1 Network Economics (5) アクセス・チャージ 京都大学 経済学研究科 依田高典
ネット産業構造の変化
3 第 1 節 アクセス・チャージの基本概念 1.1 ベンチマーク・モデル ベンチマーク・モデル 鉄道の軌道・市内電話網・配電設備 費用関数 X の中間投入財費用: C 0 = c 0 Q +K X の最終財費用: C 1 = c 1 q 1 Y の最終財費用: C 2 = c 2 q 2 アクセス・チャージ A A が高ければ参入圧迫、 A が低ければ費用回収不能
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5 1.2 アクセス・チャージの基本ルール (1) 平均増分費用 A = AIC Y ≡[C 0 (q 0,q 1,q 2 )-C 0 (q 0,q 1,0)]/q 2 (2) 平均単独採算費用 A = SAC Y ≡C 0 (0,0,q 2 )/q 2 (3) 損失回避費用 A = AC Y ≡p 1 -c 2 -Δc = p 1 -c 1 (4) 完全配賦費用 p 0 = A = FDC≡c 0 +K /Q 、 p 1 = (c 0 +K /Q) + c 1 (5) ラムゼー・ルール ( 逆弾力性ルール ) A = RAMSEY≡c 0 +
6 第 2 節 ECPR の登場 Baumol 達コンテスタビリティ論者の主張 A= 平均増分費用 + 平均機会費用 コンテスタブリティ理論と両立:支配的企業の売るか作るか、 参入企業の買うか作るか A = ECPR≡p 1 -c 1 = c 0 + [p 1 -(c 0 + c 1 )] ECPR と他のルールの関係 AIC Y ≦ ECPR = AC Y = FDC ≦ SAC Y 下限以上、上限以下、回避費用・完全配賦費用と一致 ECPR = RAMSEY if c 1 = c 2 、 η 1 = η 2 費用・需要の対象性の下、ラムゼー・ルールと一致
7 2.2 ECPR の問題点 (1) 不当な機会費用が含まれる危険性 独占的レント 経営非効率性の費用 (2) 経営効率化誘因の欠如 平均費用価格の仮定 インセンティブ規制の同時実施の必要性 (3) 価格圧搾 アクセスチャージを引き上げ、中間投入財で利潤をあげる行動 グローバル・プライスキャップの提案も受け入れられず
8 第 3 節 TELRIC の勝利? 3.1TELRIC の概要 長期増分費用ルールのグローバル標準 (1) 未来指向の費用 歴史的費用から技術革新分だけ費用控除 (2) 最小化費用 最効率的な長期的費用 (3) アンバンドリング (4) 共通費用回収のためのマークアップ A=TELRIC= 資本設備の限界費用 ×( 利子率 + 技術進歩率 + 資本減耗率 )
9 2.2 TELRIC の問題点 (1) トップダウンとボトムアップの相克 トップダウンとボトムアップの相克 トップダウン財務会計データから無駄な費用の削除 ○ 会計監査譲の手続公正性 ボトムアップは仮想的なエンジニアリング・モデルの費用計上 ○ 効率的な資本費用の測定の明白性 (2) 共通費用の回収 アンバンドリングの細分化 → 共通費用の増大 技術進歩 → 歴史的費用と現在費用の大きな乖離 マークアップを認めた「 TELRIC プラス方式」 マークアップ理論の欠落
戻る BT の 1994/95 年時長期増分費用
11 第 4 節 競争時代のアクセス・チャージ 4.1 ネットワーク競争下での M-ECPR ボトルネック独占型 ECPR の困難 共通費用の逓減・独占レントの存在 ECPR の法 & 経済学的再考 投資償還期待の破棄は規制契約違反 A=M-ECPR = c 0 + Δ/Q Δ≡( 規制下の純収益 )-( 競争下の純収益 ) Δ ≦最効率的 CAP の単独採算費用 旧 ECPR :私的機会費用 v. ただ乗り M-ECPR :社会的機会費用
ネットワーク競争下での料金清算問題 国際電話の分収制度 2 国間の通信料差 × 精算料金 (= 計算料金の半分 ) アクセスチャージの支払いアンバランス [N X N Y /(N X +N Y )](Q Y -Q X )(A-C) 低価格ネットのジレンマ ○ 多くのネット加入者を獲得できる × 高価格ネットへアクセスチャージの支払い超過 ネット間で共謀してアクセス・チャージを高止まりさ せようとする危険性 ボトルネック時代:事業者間対立問題 ネット間競争時代:事業者対消費者問題
13 第 5 節 日本のネット産業のアクセスチャージ 5.1 電気通信産業のアクセス・チャージ 歴史的経緯 1987 足回り料金 1994 エンドエンド料金 1996 接続料金制度 2000 長期増分費用方式 既線点 RT 費用の負担をめぐる対立 GC 接続 A 案:ー 22.5% 、 B 案:ー 41.1% 基本料金の 100 ー 300 円程度の引き上げ必要性? 将来的には、ボトルネック型アクセス・チャージよりも 、ネット間競争型アクセス・チャージの方が重要
電力産業のアクセス・チャージ 送配電ネットワークの開放 (1) 第三者アクセス・モデル 送電・配電設備を第三者にも同じ条件で開放 (2) プール・モデル 送電・配電部門にプール市場を作る 日本は現在第三者アクセス・モデルを採用 特別高圧の大口のみの自由化 域内均一の郵便切手方式 託送料金 フォワードルッキングとはいうものの、トップダウンでありか つ歴史的費用の回収を認めている ABC 会計の積極的活用による共通費用の配賦
ガス産業のアクセス・チャージ 1995 年の規制緩和 200 立方 m 以上の大口自由化 1999 年の規制緩和 100 立方 m 以上の大口自由化 接続供給制度 (1) バックアップ・サービス 一時的なガスの補填サービス (2) パーキング・サービス 一時的な貯蔵サービス 電力産業同様、実績原価重視の接続料金
16 直江氏の私信 「今日の通信産業の問題は、基本的には技術革新による産業の構 造変化をどうしたら社会の混乱を引き起こさずに可能にするかに あるのではないかと考えています。情報通信が重要な役割を果た している現在、そのインフラを混乱なく新しいインフラに転換さ せられるかはその社会の存亡のかかる重大事だからです。⋯⋯電 話の世界から見ると、ユニバーサルサービスの確保と相互接続問 題が重要な政策課題ではありますが、ネットの世界を作ろうと考 えている人々にとってはその解決は変革の障害になりかねない問 題なのです。情報の世界では、交通の世界で馬車から自動車に変 わったような変革が起こっているわけですから、旧い秩序でのル ールの確立が新しい産業の発展の障害になるのではと危惧してい るのです。」