インフラの医療, コンクリート・ドクターの養成を目指 して コンクリート工学研究室 岩城一郎 1
講義の内容 土木って何? - 土木と建築の違い?インフラとは? - これまでの土木,これからの土木 - 土木の多彩な教育・研究分野 コンクリートって何? - コンクリートの特徴,長所・短所 - コンクリートでできているもの - コンクリートはなぜ劣化するか? コンクリート構造物を長持ちさせるためには? コンクリート・ドクターの仕事 まとめ 2
土木(工学)とは? 土木と建築の違い?どちらも「街づくり」のため の学問 土木 語源:土を築き,木を構えて(築土構木)に由来 Civil Engineering 英語:「 Civil Engineering 」(市民のための工 学) ⇔「 Military Engineering 」 市民の暮らしと,我が国の産業・経済を支えるも の. 市民の暮らしと,我が国の産業・経済を支えるも の. 街づくり例特色 土木 暮らしを支え る施設(インフ ラ: Infra- structure ) 道路・鉄道(橋,トンネ ル), ダム,上下水道, 堤防,港湾,エネルギー関 連施設等 多様性, ネットワー ク 建築 暮らしを営む 施設 ( 建築物 ) 家,学校,オフィス,商業 施設等 点および その集合体 3
これまでの土木,これからの土木 戦後 ( 1945 年- 1950 年代) 焼け野原からの復興 高度経済成長期 ( 1960 年代- 1970 年代) インフラの建設ラッシュ バブル期 ( 1980 年- 1990 年代) 世界一の土木事業(青函トンネル,明石海峡大橋) 現在( 2000 年代):都市部では一定の水準 → 土木は不要? 将来( 2010 年以降) → 発想の転換 - 必要なものはつくる.あるものは使いこなす. - 災害に強く,長持ちするインフラの実現(インフラの保全と防 災) - 環境との共生(水質保全,河川・海岸防災) 社会(基盤)と環境の保全と防災力向上を目指して!! → 社会(基盤)と環境の保全と防災力向上を目指して!! 4
社会と環境の保全と防災力向上を目指し て !! 社会基盤の 集中的な建設 これまでこれから 土木の新たな挑戦! 防災力 向上 社会基盤整備(保全重視) 環境保全 5
防災 保全 環境 社会基盤 地震工学 交通工学 社会基盤保全工学 水理学 水域環境 橋工学 土木史 地盤工学 河川・砂防工学 環境システ ム 衛生工学 リスクマネジメン ト 景観工学コンクリート工学 コミュニケーション技術 海岸・港湾工学防災工学土木の多彩な教育・研究分野 地震防災社会基盤の保全河川防災環境保全 世界最先端の研究 地域社会への貢献 教員とのふれあい教育 実践的な技術者の輩出 6
社会基盤(インフラ)を構成する材料のう ち,最も多く用いられているもの. 我が国の社会基盤(インフラ)を構成する材料のう ち,最も多く用いられているもの. 国内年間需要量約 2 億㎥(国民一人当り 1.5 ㎥ / 年) 空気のよう な存在,縁の下の力持ち 車,パソコン,携帯等とは異なり,便利さが実感で きない,目立たない,でもないと困る:空気のよう な存在,縁の下の力持ち 長所:安い( 1 リットル 10 円),材料を入手しやす い(輸入に依存しない),丈夫で長持ちする. 短所:耐震性(阪神淡路大震災),早期劣化問題 (落橋事故),環境問題(解体・処分) 最初軟らかく,後から硬くなる. 最初軟らかく,後から硬くなる. 圧縮に強く,引張に弱い. 圧縮に強く,引張に弱い. 劣化する(寿命がある). 劣化する(寿命がある).コンクリートって何? 7
コンクリートで作られているもの 8
身の回りのコンクリート 9
コンクリートはなぜ劣化するか? 物理的作用,化学的作用,生物学的作用: 中性化,塩害,凍害,アルカリ骨材反応, 化学的侵食,疲労 設計ミス,施工ミス (管理ミス) 手抜き・偽装!! 10 写真:①東京大学出版会 社会基盤メインテナンス工学,②安治川鉄工パンフレット, ③土木学会 耐久性データベースフォーマット,④,⑥日経 BP コンクリート名人養成講座よ り ① ② ④ ⑤ ⑥ ③
コンクリート構造物を長持ちさせるに は? コンクリート工学の先人たちの教えから コンクリート技術者の使命「いいコンク リート構造物をつくるためには,親切に, 丁寧に」 by 吉田徳次郎先生 土木技術者の使命「世のため,人のため, 良いものを安く造る」 by 岡村甫先生 技術者としての誇り・責任感 11
小樽北防波堤 広井勇博士の指揮の下, 1897 年より施工開 始 火山灰使用, W/C ≒ 40% , W= kg/m 3 締固めと水量を厳しく管理 完成から 100 年以上にわたる強度試験の実施 現在もほとんど劣化することなく供用 12
コンクリート構造物の寿命は? コンクリート構造物の寿命は半永久的 (メンテナンスフリー)と考えられていた. 高度成長期( 1970 年前後)の建設ラッシュ 1980 年代:コンクリート構造物の早期劣化問題 コンクリート構造物は一体,何年もつのか??? 平均すると 50 年くらいしかもたないのでは??? どうしたら長持ちさせることができるのか? 13
人の寿命とコンクリートの寿命 日本人の平均寿命:男子 歳,女子 歳 (平成 19 年度調) → 世界有数の 長寿国 医療の高度化 理由:親切に丁寧に育てたから?食生活? 保険制度,医療の高度化(病理の解明,医療 機器の発達,新薬の開発,ドクターの知識・経 験・技能の向上等) コンクリート構造物を長持ちさせるためには? 病気・怪我診断 治療医療 行為コンクリート・ドクターの仕 事 劣化(病気・怪我)の原因と程度を探り(診断 ), 適切な処置を施す(治療) ,「医療 行為」が必要 → コンクリート・ドクターの仕 事 14
コンクリート・ドクター 東京大学出版会:社会基 盤 メインテナンス工学 15
橋の疲労メカニズムの解明と対策 16 実際の橋の疲労状態を再現可能 な輪荷重走行試験 実物大の模型の作製 調査点検 損傷状況の診断 車両の大型化・交通量の増 加 首都高速道路の 断面交通量 1日約10万台 1年約3000 万台 30年で約10 億台 補強方法の開発と適用
コンクリートの検査技術の開発 17 鉄筋コンクリー トの X 線画像 BB- 蒸気養生 OPC- 蒸気養生 EPMA によるコンク リート内部の塩分濃度 分布 サーモグラフィによるコンクリートの 劣化箇所の検出
塩害橋の病理解剖 18
まとめ 土木の役割:人々の暮らし,我が国の産 業・ 経済を支えるためインフラを整備 する. 土木の将来:社会と環境の保全と防災力向 上を目指した仕事と,それに役立つ教育・ 研究 コンクリート:インフラを構成する主要材 料,劣化する(寿命がある). インフラの保全:コンクリート構造物の劣 化の原因を探り(診断),適切な対策を施 す(治療) ,「医療行為」が必要 インフラの医療,コンクリートドクターの 養成: 我が国の看板技術 → 国際貢献 → 新 たなビジネスチャンス 19