4章 ファンデルワールス結合とファンデルワールス結晶(分子性結晶)

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4章 ファンデルワールス結合とファンデルワールス結晶(分子性結晶) 無機化学I, 6回 11月9日 4章 ファンデルワールス結合とファンデルワールス結晶(分子性結晶)   ●無機化学Iでは、主に 1) ファンデルワールス力、 2) 17族元素(ハロゲン元素F, Cl, Br, I, At)、 3) 18族元素(He, Ne, Ar, Kr, Xe, Rn), 4) ドライアイスCO2を勉強  

4-1) ファンデルワールス力 復習と目的 ●水素、酸素、炭酸ガスなどの分子は、共有結合で形成された分子である。共有結合を、ハサミなどを用いて切断して、バラバラの原子にすることは不可能である。 ●ところが、これらの分子の集合体でできた固体、たとえばCO2の固体であるドライアイスを布巾でつつんで、硬い部分に打ち付けて粉砕したり、ドライバーなどで削りとることは簡単である(ファンデルワールス力)。

●黒鉛(graphite、石墨)は、ベンゼン環が蜂の巣状に結合した共有結合板状平面が何枚も積み重なった層状化合物である。鋭利なカミソリを用いて、黒鉛の層に沿って層を切り離すこと(へき開性) 、また、セロテープで表面一枚をはがし取り黒鉛一枚の物質(グラフェン)を得ることは簡単であるが、共有結合平面を切断するのは極めて難しい。 ●採掘地は、スリランカ、メキシコ、カナダ、北朝鮮、マダカスカル、アメリカなど。硬筆に使われ石墨の和名を持つ。 a黒鉛 b黒鉛

●分子の集合体である分子性結晶(ファンデルワールス結晶、例:ドライアイス、ワックス)において、個々の分子は、大きな結合エネルギーをもつ共有結合やイオン結合で形成されているが、分子間をつなぐ結合は人の指でも十分切断できるほど弱い結合である。この弱い結合をファンデルワールス結合とよび、ファンデルワールス力が主要なものである。 ●分散効果(全ての物質間)+誘起効果(双極子物質と無極性物質)+配向効果(双極子物質間) ●結晶を形成するのに必要なエネルギーの目安は格子エネルギー(=成分分子やイオンに分離するに必要なエネルギー、昇華熱)である。ファンデルワールス結晶の格子エネルギーは数10 kJ mol1であり、イオン結晶(この結合も人の手で切断可能なものが多い)の格子エネルギー250~1000 kJ mol1に比べてかなり小さい(表4.1)。

●ファンデルワールス相互作用のなかで最も重要な分散効果(ロンドンの分散力として知られる)の起因となる瞬間的電場とそれによる分子間相互作用エネルギーの大きさを示す。また、分子が充填して結晶を形成するときの最密構造と各原子のファンデルワールス原子半径を述べる。 表4.1 代表的な4種の結晶と例 結晶の種類 代表 凝集エネルギー / kJ/mol 融点 /C 分子性結晶 Ar O2 7.74 7.1 189.4 219.1 イオン結晶 NaCl CaF2 764.0 1680 803 1360 共有結合結晶 C(ダイヤモンド) Si 711 446 3572 1410 金属 Hg Na Cu Ti W 65 107 336 468 859 38.8 97.8 1083 1725 3400

極性分子:正電荷の中心と負電荷の中心が一致しない分子。双極子能率(dipole moment)を持つ HCl, H2O 4.1.1) 分散効果  ●瞬間的電場Eにより誘起分極p (~E、:分極率)が生じることにより、分子間相互作用エネルギーが発生する。 ●無極性の原子や分子にも働き、分子や原子が接近して電子雲がある程度重なり合うと強く現れる。 極性分子:正電荷の中心と負電荷の中心が一致しない分子。双極子能率(dipole moment)を持つ HCl, H2O   非極性分子:正電荷の中心と負電荷の中心が一致する分子 He, H2, CO2。双極子能率ゼロ 分子内での全双極性モーメント(分子内での双極子モーメントの総和)はゼロでも、局所的にモーメントが強くなっているような分子も極性分子に含める場合がある Od- = Cd+ = Od- Hd+ - Cld- 双極子能率アリ 双極子能率ナシ

