ヤンニとドラゴンとお嫁さん(ギリシヤ) むかしむかし、ギリシアのある所に、 ヤンニという男の人がいました。 ある日の事、ヤンニが森を散歩をして いると、いきなり一頭のドラゴンが現れ ました。 「おいヤンニ、昼ご飯にお前を食べてやる から、覚悟しろ」 辰 ( 竜 ) にまつわる民話 たつ りゅう 1 ヤンニとドラゴンとお嫁さん(ギリ シヤ)
びっくりしたヤンニは、ドラゴンにお 願いしました。 「まっ、待ってくれ。お願いだから、 待ってくれ。ぼくのお嫁さんになる人の ところへ、最後のお別れに行ってくるか ら」 するとドラゴンは、ニヤリと笑って言 いました。「いいだろう。ただし、必ず ここへ戻って来い。でないと、お前の嫁 になる女も食べてやるからな」 「うん、わかった」 2 ヤンニとドラゴンとお嫁さん(ギリ シヤ)
ヤンニは約束すると、急いでお嫁さん になる人のところへ行きました。 「すまないが、もうお別れだ。ぼくは、 ドラゴンの昼ご飯になってしまうんだ」 それを聞くと、お嫁さんになる人が言 いました。 「では、わたしも一緒に連れて行ってく ださい」 「とんでもない。そんな事をしたら、お 前も昼ご飯にされてしまうよ。お前は、 ここにいなさい」 3 ヤンニとドラゴンとお嫁さん(ギリ シヤ)
「いいえ、わたしも行きます」 「・・・でも」 「わたしも行きます」 そこでヤンニは仕方なく、お嫁さんに なる人を一緒に連れて行きました。 さて、ドラゴンはヤンニが女の人を連 れて来たのを見て、大喜びです。 「ああ、おれの昼ご飯が、二倍になって 戻ってきたぞ」 ドラゴンはヤンニとお嫁さんになる人 のそばへ行くと、よだれをこぼしながら 4 ヤンニとドラゴンとお嫁さん(ギリ シヤ)
言いました。 「よく戻って来たな。さあ、さみしくな いように、二人一緒に食べてやるから な」 するとお嫁さんになる人が、ドラゴン の前に両手を広げて言いました。 「まあ、なんて、おいしそうなドラゴン だこと。わたしは朝ご飯にドラゴンを九 頭も食べてきたのに、もうお腹がペコペ コだわ。でもこれで、十頭目のドラゴン を食べられるわ。うふふふ」 それを聞いて、ドラゴンはびっくりで 5 ヤンニとドラゴンとお嫁さん(ギリ シヤ)
す。さっきの元気はどこへやら、ドラゴ ンはガタガタふるえながら言いました。 「ヤンニさん、お願いだから教えてくれ。 この女の人は、誰の娘さんなのか」 「それは・・・」 ヤンニがもじもじしていると、お嫁さ んになる人が自慢げに言いました。 「わたしは神々の王、ゼウスの娘よ。父 にもらったカミナリの力で、ドラゴンを 丸焼きにしてから食べるのよ。さあ、わ たしのお昼ご飯、覚悟しなさい!」 6 ヤンニとドラゴンとお嫁さん(ギリ シヤ)
ドラゴンはびっくりして飛び上がると、 「うぎゃーー! 助けてくれー!」と、 あともふりかえらずに、森の奥へと逃げ ていきました。 それを見たお嫁さんになる人は、ヤン ニにニッコリほほえむと、 「あはははは。あのドラゴンたら、わた しのうそにまんまとだまされたわ。さあ ヤンニ、家に帰りましょう」と、ヤンニ の手を引いて、家に帰っていきました。 おしまい 福娘童話集許可転載< > 7 ヤンニとドラゴンとお嫁さん(ギリ シヤ)