伝染病学 各論 情報入手源 動物衛生研究所 疾病情報 農林水産省 動物検疫所 ウガンダ「家畜疾病対策計画」(JICA) 国際獣疫局(OIE) 伝染病学 各論 情報入手源 動物衛生研究所 疾病情報 農林水産省 動物検疫所 ウガンダ「家畜疾病対策計画」(JICA) 国際獣疫局(OIE) 国連食糧農業機関(FAO) The Gray Book(Georgia大学にあるが、FAOの計画 米国農務省 獣医局(VS) Veterinary Education and Information Network(VEIN;Sydney大学) 馬の伝染病 ナショナルバイオリソースプロジェクト 目で見る農業技術発達史 「病原微生物」 データベース 世界の獣医大学 病原真菌データベース
非汚染地域の感受性の高い家畜集団では、罹病率と死亡率は 100 %に近い。 牛疫 (Rinderpest; Cattle Plague) 非汚染地域の感受性の高い家畜集団では、罹病率と死亡率は 100 %に近い。 法定伝染病の対象家畜: 牛、水牛、しか、めん羊、山羊、豚、いのしし 感受性動物 大型家畜反芻動物: 全ての偶蹄類動物が感受性がある。重い症状が見られるのは一般的に牛、家畜化した水牛とヤクである。牛は品種によって臨床症状が異なる。長年牛疫と共存したことにより、ある品種はその品種固有の高度な抵抗性を獲得した。和牛では特に感受性が高い。 羊と山羊、豚、ラクダ: 一般的に感受性が低いが、臨床症状を示すこともある。 アジア系の豚も感受性があり、発症することがある。ヨーロッパ種の豚は感受性が低い。後者は不顕性感染することが多いが、疾病の保持にはほとんど関係がない。ラクダは感染しないので、牛疫の伝播と保持には関与していない。 野生動物: アフリカスイギュウ、エランド、キリン、レッサークードゥー、イボイノシシ、アジアの各種アンテロープ、ウシ科やブタ科の野生動物は牛疫に対する感受性が非常に高い。その他のアンテロープ、カバ、インドブラックバックは比較的感受性が低い。 牛疫は人には感染しない。 FAOの防疫要領策定マニュアル
野生動物の群が、牛群と共存することなく単独で疾病を半永久的に維持できることを示す証拠はない。 エランド、 オオカモシカ アンテロープ、レイヨウ 30属・90種 野生動物の群が、牛群と共存することなく単独で疾病を半永久的に維持できることを示す証拠はない。 イボイノシシ
感染経路: 患畜の排泄物の飛沫などとの直接接触 感染経路: 患畜の排泄物の飛沫などとの直接接触 牛疫は、ほとんど例外なく、群同士もしくは新しい土地などへの感染動物の移動によって伝播する。感染牛は、臨床症状が現れる 2~3日前からウイルスを排出し始める。一連の発熱の後、そのまま 9 ~ 10 日ほどウイルスを排出するが、ウイルスを保有するのは一般的に 3 週間以下である。本病の明らかな臨床症状が見られる以前に、感染牛は長距離移動中や家畜市場を介してウイルスを伝播する。 牛疫ウイルスは吐息、目鼻漏、唾液、排泄物、乳、精液、膣液、尿などから検出される。主に飛沫小滴を含んだ感染動物の吐息の吸入、もしくは感染動物の分泌物・排泄物との接触により伝染する。伝染は主に近距離で起こるが、たまに、100 m 離れた場所、夜間など高い気温や日光などの影響が最小限で、特に高湿度の状態ではそれ以上離れた状態で伝染する可能性もある。 ウイルスに汚染された飼料や水の摂取による経口感染も可能性がある。4度で貯蔵された感染肉は、少なくとも 7 日間は感染性を保持する。感染肉や分泌物や排泄物によって汚染された飼料がブタの感染原因となることがあり、その後疾病が牛に伝染することもある。 牛疫は媒介昆虫からは伝染しない。