距離r離れた無極性2分子(○)に生じる誘起分極pを矢印で示す。電場Eがかかったときの分子の電子雲の歪みやすさの目安である分極率は、物質の誘電率と4.1式で関係する。 r 電場E 図4.2 無極性2分子に生じる誘起分極pは矢印で示される p = nE/40        (4.1) n:単位体積中の分子数 NA/cm3, 0 :真空の誘電率

●1920年以前は、無極性分子間に働く力が何に由来するのかが不明であった。重力によるものではないかとの見解もあった。この力は1923年のロンドン(F. London, 1900-1954)による提案(ロンドンの分散力)により明確になり、すべての原子や分子の間に働く弱い力の根源と見なされた。2分子間に働くロンドン力は弱いが、それらが集まると、有機物の結晶、ローソク、さらに生体組織まで、柔軟性をもつ集合体や固体を形成する力になる。 ロンドンの分散力は短距離で初めて働く力であり1/r7の関数である(クーロン力は遠方でも働く1/r2の関数)。ポテンシャルエネルギーは1/r6の関数である(4.5式 0: 分子の固有振動数(第1イオン化電位))。 (4.5) F. London(ドイツ→イギリス→アメリカ) ハイトラーとともに分子間力の起源を解明、超流動

●表4.2にハロゲン、リン、硫黄、希ガスの融点・沸点を示す。分子量が大きく、電子雲が広がって分極率が大きい右側の分子ほど分子間相互作用エネルギーが大きく、融点、沸点が高い。 表4.2 ハロゲン分子、リン、硫黄の沸点、     希ガスの融点・沸点(すべて無極性分子) F2 Cl2 Br2 I2 P4 白燐(黄燐)[猛毒]   紫燐[無毒] 硫黄 S8 融点/C -223 -101 -7.3 113.7 44.1 589.5 119.0 沸点/C -187 -34.1 58.8 184.5 280 444.6 He Ne Ar Kr Xe Rn 融点/C -248.6 -189.4 -157.2 -111.9 -71 沸点/C -268.9 -246.0 -185.9 -153.2 -108.1 -62

参考 電場の大きさ ●真空中における2つの単位電荷(–e:e = 1 参考 電場の大きさ ●真空中における2つの単位電荷(–e:e = 1.610–19 C, 距離3 Åとする)間のポテンシャルエネルギーは 7.7×10-19 Jであり、この値はCO2 (直径3.24 Å)が接したときの2分子のポテンシャルエネルギー(1.410-20 J)より大きい。水中の2電子間では10-20 Jであり、帯電していない分子間のポテンシャルエネルギーは水中の電子間のポテンシャルエネルギーにほぼ等しい。 ●つまり、これらの電場の大きさは約108 Vcm1 つまり E~1 VÅ1で非常に大きい電場である。ちなみに、水素原子中のボーア(r = 0.529 Å)の第1軌道の電子には60 VÅ1の電場がかかっており(図2.6)、分散力を誘起する瞬間的電場は原子内部の電場の数十分の一である。

1923年 ロンドンの提案 ●無極性分子の平均電場は0であるが、ロンドンは、正電荷から負電荷に向かう力線をもつ電場が瞬間的に存在するはずで、電荷q の 電場はq/r2 であるなら、双極子能率p(qrの次元)の双極子の電場はqr/r3 = p/r3であろう(r:双極子からの距離)と推論した。 ●すると電場中の他の分子の分極ポテンシャルはEp = –p2/2r6 となり、ロンドン力の引力は1/r7の関数となる。分散効果は4.5式(分極率の2乗、距離の6乗に比例)で示された。 ●次に、双極子モーメントをもつ分子による効果を考察する。

図4.5の双極子モーメントp (= ed)が点Oにつくる 静電ポテンシャルは以下のようになる。 4.1.2) 双極子がつくる電場  図4.5の双極子モーメントp (= ed)が点Oにつくる 静電ポテンシャルは以下のようになる。 e -e r’ d  O 図4.5 双極子edが作る 静電ポテンシャル r d<<rより、

従って、O点に誘起される電場は4.8式である。 したがって、O点での電場の強さEは  従って、O点に誘起される電場は4.8式である。 (4.8)

