経営学Ⅰ 経営組織
経営組織 組織とは、「個人では達成不可能な目標を複数の人々が協働して実現するシステム」であり(Barnard, C.I., 1938)、その成立要件として1)共通目的、2)貢献(協働)意欲、3)コミュニケーションが必要である。 さらに、その組織が存続するためには、目的達成に有効的(Effectiveness)であり、かつその組織のメンバーが能率的(Efficiency)に機能することが必要条件となる。
経営組織 つまり、組織論とは、人々が協力して仕事をしている状態にまつわる様々な問題を、意識的に調整されたシステムである組織に注目して研究する学問領域である。ここで含まれる問題には、組織の構造(Structure),モチベーション、リーダーシップ等幅広い項目が含まれる。 目的を達成するためにメンバーは仕事を分担し、分担した仕事の間の調整を行う必要がある。トップマネジメントはこの分化と統合の仕組みをデザインしなければならない。 この調整が比較的に安定しているとき、その調整の仕方を組織の「構造(Structure)]と呼ぶ。構造には、よく組織図に描かれているような役割や権限、あるいは就業規則などの諸規定も含まれる。 構造に対して、その構造の元で人々が実際に活動しているありさまを組織の「過程(Process)]とよび、そのなかには、リーダーシップ、モラール、モチベーション、などの研究が含まれる。 ここで組織と呼ばれるものには、その組織図に描かれているような、公式構造と人々の中に自然発生的に形成される非公式構造がある。
経営組織 組織論の沿革 古典的組織論を代表するテイラーの科学的管理法、フェイヨルの組織・管理論、マックス・ウェーバーの官僚制組織論にその起源を求めることができる。当時の企業においては、能率の向上が至上命題となっていた。そこで、賃金制度や課業・分業により生産効率を上げた。賃金制度では差別出来高制を取り入れ労働者が高い業績を上げるほど高い報酬を得る仕組みを作った。このとき公平かつ客観的に標準出来高を定める必要性からテーラーの時間・動作研究である。彼は一流労働者の作業を分析し、その最も合理的な動作を基準に賃率を決定した。 その後1920年代に始まった有名なホーソン実験(Hawthorne Experiment)がきっかけとなり、人間関係論が始まった。科学的管理法が人間の経済的動機と合理的側面に注視し機械的な組織・管理によって、個人を統制しようとしたのに対し、メイヨーに代表される人間関係論者は人間の社会的欲求や感情的側面に注目した。アメリカのウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた事件の結果、作業者の感情が生産性に大きく影響を与えていることが証明され、さらに、職場には非公式組織が存在しそこで形成される規範が作業員の行動に影響を与えていることが明らかにされた。うまり“満足=>モラール=>生産性”という因果関係を明らかにした。この理論の元で権限の委託、各種提案制度、カウンセリング、面接制度などの施策が行われた。
経営組織 組織論の沿革 人間関係論をさらに進めた新人間関係学派と呼ばれる人たちが組織と個人の統合という問題を研究の主題として扱いだした、この学派の代表的な研究者には、アージリス、マグレガー、リカードがいる。 アージリスは古典的組織論で唱えるような合理性や経済的動機は精神的に健全な個人のパーソナリティーとは適合しないと考え、その不一致を解消するため職務拡大や従業員中心のリーダーシップなどによって公式組織の限界を克服することが必要であると唱え、組織の中で人間は継続的に成長しかつ全体の目的に貢献できるシステムを構築すべきと提唱した。 マグレガーはそのXY理論で、伝統的な理論をX理論とよび、それとは対照的なY理論を提示する。X理論では、人間は元来仕事を嫌うため、働かせるために統制や命令が必要になる。それに反して、Y理論では、人間は条件次第で積極的に責任を引き受け自主的に働くと考える。そこで、組織を作るとき、従業員が企業の繁栄とともに自らの目的を達成できる「統合の原則」が必要と提言する。 リカードは経営管理システムを4つのカテゴリーに分類した。タイプⅠの独善的専制型からタイプⅣの集団参画型まで分類し、自由なコミュニケーション、集団的参加、各人の責任、協調性などが高い生産性と高い満足度を達成できると示唆した。