臨床症状: 突然の発熱、目や鼻からの分泌物、壊死性口内炎、胃腸炎及び死を主徴とする。 臨床症状: 突然の発熱、目や鼻からの分泌物、壊死性口内炎、胃腸炎及び死を主徴とする。 牛疫は、ある一定の状況では、牛群に破壊的な損失をもたらすことがあるが、慢性化した区域や部分的に免疫がある群に与える影響は比較的少ない。 甚急性牛疫: 甚急性の牛疫では、壊死性口内炎が現れる以前に、突然の発熱、食欲不振、沈うつ症状、目視可能な粘膜の充血及び 2~3 日以内の突然死などの症状が認められる。 急性牛疫: OIE 国際家畜衛生規約では、牛疫の潜伏期間を家畜衛生管理上 21 日間としている。感染経路、ウイルスの量と株による病原性の違いによって潜伏期間は変化する。一般に、初発例とそれに続く第 2 例の発症の間には約 2 週間程度の間隔がある。 本病は、まず始めに 3~5 日から 2 週間程度継続する突然の発熱が見られたのち平熱に戻るのが典型的である。これに、落ち着きがなくなる、沈鬱症状、食欲不振及び産乳量の著しい低下などを伴う。呼吸は浅く速迫である。1-2 日後、流涙、鼻漏そして目鼻の粘膜の著しい充血が見られるのが典型的である。 発熱 ⇒ 歯茎及び口唇に壊死 ⇒ 口腔粘膜 (舌を含む) に厚く黄色い偽膜 ⇒ 鼻、陰門及び膣の粘膜に糜爛 ; 唾液の分泌が亢進し、特徴的な悪口臭 ; 下痢(始め希薄で暗色、後に水様、時には赤色液状) ; 背部を湾曲させ緊張し、時として充血し糜爛した直腸粘膜を露出 ; 急速な脱水症状 ; 呼吸は苦しそうで苦痛を伴い、呼気時にうなるような音 ⇒ 発熱開始から 6-12 日後に死 ; 死に至らない場合も、完全な健康回復には何週間もかかる。妊娠牛では回復期間中に流産。 軽症牛疫: 症状の発現はより穏やかで、基本的な症状の1つかそれ以上が認められないか、または現れても一時的である。
リビアの自然感染例: 発熱、呼吸促迫、頻脈、流涙、下痢、食欲不振 過度の流涙. 初期段階 左: 過度の流涎 右: 結膜炎と粘液膿性の浸出物
口腔内糜爛 舌背側表面の軽度の潰瘍 一連の発熱の 2~5 日後、極小の灰色がかった壊死部が歯茎及び口唇に現れる。病変部は多くなり、大きくなって融合し、口腔粘膜 (舌を含む) を覆う厚く黄色い偽膜を形成する。壊死片は容易に剥落し、基底細胞が赤い層になった浅い糜爛が残る。同様の糜爛が鼻、陰門及び膣の粘膜にも認められる。唾液の分泌が亢進し、唾液は当初粘液状で後に粘液膿状となる。特徴的な悪口臭が認められる。 舌腹側表面における丘疹と隆起した壊死部
↑ 口腔内糜爛 ↓ 歯茎と硬口蓋の小水疱、一部は潰瘍化 ↑ 口腔内の軽度の糜爛: 辺縁が明瞭に識別できる。 ↓ 硬口蓋の軽度の潰瘍
口部病変出現の後、1~3 日後から下痢が始まる。便は始め希薄で暗色、後に水様となり、粘液、上皮の断片及び凝血塊を含むこともある。時には排泄物が赤色液状を呈する場合もある。感染動物は背部を湾曲させ緊張し、時として充血し糜爛した直腸粘膜を露出する。 呼吸は苦しそうで苦痛を伴い、呼気時にうなるような音が聞こえることもある。致死的な例では、下痢が悪化し続けるため、急速な脱水症状が進み著しく消耗する。 その後座り込み、発熱開始から 6~12 日後に死に至る。死に至らない場合も、糜爛が癒え下痢が止まっても長い回復期を経るため、完全な健康回復には何週間もかかる。妊娠牛では回復期間中によく流産が認められる。 鼠蹊部及び脇下等の体毛が少ない部分にみられる斑状丘疹が皮膚病変として記録されている。 出血を伴う下痢 末期症例の黄褐色の下痢
結腸上部粘膜の潰瘍形成 胆嚢粘膜の出血 盲結腸吻合部の高度の出血を伴う盲腸と結腸の充血 パイエル板壊死部の上皮を覆う侵食潰瘍
牛疫の末期症例。乳熱の場合に見られるのと同様に、牛疫の場合も死亡後に発見されることが多い。
THE PRESUMPTIVE DIAGNOSIS (FAO) 前駆期 発熱 潜伏期間 粘膜糜爛期 下痢期 回復期 牛疫の臨床経過 THE PRESUMPTIVE DIAGNOSIS (FAO)
