諸外国におけるコンテンツ政策 上原構成員 資料7. (財)国際通信経済研究所 2 目 次 1. コンテンツ政策の枠組み 2. 各国コンテンツ産業振興政策 3. 著作権制度をめぐる海外動向 4. まとめ.

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諸外国におけるコンテンツ政策 上原構成員 資料7

(財)国際通信経済研究所 2 目 次 1. コンテンツ政策の枠組み 2. 各国コンテンツ産業振興政策 3. 著作権制度をめぐる海外動向 4. まとめ

1. コンテンツ政策の枠組み

(財)国際通信経済研究所 4 「諸外国のコンテンツ政策」を議論する前に 本報告で扱うコンテンツの定義 狭義としてのコンテンツ – メディアにおける流通を中心とする情報、エン ターティンメント。 今回扱うコンテンツ政策 – メディア・コンテンツの振興を目的とする諸政 策の主要部分。

(財)国際通信経済研究所 5 公的規制 – 競争政策〜流通市場の多様化など。 – 保護政策〜コンテンツ割当規制(クォータ制)。 財政支援〜公的資金による制作助成等。 著作権制度〜コンテンツ流通を促進する制度整備。 今回扱わない政策 – 人材育成(教育機関の設立支援等)、金融関連優 遇措置(税制優遇、公的機関による債務保証等)。 「諸外国のコンテンツ政策」を議論する前に 本報告で扱うコンテンツ政策の分類

2. 各国コンテンツ産業振興政策

(財)国際通信経済研究所 7 EU のコンテンツ政策 - 産業政策と文化政策の両立 - 政策の背景 – 米国コンテンツ産業の脅威に対抗するため の産業政策的なニーズと、欧州文化の維持、 発展のための文化政策的なニーズが存在。 政策の特徴 – 放送における①欧州製コンテンツ割当など の保護規制と、②助成金による産業育成が 政策の両輪。

(財)国際通信経済研究所 8 EU のコンテンツ政策(1) 国境のないテレビ指令( 1989 年) コンテンツ政策関連 – 加盟国は実行可能な場合、ニュース、スポーツ、広 告及びテレテキストを除き、放映時間の過半数の割 合を欧州作品のために留保することを確保。 米国の批判 – 本指令は、米国が AV 分野の貿易障壁として非難し、 GATT ウルグアイ・ラウンド等で取り上げる意向 だったが、欧州側は文化は GATT で取り扱う問題で はないと主張、結果的に交渉から除外。

(財)国際通信経済研究所 9 EU のコンテンツ政策(2) MEDIA Plus ( ) 目的 – 映像放送産業の競争力の強化を目指した産 業振興プログラムで、 MEDIA II の後継とし て、 2001 年 1 月に施行(予算は 4 億ユーロ)。 概要 – ①職業教育の実施、②制作計画や制作会社 の支援、③映画及び映像作品の配給、④映 画及び映像作品のプロモーション、⑤映画 祭の支援等。

(財)国際通信経済研究所 10 英国のコンテンツ政策 - 商業的成功の重視 - 政策の背景 –1980 年代以来、映像貿易において黒字国。 – サッチャー政権時代の民活政策の影響。 政策の特徴 – 宝くじ収入を映像産業支援に活用。 – 文化政策的観点以上に商業的な成功を重視。

(財)国際通信経済研究所 11 英国のコンテンツ政策(1) 映画評議会 (Film Council) 概要 – 既存の映画関連支援機関及び一部機能を統 合して 2000 年に設立。財源は、宝くじと政 府助成金(年間予算は 2,000 万ポンド) 主な活動 – 映画制作助成金の交付、フィルム・コミッ ションの支援、人材育成の支援など。

(財)国際通信経済研究所 12 英国のコンテンツ政策(2) Channel 4 の設立 概要 – 独立系映画制作事業者の運動により、 1980 年に設立された公共放送局。財源は広告収 入とスポンサーシップ。 番組編成 – 番組制作は行わずに編成のみ。番組は、制 作投資、共同制作、事前放映権買い付けな どにより、外部調達。

(財)国際通信経済研究所 13 フランスのコンテンツ政策 - 文化政策の一翼として - 政策の背景 – 伝統的に文化政策を重視。 – 米国ハリウッドへの対抗意識。 政策の特徴 – 映像産業振興の担当省庁である CNC による 経済的支援が充実。 – テレビ局に対する規制がコンテンツ政策の 軸に。

(財)国際通信経済研究所 14 フランスのコンテンツ政策(1) 国立映像センター (CNC) 概要 –1946 年に設立。特別会計により、独自の財源 を保有。 主な活動内容 – ①映像産業の経済的支援、②映像産業の啓蒙 活動、③映画資産の保護など。 COSIP – 経済的支援は COSIP と呼ばれる自動補助金が 中心。

(財)国際通信経済研究所 15 フランスのコンテンツ政策(2) 地上波テレビ放送局に対する規制 フランス製コンテンツ割当規制 – 欧州製番組が 60 %、フランス製番組が 40 %。 映像産業への投資義務 – 例①:原則として年間売上の 3 %以上を欧州映画、 2.5 %をフランス映画に。 – 例②:年間売上の 15 %をフランス製番組の発注 に。 特別課税 – 収益の一定割合が課税され、 CNC の財源に。

(財)国際通信経済研究所 16 ドイツのコンテンツ政策 ドイツ連邦映画評議会 (FFA) – 予算は年間 6,100 万ユーロ。財源は映画館等の 売上に対する課税(連邦及び州政府からの補助 金はなし)。 – ①映画制作の支援、②脚本開発、③流通、④人 材育成、⑤ドイツ映画のプロモーション等の分 野に対して財政支援を実施。

