系外惑星系 TrES-1 における Rossiter 効果の検出可能性と その観測意義 東京大学大学院 理学系研究科 成田憲保 共同研究者 太田泰弘、樽家篤史、須藤靖 (東京大学) Joshua N. Winn ( Harvard-Smithsonian Center ) Edwin L. Turner.

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系外惑星系 TrES-1 における Rossiter 効果の検出可能性と その観測意義 東京大学大学院 理学系研究科 成田憲保 共同研究者 太田泰弘、樽家篤史、須藤靖 (東京大学) Joshua N. Winn ( Harvard-Smithsonian Center ) Edwin L. Turner (Princeton Univ.) 田村元秀、山田亨、青木和光(国立天文台) 佐藤文衛(神戸大学)

イントロダクション 太陽系の惑星はほぼ同一平面内を 太陽の自転と同一方向に公転している ( C ) NASA, JPL 太陽系はどのようにしてできたのだろう?

太陽系の形成 林モデル(京都モデル) flat な原始惑星系円盤内での惑星形成 特定領域研究 coverpage より 原始星のまわりに flat な円盤が形成 ↓ 円盤内部でのダスト衝突・ 合体による微惑星の形成 ↓ 原始惑星によるガス・ダスト集積 ↓ 巨大ガス惑星・地球型惑星の形成

太陽系外惑星の発見 1995 年 → 51Pegasi に系外惑星の発見 どんな惑星が見つかったか? 51 Peg.b 公転周期 4.2日 軌道長半径 0.052 AU Mercury 公転周期 88日 軌道長半径 0.39 AU ホットジュピター(あるいは close-in giant )と 呼ばれる 主星に近接した巨大ガス惑星 林モデルをそのまま適用できない!

Migration Theory 巨大ガス惑星が主星の近傍に存在してい る しかし惑星の核となる氷は遠いところでしかで きない 遠くでできた後、形成過程で内側へ移動してき た 微惑星と原始惑星系円盤の相互作用から説明 新しい発見から理論の修正が行われた

現在の惑星形成理論の大前提 flat な原始惑星系円盤内での惑星形成 + migration による動径方向の軌道変化 これらだけを考慮すれば 十分だろうか? Yes or No どちらも重要

惑星形成の現場で何が起こる? 微惑星・原始惑星同士の衝突  migration 中に3次元方向の軌道変化?  全太陽系惑星の公転面は完全には一致していな い flee-floating planet の可能性  太陽系の木星型惑星には逆周りの衛星もある  はぐれ惑星が主星に捕獲される可能性もある その他の考えていなかったことの可能性  近くで超新星爆発??? 系外惑星は惑星形成理論を確かめる手がかりとな る

何をどうやって調べるのか? ホットジュピターが flat な原始惑星系円盤内での惑星形成 + migration による動径方向の軌道変化 で形成されたならば、 主星の自転と惑星の公転はよく align しているは ず ホットジュピターは migration の結果現在の位置に ある その軌道は migration の素過程の情報をとどめている この alignment の角度は Rossiter 効果の観測量

Rossiter 効果 時間 Transit が引き起こす視線速度のずれ 惑星がどのような alignment を持って主星の前面 を 通過するかによってずれのふるまいが決まる 惑星の公転軌道例 およそ 2 時間の Transit 中の 視線速度を決めるため 高精度かつ高サンプリング の 観測が必要 Ohta, Taruya & Suto (2005)

HD での観測例 主星の自転と惑星の公転が同方向 系外惑星で Rossiter 効果が確認された唯一の例 ELODIE on 193cm telescope Queloz et al. (2000)

その他の観測ターゲット 現在確認されている Transit 惑星は6つ HD は非常に明るいため 2m 級望遠鏡で Rossiter 効果が検出できた OGLE 惑星は非常に暗いため 8m 級望遠鏡でも無 理  HD V=7.65  OGLE-56, 113, 132, 10 V=15~17  TrES-1 V=11.8 K0V ( Alonso et al ) 2004 年 8 月に Keck/HIRES で confirm された Transit 中の視線速度は 1 点しか観測されていない

TrES-1 で Rossiter 効果は見えるか? 1. 視線速度の決定精度の見積り 2. 視線速度のずれの予想曲線の作成 3. 予想曲線のまわりに視線速度の決定精度に あわせてサンプルデータを散らばせる 4. そのデータをフィットし、パラメータの決 定精度を調べる 検出可能性の検討手順

TrES-1 で Rossiter 効果は見えるか? HDS/Exposure Time Calculator で計算  V=11.8  Std I2a  露光時間 10 分  seeing 0.8 arcsec  slit width 0.8 arcsec  without ADC / IMR SN 80 ~ 100 が得られることがわかった 視線速度の決定精度にして~ 7ms -1 視線速度の決定精度は?

TrES-1 で Rossiter 効果は見えるか? 予想される視線速度のずれは? 自転速度などを仮定して「 true anomaly 」を作成  V sin I s = 2 km s -1 ( K0V:Noyes et al )  ε= 0.64, λ= 0  その他は観測値を使用 この true anomaly のまわりにガウシアン乱 数で simulated data を散らばせた Ohta, Taruya & Suto (2005) の公式を用いた

結果1.サンプルのフィット 青破線: true anomaly 赤点: simulated data 誤差棒: 7 m s -1 黒実線: χ 2 最小フィット 12 分に 1 つのサンプル 視線速度の決定精度が高く Rossiter 効果によるずれを 検出することが可能

結果2.パラメータへの制限 青 × :仮定した真の値 赤+: χ 2 最小のパラメータ 赤実線: 1σ および 2σ V sin I s : 1.93 ± 0.30 km s -1 λ : 3 ± 20 deg HD での観測例と 同等以上の決定精度

検討結果のまとめ すばる /HDS での 1 晩の観測で、 TrES-1 の Rossiter 効果の検出は十分に期待できる 非対称性などを見るには理論曲線の精度を上げ ることも必要( Rossiter 効果は理論曲線からの ずれ) 一般に V<12 程度の明るさを持つ恒星のまわりに、 ホットジュピターの Transit が観測できれば、現 在の地上観測機器で Rossiter 効果の確認は十分 可能

観測から得られる結果の可能性 よく align しているという結果  惑星形成は flat な円盤内で起こるという確認 λ= 0 から大きくずれていた場合  ふたつめの惑星の可能性(本当は align してい る)  migration の過程で公転面に大きな傾きが生じ た Transit 惑星の Rossiter 効果を見ることにより、 惑星形成理論の前提として考えていることが 正しいのかあるいは何らかの見落としがあるのか ひとつの観測事実を与えることができる

観測の意義 系外惑星系の発見が教えてくれたこと 惑星系の多様性 → 太陽系は「標準」ではない 予想通りの結果が得られるかもしれない あるいは思いがけない発見があるかもしれない 他の惑星系の姿を観測することで、 統一的な惑星形成理論への知見が得られる

TrES-1  i = 88.2 deg  d = 157 pc  [Fe/H] =  M s = 0.87 M Sun  M p = 0.75 M Jup  K = ms -1  V=11.8  R p /R s =  R p = 1.08 R Jup  a = AU  P = 3.03 day  e = 0 (fixed) Trans-Atlantic Exoplanet Survey network