THE PRESUMPTIVE DIAGNOSIS (FAO) 103/μl 白血球数の変化: 発熱に先行して一過性の白血球増多がみられるが、急激に減少に転じ、粘膜糜爛期を通して低値が続く。回復する個体では、徐々に正常値に戻る。 THE PRESUMPTIVE DIAGNOSIS (FAO)
ちなみに、Fusan株由来の弱毒株は現在の日本の備蓄ワクチンとして使用。 牛疫ウイルスの接種試験 (動物衛生研究所) 東アジアにおいて1920年代に猛威を振るった際に韓国で分離されたFusan株(218代牛で継代)を黒毛和種牛の皮下に接種し、病原性を検証した。 ちなみに、Fusan株由来の弱毒株は現在の日本の備蓄ワクチンとして使用。
明治の日本で大流行 1932年を最後に発生がない。 牛疫に関する最初の記事は、1876年(明治9年)2月29日付読売新聞に掲載された「東京府知事楠本正隆」名の官令が最初である。 ○ 一軒に伝染の牛疫が有ると思ったら夫(それ)を撲(うち)ころし、斃(しがい)は一丈二尺下の地へうめるか焼捨てよ。又牛が病気に成ったら伝染病で無くとも区戸長に届けろ。区戸長は医師に見て貰って府庁へ届けろ。 ○ 伝染病で無くとも牛が病気に成ったら直(じき)に近所へ知らせて健康の牛と一所にするな(中略)。 ○ 伝染病で死んだ牛の部屋へは六ヶ月たたないうちは健康な牛を繋(つな)ぐな。 1910年には、農商務省に「牛疫血清製造所」、「牛疫血清事務所」が設けられ、各地で発生する牛疫に直ちに対応できる感染拡大防止体制が確立した。 ◆牛疫の恐ろしさ 欧州では輸入2頭の病原から損害数十万頭の例も(1876年3月14日) ◆牛肉と牛乳 牛疫の流行で肉は先月下旬の半分、乳は3~4割の売れ行き/東京(1892年11月9日) ◆東京府下の牛疫 発病乳牛の隔離、厳重な消毒法など実施/警視庁(1900年12月4日) ◆牛疫続発 大阪、徳島、兵庫、香川の各県で感染、撲殺(1908年7月29日) ◆牛疫損害は1府6県で2420頭撲殺、65頭斃死、山羊2頭撲殺/農商務省調査(1910年5月20日) ◆「病牛の肉を売る 危険なる牛肉の缶詰」( 1912年12月13日)
「牛疫根絶世界計画:Global Rinderpest Eradication Programme (GREP) 」 ● 1994年に立ち上げられた。 ● 「動物および植物の国境を越えた疫病と疾病に対する防圧体制:Prevention System for Transboundary Animal and Plant Pests and Diseases (EMPRES)」の一部である。 GREPは地理的分布と疫学調査を行った。ついで、感染している生態系内に封じ込め、疫学等に基づく制御計画によって感染した保有動物の淘汰を行った。特定地域からウイルスが排除されたことが確認されたら、牛疫がなくなったことを証明するための広域調査体制を構築した。
(OIE: Geographical Distribution of List A Diseases) 牛疫の世界的発生状況 (OIE: Geographical Distribution of List A Diseases) :発生した地域 :発生報告がない地域 :データがないか不完全 2000年 2003年 2001年 2004年 2002年
牛疫に関する条件付清浄の自己宣言 (OIE) Self-declaration of Provisional Freedom from Rinderpest 国が、全国的または一定地域に牛疫が存在しないと条件付で宣言するためには、以下の条件を満たさなければならない。 i) 少なくとも2年間、臨床例が検出されなかった。 ii) 国内で動物の衛生状態を定期検査(monitor)できる効果的な獣医療組織が存在する。 iii) 獣医療組織は、牛疫を疑わせるすべての臨床的証拠を調査する。 iv) 現場から中央政府の獣医部局、ならびに、獣医部局によるOIEへの効果的な報告体制ができている。 v) 適切な国境管理、検疫などによって実施される感染の持込みを防ぐ信頼できる体制ができている。 vi) 宣言の日までに、牛疫に対するすべてのワクチン接種が中止されていること。ワクチン接種が中止された日付を記載した決定を、OIEと近隣国に書面で通知しなければならない。
