病態基礎(第 13 回目) 内分泌疾患 森實敏夫
下垂体疾患 下垂体は腺性下垂体である前葉と神経性 下垂体である後葉よりなる。前葉からは 6 種の、後葉からは 2 種の主要なホルモンが 分泌される。機能低下が疑われる場合は 分泌刺激試験を、機能亢進症が疑われる 場合は分泌抑制試験を行う。
下垂体前葉 成長ホルモン (GH) プロラクチン (PRL) 副腎皮質刺激ホルモン( ACTH ) 甲状腺刺激ホルモン (TSH) 黄体形成ホルモン (LH) 卵胞刺激ホルモン (FSH)
下垂体後葉 アルギニンバソプレシン (AVP) (抗利尿ホ ルモン) オキシトシン
甲状腺疾患 甲状腺ホルモンはヨード化アミノ酸であ り、ホルモン作用を持つものはサイロキ シン( T 4), 3,5,3 ‘L- トリヨード サイロニン( T3 )である。
甲状腺ホルモンの合成 無機ヨードが腸管より吸収され甲状腺濾 胞上皮細胞内に取り込まれ濃縮されペル オキシダーゼで酸化されサイログロブリ ンと結合し縮合し T3 基、 T4 基となり甲状 腺濾胞内に貯蔵される。濾胞腔内から上 皮細胞内に取り込まれプロテアーゼで加 水分解され T3,T4 となり血中に分泌される。
甲状腺ホルモンの分泌調整機序 甲状腺機能は視床下部より分泌された TSH 放出ホルモン( TRH )が下垂体に達 し、 TSH 分泌を促進し、甲状腺ホルモン の合成・分泌が促され機能する。 T3,T4 濃 度が低下すると TSH 分泌が促進される一 方、過剰状態になると TSH 分泌および TRH 分泌を抑制する(ネガテイブフィー ドバック機構)。
副腎皮質疾患 視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン ( CRH )が下垂体の ACTH 産生細胞に作用して 副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) が副腎皮質に作用 して三群のステロイドホルモン(アルドステロ ン、コルチゾール、アンドロゲンなど)が分泌 される。 ACTH がコルチゾール、アンドロゲンのレニ ンーアンジオテンシン系がアルドステロンの調 節を行う。このうち、コルチゾールは CRH,ACTH の分泌抑制をする(ネガテイブ フィードバック機構)。
下垂体機能低下症 〈病因〉 ①分娩後下垂体壊死( Sheehan 症候群) ②腫瘍:下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、胚芽腫 など。 ③炎症:結核、梅毒など。 ④頭部外傷 ⑤手術、放射線 ⑥視床下部病変
下垂体機能低下症 〈症状〉 ①ホルモン欠落症状 1. ACTH 分泌低下:全身倦怠、易労感、筋力低下、低血 圧。 2. TSH 分泌低下:皮膚乾燥など。 3. GH 分泌低下:発育障害。 4. LH,FSH 分泌低下:二次性徴障害。 5. PRL 分泌低下:乳汁分泌障害。 ②貧血 ③精神症状:無為無欲、感情鈍麻。 ④眼症状:視交叉の下方よりの圧迫で両耳側半盲。 ⑤視床下部障害症状:尿崩症など。
下垂体性小人症 〈症状〉 ①乳児期に始まる成長障害(-3 SD 以下の 者が多い)。 ② LH,FSH 分泌低下による二次性徴障害。幼 児様体型、性器の発育異常。 ③ TSH 分泌低下を伴う場合甲状腺機能低下。 ④尿崩症を伴うことがある。
先端肥大症、下垂体性巨人症 〈症状〉 ①四肢末端の肥大、著明な身長の増加(先端肥大 症顔貌)。 ②軟部組織の肥厚、内臓肥大(巨大舌など) ③高脂血症、動脈硬化 ④糖尿病 ⑤高血圧 ⑥腫瘍による圧迫症状:視力、視野の異常(両耳 側半盲など)。性機能低下。
高プロラクチン血症 〈症状〉 ①無月経、稀少月経などの月経異常 ②乳汁分泌
尿崩症 〈病因〉 1.一次性尿崩症( a .特発性、 b. 家族性) 2.二次性尿崩症(脳腫瘍、サルコイドーシス、 外傷、脳炎、髄膜炎など) 〈症状〉 ①多尿(時に 10ℓ を超える。)尿比重 以下。 ②多飲 ③皮膚・粘膜の乾燥 〈鑑別疾患〉糖尿病、腎性尿崩症、心因性多尿症。