(財)国際通信経済研究所 17 米国のコンテンツ政策 - 公正競争の実現 - 政策の背景 – ネットワークによる放送業界の支配という歴史。 – 多チャンネルメディア(衛星、ケーブル等)の 発展によるメディア間競争の促進。 政策の特徴 – 公正競争の促進。 – 民間活力主導。

(財)国際通信経済研究所 18 米国のコンテンツ政策(1) FinSyn Rules 3 大ネットワークによる放送市場の独占を排除す るため、 1972 年に FCC が制定したが、多チャンネ ル化の進展にともない、 1991 年、 1993 年の見直 しを経て、 1995 年に 11 月にルールを廃止。 Financial Interest Rule – 3大ネットワークが外部制作会社が制作した番 組の所有権を確保することを禁止。 Syndication Rules – 3大ネットワークは、ネットワーク経由以外で、 地方テレビ局に対する番組放送権の販売を禁止。

(財)国際通信経済研究所 19 米国のコンテンツ政策(2) Prime Time Access Rule 1971 年、地方局の自社制作を促進するために導入 したが、シンジケーションからの購入番組を放送 する事例が多いなど、様々な批判にさらされた。 上位 50 市場の 3 大ネットの直営局及び系列局は、プ ライムタイム 4 時間の内、 1 時間はネットワーク以 外の番組を放送しなければならない。 1995 年 7 月、 FCC が同ルールの廃止を発表し、 1 年 間の猶予後、廃止( 1996 年 7 月)。

(財)国際通信経済研究所 20 米国のコンテンツ政策(3) CPB( Corporation for Public Broadcasting ) 1967 年に連邦議会によって創設された非商業放送 局を支援する非営利団体。 各種助成金(放送局向け、番組向け等)を非商業 放送局に分配。 2003 年度の連邦政府交付金は 3 億 5,000 万ドル。

(財)国際通信経済研究所 21 カナダのコンテンツ政策 - カナダ文化とは何か? - 政策の背景 – 巨大なコンテンツ輸出国、米国の隣に位置 し、文化的アイデンティティの確立が困難。 政策の特徴 – コンテンツ割当規制、番組制作助成など、 文化・産業の保護育成政策。

(財)国際通信経済研究所 22 カナダのコンテンツ政策( 1 ) カナダ製コンテンツ規制 ラジオ放送 – 週あたり放送するポップスの 35 %はカナダ製。 テレビ放送 – カナダ番組の定義〜プロデューサーがカナダ人、 制作中心者がカナダ人、制作コストの 75 %をカ ナダ人に支給。 – 商業放送〜① 1 日平均放送時間の 60 %以上はカナ ダ製番組、②プライムタイムは 50 %以上。 – 公共放送〜時間帯を問わず、 60 %以上。

(財)国際通信経済研究所 23 カナダのコンテンツ政策(2) 番組助成金制度 Telefilm Canada –1967 年に設立(前身)された連邦政府の文化 関連所掌官庁。 – カナダ製番組制作の資金助成。 – 年間予算は約 2 億 3,000 万 C$ 。 傘下の主な助成プログラム( 実績) –Canadian Television Fund : 1 億 820 万 C$ –Canada Feature Film Fund : 6,160 万 C$ –Canada New Media Fund : 1,000 万 C$

3. 著作権制度をめぐる海外動向

(財)国際通信経済研究所 25 デジタル化・ネットワーク化への対応 (1) 国際条約をめぐる動向 WTO TRIPs 協定( 1994 年) – ①ベルヌ条約の遵守、②コンピュータ・プログラ ム及び DB の保護、③実演家、レコード製作者、放 送事業者の保護。 WIPO 新著作権条約 / 実演・レコード条約( 1996 年) – ①権利管理情報の保護、 ②公衆への伝達権、 ③ コピープロテクションの回避に対する規制等。

(財)国際通信経済研究所 26 デジタル化・ネットワーク化への対応 (2) 米国をめぐる動向 デジタル・ミレニアム法( 1998 年) – クリントン政権の情報スーパーハイウェー構想 の一環として 1998 年に成立。 – 特徴としては、①コピープロテクションの回避 に対する規制、②オンライン事業者の責任を限 定、③一時固定の拡大(インターネット放送や デジタル放送にも適用)等。

(財)国際通信経済研究所 27 デジタル化・ネットワーク化への対応 (3) EU をめぐる動向 「情報社会における著作権及び関連権の一定の 側面のハーモナイゼーションに関する指令」 – オンライン上の著作権問題の解決及び WIPO 新 著作権条約の域内制度化を実施するため、 2001 年 3 月に採択。 – ① コピープロテクションの回避に対する規制、 ②著作権管理情報の保護、③一時固定の拡大 ( ISP や通信事業者にも適用)、④私的コピー の概念の明確化。

4. まとめ

(財)国際通信経済研究所 29 まとめ 政策のスタンス(制度設計の重要性) – 政策的ニーズと方向性の明確化。 文化政策 VS 産業政策 – 競争政策と保護育成政策のバランスが関連産業の興亡に大 きく影響。 流通ネットワーク(ウィンドウ)拡大の重要性 – 米国のシンジケーション、英国の Channel 4 の役割 ネットワーク化をめぐる著作権制度の整備はほぼ終了 – 実務処理の問題が重要に。 対米国コンテンツ対策という側面に留意 – 日本に外国コンテンツの割当規制はなし。