多様性の生物学 和田 勝 東京医科歯科大学教養部 第12回 個体群の生態学
個体より上位の階層 個体 個体群 生物群集 生態系 生物圏 ( biosphere ) ( ecosystem ) ( community ) ( population ) ( individual )
生態学 生態学 (ecology) の用語 Henry David Thoreau の書 簡の中に、この言葉が 見られる。 Ernst Haeckel が定義付け をしている。
生態学 oikos (家庭) + logos (学) から 「生物とその環境との相互作用の 科学的研究」( 1869 ) Charles Krebs の定義( 1972 ) 「生物個体の分布と数を 決めている相互作用の研 究」
生態学の扱う対象 個体 個体群 生物群集 生態系 生物圏 ( biosphere ) ( ecosystem ) ( community ) ( population ) ( individual )
個体群生態学 生態学では個体群を次のように定 義する。 「個体群とは、ある限られた空間 に生息し、多少ともまとまりを有 する一種類の生物個体の集合」 個体群生態学では、個体群を対象 に各個体の分布や数の変動を記述 し、その過程、要因を研究
個体群生態学 個体群密度と分布パターン その変動(成長、季節的変動な ど) この 2 つのパラメーターは次の 2 つの条件によって規定される。 資源( resource ) 制限要因( limiting factors ) 環境収容力 ( carrying capacity ) 環境収容力 ( carrying capacity )
個体群の分布
個体群の分布
個体群密度測定 空中からセンサス( aerial census ) セレンゲティ国立公園内のアフリカスイギュウの 群れ
個体群密度測定 Census of white-tailed deer in the winter by US Fish & Wildlife Service
個体群密度推定 標識再捕獲法( Mark-recapture method ) 個体群の個体総数を N 捕獲標識個体数を M 再捕獲個体数を n 標識再捕獲個体数を R とすれば 個体群の個体総数を N 捕獲標識個体数を M 再捕獲個体数を n 標識再捕獲個体数を R とすれば N N M M = = n n R R N N = = nM R R
計算が成り立つ前提 1)各個体は同じ確率で捕獲され なけ ればならない。 1)各個体は同じ確率で捕獲され なけ ればならない。 2)標識をつけた個体とつけてい ない 個体の間に差が生じない。 2)標識をつけた個体とつけてい ない 個体の間に差が生じない。 3)標識をつけて放したとき、個 体群 の中にランダムに拡散。 3)標識をつけて放したとき、個 体群 の中にランダムに拡散。 4)移入や繁殖によって非標識個 体が 著しく増加しない。 4)移入や繁殖によって非標識個 体が 著しく増加しない。
前提を満たすために 捕獲方法、標識方法、 1 回目と 2 回 目の捕獲の間隔などを慎重に選ぶ 必要 分母の標識再捕獲個体数( R )によ って N が大きな影響を受けるので、 R の数を大きく取れるようにnの数 を大きく
標識再捕獲法の例 資源量の推定( lobster ) Catch Marking
標識再捕獲法の例
Results from the first year of the study indicate mark- recapture-based estimates are consistent with diver counts on the same 1-square-kilometer area of seabed.
標識再捕獲法の例 Population Dynamics of Soay sheep on Hirta (St. Kilda archipelago - Scotland)
標識再捕獲法の実習
標識再捕獲法の実習 下のサイトを参照して、 2 色のビー ズを使って模擬実験を行なうことが できる。 どのくらい正確に推定できるか試し てみよう。 下のサイトを参照して、 2 色のビー ズを使って模擬実験を行なうことが できる。 どのくらい正確に推定できるか試し てみよう。
標識再捕獲法の例 コウモリの個体群がテキサスのあ る橋の下に住んでいる。月曜日に 50 頭をネットで捕獲、標識して放 した。火曜日に同じように 100 頭を 捕獲、うち 13 頭に標識があった。 この橋の下の個体群数は何頭か。 答えは 385 頭
センサス 大型でない個体の場合は、双眼鏡や 望遠鏡で観察して記録。
センサス ラインセンサスやタイムマッピン グ法など、いろいろな方法がある 。
個体群中の個体の移動 小型の発信器の利用 Microhabitat Selection and Movement Patterns of Black Rat Snakes (Pantherophis obsoletus obsoletus) in the Western Piedmont of North Carolina
発信器の利用 チータの保護に利用
発信器の利用 ウミガメの移動経路の解明
発信器と人工衛星の利用
日本でも、ツルの渡りなどに利用 して成果をあげている。 ナベツルの渡りのルートの解明、 朝鮮半島の休戦ラインが途中の休 息地( stopover )となっている。 発信器と人工衛星の利用
個体群の成長 一定期間の個体群の増加は その時期に 生まれた個 体数 ー ー その時期に 死亡した個 体数 で表わすことができる。 数式で表わせば、、、
個体群の成長 ΔN / Δ t= B - D 個体群の大きさを N 、出生率 を b 、死亡率を d で表わせば ΔN / Δ t= bN - dN =( b - d ) N ΔN / Δ t= rN r = b - d (成長率)とする
個体群の成長 dN / d t= rN 理想的な環境では増加率は最大 になるはずなので、rはr max と して dN / d t= r max N
個体群の成長
実際には、ゾウリムシはこのよう に無限に増えていくことはできな い。ビーカーの大きさがゾウリム シの収容する数を規定するからで ある。環境の収容力( K )をここに 導入する。 dN / d t= r max N ( 1 - N / K )
個体群の成長
ロジスティックモデルは 実際の個体群に当てはまるか?
個体群の成長を抑制する因子
ヒト個体群の成長
群集と生態系の生態学 食物連鎖
群集と生態系の生態学 食物連鎖を系として閉じる役割を する 分解者 食物連鎖を系として閉じる役割を する 分解者
群集と生態系の生態学 生産者 消費者 一次消費者 二次消費者 分 解 者
群集と生態系の生態学
生態系における循環
持続可能な成長 窒素やリンや炭素は循環している が、人はこれを無視した牧畜、農 業を行ない、食物網を破壊してい る。 人が新たに作り出した化学物質を 環境に放出し、高次捕食者に食物 連鎖を通じて蓄積し、その生物の 繁殖に大きな影響を与えたりして いる。 持続可能な成長( sustainable growth )は可能か ?