経営組織 組織論の沿革 人間関係論者が個人の功利的な組織への関与に注視し、近代的な組織論では心理学や社会学などを応用し人間の様々な要求に焦点をあてそれを前提に組織を研究する。バーナードは組織人格と個人人格をわけ、個人は組織の目的を受け入れてその組織に参加したとき組織人格を獲得する、この組織人格は必ずしも自己の目的と一致しないがその達成のため貢献することになる、その見返りとして組織から個人の目的を達成する誘因を獲得するとかんがえる。 過去の科学的管理法や人間関係論では組織はそれ自体が完結するクローズドシステムと捉えていたがコンティンジェンシー理論では、組織を外部(環境)に開かれたオープンシステムとして認識する。そこでは、組織の有効性は環境との適合度により決まり、唯一最善の組織・管理は存在しないことを示唆した。例えば、ローシュとモースの研究では、工場のような労働環境では、外部環境は比較的安定しているので集権化・分式化の進んだ組織、指示的な監督スタイルと、集団思考の強い従業員を備えている場合に業績が高くその従業員の満足度もたかい。逆に研究所の様な環境では、外部環境は不確実で、分権的で柔軟な組織、参加的な監督スタイルと、独立・自立を好む個人主義的な従業員が存在するときに高い成果がもたらされていることを明らかにした。 このコンティンジェンシー理論は、変化の激しい現代の環境の下で革新を志向する今日の企業が新たな形態の組織を取り入れることを促進する役割をはたしている。その例として事業部制、SBU(Strategic Business Unit),マトリックス組織、プロジェクトチームなどがある。
経営組織 Principal Theories Division of Labor (分業化) アダム・スミスはその「国富論」で分業・専門化が生産力を高める最善の方法であると提唱した。しかし、このスミスの分業論は経営組織論で必要な人間の感情や意欲、さらに調整的統合といった問題にはふれていない。 Organization Learning (組織学習の効果) 必要な作業を一人で学習するよりも、その作業を数十の作業工程に専門化して各人が専門化された作業について学習すればより効率よく学習できるという考え。 Effect of Informational Collection, Storage and Processing 一人で情報を収集、貯蔵、処理するには限界があるが、組織は膨大な情報を収集し、貯蔵し、処理するコンピュータ処理センターを持つことで計り知れない能力を持つことができる。 Principal of Coordinative Integration 組織構成員の諸活動は組織の目的に沿って調整され、統合されなければならない。この調整・統合はリーダーの計画と統制あるいは指揮と監督をつうじて行われるが、リーダーが指揮・監督できる部下の数には一定の限界がある(Span of Control)。このSpan of Controlを決定する要因として職務の性格、部下の持つ能力、コミュニケーションの難易度、スタッフの利用、統制と監督の手段等がある。
経営組織の形態 職能別組織 経営者層 企画室 技術 資材 財務 人事 生産部 販売部 職能別組織には市場環境の変化が緩やかで、単一の製品系列やサービス系列のように事業範囲が狭く、自動車業、鉄道業、セメント業、石油業、繊維業等に多く見られる。 この組織形態は次のような長所を持っている。 職能別専門家の育成と専門的知識と経験の活用を期待できる。 ライン部門のトップはより一層入念な決定の準備ができ、また下層部門に対する調整の能力を高める。 ライン部門のトップが組織全体の基本方針・企画・統制方法を規定するので、職務遂行の安定性が高まる。 しかし、次のような短所も持っている。 基本方針・計画・統制方法のトップ決定に下層部門のメンバーが参加することがなく、トップ経営者の育成が困難になる。 部門目標が異なると、職能部門間に対立が生じ、そのための調整コストが高くなる。 トップに決定権が集中し、下層部門の管理者や従業員の自主的決定権の範囲が狭くなり、協働意欲を低下させる。 組織階層が多くなると、トップと現場の距離が遠くなり、コミュニケーションに障害がでる。 経営者層 企画室 技術 資材 財務 人事 生産部 販売部
