「モニター」と「検査」 モニターは検査とどう違うか 諏訪邦夫 2003 年広島呼吸研究会
モニターと検査:要点 実例:パルスオキシメーター 意味あるいは定義 「態度?」 時間の要素 侵害度と費用の問題 今後の課題:いろいろな可能性
パルスオキシメーター使用を例 に 重症患者につけ て・・・・・・・ – 「大丈夫かな」 – 「上がるな ら・・・・・・・」 – 「下がるな ら・・・・・・・」 – 「何とかこのま ま・・・・」
「モニター」の特徴 健常性の確認 監視する すぐ対応する 時間経過を追う 当然「頻回測定」、 「連続測定」
知って欲しい単語:「健常 性」 健常性: Integrity 辞書には二つの訳語 – 高潔 – 完全な状態 – モニターは「健常性 確認」が最重要 単一のラメーターで は無理
呼吸管理での「健常性確 認」 現在のやり方は 1. パルスオキシメーター 2. 「呼吸していること」のモニター 気道内 CO 2 や気流量、換気量 3. EKG・脈拍数・血圧 4. 他のモニター:体温、尿量
「モニター」の特徴 パラメーターの知識が「使用可能」 – 特定の「名人」しか使えないものは? – 普通のレベルで有用(EKGも聴診も) 装置が「使用可能」 – 頑丈、安価、信頼度 「体温計」と「家庭用血圧計」が典型
モニター:連続性・客観性・記 録性 連続情報だから「変化」がわかる 客観情報 – 引継ぎで伝わる – 大勢で検討が可能 – 教育的価値 記録は後から検討・評価が可能 – 医療過誤問題との関係
医療過誤保険で起こった事件:米国 1980 麻酔科医は「危険度最高群」 – つまり保険料が最高額( 5 万ドル / 年!)の 群 1985 「モニターの規準」を定めて確立 ハーバードが、 ついで 全米麻酔学会が採 用 麻酔関係の訴訟減少、金額減少 1995 麻酔科医は「危険度最低群」 – 保険料は 1 万 5 千~ 2 万ドル / 年のレベル (現在産婦人科などは 10 万ドル以上!)
副次的に起こった事件 1998 ~ 1999 年 クリントン政権の晩年 麻酔看護師独立の動き加速 「麻酔が安全になった」ことの副作 用? クリントンの母親が麻酔看護師だった 事実 最終決着は?
「モニターの規準」( 日本麻酔科学 会 ) 麻酔担当者の常時所在 EKG 「心の拍出」の常時確認 動脈血酸素の常時確認 「換気」の常時確認 その他
「検査」は? 「特定のパラメーターに、即反応はし ない」 「状態を把握」 – 「記述のパラメーター」 「測定は一回」 – 「経過を追うのが基本」ではない
「モニター」と「検査」の区 別は? 境界は必ずしも明確でない 通常は「検査」だが、「モニター」に 使う場合 同一の項目が 「 A 患者には検査」、 「 B 患者にはモニ ター」 病態との関係は? 一般の「健診」は「検査」と把握するが 自分自身の例:健診で尿酸値を診るのは?
「 検査でなく実はモニター」の例は 多い 患者自身でチェックして対応 – 例:糖尿病で血糖とインスリン量の調整 – 例:風邪の時に、体温で薬・食事・仕事を調整 – これは「血糖や体温をモニター」 医師や医療従事者が対応 – 例:呼吸不全でSao 2 と酸素量の調整 – つまり「酸素飽和度をモニター」 検査には実は「モニター」も多い
「モニター」 と 「検 査」 「健常性チェック」 頻回測定 患者一人に一台 侵害度を低く 個別の費用は低く 誤信号に厳しく アラーム機能重要 把握容易なパラメー ター 特定のパラメーター 測定は一回だけ 一台で多数患者に 侵害度が高いかも 費用もかかるかも 精度が重要 アラームは不要 パラメーターの性格不 問
「検査 → モニター」に移行する 過程 当初「検査」として開発、後に「モニ ター」として使われる → これが通常の 経過 – EKG – 酸素飽和度と気管内二酸化炭素 – 胸壁エコーと食道エコー 装置の安定と普及 知識の普及
「検査 → モニター」に移行 実例:EKG 1900 初頭:最初のEKG( 1906 三極真空管発 明) 1920 以降:真空管アンプ 1950 以降:ブラウン管普及。しかし高価 EKG「検査」が普及し始める 1960 年代:EKGモニター開始(真空管) 1970 年代:EKGモニター普及( IC 化、 PC 化) 1987 年:宮内庁病院にEKGモニター導入! 2000 年:液晶画面に