双極子edから距離x離れた位置Oにある誘起双極子を考える(図4.6) 4.1.3) 誘起効果 双極子edから距離x離れた位置Oにある誘起双極子を考える(図4.6) 点Oでの電場Eに存在する分子に生じる誘起双極子モーメントはpi = ex = Eで、モーメントpiを生じるに必要な仕事は 生じた双極子モーメントのもつポテンシャルエネルギーは–piE = –E2で、それらの和に4.8式を代入する。 全エネルギー: ed x 2 1 O 図4.6 双極子edが作る誘起双極子

分子の向きが無秩序であると  <cos2 > = 1/3             (4.9) なので、 となり、 同種2分子間の相互作用エネルギーは 4.10式で表される(分極率の1乗、双極子モーメントの2乗、距離の6乗に比例)。                            (4.10)

表4.4で、2分子間ポテンシャルを比較し(20C)、その特徴をまとめる。 4.1.4) 配向効果  双極子モーメントが熱的にゆらいでいるときの分極率は,  となるので、4.10式に代入すると、1対の双極子同士の相互作用エネルギーは4.11式(双極子モーメントの4乗、温度の1乗、距離の6乗に比例)となる。                  (4.11) 4.1.5) ファンデルワールス相互作用 ファンデルワールス力による相互作用エネルギーは、 4.5式の分散効果+4.10式の誘起効果+4.11式の配向効果(この項のみが温度依存を示す)の加算で示される。 表4.4で、2分子間ポテンシャルを比較し(20C)、その特徴をまとめる。

表4.4 2分子間ポテンシャルエネルギー(-Ur6 J m6/10-79)*) p/1030 C m /1040 Kg1 S4 A2 h0/ eV 配向効果 誘起効果 分散効果 He 0.22 24.5 1.2 Xe 4.45 11.5 221 CO 0.40 2.21 14.3 0.0034 0.057 67.8 HCl 3.44 2.93 13.7 18.6 5.60 114 HBr 2.60 3.98 13.3 6.1 4.34 204 HI 1.27 6.01 12 0.35 1.57 420 NH3 5.0 2.46 16 83 10 94 H2O 6.14 1.65 18 189 10.0 48 *単位)pについて: 1D(デバイ) = 1018 esu cm = 3.361030 C(クーロン) m; について:Kg1 S4 A2 = C m/ V m1を40=1.1131010 m3 Kg1 S4 A2で割ると、単位はm3 1) NH3とH2O以外は、分散効果が相互作用エネルギーの大部分を占めている。2) 永久双極子モーメントをもつハロゲン化水素において、ヨウ素のように分極率の大きなイオンを含むHIでの分散効果は(配向+誘起)効果の200倍程度、臭素の場合は20倍程である。HClでも、(配向+誘起)効果より分散効果のほうが5倍程度大きい。3) NH3においてもまだ分散効果の方が配向効果より少し大きい。4) H2O分子での配向効果は分散効果の4倍程度である。このように、瞬間的電場によって引き起こされる引力(分散効果)は、分子性化合物の凝集に大きな寄与をしている。

4-2)18族元素:希ガス元素(rare gas, noble gas, inert gas) 原子間相互作用はファンデルワールス力 ヘリウム He(helium) H2の次に軽い気体・・気球(1929年就航 H2を利用 ツッペリン号)・・ヒンデンブルグ号1937年の爆発(水素爆発)・・He(燃えない、爆発しない)気球

●沸点 4K, -269 ℃、液体He ●放射性元素のa崩壊で生成・・米国、中国(回収していない)  0.0005% 戦略物質の一つ  カンザス州、オクラホマ州、テキサス州西部の地域のガス田 ●超伝導体の冷却材(MRI,リニアモーターカー)、深海へ潜る際の呼吸ガス(ドナルドダック現象、ヘリウムと酸素の混合ガスであるヘリオックス、ヘリウム、酸素、窒素を混合したトライミックス) ●太陽の核融合 H2→He

