術品) (12)太郎が 美術品を 触った。   <動作主>(太郎)→<着点(対象)>(美術品) <起点> →<移動体>→  <着点> <動作主>→(エネルギー)→<対象>                動作主(起点)   対象(着点)               エネルギー 69.それでは、いよいよ対象用法について述べていきます。(24)と(25)では、触るという動詞が使われていますが、(24)は「美術品に触る」でニ格が使われています。ニ格は基本的に場所を表しますので、「美術品」が着点としての場所と解釈されます。つまり、太郎を起点とし、移動体としての「手」が伸びて、美術品に到着するというイメージです。一方、(25)では、「美術品を触る」とヲ格が使われていますが、ここでは「美術品」が場所ではなく、働きかける対象(モノ)として概念化されていることを表しています。つまり、太郎はエネルギーを発する起点として、そして美術品はそのエネルギーが到着する着点が具体化したものとなります。このとき、移動するのは手という経路を通したエネルギーということになります。こうして、対象のヲは、起点・経路・着点のスキーマの着点が焦点化されたものということになります。 2018/11/7

96 この時、移動する移動体はモノではなく、動作主 から発せられるエネルギー(心理的なものも含 む)である。(竹林2007)
<起点ー移動体-着点>というスキーマの着点 が、行為を受ける被動体としての対象へと転換 し、<動作主ー対象>という行為のスキーマが形 成。(池上1993) この時、移動する移動体はモノではなく、動作主 から発せられるエネルギー(心理的なものも含 む)である。(竹林2007)  →ただし、移動体がモノであり、エネルギーそ のものが移動するのではない場合もある。(授 受)  70.池上1993では、~ということがいわれています。このとき移動するのはモノではなく~ということを竹林が指摘しています。ただし、授与のように移動体がモノであり、エネルギーそのものが移動するのはない場合があります。 2018/11/7

97 授受 (13)太郎が次郎に本をあげた。 ・授受では、着点はニ格のままであり、移動体が エネルギーを受けたモノとしてヲ格でマークされ る。
  <起点>(あげ手)→移動体→<着点>(もらい手)        ・授受では、着点はニ格のままであり、移動体が エネルギーを受けたモノとしてヲ格でマークされ る。 ・授受は、移動と行為のスキーマの両者を併存さ せる。 71.そのまま 2018/11/7

98 対象変化動詞 (14)子どもがおもちゃをバラバラに壊した。 動作主 対象 結果状態
     動作主    対象   結果状態         子ども   おもちゃ     バラバラに壊れた状態            対象が変化した後の結果状態は、目標としてのニ 格が付け加わったもの。 「変化の対象」を「対象」のプロトタイプとはし ない。 72.対象変化動詞では、対象が変化した結果状態は、目標としてのニ格がオプションで付け加わったものです。このように、対象を表す動詞にはさまざまな変種が考えられますが、これをより具体的に示すのは今後の課題にしておきます。 2018/11/7

99 参考文献 池上嘉彦(1993)「<移動>のスキーマと< 行為>のスキーマ-日本語の「ヲ格+移動動 詞」構造の類型論的考察」『外国語学研究紀 要英語研究室論文集』第41巻第3号、東京大学 教養学部外国語学科編。 岡 智之(2007)「日本語教育への認知言語学 の応用~多義語、特に格助詞を中心に~」 『東京学芸大学紀要総合教育科学系』第60集 2018/11/7

100 加藤重弘(2006)「対象格と場所格の連続性-格 助詞試論(2)」『北大文学研究科紀要』118
菅井三実(2002)「構文スキーマによる格助詞 「が」の分析と基本文型の放射状範疇化」『世界 の日本語教育12』:pp 竹林一志(2007)『「を」と「に」の謎を解く』 笠間書院 森田良行(2006)『日本語の類義表現辞典』東京 堂出版 森山 新(2008)『認知言語学から見た日本語格 助詞の意味構造と習得』ひつじ書房. 2018/11/7

101 第7回 格助詞「で」 ・ 格助詞「で」の用法 図書館で勉強する。(動作の場所) 電車で行く。(手段) 鉛筆で書く。(道具)
第7回 格助詞「で」 ・ 格助詞「で」の用法 図書館で勉強する。(動作の場所) 電車で行く。(手段) 鉛筆で書く。(道具) 電車の事故で遅れた。(原因) うどんでいい。(選択) 吾輩は猫である。 車が猛スピードで走っている。(様態) 1時でやめる。(時間) 2018/11/7

102 先行研究1 森田(1989) -範囲の限定 「数量、時間、行為や作用の時、場所、人や事物に おいて、“それ以外・それ以上ではない、それを対象 範囲の限度とする”意を表す。“そのベース内におい て”つまり“限界点”である。限界の範囲が何であるか によって「で」の意味が分かれる。」  一、数量範囲をどれだけと限定する「で」 1.時間・期間の長さを限定する「で」 (1) あ と一年で終わる。 2.数や量を限定する場合   (2)卵十個で作 る。 二、時点をいつと限定する「で」 (3)定期試験 は今日で終わった。 2018/11/7