「検査 → モニター」の移行 実例:パルスオキシメータの歴 史 1930 代: Nicolai & Millikan :オキシメトリー開 発 – 戦闘機などで利用を図る。実用性は? 1950 :実用のオキシメーター完成( Wood ) 1960 : HP のオキシメーター(8波長) 1 千 万円? 1973 :パルスオキシメータ原理、試作 ( 青柳 ) 1980 頃:ディジタル市販機、 200 万円 1990 頃:健康保険採用、 50 万円 2000 :普及、低廉化。 5 万円未満の機器まで
酸素電極の構造と動作原理
当初から「モニター」を意識し た例 血液酸素分圧測定 1953 : Clark 酸素電極開発(エンジニア) – 目的は心臓手術時の人工心肺の性能のチェック 1960 血液ガス測定装置販売 – 当初は臨床『研究』機器 、一部では検査やモニターとして も 1973 血液ガス機器の「全自動化」 – 「検査機器」として確立、「モニター」としての使用も増 加 – 同じ頃「経皮酸素電極」:新生児に使用 1980 年以降:小型化、携帯機種 現在:パルスオキシメーターとの「棲み分 け」
実生活でのモニター: 旅客機内で起こること 規定は 2/3 気圧以上 2000 年 6 月東京 → デトロイト便 :4/5 気圧 – 世界麻酔学会のモントリオール出張時 偶然ポケットにパルスオキシメータを 所持 機内で息こらえテスト 最低値は 72% ! 同じテストは国内線で可能(時間は短 い)
旅客機内で息こらえ 安静換気時の Spo2 は少し低いだけ (98vs95%) ところが息こらえで Spo2 が激しく低下 例 :FRC から息をこらえると 平地なら 30 秒の限界で 90% を切る程度 低圧では 30 秒の限界で 80% を切ることさ え 初期値の差は 3% で最終値の差は 10% 以上
息こらえ : 平地と高地 :FRC 時間 Spo2 の差 0 秒 2.4% % % % ギャップ次第に拡大
実際的意義がある?! 旅客機内の息こらえで低酸素が起こる 長距離飛行では必ず眠る →SAS 睡眠時無呼吸が重要なトラブルを招く 危険 旅客機搭乗にパルスオキシメータ必 携? 航空会社が備えるべきか?
附:航空機内の酸素利用 「旅客機内には酸素がある」は間違い! 天井から下がる酸素は自由には使えな い 心筋梗塞になった患者一人に使用は不 可 このルールは? 航空会社は再考すべき?
麻酔時やICUは何故「モニ ター」? 「訴え」、「症状」の情報が乏しい – 麻酔薬、筋弛緩薬、意識の問題など – 機器に依存する必要 重症患者に濃厚診療 – 患者一人に医師一人、又は看護師一人 病態の変化が速い – 「分」単位、時には「秒」単位で変化
「モニター」に今後求めるも の 現在「検査」で「モニター」に使える 機器とパラメーターは? ホームケアでのモニター 医療用機器で、「家庭用」になるもの は? それが最終的に国民の健康増進に? – 体温計と血圧計の有用性は疑いもない!
たとえば?その1.禁煙 「禁煙」をモニターから攻められない か? – 一酸化炭素量を時々刻々見せる! – 運動機能の低下をみせる? – 気道上皮の損傷をみせる? – 他には・・・・・・・
たとえば? その2:健診 今の健診:「個々のパラメーター」の 合計 – 有用性は疑いもないとし て・・・・・・・ 「病態の存在自体」を直接モニター? – 運動機能の低下をみせる –DNA 破壊の状況をみせる – 他には・・・・・・・
たとえば? その 3 :体重モニター 級会での観察: 医学部級会・高校・教養部級会 医師は自分をケアはしているだけ? – 医療者としての「声」は? 肥満者の医療は大きな負担 – 二重の負担:肥満関連疾患、同一疾患で治療困 難 – 介護の場では重大に相違ない – 「割り増し料金制?」、「肥満税!」 「体重をモニタ!」 「体重モニタは社会に生る個人の責任!」
高齢社会と「モニター」 小事件でも影響は甚大 「健常性のチェック」 そうして「健常性の維持」 そのためにも優れたモニターを 病院・診療所との連携も ともあれ「モニター」の考え方を!