ネオン(Ne, neon), アルゴン(Ar, argone) ●液体空気の分溜 Ne(0.002%), Ar(0.9%) ●Ne 放電で赤く発光・・ネオンサイン ●Ar 化学的不活性  ボンベに貯蔵し化学実験に利用 不燃性で蛍光灯、白熱灯に封入 アーク溶接(電気溶接:原子スケールでの溶接)の雰囲気ガス クリプトン(Kr, krypton): F-Kr-F, 水、キノンと抱摂化合物 キセノン(Xe, xenon): キセノンランプ、麻酔 ラドン(Rn, radon) : 放射性、放射能泉(Rn→Po)

4-3)17族元素:ハロゲン元素(halogen) 分子間相互作用はファンデルワールス力 非金属:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素 非金属と金属の中間か?・・・アスタチン(不明元素) ●フッ素(F2, F, fluorine) 淡黄緑色の気体、反応性極めて高い、猛毒、電気陰性度最大の元素 フッ化水素酸HF:腐食性強い、 ガラスのエッチング フロン:炭素との化合物、沸点が高くエアコン冷媒       ・・・・オゾン層の破壊(オゾンホール) テフロン:フッ素樹脂 耐熱性、耐薬品性、摩擦係数低い

●塩素(Cl2, Cl, chlorine) 黄緑色の気体、反応性極めて高い、猛毒、不快臭、殺菌(プール、浄水場)、漂白作用(さらし粉 Ca(ClO)2)   Cl2ガスを用いずに、次亜塩素酸ナトリウムNaClOを使う(次亜塩素酸ソーダとも呼ばれる。強アルカリ性である。希釈された水溶液はアンチホルミンとも呼ばれる)   2NaOH + Cl2 → NaCl + NaClO + H2O 特異な臭気(いわゆるプールの臭いや漂白剤の臭いと言われる臭い)を有し、酸化作用、漂白作用、殺菌作用がある。

●家庭用の製品の「混ぜるな危険」などの注意書きにもあるように、漂白剤や殺菌剤といった次亜塩素酸ナトリウム水溶液を塩酸などの強酸性物質(トイレ用の洗剤など)と混合すると、黄緑色の有毒な塩素ガスが発生する。浴室で洗剤をまぜたことによる死者も出ているので取り扱いには注意が必要である。     NaClO + 2HCl → NaCl + H2O + Cl2          ●有機塩素化合物 DDT, BHC, PCB, ダイオキシン   ・・・人体に有害 ●ポリ塩化ビニル(塩ビ)                

●臭素(Br2, Br, bromine) 赤褐色、重い液体(全元素中HgとBr2のみ液体)・・・取扱に注意(ドラフト使用)  ピペットから落ちる・・蒸発しやすい・・赤色気体・・吸引しないこと、猛毒、刺激臭、性欲減、皮膚に臭素が触れると腐食を引き起こす 臭化銀(AgBr)  銀板写真の原料 ●ヨウ素(I2, I, iodine)黒紫色固体、高い昇華性、毒物 AgI: 人工雨、でんぷんの検出:ヨウ素でんぷん反応、 ●消毒薬:ヨウ素のアルコール溶液がヨドチンキ、ヨウ素とヨウ化カリウムのグリセリン溶液がルゴール液

●ヨウ素は体内で甲状腺ホルモンを合成する。人体に摂取、吸収され、ヨウ素は血液中から甲状腺に集まり、蓄積される。●チェルノブイリ原子力発電所の事故では、核分裂生成物の 131I (放射性同位体) が多量に放出されたが、これが甲状腺に蓄積したため、住民に甲状腺ガンが多発した。 ●放射能汚染が起きた場合、放射性でないヨウ素の大量摂取により、あらかじめ甲状腺をヨウ素で飽和させる防護策が必要である。 ●そのため、日本は国民保護法に基づく国民の保護に関する基本指針により、核攻撃等の武力攻撃が発生した場合に武力攻撃事態等対策本部長又は都道府県知事が、安定ヨウ素剤を服用する時期を指示することになっている。