103 三、場所をどこと限定する「で」 (4)日本で は、毎年台風がやってきて大きな被害を出す。
三、場所をどこと限定する「で」 (4)日本で は、毎年台風がやってきて大きな被害を出す。 四、人間を限定する「で」  (5)彼らで旅行の ことを相談する。 五、事物を何と限定する「で」  (6)紙で人形をこしらえる。(材料)  (7)ガスで自殺した。(手段)  (8)交通事故で入院した。(原因)  (9)現場に残された指紋で足がついた。(理由 説明) ● 問題点… どの用法が中心的な用法なのか、また用 法間のつながりが不明確。 2018/11/7

104 2 中右(1998) 空間的位置を表す「に」と「で」 「に」は<個体の位置>、「で」は<状況の位置>を合図 する。
2 中右(1998) 空間的位置を表す「に」と「で」   「に」は<個体の位置>、「で」は<状況の位置>を合図 する。  心理的空間⊃時間的空間⊃外側の物理的空間⊃内側の物理的空 間の階層構造  (10)沖合いでは秋刀魚が流れ藻に産卵する。     (「で」-外側の物理的空間、「に」-内側の物理的 空間)  (11)今朝は5時に起きた。(時間的空間)  (12)現時点では、その真偽のほどはわからない。(時間的 空間)  (13)ライプニッツの考えでは、言語は精神の鏡である。 (心理的空間) ● 問題点…空間的関係については妥当だが、他の用法との関係 が明らかにならない。 2018/11/7

105 3 菅井(1997、2005) 認知言語学に基づいたデ格の統一的説明 デ格は「動詞の語彙的意味によって変化を被らず、限定するもの」
3 菅井(1997、2005) 認知言語学に基づいたデ格の統一的説明  デ格は「動詞の語彙的意味によって変化を被らず、限定するもの」  その意味・機能は前景的な「ガ格」ないし「ヲ格」の背景的側面を提 示する。  ・ 空間的関係…「「ガ格」や「ヲ格」を空間的に限定し、しかも 出入りを許さない」  (14)太郎が公園で散歩する / 逃げ回る。 [太郎 in公園] (15) 太郎が公園で生活する / 調査する。 [太郎 in公園]   ・ 様態のデ格  (16)太郎が課長で終わった / 退職した / 出向した。   [太郎=課長]という関係は、動詞の語彙的意味によって変化を被らな い。 -変化動詞と「デ格」は直接結びつかない。(「二格」と結合)  (17)*太郎が課長でなった / 昇進した / 就任した。 2018/11/7

106 (18)a. 丸太でカヌーを作った。 [丸太=カヌー] b. 丸太からカヌーを作った。[丸太→カヌー]
・ 材料のデ格 (18)a. 丸太でカヌーを作った。 [丸太=カヌー] b. 丸太からカヌーを作った。[丸太→カヌー] (19)a. 妹が毛糸でセーターを編んだ。[毛糸= セーター]   b.? 妹が毛糸からセーターを編んだ。 (20)a.? 原油で石油を精製する。[原油≠石油] b. 原油から石油を精製する。 2018/11/7

107 (21)a. 母親があまりのショックで寝込んだ。 b. 母親があまりのショックに寝込んだ。
 原因のデ格  (21)a. 母親があまりのショックで寝込んだ。    b. 母親があまりのショックに寝込んだ。  (22)a. そのショックで母は翌日から1週間も布団から出      られない状態が続いた。     b.?そのショックに母は翌日から1週間も布団から      出られない状態が続いた。  「原因」から「結果」までに時間的な間隔があり、しか も結果的な事態がしばらく続くような場合は「ニ格」は容 認度が低くなる。 ● 問題点…「ガ格(ヲ格)=デ格」という関係というより、 デ格が、事象自体あるいはガ格(ヲ格)を包含するという関 係(「ガ格(ヲ格)⊂デ格」という関係)ではないか。 2018/11/7

108 4 森山(2008) 森山(2008:179)では、「デは動力連鎖に対し背景を表す「背景格」で あるが、大きくは「空間的背景」を表す用法と、「役割的背景」を表 す用法に分けられる。」とし、デのプロトタイプ用法は「空間的背 景」としての「場所」用法であり、ここから「役割的背景」としての 「道具」用法が拡張するとした。   (a) 場所用法           (b)道具用法  図1 道具用法における背景の役割化(森山2008:176) ● 問題点…モノとしての「道具用法」が、「場所用法」から拡張される という説明は、無理があるのではないか。また、「彼はこのクラスで一番 背が高い」など、動力連鎖ではない。 2018/11/7

109 1.「場所」のデ 1 場所の二とデの違い (23) 机の上に本がある。(モノが存在する 場所)
1 場所の二とデの違い (23) 机の上に本がある。(モノが存在する 場所)  (24)あした学校で試験がある。(出来事(コ ト)が存在する場所) ・ クイズ 次の文のa,bの意味の違いを説明して ください。   (25) a. ここに、履物を脱いでください。    b. ここで、履物を脱いでください。  (26)a. テニスコートの前に、車を止めた。   b. テニスコートの前で、車を止めた。 2018/11/7