経営組織の形態 事業部制組織 (Divisional Organization) 市場環境の多様化が始まり進行すると、これに対する適用能力を高めるため製品別、地域別、顧客別に事業部門を設け、それぞれに小規模な単独企業に近い一通りの職能を持たせ、各事業部経営者に包括的権限と責任を与えて、自立的に経営させる組織形態。 家電業、化学業、貿易業、大規模小売店業、保険業等に多く見られる。 事業部制組織は、次のような長所を持っている。 各事業部は製品別、地域別、顧客別に専門化し、個別市場に発生する問題に直接に対応できる。 各事業部に大幅な権限が委譲されることで、それぞれの事業部の構成員のモチベーションを高める効果が期待できる。 個々の事業部ごとにその業績評価を行うことで、組織内部に競争が生じ、組織が活性化する。 事業部経営者に戦略的な知識の習得と経験の場を提供できる。 対して、次のような短所を持っている。 組織全体の利益を犠牲にしても、各事業部の短期的利益追求に専念しがち。 各事業部ごとに生産、販売、総務、経理等の同種の活動部門を持つため職能別部門の持つ専門化の利点は小さくなる。 事業部中心の発想に占有されて、組織全体の視点に立った適切な資源配分が難しくなる。 事業部と事業部の間に壁ができ、組織全体の基本方針に沿った協調的行動が取り難くなる。 経営者層 製品別又は地域別事業部 製品別又は地域別事業部 製品別又は地域別事業部 技術 資材 生産 販売 財務 人事
経営組織の形態 マトリックス組織 (Matrix Organization) 市場環境が多様化し、かつ個別市場ごとのニーズを迅速にかつ同時遂行的に満たさなくてはならない場合に職能別と対象別(地域別あるいは顧客別)の2つの専門化基準を同じ比重で用いて協調的行動をとって対応しようとする組織形態。防衛産業、航空機産業、重工業、建設業、精密機器業等に多くみられる。 利点として次の点がある。 時間的に限られた特殊なまた広範囲のニーズに対して高度にフレキシブルにかつ迅速に対応できる。 職能的専門家と製品別(地域別あるいは顧客別)専門家の協調を促す。 事業部管理者に戦略的問題を解決し遂行する訓練と経験の場を与え、さらに、職能部門管理者の持つ専門的知識と経験を効果的に活用できる。 短所として、次の点がある。 2重の指揮命令と責任制が生じ、組織全体に混乱と矛盾をもたらす。 この2重の指揮系統はしばしば権力闘争を引き起こし、無責任体質を招来させる。 職能部門と事業部の間の調整に多くのコストがかかる。 経営者層 技術 資材 生産 販売 財務 人事 製品別又は 地域別事業部 製品別又は 地域別事業部 製品別又は 地域別事業部
経営組織の形態 新しい組織形態 組織は変動する環境に積極的に適応すべく新しい製品・サービスや事業を創造し、自らの組織を革新していかなくてはならない。革新のための新たな組織形態としては、革新的組織、ネットワーク組織、新・企業グループ型組織がある。 革新的組織 アンゾフとブランデンバーグによって提唱された組織形態である。すでに収益を上げている事業活動から新しく製品開発を担当する新規事業グループを別離する。新製品の開発・製造・販売は、この新規事業グループのもとでの構想・実行される。このプロジェクトが採算可能になったとき、このグループは解除される。この形態は社内ベンチャー制と取り上げられてきたものと同一である。 ネットワーク組織 マイルズとスノーによって新しい組織形態として提唱された。この組織形態は、1)これまで垂直的に統合されていた職能がネットワーク内の独立した組織によって遂行されている、2)各機能は必ずしも企業内に存在せず、機能グループはブローカーによって組み合わされたり、結合されたりする、3)主要な職能は計画とコントロールといった内部組織の原理ではなく、おもに市場原理によって連結される、4)こうしたネットワークを統合するために、広くアクセスできるコンピューター情報システムが利用される。 組織内部のネットワーク 販売企画 戦略的企業間ネットワーク 技術 営業 開発者 組立生産者 研究開発 経理 サプライヤー リーダー企業 研究者 財務 製造 流通業者 マーケティング業者 人事 購買 渉外
経営組織の形態 ネットワーク組織 スターアライアンス スターアライアンスは、ユナイテッド航空を中心として合計15社の世界を代表する航空会社による国際戦略提携である。提携会社間において、世界各地の航空路線を相互接続して世界各都市にアクセスできるグローバルな航空サービス・ネットワークを提供するを目的とする。さらには、提携航空会社間でのスムーズな乗り継ぎ、そこでの空港ラウンジの相互利用、そしてマイレージの共同サービスなどもおこない、世界の空での快適なサービスの共同での開発と提供を行おうとしている。これは、提携によるグローバルなサービス体制の構築や品質の高いサービスの提供、共同でのサービス開発による進化を狙ったものである。加盟企業にエア・カナダ、ニュージーランド航空、全日空、アシアナ航空、オーストラリア航空グループ、ブリティッシュ・ミッドランド航空、LOTポーランド航空、ルフトハンザ ドイツ航空、スカンジナビア航空、シンガポール航空、スパンエアー、タイ国際航空、USエアウェイズがある
