サイバー犯罪条約を批准する場合の 立法政策上の課題 ー 手続法を中心に ー 明治大学法学部教授・弁護士 JISA 第 6 回サイバー法セミナー 夏 井 高 人.

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サイバー犯罪条約を批准する場合の 立法政策上の課題 ー 手続法を中心に ー 明治大学法学部教授・弁護士 JISA 第 6 回サイバー法セミナー 夏 井 高 人

2 Table of Contents  はじめに  手続条項の概要  コンピュータ・データに対する捜索・押収  トラフィック・データに対する措置  コンテント・データに対する措置  応急保全  サービス・プロバイダの義務  全体の関係  問題点の指摘  あるべき対応  参考資料

3 手続条項の概要  共通規定 – 適用範囲 コンピュータ犯罪及びコンピュータ関連犯罪 コンピュータ・システムの利用を手段とする犯罪 – 適用条件と人権保障  記憶されたコンピュータ・データの応急保全 – トラフィック・データの応急保全及び部分開示  提出命令 – コンピュータ・データ及び加入者情報  記憶されたコンピュータ・データの捜索・押収  コンピュータ・データのリアルタイム収集 – トラフィック・データのリアルタイム収集 – コンテント・データの傍受

4 コンピュータ・データに対する捜索・押 収  用語  捜索・押収の対象 コンピュータ・システム コンピュータ・データ データ記憶媒体  接続された他のコンピュータ・システムの捜索・押収 – 捜査権限の拡張 (要件1) データが存在することの容疑が十分であること (要件2) 当該システムからアクセス可能又は当該システムで利用可能なこ と  押収・捜索を確実なものとするための措置 – 押収するデータの複製 – 完全性の確保・維持 – アクセス禁止措置及びデータ消去  知識を有する者の協力義務 – 可能な範囲内での協力義務 – 必要な技術・知識の提供

5 トラフィック・データに対する措置  目的 – 「過去の通信と関係する記憶されたトラフィッ ク・データを入手することは,過去の通信の発信 地及び受信地を確定するために決定的なものとな り得る」  存在するトラフィック・データ – 応急保全 – 記憶されたトラフィック・データの捜索・アクセ ス – 記憶されたトラフィック・データの押収・確保  生成中のトラフィック・データ – トラフィック・データのリアルタイム傍受

6 コンテント・データに対する措置  目的 – 重大犯罪では,コンテント・データの解決が不可 欠になる場合がある – トラフィック・データよりもプライバシー保護の 要請が大きい – 傍受対象となる犯罪の限定(重大犯罪に限る)  存在するコンテント・データ – 応急保全 – 記憶されたコンテント・データの捜索・アクセス – 記憶されたコンテント・データの押収・確保  生成中のコンテント・データ – コンテント・データのリアルタイム傍受

7 応急保全  捜査機関ができること – 保全措置を実施するのみ – 保全された情報の内容を知ることはできない – 刑事手続終了後には,原状回復をしなければならない  応急保全の内容 – データの凍結 現状におけるデータ内容の確保 場合によっては機械装置の確保を含む – 応急的なデータの開示 – ユーザの利用は制限されない  法的根拠 – 各国の国内法に基づく

8 サービス・プロバイダの義務  協力義務 – 知識・技能を有する者の協力 – 現在の技術的範囲内での協力  機密保持義務 – 捜査が行われていることについての機密保持 – プロバイダ及びその従業員  義務を課するための法的根拠 – 法的根拠は各国の国内法に基づく  協力をすることによる免責・恩典 – 個人情報保護のための法律上・契約上の義務違反とならな い – 法的根拠は各国の国内法に基づく  義務違反に対する制裁 – 法的根拠及び措置内容は各国の国内法に基づく

9 全体の関係 応急保全 捜索・アクセス 押収・確保身柄確保 共助要請引渡請求 連絡場所設置 複製 アクセス禁止 消去 記憶されたデー タの押収・確保 データのリアルタ イム収集・傍受 プロバイダの協力

10 問題点の指摘  プライバシー問題 – 欧州連合 WG 意見書の意味するもの – トラフィック・データとコンテント・データは本当に区別できる か?  実効性 – 収集・傍受するデータのオーバー・フロー  新たな攻撃手口の提供 – 全面戦争とインターネットの崩壊=経済システムの崩壊  プロバイダ業務の圧迫 – 能力のないプロバイダと能力のあるプロバイダ  法執行機関に対する民主的統制はあるか? – 海外の捜査機関に対する民主的コントロールはできない?  しかし,ネット攻撃はネット社会を脅かす – より良いバランスをどのようにして確保するか  刑事執行法 – 応急保全を実施するための手続法の不存在 – 監獄法と刑事訴訟法だけでは足りない

11 あるべき対応  更なる外交努力が必要 – 「完全な秩序」など永久に達成できない – 「完全な統御」の追及は「アリの社会」への努力となる  法的対応だけが唯一の対応ではない – 必要な技術の開発 – 人的資源の育成・啓蒙活動など – セキュリティを確保する体制の確立( ISO や JIS の規格等を含む)  より侵害的でない手段を探求する – データ保護(個人情報保護)を重視する「幾つかの国々」に数えられるこ との名誉  民主的統制及び司法的統制の確保 – シビリアン・コントロールと適法性の確保は,全ての法執行機関に対して 及ぶ – 採られた措置についての情報開示は,政府に対する信頼性維持のために不 可欠  法システム全体の整合性を確保し,バランスを考える – 手続法は,裁量の範囲をより限定する方向が望ましい – 新たな刑事執行法の立法が必要か?  立法者の子孫は,立法者の苦渋を知らない – より濫用の危険を伴わない立法が望ましい

12 参考サイト・参考資料  Draft Convention on Cyber-crime (Version No. 25)  Draft Explanatory Memorandum to the Draft Convention on Cyber-crime  夏井高人「サイバー犯罪条約草案仮訳」  外務省「欧州評議会の概要」  外務省「 G8 のハイテク犯罪対策について」  一戸信哉「サイバー犯罪とその課題 ― 欧州サイバー犯罪条約案を中心に ― 」 RITE 平成 11 年度自主研究報告書( RITE99-J05 )  夏井高人「アメリカ合衆国におけるコンピュータ犯罪立法動向-無権限アク セスを中心とする比較法的検討と日本法への示唆」 判例タイムズ 1008 号 106 頁  岡村久道・近藤剛史『インターネットの法律実務(新版)』(新日本法規出 版)  「第 5 回コンピュータ犯罪に関する白浜シンポジウム」