AVP 分泌不適切症候群 低ナトリウム血症と低血漿浸透圧の状態 で AVP 分泌が不適切に持続的に起こり低 ナトリウム血症体液貯留が起きている状 態。 〈症状〉 ①血清 Na120mEq/ℓ 以上:無症候性。 ②血清 Na120mEq/ℓ 未満:食欲不振、悪心、 嘔吐。 ③血清 Na110mEq/ℓ 未満:嗜眠、痙攣、昏 睡。
下垂体卒中 ①激しい頭痛②髄膜刺激症状③意識障害④ 眼筋麻痺など。
甲状腺機能低下症 ①成長期:低身長、特有の顔貌。 ②成人型:新陳代謝の低下、粘液水腫性浸 潤。粘液水腫心。貧血など。
甲状腺機能亢進症 〈症状〉 ① Merseburg の三主徴(甲状腺腫、眼球突 出、頻脈) ②体重減少。食欲は亢進している。 ③不整脈:頻脈のほか心房細動が見られる ことが多い。 ④手指振戦、筋力低下、脱力感。周期性四 肢麻痺。
⑤眼症状 1. Graefe 症候 ( 眼球を下転した時、上眼瞼の移動 が遅れる。 ) 2. Moebius 症候(輻輳困難) 3. Stellwag 症候(瞬目の減少) 4. Dalrymple 症候(上眼瞼が上方に退縮した結果 生ずる眼裂の異常拡大) 5.悪性眼球突出症:高度な眼球突出の結果眼瞼 浮腫、眼球運動制限、複視、角膜潰瘍、視神経 萎縮などをおこす。
⑥甲状腺腫。左右対称のことが多い。 ⑦甲状腺部に bruit を聴取。 ⑧甲状腺クリ ― ゼ 重症の甲状腺機能亢進症の主に手術後突然 発症する中毒症状で死亡することのある 重篤な病態。発熱、頻脈、振戦、脱水症 状、精神錯乱、昏睡など。 治療:輸液、ステロイドホルモン、抗甲状 腺薬投与など。
亜急性甲状腺炎 〈症状〉 ①高熱を伴う上気道感染症状。 ②それに続く甲状腺有痛性結節性腫大。
亜急性甲状腺炎 〈症状〉 ①高熱を伴う上気道感染症状。 ②それに続く甲状腺有痛性結節性腫大。 4)慢性甲状腺炎(橋本病) 〈症状〉 ①甲状腺腫 ②嗄声 ③頻脈 ④浮腫 ⑤易労感 ⑥自己免疫疾患などの合併が多い。
良性腫瘍 ① Plummer 病:甲状腺機能亢進症状。 ②濾胞腺腫 ③乳頭状囊胞性腺腫 腫瘤に気付く他自覚症状に乏しいが大きく なると気管・食道の圧迫症状を示す。
悪性腫瘍 ①乳頭癌②濾胞癌③未分化癌④髄様癌⑤悪 性リンパ腫など。 周囲組織の浸潤で嗄声(反回神経麻痺によ る)、呼吸困難などを呈する。未分化癌 は非常に予後が悪い。
Cushing 症候群 〈病因〉 ① ACTH 依存性 Cushing 症候群 1. Cushing 病 2.異所性 ACTH(CRF) 産生腫瘍(肺癌、膵 癌など) ② ACTH 非依存性 Cushing 症候群 1.副腎腺腫 2.両側副腎過形成
〈症状〉 中心性肥満 満月様顔貌 野牛様脂肪沈着 皮下伸展線条 高血圧 多毛、痤瘡 筋力低下、筋萎縮 骨粗鬆症 精神障害 耐糖能異常。
原発性アルドステロン症 〈症状〉 高血圧 K 欠乏症状:四肢麻痺、筋力低下、テタニ ― 。 腎機能障害:①②の2つの原因で発生。 多飲・多尿、尿濃縮障害など。
慢性原発性副腎皮質機能低下症 ( Addison 病) コルチゾールもアルドステロンも分泌低 下する。 〈症状〉 ①色素沈着(皮膚、口腔粘膜)②無力症 ③食思不振、体重減少④低血圧⑤腋毛脱 落⑥低血糖⑦精神症状
続発性副腎皮質機能低下症 ACTH 分泌低下により副腎皮質機能低下が 起こるものでコルチゾール分泌低下は見 られるがアルドステロン分泌は正常に保 たれる。 〈症状〉 ①色素沈着(皮膚、口腔粘膜)は起こら ない。②無力症③食思不振、体重減少④ 低血糖など。
急性副腎皮質不全(副腎クリー ゼ) 副腎皮質ホルモンが急激に欠乏した病態。 〈病因〉 ①副腎卒中 ②手術による副腎摘出 ③慢性副腎皮質機能低下症に感染、外傷 などのストレスのかかったもの。 ④医原性:ステロイドホルモンの長期投 与。
〈症状〉 ①全身症状:全身倦怠感、発熱など。 ②消火器症状:食思不振、嘔気・嘔吐な ど。 ③精神症状 ④循環器症状:低血圧、ショックなど。