触図の作成法と、 科学教育における活用につい て 筑波大學 鳥山由子
2 Ⅰ 視覚障害児童生徒にとっての 触図の特性(概観) 視覚障害児童生徒にとって、触図は価値が あるか 1.視覚障害児も図が好き 2.図は、視覚的な表現手段であり、本来 は視覚障害者にとって便利な手段ではな い 3.視覚障害児童生徒にとっても、図があ る方が説明がわかりやすい場合もある 4.触図の理解の初歩の段階では、形の理 解よりも表面の触感が優先する 2
3 触覚で図を理解する難しさ 1.一度に全体が見えない(図形のイメー ジが描きにくい) 2.触覚による2点弁別の限界(細かい部 分の識別困難) 3.重なった情報を選択的に理解できない (地図の多くの情報から情報を抽出する 困難) 4.基準点がずれると大きさの理解がしに くい (帯グラフの幅の理解はしにく い) 5.立体を平面に描く見取り図、透視図は 困難 (そのように見えた経験がない)
4 わかりやすい図のデザイン 1.何の図であるか、全体のどの部分である かがわかるように示す (キーワードや説明を添える。全体の図と 部分の図を組み合わせる) (図のタイトルは上に示す。文章を読むこ とで図の予測が立つ) 2.細部の省略や拡大図との併記、言葉の補 足、数値を読みとるグラフは表にすること もある 3.複雑な図の場合、全体像の外観を示した 上で細部を別々に示す 一つの図に多くの情報があるとき、同じ 大きさの図を重ねる方法もある
5 4.基準点を示す 5.立体を描くには、投影図、展開図、断 面図が基本 見取り図は基本的には理解できないが、 簡単な見取り図は、記憶によって識別で きることもある 6.余分な情報はできるかぎり削除する( 引き出し線、長さや範囲を表す弧) 7.実物との対比の場合は、実物を触った ときの形や触感の共通性が手がかりにな る
6 図を使う場面を考慮する 1.どのような場面で使うのか (説明者がいる授業と、説明者がい ない試験場面など) 2.どのくらい時間をかけられるか 3.図をみる人の能力
7 触図の種類-1 (こちらから与える図) 1.点図 (手作りの図、作図ソフ ト) 2.立体コピー 3.サーモフォーム
8 点図の例 (高等部の生物の点字教科書の図 )
9 立体コピー(カプセルペーパー) で 作成した図の例 (中学部の理科の教科書、細胞の図)
10 サーモフォームで作成した図の例 植物の胚の図
11 サーモフォームで作成した図の例 水中の微生物の図
12 盲生徒が図を作成する手段 1.レーズライター 2.点字のグラフ用紙を利用してグ ラフを 作る 3.教師が途中まで作成した図を完 成さ せる
13 理科で用いるグラフ板 とグラフ用紙の例
14 触図作成技術 1.本質の強調と、ノイズの除去 (何を表す図であるか) 2.図の大きさ 3.作成方法に応じた技術 (わかりやすい突点、線の種類と 強弱、 塗りつぶし、裏点)
15 フィードバック 1.読み手の特性 2.図の本質は伝わったか 3.さわり心地 4.新しい工夫に関する意見を求 める
16 Ⅱ 試験問題の触図 試験問題の触図の特性 1.生徒にとって初めての図であるこ とが多い 2.時間制限がある 3.試験中は、教師の助言が得られな い
17 試験問題の点訳とは、単に点字に翻 訳することでなく、点字による同等 の問題を作ることである。 視覚障害の特性を踏まえて、図の書 き換え(修正)が必要である。
18 触覚で図を見ることは、点字を読む ことの何倍もの時間がかかる。 従って、図の枚数が多くならないよ うに配慮する。 又、触覚の特性を踏まえ、分かりや すい図を工夫する必要がある。
19 Ⅲ 自然科学で用いる触図 その1 数学、物理、化学式等、概念を表 す図 1.図は、学問の一部であり、視覚障 害者 であっても、図を避けて通ることは でき ない。 2.図は比較的単純で、触図の理解も 容易である。