検査診断 検査材料の採集、保存、輸送の方法の詳細な説明を含めた実験室における牛疫の診断方法の詳細は、FAO の「牛疫の診断用検体の採取と世界レファレンス・ラボラトリーへの送付の手引き」、「牛疫の診断」と OIE の「診断検査法及びワクチンに関する標準法マニュアル」を参考にされたい。 検査方法 ウイルス分離: ウイルス分離は、訓練された専門家と無菌の細胞培養設備を必要とするため、設備が整った国家レベルもしくは専門の地方及び世界レファレンス・ラボラトリーでしか実施することができない。 抗原の検出: 寒天ゲル内沈降反応 (AGID)、対向免疫電気泳動法 (CIE) 及びイムノ・キャプチャー・エライザ法 (ICE) の3種類の検査方法が牛疫抗原の検出に広く使用されている。 AGID 及び CIE は、排泄物、分泌物及び組織材料中の沈降抗原を検出する。ICE は牛疫の確定診断及び牛疫と PPR を識別する際に使用される。 他の方法として、免疫組織染色法、蛍光抗体法、電子顕微鏡検査及びペンサイド・テスト(モノクローナル抗体を基にしたラテックス凝集反応)があげられる。 ウイルス遺伝子の一部分の検出: 牛疫ウイルスの遺伝子の一部を、逆転写酵素ポリメレース・チェーン・リアクション法 (RT-PCR) によって検出することができる。核酸配列の分析によって疫学的に重要な系統発生情報が得られる。 抗体検出: モノクローナル抗体を利用した特異的な競合エライザ法は広く使用されており、牛疫抗体検出のためのウイルス中和テストに替わるものとなっている。これは確実な検査方法であるが、ワクチン接種による抗体と野外株が原因の抗体を区別することはできない。
予防と制御 (PREVENTION AND CONTROL) 治療法はない。 環境衛生上の予防措置(Sanitary prophylaxis) ● 患畜および接触動物の隔離または殺処分 ● 死体の完全処理 ● 消毒 ● 清浄区域の保護 Animal diseases data: Technical Disease Cards 医学的予防措置(Medical prophylaxis) ● 細胞培養弱毒化ワクチンの効果は高い。 ● 一般的に使用されているワクチンは、牛疫ウイルスの弱毒化株である。いくつかの国では、牛疫/牛肺疫混合ワクチンが使用されている。 ● 免疫は、少なくとも5年持続し、おそらく生涯続く。地域内のワクチン接種率を高める目的で、毎年のワクチン再接種が勧められる。 ● 遺伝子工学による熱安定性の遺伝子組替え型ワクチンは、限定的野外試験を現在受けている。 広域調査(Surveillance) 1989年の「牛疫広域調査に関するOIE専門家会議」は、「牛疫の疫学的広域調査のために勧告された基準」という報告をまとめた。この報告は、第58回総会期間中に国際委員会によって承認された
日本の予防措置 輸入検疫: 牛疫、口蹄疫、アフリカ豚コレラに罹患した反芻動物、およびその肉製品は輸入禁止 ← 法第36 条、規則第43 条 輸入検疫: 牛疫、口蹄疫、アフリカ豚コレラに罹患した反芻動物、およびその肉製品は輸入禁止 ← 法第36 条、規則第43 条 罹患動物との同居動物、および予防液を受けた動物は20 日間係留 ←規則第50 条 「家畜伝染病予防法」に基づく輸入制限は、国際貿易の支障とならないか? 各国が国内農業保護のために、「防疫」を理由に次々と輸入制限したら、どうなるか?