リポソーム製剤の分散と安定性 2015.10.27 第 3 回コロイド実用技術講座 @化学会館 ( 株 ) コーセー 研究所 スキンケア製品研究室 姫野 達也.

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リポソーム製剤の分散と安定性 第 3 回コロイド実用技術講座 @化学会館 ( 株 ) コーセー 研究所 スキンケア製品研究室 姫野 達也

はじめに 顔料 <顔料とベシクル> ベシクル 2 ・基本的には水中で分散 ・分散の制御は必要 ・構造が保持できなければ 機能を発揮しない ・様々なバインダー中で分散 ・分散が良好でないと、機能 (発色など)が損なわれる

ベシクルの機能と分散安定性 ・皮膚の最外層である角層に対しての浸透貯留性 ・有効な薬剤などの内包による皮膚親和性の改善 ・ 2 分子膜(ラメラ)構造自体からの保湿性 ・皮膚の最外層である角層に対しての浸透貯留性 ・有効な薬剤などの内包による皮膚親和性の改善 ・ 2 分子膜(ラメラ)構造自体からの保湿性 機能 ラメラ構造を保持しながら、分散安定化 3

本日の講演内容 1.界面活性剤と自己集合体 2.リポソーム 3.ノニオン界面活性剤から 形成されるベシクル 4.カチオン界面活性剤から 形成されるベシクル 1.界面活性剤と自己集合体 2.リポソーム 3.ノニオン界面活性剤から 形成されるベシクル 4.カチオン界面活性剤から 形成されるベシクル 4

ベシクルの分類 北原文雄,界面・コロイド化学の基礎,講談社, 54-57(1994) 8

2.リポソーム

リポソームとは。 リン脂質から構成される閉鎖小胞 リン脂質分子 1964 年 Bangham らによって、 レシチン(卵黄ホスファチジルコリン)の懸濁液を 電子顕微鏡で観察し、閉鎖小胞であることが確認された 10

リン脂質の構造 リン脂質の構造 CH 2 OCO CHOCO CH 2 O - P - O - CH 2 O - P - O - X O 疎水基 ( C16,C18 ) ( C16,C18 ) =X==X= = O - CH 2 CH 2 N(C H 3 ) 3 + - CH 2 CH 2 NH 3 - CH 2 CH(NH 3 ) COO 親水基 OHOH OH OH OH コリン (PC) イノシトール (PI) エタノールアミン (PE) セリン (PS) + + - 11

リポソームの安定化条件 ・ヨウ素価 ( I.V. ) は低く抑制することが必要 → 天然物であるリン脂質の化学的変化を制御 ・ PC 純度を高く 設計する → 高価、高めすぎると分散能が下がる ・粒子表面電位として チャージが必要 → リン脂質コンプレックスとして扱う ( PC 、 PE 、 PI 、 PS 、 PA ; Lecithin ) ・ゲル-液晶転移現象の制御 → 疎水基に因る van der Waals 力(結晶性)の制御 13

分散安定化 <不安定化> ・クリーミング( Creaming ) ・凝集( Flocculation) ・合一( Coalescence ) 分散 ≠ 安定 非平衡系 化粧品:室温3年 15

エマルションの破壊過程 クリーミング 凝集 オストワルド 熟成 合一 分離合一 水 油 (a) (c) (b) (a)大きいエマルション粒子生成のとき (b)微細なエマルション粒子生成のとき (c)微細だが、粒径に差があり、溶解度のある液滴粒子生成のとき ベシクルでは 16

クリーミング( Creaming ) ・ 粒子半径 r を小さくする。 ・ 粒子と溶媒の密度差 (ρ - ρ 0 ) を小さくする。 ・ 溶媒粘度 η を大きくする。 粒子の沈降速度 V =V = 2r 2 ( ρ - ρ 0 ) g 9η V:沈降速度 r:粒子半径 ρ :粒子密度 ρ 0 :溶媒密度 η :溶媒粘度 Stokes の式 沈降速度 V を遅くするには … 17

凝集( Flocculation) 粒子間の相互作用 DLVO 理論 反発力と引力を合計した ポテンシャルエネルギー が正に大きければ分散 粒子間距離 van der Waals 力 電気二重層斥力 ポテンシャルエネルギー V t VRVR VAVA V t , max 20

立体保護作用による安定化 水溶性高分子 保護コロイド膜 21 POE 付加型界面活性剤 POE 水和相

Rate of glucose release (%/min) Temperature ( ℃ ) リポソームの保持効率に対する PC 純度の影響 PC 純度の影響 PC : 20% PC : 60% PC : 100% PC = 12.5mM J. Soc. Cosmet. Chem. Japan. Vol.25, No.3, 171(1991) 25

DSPC の分解に及ぼすジアルキルリン酸の影響 Alkyl Chain Length ( Cn ) Hydrolysis (%) ℃、 1week 保存 DSPC(C 18 ) K.Arakane, K.Hayashi, N.Naito, T.nagano, M.Hirobe, Chem.Pharm.Bull. 43(10) 1755(1995) 26

構造安定化 ベシクルとしての機能発現 ラメラ構造の維持 27

コレステロール添加による ラメラ構造の変化 ゲル状態 T < Tc 液晶状態 T > Tc リン脂質 ゲル液晶中間状態 NO-Tc コレステロール FLUIDIZING 効果 CONDENSING 効果 ゲル - 液晶転移( Tc ) 28

コレステロール添加によるリン脂質の熱量変化 Temperature ( ℃ ) Endothermic ゲル - 液晶転移 Tc (53 ℃ ) リン脂質: CL = 1 : 0 リン脂質: CL = 4 : 1 リン脂質: CL = 3 : 1 リン脂質: CL = 2 : 1 モル比 29

( min ) リポソームの保湿性評価 リポソーム + オクチルフェニルエーテル オクチルフェニルエーテル 湿度 45 % コンダクタンス( μS ) 33

3.ノニオン界面活性剤から 形成されるベシクル

何故ノニオン型ベシクル? 電解質による影響 酸による加水分解 ・ポリオキシエチレン ( 5 ) フィトステロール ・フィトステロール ・グリセリンモノステアリルエーテル 50 μm POE(5) リン脂質から形成されるベシクル(リポソーム)は、 35

POE(5) フィトステロール グリセリンモノステアリルエーテル フィトステロール ジプロピレングリコール 精製水 ノニオンベシクルの形成領域 グリセリンモノステ アリルエーテル POE(5) フィト ステロール A B C D フィトステロール 36 1wt%

4.カチオン界面活性剤から 形成されるベシクル

2 鎖型カチオン界面活性剤について ・乳化補助剤 ・ベシクル分散性 ・リンス使用感の改善 2長鎖アルキル基 45

ジエステルクォート型カチオン界面活性剤 ・高いコンディショニング効果 ・生分解性カチオン 2長鎖アルキル基 エステル結合 ・親油基に極性を有する 46 ベシクル形成に影響

DEQ/CL ベシクル形成領域 DEQ (ジパルミトイルエチルヒドロキシエチルモニウムメトサルフェート) コレステロール( CL ) 水 47 調製方法: Bangham 法にて各種比率のベシクル分散物を調製

DEQ / CL ベシクルの毛髪への浸透性評価 52 Untreated Treated with benzylalcohol Treated with DEQ/CL vesicle

おわりに 分散安定化 機能(有用性)の発現 同心円状のラメラ構造体であるベシクルは、 化粧品製剤にとってきわめて有用な自己組織体。 ・ベシクルをはじめとした両親媒性の自己組織体 を応用した製剤の開発は、化粧品に留まらず多く の分野で魅力的なテーマである。 53