20 物理における定型化された 図の表し方の例 fig.1 : 斜面に置かれた物体に働く重力 fig.2 : 糸でつるされたおもりに働く力
21 定型化された図は、視覚障害児童生 徒にとっても理解が容易である。 点字教科書では、定式化された図の 手法(電流回路の配線図などのよう に、記号を用いるもの)を、積極的 に取り入れている。
22 通常の表記の原子記 号を点字で表すだけ で、後はまったく同 じ図。 より良い理解のため には、模型と図の両 方を用いる。 化学の構造式
23 定型化された概念を表す図は、視覚 障害児童生徒にも比較的理解しやす い。 しかし、図を理解する能力を育成す るためには、系統的、かつ持続的な 指導が不可欠である。
24 日本の盲学校で用い ている算数の点字教 科書には、触図の理 解のための特別な分 冊がある。 小学部1年生算数。
25 Ⅳ 自然科学で用いる触図 その2 生物の授業で用いる触図 実際の生物のスケッチなどで、図だ けでは理解が難しいが、実物、模型 と対応させて 図をみる力を育てる ことが大切である。
26 花の構造の観察 視覚障害生徒が自 分で実物を観察す ることが基本であ る。 ユリやチューリッ プ等は、指先で理 解しやすい。
27 菜の花(アブラナ の花)の触図 さわって観察する には小さすぎる花 の構造は、このよ うに断面図で表し て理解させる。
28 タンポポの花の構造 の触図 タンポポの代わりに 、同じキク科のヒマ ワリを用いると、実 物観察が出来る。そ の上で、 タンポポの花の構造 を、触図で理解させ る。
29 植物細胞の図(生物、点字教科書)の 例 複雑な構造であるため、サーモフォー ムで作成している。 右は、立体コピーで作成した図
30 実物と対照させながら触図を理解する力 を育てることによって、実物に触れるこ とが出来ない場合に、触図からイメージ を描くことが出来るようになる。 小さくて触れないものの代表は細胞であ る。
31 実物が小さくて触れないというとき、次 のいずれであるかを明確に示すことが 必要である。 ① さわって理解することは困難だが、 肉眼では見える ② 肉眼では見えないが、光学顕微鏡で は見える ③ 光学顕微鏡を使っても見えない
32 実物が大きすぎて全体像が理解出来な い場合、模型や触図が有効。 模型や触図で全体像を示し、今触れて いる実物の部分はそのどの部分である かを理解させる。
33 大きいものの全体像と部分を示す例 (大きな建造物の構造を示す立体コピーの 図)
34 動物の器官の理解における、 実物、模型、触図の活用 ① 眼球 ② 心臓
35 ブタの眼球の解剖
36 教師が手を添え て、強膜を切り 、前半球と後半 球に分ける
37 角膜の内側に虹 彩、その内側に レンズがある。 ゼリー状の硝子 体がある。
38 模型を活用して 、眼球の構造を 学ぶ。
39 眼球の断面を表す触図 視神経の向きか らどのような断 面を表している かを考える 立体を平面に表 していることを 理解する
40 ブタの心臓の解剖 心臓の構造と、 各部の筋肉の厚さ の違いは、実物で 良く理解できる
41 心臓の構造の模式図 単純化して表した図。実物とは印象 が異なるが、単純化することで構造 が理解しやすい
42 結論 触図の目的の明確化 + 触覚の特性を踏まえたデザイン 分かりや すい触図 + 視覚障害生徒の図を理解する能 力 図の理解
43 生物教育の本質と触図の活用 1.実物の観察によるイメージ形成が基 本 2.実物観察が困難な場合には、模型や 図を活用して理解を助ける 3.実物と対照させて触図を使うことで 、触図を理解する力を育てることがで きる。 図を理解する力がつくと、実物観察が 出来ない場合に、図からイメージを描 くことが 可能になる。
44 ありがとうございました