偽性低アルドステロン症と発達遅延を 合併した重症アトピー性皮膚炎の 1 症例 立川綜合病院小児科 太田匡哉 小柳貴人 遠藤彦聖 小林代喜夫 すこやかアレルギークリニック 田中泰樹 新潟大学医歯学総合病院小児科 小川洋平 齋藤昭彦
症例 0 歳 5 ヶ月 男児 主訴 定頸不全 体重増加不良 湿疹 現病歴 生後 2 か月から湿疹出現し、 3 か月から湿疹の悪化、 体重増加不良を認めた。 4 か月健診で定頸不全、体 重増加不良、重度の湿疹を認めたため精査目的に当 院外来を紹介受診した。 出生歴 39 週 6 日 3064g 自然分娩。 Apgar scor9/9 。 身長 50cm 、頭囲 33cm 。 既往歴 特記すべきことなし 家族歴 母アレルギー性鼻炎
現症 身長 59.6cm ( -2.8SD ) 体重 4440g ( -4.4SD ) 体温 36.4 ℃ 呼吸数 49/ 分 心拍数 150/ 分 身体所見 心雑音は認めないが心音減弱あり、呼吸音に異常な し、腹部軟、定頸なし、明らかな神経学的異常所見 なし。 顔面から体幹、四肢に滲出液を伴う湿疹を認める。 胸部レントゲン CTR38 %、肺野に異常所見なし。 心臓超音波 明らかな心血管構造異常なし。
入院時検査所見 WBC 22800/μl Eosino 27.0% RBC 570×10 4 /μl Ht 41.1% Hb 15.1g/dl Plt 92.6×10 4 /μl Na 120mEq/l K 7.0mEq/l Cl 92mEq/l Ca 10.8mg/dl TP 4.7mg/dl Alb 2.4mg/dl BUN 9.9mg/dl Cre 0.25mg/dl 血液検査 AST 50U/l ALT 58U/l LDH 269IU/l CK 29U/l BS 100mg/dl CRP 0.05mg/dl TSH 12.27μU/ml fT3 4.11mg/dl fT4 1.42pg/dl C3 103mg/dl C4 30.0mg/dl CH50 43U/ml pH pO mmHg pCO mmHg HCO mmol/l BE -6.7mEq/l (静脈血) IgE 6214IU/ml RAST ミルク 100UA/ml アルドステロン ng/dl 便中好酸球試験 (-)
母は湿疹が悪化した生後 3 か月に近医小児科を受診 しステロイドを処方されたがステロイド恐怖症が あり外用せず。民間療法で母乳と共にプルーンを 与えていた。体重は生後 2 か月で 5.8 ㎏あったが受 診時は 4.4 ㎏に減っていた。 大量の滲出液を伴うアトピー性皮膚炎、血液検査 から偽性低アルドステロン症の疑いあり。プルー ンによる低栄養、皮膚の滲出液からの蛋白・電解 質の漏出が症状悪化の要因と考えられた。 全身状態不良のため新潟大学医歯学総合病院小児 科に加療目的に転院となった。
転院先での治療経過 湿疹 ステロイド 外用 輸液 albumi n エレンタール P 明治エレメンタルフォーミラー oxatomide cyproheptadine hydrochlride ketotife n sodium cromoglicate 体重 (kg) TP (mg/dl) Alb (mg/dl) Na (mEq/l) K (mEq/l) Cl (mEq/l) pH
転院先での MAST 33アレルギー結果 小麦 200LC 大豆 200LC 鮭 200LC チーズ 200LC 牛乳 200LC ピーナッツ 74.2LC 卵白 32.4LC 鶏肉 31.0LC マグロ 5.42LC カニ 3.56LC 牛肉 1.72LC エビ 2.06LC 米 0.80LC 蕎麦 1.11LC ヨモギ 8.59LC ペニシリウム 1.43LC ハウスダスト 1.21LC コナヒョウダニ 0.58LC ネコ 1.21LC イヌ 1.24LC スギ 0.15LC 多抗原陽性となり米から の離乳食を開始した。
外来経過 <治療> ・ 0 歳 6 か月(退院時) sodium cromoglicate ・ ketotifen 内服 Ⅲ群・Ⅳ群ステロイド、保湿剤の外用継続 ・ 0 歳 7 か月 理学療法開始 (週 1 回) ・ 0 歳 10 か月 気管支喘息を発症し pranlukast 開始 ・ 1 歳 10 か月 sodium cromoglicate 中止 <栄養> ・入院後から禁乳 ・ 0 歳 6 か月(退院時)明治エレメンタルフォーミラー ・ 0 歳 7 か月 重湯から離乳食開始 ・ 1 歳 0 か月 負荷試験で症状なく MA-mi に変更 ・外来負荷試験を行いながら徐々に除去食品を解除
成長曲線と食品 米 負荷試験での解除時期 ・ 0 歳 7 か月 米 ( 重湯より ) ・ 0 歳 8 か月 かぼちゃ・ババナ 各種野菜 ・ 0 歳 10 か月 大豆 ・ 0 歳 11 か月 豚肉 ・ 1 歳 0 か月 MA-mi ・ 1 歳 11 か月 ツナ缶 ・ 2 歳 5 か月 小麦 ・ 2 歳 10 か月 鮭 ・ 3 歳 0 か月 卵加工品 ・ 3 歳 1 か月 牛乳加工品 現在の除去食品 卵・牛乳(加工品は可)、 魚卵、ピーナッツ、イカ、 カニ、蕎麦
成長曲線と発達 ・ 0 歳 7 か月 定頸 ・ 0 歳 10 か月 坐位 ・ 0 歳 11 か月 はいはい つかまり立ち ・ 1 歳 0 か月 つたい歩き ・ 1 歳 3 か月 一人立ち 歩行 ・ 1 歳 5 か月 有意語 「バイバ イ」 ・ 1 歳 7 か月 「おいしい」 ・ 2 歳 0 か月 二語文 身体発育の catch up と 共に発達も改善
3 歳での患児の状況 身長 89.6 ㎝ (-1.4SD) 体重 13.0 ㎏ (-0.7SD) ( 3 歳 3 か月) 運動発達は粗大運動、微細運動も年齢相当。精神発達も大きな 遅れは認めない。 1 歳 6 か月で IQ テストが正常範囲内のため理学療法を終了。 退院後は電解質異常や低蛋白血症の再発なく、皮膚は湿疹は持 続するが生活制限なく外来経過観察継続中。 近医で外来食物負荷試験を行い食品解除中。食物摂取でアナ フィラキシー症状は今のところみられない。 TARC 3498pg/ml IgE 12503IU/ml CAP-RAST ミルク、卵白、ピーナッツ、 イカ、タコ、ハウスダスト class6 卵黄 class4
まとめ アトピー性皮膚炎の滲出液から蛋白質の漏出、低栄養が患 児の身体発育・発達の遅れに関与したと考える。 治療により皮膚症状も改善し体重増加を認め、生後 7 か月 での定頸から発達の改善は順調に進んだ。 3 歳の現時点で 発達遅延を認めない。 食物アレルギーは明らかなアナフィラキシー症状はなく経 皮感作での多抗原陽性の可能性が考えられる。 重症アトピー性皮膚炎が原因の電解質異常に対して輸液で の補正を行わずステロイド外用のみで治療しても良好な経 過を得られたとの報告がある。 いまだにステロイド恐怖症は多くみられているが、適切に 対応し発育・発達遅延を予防することが重要である。