B層 A C B A層 4.4) 結晶中での分子の充填 六方最密構造と立方最密構造 ●同じ大きさの球(パチンコ玉を考えるとよい)を箱に詰めることをする。 ●第1層に隙間なく詰めた状態は、1個の玉の周りに6個が配位した六方最密平面格子となる。その格子点をAとする。隙間にBとCの2種類がある(図4.7)。 ●2層目の1個のパチンコ玉がB点を占めたとすると、他のすべての玉も位置Bを占めることにより2層目の六方最密平面格子(B層とする)ができる。もし、2層目に置く最初の1個がC点なら、C点のみを占めた六方最密平面格子(C層とする)ができる。 B層 六方最密平面格子   A      C   B A層

この段階で下層からの積層様式はABまたはACの2種類が可能である。ABの場合、3層目はAまたはCの格子点を占める六方最密平面格子が可能となる。このように箱に満杯になるまでパチンコ玉を詰めた場合、どのような詰め方でも個数は同じであるが、その積層方向の周期性は多彩である(図4.7下図)。 そのうち、 ●最も単純なABABAB••の2層周期の積層様式が六方最密構造(hexagonal close packing, hcp) ●ABCABC•••の3周期が立方最密構造(cubic close packing, ccp) ともに, 1個の玉は同じ層に属する6個、上下の層に属すそれぞれ3個の玉に接しているので、配位数(coordination number)は12である。配位数12の構造はイオン結晶では見られず、単体原子または分子が密に詰まり安定化する系で見られる。

A   B C 図4.7 六方最密平面格子の積層様式と六方最密構造(  )と立方最密構造(  )。ABABA(  ), ABCAB( )の他にABABC, ABACA, ABACBなど16種の充填様式を示す。

つまり、箱いっぱいのパチンコ玉を熔かすと、箱の約3/4弱を金属が占めることになる。 ●立方最密構造は面心立方格子(face centered cubic, fcc)(図4.8左)に相当し、不活性ガス(Ne, Ar, Kr, Xe)、貴金属類(Au, Ag, Cu, Pt)、C60(図4.8右)などがとる。 ●球の半径をrとするとA層中のA1の球はB層に属する球のうち面心に位置する3個の球と接しているので、球の半径は4r=2a (aは格子定数)を満たす。単位格子中に4個の球があるので、球の占有率(充填率)は (4/3)(2a/4)34/a3 = 2/6 = 0.741である。 つまり、箱いっぱいのパチンコ玉を熔かすと、箱の約3/4弱を金属が占めることになる。 図4.8 立方最密格子(面心立方格子)とC60単結晶 A B C a

4.5) ファンデルワールス半径 ● 分子性結晶の結晶構造解析より原子のファンデルワールス半径が与えられる。 ●多くの論文や教科書においてポーリングのファンデルワールス半径が使用されてきた。しかしポーリングの値は、有意な分子間原子接触を過大に見積もることが明らかで、ポーリングの値よりも一般に少し小さなファンデルワールス半径を用いる(ボンデイ(A. Bondi)、表4.6)。 ●表中のLi, Na, K, Ga, In, Sn の値は非結合状態の金属での値で、これに相当するのは他に、Tl: 1.96, Pb: 2.02, Ni: 1.63, Cu: 1.4, Zn: 1.39, Pd: 1.63, Ag: 1.72, Cd: 1.58, Pt: 1.75, Au: 1.66, Hg: 1.55, U: 1.86 Åがある。また、パラフィン中のH、パラフィン中のCやCH3に、各々、1.35, 1.90, 2.0 Åがある。 表4.6ファンデルワールス半径[2](Å, 上はポーリング、下はボンデイ) H 1.20 1.20 He 1.50 1.40 Li ― 1.82 C ― 1.70 N 1.5 1.55 O 1.40 1.52 F 1.35 1.47 Ne 1.60 1.54 Na ― 2.27 Mg ―   1.73 Si ― 2.10 P 1.9 1.80 S 1.85 Cl 1.80 1.75 Ar 1.92 1.88 K  ― 2.75 Ga ― 1.87 Ge ― 2.1 As 2.0 1.85 Se 2.00 1.90 Br 1.95 Kr 1.97 2.02 In ― 1.93 Sn ― 2.17 Sb 2.2 Te 2.2 2.06 I 2.15 1.98 Xe 2.17 2.16