経営組織の形態 新・企業グループ型組織 企業の多角化の展開は、新しい関係会社群の増加をもたらし本社と関係会社からなる企業グループの新たな関係を必要としている。従来の企業グループの関係は中枢ー周辺モデルであり子会社の自主性は軽視され、親会社の意のままに従属する関係会社からなる企業グループであった。しかし、企業の積極的事業展開は、新たな発想にもとづく企業グループの考え方を要請している。そこで新たな企業グループの基本的考え方は、関係会社の自主性を活かしながら、グループ全体の統合をいかに図るために、次の3点を重視する、1)グループ企業の自主性、2)グループ企業間の相互依存性、3)統合力としての理念と情報。
戦略的組織デザイン 日産の組織改革 1999年にルノーは日産の株式の36.9%を所得し、取締役3名を日産に送り込むことによって日産の組織改革は開始された。この改革はルノーから派遣されたカルロス・ゴーン氏を中心に行われた。ゴーン氏は日産リバイバルプラン(NRP)を発表し、それにより従来の関係会社、サプライヤー、ディーラーとの関係の見直しを行った。そして、2001年3月31日までに(人員削減、工場閉鎖、プラットフォームの削減、購買コストの削減など)およびブランドの再構築、投資額の増大を行った。その際の重要な組織変革に、クロスファンクショナルチームがある。このチームによりNRPは策定されている。クロスファンクショナルチームにより、部門間・機能間の壁が取り外され、部分最適ではなく企業全体の課題を共有・浸透させ、各部門ごとの全体への貢献が明らかになった。それとともに、社員の能力を引き出すための人事制度や人材育成制度も導入された。
戦略的組織デザイン 今日、企業の方向性と結びついた組織デザインがますます重要になっている。戦略と連動した組織作りの重要性を示唆したチャンドラーの「組織は戦略に従う」やガルブレイスの「経営戦略と組織デザイン」などで、戦略を実行するための組織の多面的要素との関係との適合(Fit)をキーコンセプトとしてあきらかにしている。 組織設計の課題 どのような組織でも、組織設計にはコーディネーションとインセンティブの2つの問題が生じる。 コーディネーションとは、社員全員が企業の目的を自分の物として理解し、それを達成するには組織がどう働きかけるかという問題である。つまり、企業がその資源をどう獲得し、活用するか、専門性と統合のバランス、意思決定プロセスの設計等の問題である。 インセンティブとは、企業と違う目標を持つ個人にどう働きかけて、企業の目標に沿った行動をさせるかという問題である。 企業はコーディネーションとインセンティブの2つの問題を解決するために組織設計の要素を操作することがある。この要素を3つのアーキテクチャー、ルーチン、カルチャーに分けて考える(ARC分析) アーキテクチャー 企業がどのような部門に分かれているか、部門間の関係、公式・非公式のリンク、ヒエラルキーとルール、組織図にある「籍」占める人の採用・給与制度など ルーチン 企業で日々繰り返し行われる活動や意思決定は、公式・非公式な手順、プロセス、習慣として定着する。ルーチンとは「通常受け入れられている仕事のやり方」であり、成文化し合理的に決定されたものではないが、繰り返し行われ、時を経るにつれ、当然のものとみなされる。 カルチャー カルチャーは組織内の個人がもつ価値観や信念をさし、意思決定の判断基準となる。
ARC分析 コーディネーション問題 インセンティブ問題 重要な情報はどのようにして企業に到着するか。 情報は組織内をどう流れるべきか。 誰がどの判断をすべきか。 どの活動をまとめるべきか。 部門間を結び付けるにはどのような手段が必要か。 どの活動をルーチン化すべきか。 どのような習慣や意思決定ルールを継続すべきか。 どのような企業理念や企業環境が重要か。 企業の業績にとって最も重要な活動は何か。 どの業績尺度で測り、モニターすべきか。 どの分野のインセンティブ報酬が効果的か。 どのようなカルチャーが生産性を高める行動を興すか。 どのような採用やフィードバックのルーチンが適切か。
ARC分析 分析例 (Southwest Airline)
参考文献 現代経営学を学ぶ人のために、赤岡 功、世界思想社、1995、ISBN4-7907-0562-5