肺塞栓症 医療安全対策講演会 2005/9/12
肺塞栓症とは 下肢、骨盤などの深部静脈にできた 塞栓子が静脈の血流にのって肺動脈 を閉塞する疾患。 塞栓子は血栓が多く、他に腫瘍、 空気、脂肪塞栓がある。
肺塞栓症の報告 1940年、戦時中、防空壕内への避難者に発症。 ( Simpson ら) 1946年、ボストンからベネズエラへの14時間の 飛行中に発症。 ( Homan ら) 1977年、長時間の飛行機旅行が原因とされる肺塞栓症を エコノミークラス症候群と呼称した。( Symington ら) エコノミークラス症候群=旅行者血栓症 ファーストクラスでもビジネスクラスでも自動車でも 電車でも起こる。 野球 伊良部投手、サッカー 高原選手 新潟中越地震被災者 話題性は、エコノミークラス症候群が高いが、重大なのは、 すでに多く発生していた、さらに増加傾向にある 院内発症例。
静脈血栓の三大誘発因子 血液凝固能亢進 血流停滞 静脈壁損傷 悪性疾患 経口避妊薬、ホルモン薬使用 手術 外傷 妊娠 脱水 先天性血液凝固異常 長期臥床 心疾患 妊娠 肥満 静脈炎 外傷、手術による損傷 カテーテル検査、留置
日本における急性肺塞栓症の患者背景 (n=456) 65歳以上 261(57.2%) 女性 287(62.9%) 最近の手術 111(24.3%) 最近の外傷、骨折 47(10.3%) 悪性疾患 95(20.8%) 長期臥床 129(28.3%) 肥満 151(41.8%) 脳血管疾患 45(9.9%) 院内発症 185(40.6%) 日本における急性肺塞栓症の死亡率推移 全症例 14% 12% 8% 心肺停止、ショック例 30% 32% 27% 上記以外の軽症例 6% 3% 2% ~ ~ ~ n=309 n=257 n=461 肺塞栓症研究会登録症例より
急性肺塞栓症の症状 突然発症する 呼吸困難、息切れ(70〜90%)、 咳嗽、胸痛、血痰、失神など 臨床所見 頻呼吸、頻脈、ラ音聴取、チアノーゼなど 発症状況 術後最初 の起立・歩行、排尿・排便、体位変換、移送 過剰診断を恐れず 、肺塞栓症を疑う。
肺塞栓症予防ガイドライン (2004) 静脈血栓塞栓症の付加的な危険因子の強度 危険因子の強度 危険因子 弱い 肥満 エストロゲン治療 下肢静脈瘤 中等度 高齢 長期臥床 うっ血性心不全 呼吸不全 悪性疾患 中心静脈カテーテル留置 癌化学療法 重症感染症 強い 静脈血栓塞栓症の既往 血栓性素因 下肢麻痺 ギブスによる下肢固定
一般外科手術における静脈血栓塞栓症の予防 リスクレベル 一般外科手術 予防法 低リスク 60歳未満の非大手術 早期離床および積極的な運動 40歳未満の大手術 中リスク 60歳以上あるいは危険因子がある非大手術 弾性ストッキングあるいは 40歳以上あるいは危険因子がある大手術 間欠的空気圧迫法 高リスク 40歳以上の癌の大手術 間欠的空気圧迫法あるいは 低用量未分画ヘパリン 最高リスク 静脈血栓塞栓症の既往あるいは血栓性素因 低用量未分画ヘパリンと のある大手術 間欠的空気圧迫法の併用 あるいは 低用量未分画ヘパリンと 弾性ストッキングの併用 大手術とは、すべての腹部手術あるいはその他の45分以上要する 手術を基本とし、麻酔法、出血量、輸血量、手術時間などを参考に 総合的に判断する。
ベッドサイドでの血栓予防
症例 61歳女性。親の着替えを介助していた ところ、急に呼吸困難、めまいが出現。 当院受診し、胸部 CT 撮影後、呼吸苦が 増悪し意識消失した。意識はすぐに回復し たが、口唇にチアノーゼを認めた。 血圧は、触知不良だった。
胸部造影 CT
肺動脈造影 血栓吸引前血栓吸引後
吸引された血栓
入院後経過 ショック状態、意識レベル低下に対して、人工呼吸管 理下、 PCPS( 経皮的心肺補助 ) を挿入。カテーテルによ る血栓吸引術を行った。 血栓の吸引により血行動態が改善、同日 PCPS を抜去。 右大腿静脈に血栓が残存するため、 IVC( 下大静脈 ) フィルターを挿入した。第7病日人工呼吸器離脱。 第30病日独歩退院できた。 肥満 (−) 血液凝固異常 (−) 悪性腫瘍 (−)
まとめ 肺塞栓症は、致死性疾患であり、重症例の 死亡率は、極めて高い。 院内発症が多く、早期診断、治療が必要である。 なにより患者背景のリスクに応じた予防対策が 重要である。