110 2 「時間」のデ 空間から時間へのメタファー (27)景気が大きく低迷する中で、価格破壊が 進んでいる。(「継続する事態を包含」)
2 「時間」のデ 空間から時間へのメタファー  (27)景気が大きく低迷する中で、価格破壊が 進んでいる。(「継続する事態を包含」)  (28)あと30分で仕事が終わる。(期間限定)  (29)余震は3時10分で / に やんだ。(時点 限定)   時間のデとニの違いは?  岩崎(1995)…「ニ格はニ格につく名詞の表す 時点を一点で指すのに対し、デ格はデ格につく名 詞の表す時点までの経過を含意して達成・到達点 として指す。」 2018/11/7

111 3 「原因」のデ 出来事が起きる場面としてのデ。 述語は無意志動詞。 (30)この旅行で、温泉がとても好きになった。
3 「原因」のデ 出来事が起きる場面としてのデ。 述語は無意志動詞。  (30)この旅行で、温泉がとても好きになった。  (31)強い風で看板が倒れた。 「原因」のニ、カラとの違い (32)昨日から風邪 で / *に / ?から 寝込 んでいる。(山田2003) 2018/11/7

112 4 「様態」のデ 状態次元のデ (33)車が猛スピードで走っている。(様態) (猛スピード⊃車が走っている)
4 「様態」のデ 状態次元のデ  (33)車が猛スピードで走っている。(様態)  (猛スピード⊃車が走っている)  (34)このかばんは革でできている。(材料)  (革⊃かばん)  (35)太郎は学生である。 (太郎は学生とい う状態である。) 2018/11/7

113 5 「道具・手段」のデ モノ次元のデ 原因と道具は連続的 (36)包丁で手を切った。(非意志的事態―原因)
5 「道具・手段」のデ モノ次元のデ    原因と道具は連続的 (36)包丁で手を切った。(非意志的事態―原因) (37)太郎が次郎を包丁で殺した。(意志的事態―道 具)    場所と手段は連続的 (38) ジャングルジムで遊ぶ。(道具・手段=場 所) (39) バスで学校に行く。(手段=場所)  道具・手段のデも、事態全体を限定していること では、原因や場所のデと変らない? 2018/11/7

114 デ格のスキーマとネットワーク      デのコア・スキーマ  場所用法        モノ用法 時間  原因  様態  道具 材料 手段 2018/11/7

115 参考文献 岩崎卓(1995)「ニとデ―時を表す格助詞―」『日本語類義表 現の文法(上)』くろしお出版
菅井三美(1997)「格助詞「で」の意味特性に関する一考察」 『名古屋大学文学部研究論集127・文学43』 ――――(2005)「格の体系的意味分析と分節機能」『認知言 語学論考No.4』ひつじ書房 中右実(1998)「空間と存在の構図」中右実編・日英語比較選 書5『構文と事象構造』研究社出版 日本語記述文法研究会編(2009)『現代日本語文法② 第3部 格 と構文 第4部 ヴォイス』くろしお出版. 森田良行(1989)『基礎日本語辞典』角川書店 森山新(2008)『認知言語学から見た日本語格助詞の意味構造 と習得』ひつじ書房 山田敏弘(2003)「起因を表す格助詞「に」「で」「から」」 『岐阜大学国語国文学』pp13-23. 2018/11/7

116 格助詞の体系 起点・経路・着点のスキーマをベースとする体系 化 起点ーカラ、経路ーヲ、着点ーニ(マデ)、移 動者ーガ 動力連鎖
 起点ーカラ、経路ーヲ、着点ーニ(マデ)、移 動者ーガ 動力連鎖    動作主ーガ、対象ーヲ、結果状態ーニ 時間的関係  開始ーカラ、過程ーヲ、終結ーマデ、時間点ー ニ これらの出来事関係を包含(限定)するものーデ 74.最後に、格助詞全体のまとめをしておきます。 まず、格助詞は「起点・経路・着点」という移動のスキーマをベースとしています。 ここでは、起点ーカラ、経路ーヲ、着点ーニ(マデ)、移動体ーガになります。 これが、動力連鎖をあららす行為のスキーマに写像されて、 動作主ーが、対象―ヲ、結果状態―ニとなります。 (その中間に、授受のスキーマ(起点ーガ、着点ーニ、移動体ーヲ)のスキーマが位置づけられます) また、時間的関係に写像されると、開始ーカラ、過程ーヲ、終結―マデ、時間点―ニ と具現化されます。 そして、これらの出来事関係を包含(限定)する背景としてデ格が位置づけられます。 以上が、主要格助詞の体系化です。 2018/11/7

117 結論 「は」や格助詞の用法をそれぞれ単に列挙するの ではなく、それらの用法に共通するスキーマを提 示することが、必要。(認知言語学の観点)
「は」や格助詞の構造には、場所の観点が深く結 び付いている。(場所論の観点) 認知言語学と場所論の観点を統合することによっ てこそ、日本語の言語現象を正しく把握すること ができる。 西洋言語学を基盤とした言語学理論に対して、日 本語からの言語学への貢献が可能になる。 75.そのまま 2018/11/7


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