4.6) ドライアイス(dry ice) ●ドライアイスは常温常圧環境下では液体とならず、直接気体に昇華する。比重: 1.56、昇華温度: -79℃(at 1気圧) 冷却能力は同容積の氷の約3.3倍となる。 ◎製造方法 ●気体の二酸化炭素(炭酸ガス)を、約130気圧前後に加圧して液化させ、その液体の二酸化炭素を急速に大気中に放出。その際に気化熱が奪われることにより自身の温度が凝固点を下回ることを利用して粉末状の固体にした上で、それを成形して製品にする。 ●この方法で製造した場合、ドライアイスは細かい粉体(パウダースノー(粉雪)状態)で圧縮しても固めることができない。したがって、市販されるブロック状のドライアイスは固めるために数パーセントの水が添加してある。

水にドライアイス→白煙(水の微少固体) 寒剤 有機溶媒とドライアイスとの混合物は寒剤とすることができる。たとえば、エチルアルコールとドライアイスとでは-72℃、エチルエーテルとドライアイスとでは -77℃の低温が得られる 液体窒素  77 K, −196 ℃

表4.1 表4.2 結晶の種類 代表 凝集エネルギー / kJ/mol 融点 /C 分子性結晶 Ar O2 7.74 7.1 189.4 無機化学 I  4章-1 vdW結晶   表4.1  結晶の種類 代表 凝集エネルギー / kJ/mol 融点 /C 分子性結晶 Ar O2 7.74 7.1 189.4 219.1 イオン結晶 NaCl CaF2 764.0 1680 803 1360 共有結合結晶 C(ダイヤモンド) Si 711 446 3572 1410 金属 Hg Na Cu Ti W 65 107 336 468 859 38.8 97.8 1083 1725 3400 表4.2  F2 Cl2 Br2 I2 P4 白燐(黄燐)[猛毒]   紫燐[無毒] 硫黄 S8 融点/C -223 -101 -7.3 113.7 44.1 589.5 119.0 沸点/C -187 -34.1 58.8 184.5 280 444.6 He Ne Ar Kr Xe Rn 融点/C -248.6 -189.4 -157.2 -111.9 -71 沸点/C -268.9 -246.0 -185.9 -153.2 -108.1 -62

表4.4 2分子間ポテンシャルエネルギー(-Ur6 J m6/10-79)*) 分子 p/1030 C m /1040 Kg1 S4 A2 h0/ eV 配向効果 誘起効果 分散効果 He 0.22 24.5 1.2 Xe 4.45 11.5 221 CO 0.40 2.21 14.3 0.0034 0.057 67.8 HCl 3.44 2.93 13.7 18.6 5.60 114 HBr 2.60 3.98 13.3 6.1 4.34 204 HI 1.27 6.01 12 0.35 1.57 420 NH3 5.0 2.46 16 83 10 94 H2O 6.14 1.65 18 189 10.0 48 *単位)pについて: 1D(デバイ) = 1018 esu cm = 3.361030 C(クーロン) m; について:Kg1 S4 A2 = C m/ V m1を40=1.1131010 m3 Kg1 S4 A2で割ると、単位はm3 表4.6ファンデルワールス半径[2](Å, 上はポーリング、下はボンデイ) H 1.20 1.20 He 1.50 1.40 Li ― 1.82 C ― 1.70 N 1.5 1.55 O 1.40 1.52 F 1.35 1.47 Ne 1.60 1.54 Na ― 2.27 Mg ―   1.73 Si ― 2.10 P 1.9 1.80 S 1.85 Cl 1.80 1.75 Ar 1.92 1.88 K  ― 2.75 Ga ― 1.87 Ge ― 2.1 As 2.0 1.85 Se 2.00 1.90 Br 1.95 Kr 1.97 2.02 In ― 1.93 Sn ― 2.17 Sb 2.2 Te 2.2 2.06 I 2.15 1.98 Xe 2.17 2.16

図に示すように、NaCl結晶は、Na(赤丸)が作る面心立方格子(face centered cubic, fcc)とCl(黒丸)の面心立方格子の組み合わせより出来ている。 Na+(jの位置)の周りの、イオンの種類、 個数、jからの距離を第4隣接まで求めよ √5r イオンの種類 個数 距離 第1隣接イオン 第2隣接イオン 第3隣接イオン 第4隣接イオン

√3r 4r 2r r √5r 2r r