地域社会学 (第2回) 川 端 浩 平.

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地域社会学 (第2回) 川 端 浩 平

問い Q. あなたは、グローバル化時代(低成長時 代)における日本の地域社会の将来をどの ように展望していますか。また、豊かな地 域社会をつくっていくための条件とは何だ と考えますか。

1.地域社会学の視座と方法

「地域」という言葉 日常的な言葉としての地域 近所、地区、村、町、郷土、地方、国、大陸、etc. 地域を英語にしてみると・・・ Community, region, neighborhood, district, area, zone, province, country, etc. 地域社会学 Region, community Japan Association of Regional and Community Studies (地域社会学会)

社会学(Sociology)とは? 人文科学(Humanities) 自然科学(Natural Sciences) 社会科学(Social Sciences) 「社会」を測定する(テキストの外部、実験的な性質) 「自分」もまた分析の対象に含まれる(実験可能性)

連字符社会学 医療社会学 エスニシティの社会学 音楽社会学 家族社会学 環境社会学 教育社会学 国際社会学 産業社会学 ジェンダーの社会学 医療社会学 エスニシティの社会学 音楽社会学 家族社会学 環境社会学 教育社会学  国際社会学 産業社会学 ジェンダーの社会学 スポーツ社会学 政治社会学 知識社会学  都市社会学 農村社会学 地域社会学  犯罪社会学 情報社会学 歴史社会学 など

地域社会学の提唱 「都市社会学・農村社会学をこえて地域社会学を築き上 げることが必要であるといわれるようになったのは、こ のような事態が進展する1960年代末ごろからであっ た」(蓮見1991) 都市と農村の区分が不明瞭になり、スプロール(無秩序 開発)や混住化が顕著になった(農村社会学や都市社会 学では対応できない)➡郊外化の進展

近代化と都市・農村 近代化による都市への人口・産業の集中により、環境問題 や人間疎外などさまざまな問題が顕在化(都市に顕在化す る問題を通じて社会を説明)。 近代化による農村人口の減少、過疎化。共同体(イエ・ム ラ)の溶解(イエ・ムラの論理で社会を説明)。 <郊外化>の進展によって広がる時空間で発生した社会問題 を考察する枠組みとしての地域社会学。都市や農村という枠 組みでは顕在化しない現象を考察。

生活当事者(地方自治体)に寄り添った視点 「中心 VS 地方」を越えて 「中心 VS 地方」という二項対立的枠組み 「中心」に従属するものとしての「地方」 「開発」の対象としての「地方」 「都会」に対する田舎としての「地方」 生活当事者(地方自治体)に寄り添った視点 「地域」

<郊外>の誕生 都市の周辺領域=郊外(Sub+urb) 近代化とともに、20世紀初頭から世界へ と広がっていく 農村から都市近郊へ(住環境中心) 近代化とともに、20世紀初頭から世界へ と広がっていく 「ブルジョワ・ユートピア」とその大衆化 都市の再活性化と通勤・通学のための寝床 から消費を中心とした郊外のライフスタイ ル・文化の確立へ 福島市は都市、田舎、郊外?

都市化/近代化

田園都市(Garden City) 都市と農村の結婚 エベネザー・ハワード レッチワース(1904)

Letchworth

日本の田園都市(ユートピア) 田園都市(1910~1930) 大阪:室町(池田駅)、箕面市(桜井駅) 小林一三(阪急電鉄)  大阪:室町(池田駅)、箕面市(桜井駅)     小林一三(阪急電鉄)  東京:田園調布、洗足     渋沢栄一(東急電鉄) ⇒ 避暑地、観光・アミューズメント、住宅地 (都市の喧騒から離れたユートピアのイメージ)

阪神甲子園球場

阪神競馬場

宝塚歌劇団

戦後のニュータウン(大衆化) (1950~1980年代) 高度経済成長と人の移動という背景、新中 間層(「中流」)の拡大 「夢のマイホーム」(憧れの生活) ユートピアの大衆化

多摩ニュータウン、千里ニュータウン

高度経済成長と全般的都市化 「都市」や「農村」といった局地的な島宇宙として完結 した時空間として理解することができない。 (蓮見音彦) 「経済の高度経済成長以降のわが国の経済・社会の変動にとも なって生じてきた地域社会の状況が、従来の農村社会学、都市社 会学とによる把握では十分ではない」 「進展する地域社会の変動は、都市・農村に通底する論理によっ てはじめて説明され得るのではないかという強い想い」 (蓮見音彦) 地域社会研究会の設立(1975年)

構造分析 構造分析(農村社会学の視点)➡農村型共同体 「地域社会を統括する公権力による統治の活 動」(国家権力)と「地域社会に活動する各 主体の地域形成の活動」(人びと)という対 立軸から地域社会の総体的把握を行い、地域 づくりの主体である住民の視点を明らかにす る。 地域社会の形成過程における権力構造を踏ま  えたうえで、住民目線で地域社会のあり方を 描き出す。

コミュニティ論 コミュニティ論(都市社会学の視点)➡都市型共 同体 大都市郊外地域における、社会移動にともな う生活構造、社会構造、コミュニティ意識の 変容の分析を経て、大都市中心部のコミュニ ティの研究へと展開していく。 人口が集中している大都市郊外地域における 人びとを一つの全体性を持ったコミュニティ (目標としてのコミュニティ)として理解す る。

2.グローバル化時代の地域社会学

ポスト高度経済成長期と 地域社会の変容(1)政治経済 グローバル化と新自由主義(ネオリベラリズム) 新国際分業体制(多国籍企業の台頭) 雇用(製造業)の海外への流出 雇用形態の流動化(フレキシブル労働者) 福祉国家体制の脆弱化 地域社会の流動性の高まり

ポスト高度経済成長期と 地域社会の変容(2)住民の多様性 グローバル化と人の国際移動の増加 労働力の不足と移民の増加(バブル期) 国際移民のコミュニティ形成(e.g. 新大久保) 都市・地域社会における外国人住民との共生 (ニューカマー、オールドカマー) マクロな視点(グローバル化)とミクロな視点(マイノリ ティからの視点)とを結びつけて地域社会を捉えなす必要性 が生じる。

グローバリゼーションと地域社会(1) 開発や産業化・都市化によって生じる問題に付随 するかたちで「地域」概念は形成されてきた。し かしそのことは、地域社会学の視点を一国の範囲 内へと狭めていった。実際には、戦前から日本か ら海外へ、あるいは海外から日本へという人の移 動やトランスナショナルなネットワークが存在し ていた(町村 2006)。

グローバリゼーションと地域社会(2) グローバルシティ論(サスキア・サッセン) 先進国の多国籍企業化➡途上国における工場建設➡先 進国大都市における多国籍企業の中枢管理機能の拡大 とそれを支える生産者サービス部門の集積➡ビル清 掃・セキュリティ・食品加工・ホテル関連など多数の 低賃金職種が生み出される(移民労働者)➡工業化の 時代の中間層が減少(脱工業化)➡世界都市における 階層分極化が進む(町村 2006)。

グローバル化時代の地域社会学 1980年代のバブル経済の拡大と国際化・情報化の進 展によるグローバル化という背景に応じて、世界都 市論やエスニシティ研究といったグローバルな視点 を導入する(これ以降、地域社会学という枠組みは より学際性を帯びてくる)。 グローバルな都市・都市近郊・農村の再編成の只中で 生活する人びとの視点(リアリティ)から地域社会の ①空間的広がり、②時間的広がりという視座を携える。

①空間的な広がり グローバル VS ローカル グローバル VS ローカルという二項対立的認識。 グローバルな基準が適応することによって、 ローカルなものは均質化することにより淘汰さ れてしまうという認識。 均質化に対して地域社会の固有性(歴史・文 化)を発信する必要性があるという認識。 グローバル化の逆説としてのローカル化への希求 (e.g. 地元現象)

モータリゼーションと消費社会化 消費の舞台の移行(駅からロードサイドへ、デパー トからショッピング・モールへ) ロードサイド(幹線道路)における商業施設の林立 グローバル化と規制緩和(大店法の施行【1973年】 およびその廃止【2000年】) 地域社会のアメリカ化?

ファスト風土化 (三浦展『ファスト風土化する日本』)

グローバル VS ローカル?

ソフトパワーの時代 Soft Power(ジョセフ・ナイ) 軍事力や経済力の強さではなく、文化的な魅力の発信 が国民国家にとってもっとも重要となっているという 認識。e.g. 「クールジャパン」、「韓流ブーム」 地域ブランディング 地域を代表するような歴史的人物や特産品に地域名を 付すことによって、地域の文化的魅力を外部に発信す る。そのイメージはブランドのロゴのような効果を発 揮する。

Cool Japan

Cool Washimiya?

地域の固有性!?

グローバル様式 グローバルであれ、地域レベルであれ、発信され る地域名は異なるが、様式(中身)は非常に似て いる。 ローカルな固有性を発信することが、グローバル /ナショナルなレベルの様式に回収されてしまう という意図せざる結果(文化開発主義)。 ローカル性の発信というよりは、グローバル基準 への到達が優先されている。

<郊外>文化の都心回帰 (e.g. 京都駅前) *参考:東・北田(2007)

②時間的な広がり ポストコロニアル×地域社会という視点

引揚者

円盤餃子から眺める 日本の旧植民地である台湾、朝鮮、満州、 関東州、サハリン、千島列島、南洋諸島 からの引揚者。 約660万人(そのうち半分が民間人)。 屋台ラーメン、じゃじゃ麺、餃子、ジン ギスカン、明太子などの食文化の担い手 となった。 島村(2013)

中国東北部・日本間の人の移動 (留学、仕事)

小括 地域社会のグローバル化を考察する場合、単純な グローバル化=均質化(脅威論)VSローカルな固 有性の発信(エンパワメント)という構図に落と して理解することはできない。 むしろ、国際間競争や資本(金)の移動にともな い地域社会という時空間が再編成されているとい える。 地域社会の視座に立つという時、空間・時間的な 意味で越境的な視点を踏まえつつ、いかに異なる 地域像を示すことができるのかという、オルタナ ティヴな想像力がポイント。

参考文献 東浩紀・北田暁大(2007)、『東京から考える――格差・郊外・ナショナリズム』日本 放送出版協会 地域社会学会編(2011)、『新版キーワード地域社会学』ハーベスト社 古城利明・監修(2006)、地域社会学講座2『グローバリゼーション/ポスト・モダ ンと地域社会』東信堂 三浦展(2004)『ファスト風土化する日本――郊外化とその病理』洋泉社 似田貝香門・監修(2006)、地域社会学講座1『地域社会の視座と方法』東信堂 ジョセフ・ナイ(2004)、山岡洋一訳『ソフト・パワー――21世紀国際政治を制する 見えざる力』日本経済新聞社 サスキア・サッセン(1991=2008)、伊豫谷登士翁監訳『グローバル・シティ―─ ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を』筑摩書房 島村恭則(2013)、『引揚者の戦後』新曜社